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鬼神薬、その配合が、黄金比。職人が言うなら、恐らくそうなんだろう。ここから、進化させるには、新しい素材や、根本的に処理を変えなければいけない。それこそ、気の長い研究と、うっかり失敗したぐらいの変化がいる。今回は、パスだ。
ただし、ボコボコと気泡が出て、1週間後に反応が止まる性質を見ると、高確率で2液性だ。2つの液体を混ぜると反応を開始し、それが完全に融合すると、別の効果になる。
つまりは、2つの液体を混ぜなければ、反応しないので、ぐっと長持ちする。使用する直前に混ぜれば良いのだ。
日本では、2液性の接着剤が、有名だ。かなり強度がでる。しかも混ぜなければ、安定している。そんな訳で、材料を分離して開発して貰ったわけだ。
「か、完成。」
「凄い、良く頑張ったな。」
徹夜して、完成させたのか、目には隈が浮かんでいる。錬金術師というより、マッドサイエンティストに近い。ちなみに、ゼルは、寝てた。手伝いたかったのだけど、手伝える事が無かったのだ。今日頑張るために、寝るのも仕事。
昨日の夕食は、規格外の微回復ポーションだった。開発に熱中すると、食事まで頭が回らないらしい。ポーションは、妙に美味しいから、いいんだが、固形物じゃないと、食べた気がしない。ゼルは、金持ってないから、食事にも行けなかった。哀しい。
「これで、1ヶ月は保つ。需要爆増。しかも、独占販売。私、やはり天才。」
「そうだね。ここは、どーんと、お小遣いを。」
「良いよ。」
「有り難き幸せ。」
子会社で量産とか夢が広がるな。でも、調子に乗って潰れる会社って多いから、慎重に行こう。
結局、ポーション瓶の真ん中に、仕切りをつけて、直前に割って混ぜるタイプと、チューチュー吸うアイスのパピ○みたいに、2本瓶を束ねたタイプの2種類を作った。後は、客の反応待ちだ。
☆
「私、天才。」
そんな訳で、今日もギルドに来た。受付嬢ジーニャさんは、なかなかタイプだ。健康的でスラリとした美人系。髪は、ストレートのロングで、胸は薄く、包容力が無さそう。だが愛嬌はある。思った事をズバズバ言う感情をぶつけてくる感じの人だ。不思議と、サバサバしてて疲れない。そして、おじさんにもさりげなく優しい。ここ重要。
「は?レイ、忘れ物でもしたの?」
「フフフ、ジーニャ。新鬼神薬の製造に成功した。期限は、なんと、1ヶ月。」
「え?それ。凄くない。」
「私、天才。」
「レイ、天才。」
ハイタッチ祭りだ。この若い子のノリについて行けないゼルは、苦笑いだ。それにしても、レイは背が低い、守ってあげたくなるタイプ。飯食ってるのかな?
新鬼神薬は、多めに置いて貰えるらしい。少し高めの値段設定にしたが、売上量が増え、廃棄も減るだろう。赤の森の買い戻しに、一歩近づいた気がする。
なにせ新鬼神薬は、効果が、1ヶ月もあるのだ。ジーニャに、「1ヶ月も強敵と戦わない冒険者って価値あるの?」と煽られた冒険者達が、速攻買っていき、今日の納品分は、早々に無くなった。
きっと、強化された冒険者の探索で、素材の買取額も増えるし、WIN-WINの関係だ。
「ジーニャよ、昨日の話、もう少し聞かせてくれないか?」
「ありがとう、ゼルさん。でも今日の仕事は、忙しいから、終わってからなら。レイ、いつもの店でね。」
「では、後ほど。」
☆
軽く夕食で打合せの約束をして、空箱を多めに貰って帰宅。
夕食は、ディナーのAセットが美味しいんだよ。と、プチクイーンオークの照り焼きが、口の中でとろけて。エールが最高で、なんてレイの話を聞きながら、商売が上手くいってレイとゼルはご機嫌だった。夕食の期待も高まるってもんよ。
「さて、そろそろ夕食に行くか?」
「え?私、行かない。約束してないし。」
「ん?3人で行く流れだったろ?」
「だって、眠い。ハッキリとは約束してない事に気付いた。今はもう夕食の気分じゃない。私、天才。おやすみ。」
とんでも無い事を言い出したため、1人で行く事になった。つまりこれって、ジーニャさんとデートじゃん?デートじゃん?意識したら、もう駄目だ。
いや、何故か、美少女エルフと2人暮らししてるんだけど、これは保護者って感じだから、アウトだけど、セーフって感じ。
でも、ジーニャさんは、おじさんより若いけど、大人のお姉さん。アウトですよね?ジーニャさんは、ドン引きするかも。残念だが、中止の連絡だけ伝えにいくか。
☆
ギルドの裏で、待ってると、道行く子供達に絡まれた。
「らぴゅらすだ!」
「我を、呼んだか、小童共。見所がある。我の配下にしてやろう。」
レイに片手間で作って貰った飴玉をポケットから出して配り、ファンサービスをする。保護者にお礼を言われて、まんざらでも無いおじさん。
