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(´・ω・`)


 バン!机を叩いて威圧する。激昂する裏社会の小さな王チュワークには、予想どおりこんな子供騙しは、効かない。レイが、ビクリと小さく震えた。完全に萎縮している。ごめんよ、レイ。

 でも、これは必要な事。チュワークに、目の前にいるのが、エサでは無く、交渉相手だと認識を変えさせるために、必要な手順。


「チュワーク!これは、どういう事だと聞いているんだ。」


「契約書を濡らすようナ、礼儀知らずに、答える気は、無イ。」


「これは、どう見ても奴隷契約書だよな?これが、貴様の契約書なのか?」


「知らヌ!そう、そうだ、コイツが裏切ったのダ。不備な書類を作るなど、王に恥をかかせおっテ!」


「この失態の責任をどう取る?」


「ヂュヂュ、チュワーク様、オラ知らネエ。いつも通りやったダケダ。」


 慌てて弁解する書類を書いていた下っ端ネズミ。いつも、何も知らずに犯罪に加担させられていたのだろう哀れなネズミ。ねじれた角の老人から教えて貰った常習的な手口を知らないとはそういう事だ。ゼルは、ニヤつきながら、チュワークに、圧力をかける。

 追い詰められたチュワークは予想外の暴挙に出る。


「この裏切り者めっ!」


 このままでは形勢不利と判断したチュワークは、突然、何の躊躇も無く、手下を、死込み杖の尖端で刺すという凶行にでた。猛毒が塗られていたのか顔が、みるみると青紫になり、泡を吹きながら死に絶える手下ネズミ。


「ヂュブヂュブブ。」


 泡を吹きながら、もがき苦しみ、膝をつく。信頼していた上司の失敗の責任を取らされ、苦悶の表情を浮かべながら、死にゆくネズミ。ポーションでは、助からない。


 ピクリとも動かなくなり、ちっぽけな命の灯が消える。


「!!」


 目の前で、人が死んだ。


 恐怖に震えたレイが、ゼルの裾をぎゅっと掴む。ゼルは、怒りに震える。


 チュワークは、高らかに嘲笑う。もう、自分を不利にする証拠は無くなったからだ。人的損失はあるが、微々たるもの。


「ヂュヂュヂュ。手下が失礼をしました。いえ、私も騙されていたのです。敵が、このように近くに紛れ込んでいるとハ。なんと恐ろしい、2人ともお怪我は、ありませんヵ?」


「子供の目の前で、なんて事をしやがるんだ!」


「ヂュヂュ?私は敵を倒し、お二人を守ったのですョ。とはいえ、残念デス。書類を書く者が亡くなりまシタ。すぐに、契約したいのですガ、契約書を書ける者を呼ぶには時間が。お二人には悪いのですガ、しばらく待って貰わないト。」


 チュワークは、時間を稼ぎ、次の詐欺ツールを用意する気だ。そう、時間を与えると対策が打てない。目の前で殺人が起きたのは予想外だったが、これを待っていた。


「すぐに契約するつもりが、あるとは思えんな。」


 輝きまくる白銀貨2枚を掴み、ガタッと立ち上がり、逃げる素振りをする。完全に心を折られたレイちゃんは、ここに来た目的も忘れて、すんなり、ついてくる。名演技だよ、レイ。主演女優賞だ。


「ま、待テ。こちらは、すぐに契約するつもりがアル。」


 よし、食い付いた。しぶしぶといった感じで座りなおす。レイも、演技抜きで、いやいや、席につく。チュワークは、カモに逃げられなくて、安心した顔になる。安心したな?安心とは、それ即ち油断だ。

 青ざめろ、俺のターンだ。


《ねじれた角の老人が書いた正式な赤の森の譲渡契約書》


「そういえば、忘れていた。こちらでも、契約書を用意してある。後は、サインして白銀貨2枚(2億円)を、受け取って貰うだけだ。」


 チュワークを追い込んだ。唸るように黙り込むチュワーク。もう、コイツに逃げ道なんて無い。さあ、書いてしまえ。


「ヂュヂュヂュ」


 唸るチュワークに、無言の圧力をかける。少しでも、時間を稼ごうと足掻くチュワーク。


「ヂュヂュ、しかし内容ヲ確認しない事ニハ。」


「いいぞ、しっかり読んでくれ。お互いにとって利益のある内容となっている。」


 ねじれた角の老人が書いた契約書は、絶妙だ。たいした利益が出ていない赤の森が高額で売れる。これは、チュワークにとって、無視出来ない甘い蜜だ。


「ヂュヂュ、そうだ。そういえば、喉が乾いてたんでしたナ。珈琲ヲ持ってこさせましょゥ。」


 杖を触り、手下と会話するチュワーク。会話に怪しい所は無く、少しでも時間を稼ぎたいらしい。無駄だ、その契約書は完璧だ。


 コツコツコツ。

 ハイヒールの音が、響き、スーツを着た綺麗な女性が、珈琲を持ってきてくれた。


「失礼します。珈琲をお持ちしました。」


 部屋に、珈琲の良い香りが広がる。テーブルの真ん中に、珈琲3つと、砂糖、ミルク瓶が、置かれる。綺麗な女性は、お辞儀して退室した。


「ヂュヂュ、好きなのをドウゾ。全て同じデスガ。」


 チュワークが書類に目を落とした隙に、念の為、自分の珈琲と入れ替える。怪しい飲み物を飲みたくは無いが、先程の流れから、チュワークがサインを断われないように、俺も珈琲を断われない。


