仕事を紹介しよう
しばらくスーさんと雑談に花を咲かせていると、レジーナさんが厨房から戻ってきた。
「お待たせしました」
「いえ。じゃあ行きましょうか」
「気をつけてね」
スーさんの心配そうな声掛けに笑顔で頷き、私たちは宿を出た。
そしてそのまま、向かおうと思っていた場所へと歩き出す。
「あ、そうだ。レジーナさんは何か必要な物だったり、あります?」
その道中、ふと気になったことを尋ねてみる。
「え、えぇっと…服、とかですかね」
あ、確かにそれはそうだ。レジーナさんが持っているのは、今着ている1着しかないはずだから。…けれど私はファッションオンチなので、何かを買って送るよりも一緒に行って選んで買った方がいいだろう。
「あと日用雑貨とか…でしょうか」
「なるほど…じゃあ後で一緒に買いに行きましょうね。私も買いたいものありますし」
敢えてそう付け加える。レジーナさんの性格上、断ったりしそうだったからね。
「……ありがとう、ございます」
その事に気付いたのか、レジーナさんが小さくそう口にした。うん、謝罪じゃ無くていいんだよ。これは私のお節介だからね。
そうして話していると、あっという間に目的の場所へとたどり着いた。
「ここって…」
「はい。治療院です」
そう。私がレジーナさんを連れてきたのは治療院。これほど働くに合った場所はないよね。
あの騒ぎからそう時間は経っていないが、人の出入りは落ち着きを取り戻している。これならスムーズにいきそうだ。
……いや、ちょっと待て。ヴェントゥスさんから貰った指輪を出して、誰か治療院の人に見せようと思っていたけれど、なんだか面倒なことになりそう。
「…有り得ますね、確かに」
サーニャさんも同意見のようだ。(見た目)子供が持つような代物では無いだろうしね……あ。そっか。いるじゃん、適任者。
「じゃあレジーナさんがこれ、見せてくれますか?」
この中で1番適任なのはレジーナさんだろう。だって18歳だから大人だし。不審がられないだろう。
「えぇっと…この指輪を、見せればいいんですか?」
「はい。この指輪を見せて、ヴェントゥスさんに会わせて欲しいと言えば、いいはずです」
「分かりました」
私から指輪を受け取る。
……あ、そうそう。今更なんだけど、風龍であるヴェントゥスさんの名前を、何故神龍である私が言えているのか。それは、弱っていないからだ。
サーニャさんのお父さんはあの時弱ってたからね……そんな状態で私が名前を呼んでしまうと、最早洗脳に近い状態になってしまうのだ。
そして今は龍の力の一部が制限されているので、まだ呼ぶことが出来ないんだよね。
……まぁ、どんな状態であれ、私が『命令』という意味を込めれば洗脳出来てしまうのだけれどね。無論しないけど。
閑話休題。
私から受け取った指輪を、レジーナさんが治療院の人に見せる。
「こ、これは…っ!…こちらへ」
「あ、はいっ」
治療院の関係者の女性に指輪を見せた瞬間、奥へと案内された。どうやら、会わせて欲しいとかいう文言は要らないようだ。
「こちらになります」
女性がそう言って立ち止まったのは、1つの緑色の扉の前。
「ありがとうございます」
「いえ。では私はこれで」
その時レジーナさんのそばに居る私とサーニャさんを見て、少し首を傾げる仕草をしたものの、そのまま立ち去って行った。
まぁ、確かに関係性謎だもんね。不思議に思われるのも無理はないだろう。
とりあえず、目の前の緑の扉をコンコンコンとノックしてみる。すると、扉の向こうから聞き覚えのある声で「どうぞ」と聞こえた。
……誰か来たのかくらいは尋ねたほうがいいと思いますよ。
まぁそれは置いといて、許可を貰ったので扉を押して開ける。
「……あ、え、えぇぇっ!?ちょ、どどどうして…」
「ちょっと落ち着いてください」
大きな机の上で書類仕事かなにかをしていたのだろう。傍に紙の山がある。
でもさ…私の姿を捉えただけでその驚き方は……ちょっと傷付くよ。仕方ないんだろうけどさ。
「ちょっとお話があって来ました」
「は、話、ですか…?ひ、ひとまずどうぞお掛けになって下さい」
部屋の中央にある机を挟んで向かい合うソファを手で示されたので、言われた通り一方のソファに腰掛ける。おぉ…ふかふか。
「…それで、話というのは」
キリの良い所で仕事を辞めたのか、少ししてから向かいのソファにヴェントゥスさんが腰掛けた。
「この方を、ここで治癒師として雇って貰えませんか?」
私の左隣りに座るレジーナさんを手で示しながら、そう口にする。ちなみにサーニャさんは私の右隣りに座っている。
「…失礼ながら、お名前を伺っても?」
「は、はいっ!わ、私はレジーナと申します」
「レジーナさん、ですね。ところでその…マリーナ様、この方は知っていますか?」
知っている…あ、私の事ね。
「知っていますよ」
「そうですか…では、理由を伺っても?神龍であるマリーナ様が、ただの見ず知らずの人に入れ込むとは思わないので」
……鋭いなぁ。確かに、見ず知らずの人をちょっと助けたりはするかもだけれど、こうやって直接仕事を紹介はしないだろうからね。
「…アレの原因を作ってしまった人……そう言えばいいですかね」
そう言うと、ヴェントゥスさんが目を見開いた。まぁ、そういう反応にはなるよね………。