着ぐるみが馴染みすぎて怖い。むしろ、着ぐるみが本体の気分だ。
一汗かいたので、掃除屋と呼ばれるなぜかカチューシャをつけた少女を見つけ、クリーンをかけてもらいスッキリした。
「えっと、クリーンをかけてもらえると聞いたのだけど?」
「小銀貨1枚です。」
「なんでカチューシャ着けてるの?はい1枚ね。」
「確かに受け取りました。えーと、元の意味は知りませんが、商売の目印みたいな?でも、可愛いでしょ?クリーン。」
「ふおおおっ気持ちええ。確かに似合ってるよ。ありがとう。」
相変わらず、サッパリする。シャワーと比較にならないサッパリ度だ。おじさんは、シャワーでサッと済ませるタイプだった。日本でも、最近の若者は、風呂に入らない人が増えてるらしい。そう考えると、おじさんも、若者派だったのかも。
クリーンの魔法は、服まで綺麗にするのが反則くさい。異世界ずるい。
☆
仕事を終えて、私服のジーニャさんが出てくる。快活な色気がある。女豹のように、しなやかな脚。細いパンツに、ヒールの高いブーツ。小さいハンドバッグ。仕事中と足下まで違い、意外とお洒落さんなのかも。長いストレートの艶のある髪、切れ長の瞳、薄っすらと化粧をしてるのか、夜の灯りに映えるお顔は、昼より綺麗で、見惚れてしまう。
「あれ?ゼルさん、レイは?」
「軟弱な事に、徹夜のせいで寝たくなったらしい。今日は中止にするか?」
「なんで?行こっか?」
ハーッ。なんて、無防備なんだ。ぼーっとしてたら、急に手を引っ張ってくれた。
手繋ぎデートだと?なんてレベル高いんだ。お幾ら万円お支払いしたら、宜しいんでしょうか。心臓ばくばくいってるぞ。マジで死ぬ。不意打ち死ぬ。魔王は、ここにいた。ただ、この細くて、すべすべしている手の間に、着ぐるみがあるのが、残念極まる。
これが、素手だったら、なんて素敵なんだろうかとも思うが、たぶん素手だったら、防御力を撃ち抜き、死んでいる。元、人生負け組おじさんには、刺激が強すぎる。
カラン、カラン。
店のドアを開ける音がする。落ち着いた店内。女性が好きそうな店内だ。美味しそうな料理の香りもするのだが、それよりも花の芳香がする。店内のBGMと小さなお喋りが凄く調和してる。
こんなお店どこにあるんだ?知らないし、だいたい1人じゃ入れない。お支払いは、ブラックカードなのか。ブラック会社しか、縁が無くてね。いや、最も重要なのは、誰と来たかで、感動は違うのかもしれない。
なんだか、先程から、ジーニャさんと色々と話していて幸せなんだが、色々と衝撃が強すぎて、頭に入ってこない。
☆
「じゃ、またねーゼルさん。」
「あぁ、楽しい夜だった。気をつけて帰ってくれ、ジーニャ。」
夢のような一時が、あっという間に終わり、思いだせたのは、次の会話だけだった。後は、ジーニャさん可愛い。料理美味い。といった自分の中で、整理出来ない幸せな気持ちで溢れていた。
「そうそう、獣人って本能が強すぎるから、力もあるけど、ポーションも欲望のまま、直ぐ飲んじゃう。で、肝心の時に無いってパターン。」
「あぁ、ポーションは美味いな。初めて飲んだ時は、衝撃的だった。」
「アタシが、何度も我慢してって言ってるのに、聞きゃしない。」
「ジーニャは、苦労してるんだな。」
「そう、苦労してる!あれを解決するには、遅効性のポーションぐらいしか。どう?遅効性、これ良くない?」
「獣人想いなのだな、考えておこう。」
そうだ、思いだしてくれ。おじさんは、鼻の下を延ばして若い子と、デートしに行ったワケではない。仕事の打合せに行ったのだ。で、一番キーポイントなのが、この会話だ。ここに解決策、つまり金脈がある。
というワケで、次に作るのは、遅効性ポーション!
なんていう無能上司がいると、部下や関係先は、死ぬ。この場合、レイが3日後に、フラフラのゾンビみたいな顔で、天才の私でも無理だった。って言うだろう。
大事なのは、少し先を考える事だ。効果を遅らす方法は、幾つかあるが、代表的なのは、コーティングだ。腹の中で、時間が立つと、外皮が、溶け、中の薬が時間差で効くというヤツだ。
だけど、獣人は、話を聞いた限り、とんでもない。コーティングなんか速攻溶けるだろう。それでも仮に、2時間の遅効の開発に成功しても、怪我するのは3時間後かもしれないし、その逆かもしれない。
よって、遅効性ポーションは、イイ線いってたが、今回はナシだ。
この問題は、難しいようで、簡単に解決出来るような気もする。
で、答えは?
はっは、おじさんは、全知全能じゃないし、分からない事だらけだ。期待させてすまないが、分かったふりをするのが、年長者の特権。それとなく、レイに考えて貰うか。