「なにかされましたヵ?まぁ全て同じですガ。」


 安心した様子で、くいっと珈琲を飲むチュワーク。そして物足りない顔をしてミルクを入れて、美味そうに飲む。


「あぁ、毒薬検知(ポイズンサーチ)。信用して頂けましたヵ?美味しいのですガ、飲まなくてもいいデス。ただ、お時間はくだサイ。」


 チュワークが呪文を唱えると、部屋が紫の光に包まれ、死込み杖の尖端と、部屋の片隅に置かれたいくつかの怪しい小瓶が赤く明滅する。毒薬を検知する魔法をかけたようだ。


 チュワークは、真剣に、書類に目を通し、こちらに気を払ってないようだ。ペラペラと、書類をめくる音だけが部屋に響く。そして、珈琲の美味そうな香りが、娯楽の無い部屋を支配する。


 先程の流れから、珈琲を断われないため、覚悟を決めて飲む。おじさんはブラック派だ。10代の頃、格好つけて我慢して飲んでたら、今やブラックが好きになってしまった。

 美味い!飲んで良かった。これこそが、珈琲だ。広がる爽やかさと心地よい苦味、深いコクのある芳醇な味わいに、癒やされる。これは、コンビニの珈琲を超えたかもしれない。ほっと、安心する味。


「苦っ。」


 顔をしかめて、砂糖の壷に、手を伸ばすレイ。ふふっ、まだまだ、お子様だな。

 しかし、レイは、スプーンにすくった砂糖を見つめて、カップに入れようとしないで、こちらを見つめてくる。


「どうした、レイ?」


「これ、ゾンビパウダー。」


【ゾンビパウダー】

 ゾンビを原料に製造され、人の生気を消耗し命を縮める極めて依存性の高い薬物。勇者協会の主力商品。


 クソっ、なんという卑劣な敵だ。和解のタイミングで、平然と麻薬を仕込んできた。毒薬検知に、かからない訳だ。安心とは、それ即ち油断だ。危うく、レイを危険に晒すところだった。思い出せ、珈琲の落ち着く香りに騙されるな。ここは、チュワークの悪意に満ちた城の中、緊張感を保て。


「チュチュ、言いがかりデス。」


「んん、私、天才錬金術師。間違わない。」


「だ、そうだ。飲んでみるか?」


 優しいおじさんは、チュワークのカップに、砂糖によく似たゾンビパウダーを、ひと匙すくって、入れてあげる。


「チュチュ、そんな疑ってマセンョ。あぁ、なんと手下に恵まれないのダ。全うな商売をしているのに、周りは敵ばかりダ。」


 血迷い事を言いながら、名残惜しそうに、飲めなくなった麻薬入り珈琲を見つめるチュワーク。

 それを、肴に、珈琲を優雅に堪能する。う、美味い。スパイスが、利いている。


「ん。私には、ポーションがある。」


 太ももに巻かれたポーションホルダーを、ちらっと見せつけながら、ポーションを取り出すレイ。ちらっと見えた白磁の肌は、輝きまくる白銀貨を超えて、眩しい。

 トロトロとした淡く緑に光る液体を、珈琲に入れて混ぜる。珈琲が深みを帯びた黒い液体に変わった。


 一瞬、ドン引きしかけたが、混ざり合い完成したその液体に違和感は微塵もなく、レイが天才である事を証明していた。


 それを、美味しそうに飲むレイ。こくこくと鳴る喉が扇情的だ。たまらず、ごくっと自分の喉がなる。


 気付けば、チュワークの喉もなっていた。凄く鎮痛な顔で、自分の仕掛けた罠により飲めなくなったカップを見つめるチュワーク。この厚顔無恥な男の事だ。普段なら、自分にも入れろと要求していただろう。この卑劣極まる地下下水道の王に、こんな顔をさせるとは、さすがレイだ。本人に自覚が無い所が、天才たるゆえん。


 おじさんも我慢出来なくなり、珈琲カップをレイに、さり気なく寄せる。


「ん。」


 レイが、仕方ない子ね。みたいな感じで、ポーションを入れてくれた。トロトロと淡く輝く液体は、よく混ざり、これが入っているのが当然のような一体感がある。むしろ、え?なんで今まで入れ忘れてたの?牛肉抜きの牛丼とかウケるというレベルだ。


 おそるおそる口をつける。物の怪に騙されているようなフワフワした感覚。それは、かつて体験した事の無い心を満たす旨さ。


 美味いモノ×美味いモノ=美味いモノ理論はここに、最終の完成形に到達した。美少女錬金術師レイの手作りポーション完璧説を提唱しよう。これは、ノーベル賞が確実に3つ貰える世界の真理だ。


 危険極まる敵地で、下の根も乾かない内に、だらだらに油断し、あろう事か軽くトリップまでするゼル。



 卑劣なる大商人チュワークは、弱りきった顔で白旗をあげた。


「チュチュ、お二人の熱意には、負けまシタ。良いでしょう、赤の森をエルフ共に返そうでは有りませんヵ。」


 レイの顔に、喜びで緩む。赤の森が、返ってくる風景、悲願達成を幻視する。すっかり腑抜けになりそれを暖かい目で見つめる保護者気取りのゼル。





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