(´・ω・`)
「チュチュチュ、完成しましタ。どうゾ、ご確認くだサイ。」
《赤の森:譲渡書》
20枚で綴じられている契約書の1番最後に、チュワークが用意した契約書が追加され、割印が押される。この瞬間、21枚で1つの契約書となった。
追加した契約書には、チュワークの直筆サインがあり、その記載内容に怪しい所は、見当らない。仮面契約書などの詐欺ツールは、割印を押した時点で、他のページにある女神の契約印に焼き尽くされ、不正が発覚するらしい。
問題は何もないように見えるが、ただ1つだけ、問題がある。この契約書は、青いのだ。捻じれた角の老人が注意しろと言っていた契約書。
【青の契約書】
悪魔の棲む本。ページがバラバラになり、青い契約書に擬態する。名前を書いた犠牲者はじわじわと生命力を奪われ続け、いずれ死に至る。悪魔は、使用者に対価として、意思を奪われた犠牲者を奴隷として提供する。
チュワークの選んだ切り札は、非常に珍しい青の契約書だった。
レイ、もしかして、この流れは計算通りなのか?今、青の契約書の対抗策であるペン型の魔道具、魔虫紙魚が、手元にある。もちろん、1回こっきりのレプリカだが、慢心しているチュワークを刺せる。格ゲーで安売りされている必殺技と違って、必ず殺れる。
ここにいる全員が、レイにあっさり出し抜かれた。凡人の努力、準備、経験を、天才は息をするかのように無意識に超えてくる。
「ん。問題ない。」
「チュチュチュチュ、でハ、最後のページに署名ヲ。」
レイは、開かれた最後のページに、さらさらと、ペンで、名前を書く。マーシャル、レイ、ヴィクトリアと。
それを、見守る2人。
勝った!
その時、チュワークと、ゼルの、気持ちは1つになった。しかし、2人の思いには、悲しいすれ違いがあった。おじさんと、おじさんのすれ違う想い。罠を仕掛けたチュワーク、罠の対抗策を用意していたレイ。勝敗は、すでに決していた。
何も知らない愚かなネズミは、勝利を確信しハラを抱えて、嘲笑う。
「チュチュチュチュ。」
「壊れたか?哀れだな。」
「チュチュ、哀れなのは、失業して魔界に帰るゼル君と、奴隷として就職するレイさんデス。」
ニヤつくチュワークの前で、契約書の最後のページが光り出す。青の契約書が発動。空間が歪み、身体に鎖を巻きつけたデカい大剣を持った凶悪な顔の悪魔が顕現した。悪魔は、不快なガラガラした声で、話しだす。
「ヒャッヒャッヒャ、チュワーク、久しぶりだな。今回の俺様への貢物はドレだ?」
「そこの、メスガキでス。」
「良い、良いぞ。極上のいい魂だ。小娘、これから、お前は意思の無い肉人形に成る。最後に何か願いはあるか?」
「んん。貴方は無いの?」
「ヒャヒャヒャ、恐怖でイカれたか。俺様も願いなど無い。我が糧となれ、マーシャル、レイ、ヴィクトリア。」
悪魔が、名前を読みあげると、文字がキラキラと光りだした。光がそこから、鎖のように伸びて、驚愕の表情を浮かべる悪魔を、拘束して締め上げる。
「ん?な、なんだとっ、嘘だろ。ちきしょう、ブックイーターじゃねぇか。しくじりやがって、このネズミが!」
悪魔は、みゅんみゅんと縮みだし、ついには、身長5㌢くらいになってしまい、無様に契約書の上を右往左往しだす。どうやら、この紙の上からは逃げられないようだ。
レイが、ぬっと契約書の上の小さくなった悪魔を覗き込む。
「で、でかい。こんな女、見た事がねぇ!いや、我が縮んだんだった。嫌だ、消えたくねぇ。お願いだ、お嬢さん見逃してくれ。」
「んん。」
優しさという弱みにつけこみ、助かろうという悪魔。そして、困った事に、レイはお願いとか、きいてしまうタイプの優しい子なのだ。そして、困った顔をするレイ。
「お嬢さん。頼むよ、お願いだから。1回だけなら、聞いてくれてもいいだろ?」
「ん。」
レイは、あろう事か了承した。悪魔は、嗤う。とんだ甘ちゃんだ、やはり人など、エサに過ぎないと。
「良かった、見逃してくれ。」
「んん。さっき聞いたら、無いって言った。」
「はぁ?すでに1個目のお願いを叶えてる?願いが無いなんて、そんなアホな事、言うわけ、いや、言った、言いましたぁぁ。」
レイは、効力を失った魔道具だった重そうなペンで、小さくなった悪魔を叩く、必死で身長並みにデカい大剣5㌢で受け止めようとするが、弱体化した悪魔にはそんな事が出来るはずもなく、大剣5㌢ごと、叩き潰された。
ぺちん!
悪魔を討伐した。
青の契約書を獲得×1
悪魔の犠牲者を解放×3
契約書封印効果の喪失により
▷《竜剣:譲渡書》が発動
▷《エステサロン:会員契約書》が発動
▷《一軒家:賃貸契約書》が発動
▷《赤の森:譲渡書》が発動
強い悪魔を討伐した事による大量の経験値が、レベルアップの強烈な快感となり、体を駆け巡る。
ゼルも、パーティ扱いだったようで、おこぼれ経験値をちゃっかり獲得。スネをかじる男、ゼルの本領発揮。
得る物が、あれば失う物もある。ゼルは、しっかりと握っていたはずの白銀貨2枚(2億円)を、いつの間にか無くした。ゼルはうつむき、拳を固くぎゅっ握りしめ、小さく震えている。
対するチュワークは、呆然自失の顔をして、白銀貨2枚(2億円)を握りしめていた。大金を手に入れたにも関わらず、喜びの色は無く、青ざめた顔で小さく震えていた。
2人に、何が起きたかというと、契約書《赤の森:譲渡書》の効果により、白銀貨2枚が、ゼルからチュワークの元へ強制移動した。
つまり、これは、卑劣なる大商人チュワークと、可憐なエルフ美少女レイとの契約が、成立した事を意味する。
ゼルは、興奮した拳を、強く強く握りしめ、ぐわっと顔をあげ前を見る。震えの収まらない拳を、天高く突き上げて、腹の底から、勝利の歓声をあげた。それは、爆発する喜び。
「うぉぉぉぉ、レイ。《赤の森》をぉ、奪還したぞーー!!」




