お願い事
「……ん?」
目を開くと、そこは寝ていた宿の部屋ではなかった。
真っ白なような…ぽわぽわした……あ、以前来たことがある。ここは確か…私の夢の中だ。
「お久しぶりですね」
そう言いながら、目の前にグランパパが現れる。確かに色々あって久しぶりかもしれない。
「お久しぶりです。あの、一体何のようで…?」
わざわざ私の夢にまで来て、話すような内容なんて……あったな、うん。
「その顔だと、今気付いたようですね」
「……レジーナさんの件ですか」
グランパパが頷く。やっぱりそうか……。
「今回の騒動、助力感謝します。我々としても想定外な事態だったので…」
「想定外?」
神様が想定外だなんてそんなことある訳……私自身そうだったね、うん。もう気にしてないけど。
「呪い…呪詛があそこまで蔓延することなど、ありえないのです」
「でも、そのありえないが起きてしまった、と?」
グランパパが重々しく頷く。
「……そもそも、マリーナさんと同時期に連れてきた方々が浄化するはずだったのです」
聞くところによると、どうやら私たちはこちらに来る際、呪詛を浄化することができる力を得るそう。そこにいるだけで浄化できるって力らしいので、もう浄化が始まっているはず。それなのに、こんなことが起きた。
「だから、こんなことは有り得なかったんですね」
「はい…マリーナさんは神力を持っていますので、浄化の力は桁違いにあります。その結果、今回の想定外な事態の収拾が出来たのですが……実を言うと、マリーナさんのところだけでは無かったのです」
グランパパが唇を噛む仕草をする。
「…まだ、他にも広まっているところが?」
「…はい。ですが、今のマリーナさんならば、この世界にいるだけで全ての浄化ができます。なので、現在では解決しています」
今の、か……確かに神龍としての力はやっと解放出来たようなものだしね。にしても、私だけで全てを浄化できるって……今更ながら自分の規格外さを痛感するね。でも、じゃあ呪詛による被害は現在ないんだね。
「……しかし、問題はまだ残っています」
「……召喚組がいるのに、ここまでの事態に発展したことですね」
残っている問題と言えば、それくらいだ。元々怪しいとは思っていた。勇者が召喚されたこと自体が広まっていなかった時点でね。
「その通りです。……そして、マリーナさんには少しお手伝いをお願いしたいのです」
お手伝い、ねぇ……
「……私は神龍です。神様の頼み事を、断れるはずはないでしょう?」
「……ありがとうございます」
感謝されることじゃないけどね。元々私の存在理由は神様の手伝いだし。
ただ……グランパパからお願いされたことは、少し一筋縄ではいかないかもしれない。
「力でごり押すと被害が酷いでしょうし……慎重にやります」
「まぁそうですね……無事な人がいれば、ですが」
……嫌なことを言う。
「…ひとまず、レジーナさんに対しての何かはありませんね?」
「はい。それはもちろん」
良かった。まぁもしあるなんて言っても無視してただろうけど。
「…それから、もう1つお願いがあります」
「え、なんですか?」
「……もう少し、神界にくる頻度を上げてくれると嬉しいなぁ…と」
モジモジとしながら、グランパパがそう言う。
……なにこの可愛い神様。
「…まぁ、善処はします」
私自身、神界に行くことは嫌ではない。寧ろ好きだ。神龍である影響なのか、神界はとても居心地がいいから。……ただ、サーニャさんを長く放置することは出来ないから、滞在するにしてもそう時間は長くないだろうなぁ…。
『マリーナ様、そろそろ』
おっと。そろそろレジーナさんが起きそうか。私も起きないと。
……そう言えば私今寝てるんだよね。なんかこうやってると寝てる気がしないけど。
「じゃあまた」
「はい……お願いしますね」
「もちろんです」
その言葉を最後に、私は夢から醒める。と言っても、まだ目は閉じているのだけれど。
「ここは……」
レジーナさんの困惑する声が聞こえる。
……いきなり起き出したら驚くか。寝たフリから起きたみたいにしよう。
「うぅん……あ、起きましたか」
それでも驚かせてしまったようで、レジーナさんの体がビクッと跳ねた。
「あ、ごめんなさい……えっと、おはようございます?」
「お、おはよう、ございます…」
戸惑いながらも、とりあえず挨拶は返してくれた。
「…現状が、分かりますか?」
「私、わたしは……」
レジーナさんが俯き、考え込む仕草をする。記憶が混濁しているようだ。まぁ無理もないか。神眼で体調確認……
「とりあえず体調は大丈夫そうですね」
異常は見られないので、ひとまず安心。
レジーナさんのほうも記憶の整理がついたらしく、俯いていた顔を上げ、私を見る。
「あ、あの…」
「はい?…あぁ、私はマリーナと言います。好きなように呼んでください」
「あ、はい……えっと、ここは」
「ここは私が泊まっている宿です。朝食は食べられそうですか?」
するとレジーナさんのお腹が正直な声を上げる。聞かれたのが恥ずかしかったのか、レジーナさんの顔がみるみる赤くなる。
「ふふっ。じゃあ待っててくださいね。朝食取ってきます」
「…すいません」
「謝ることじゃないです。サーニャさんも起きてください。私は朝食取ってきますから」
「…ふぁい」
隣で寝ていたサーニャさんを揺すって起こす。可愛い声を上げ、サーニャさんが目を擦りながら体を起こす。寝た時間が時間だからね。眠いのは仕方ないだろう。
「2人で話でもしててくださいね」
とりあえずそう言い残し、私は朝食を貰うために部屋を出た。