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部屋の前には暑苦しいゴーレム、ポチョムキンがいたが、レイは、完全にそれを無視してキョロキョロと何かを探している。初めてのお遣いみたいで、うむ、癒やされる。
「どうした、忘れ物か?」
「ゼル、あのドゥドゥ言うバイクは?」
「え、だいぶ前に売ったが。」
今朝食べた高級ケーキは、そのお金で買ったし、なぜ今さらそんな事を。だいぶ前からオークションに出し、くっ、まさかレイは部屋から一歩も出てないのか。思ったより重度の自宅警備員だった。
泣きそうな顔で、無言で見つめてきた。駄目だったの?その、気にいらない事があると無言で見つめてくるのは、辞めて欲しいな。心にくる。
「・・・。」
「その、ゴーレム戦隊も、ポチョムキンもいるしさ。」
「ポチョムキンは、いらない。」
いや、おじさんも要らないなーとは思うけど、本人、目の前にいるんだけど。ちらっとポチョムキンを見る。
「むん。照れるニク。」
全く空気が読めないポチョムキンに、イラッとする。なんでこんなヤツに気を使ったんだ。反省しろ、自分。
「歩きたくないのか。なら、ほら、この育児袋に入ってはどうだ?マリナみたいに。」
判断を誤ったのか、失点を取り戻すべく無様に足掻くゼル。ずぶずぶと、底なし沼にはまるような感覚。足元が不安定だ。
「違う。あのバイクに乗ったゼル、格好良かった。」
「ぐはぁ。」
まさかのクリティカルダメージ。天使か、天使かよぉぉぉ。そして、天国行きの切符を、売り払った俺、死ねっ。
え?マジで、そんな事、思ってくれてたの?そんなに興味なさそうだったじゃん。血の涙を流す。後で悔やむと書いて、後悔。異世界でも、さすがにセーブは出来ないらしい。買い戻せないが、これ以上泣かせては駄目だ。嘘でもいいから、希望の光を囁け。
「案ずるな。ゴーレム戦隊が、次の魔導バイクを修理している。」
「ん。」
不機嫌そうに、了解された。
部屋に放置しているジャンク屋に売りつけられた夢の残骸は、魔導バイクに形が似ている。問題なのは、タイヤが無い事だけだ。大問題じゃね?適当についた嘘だが、本当にしてやる。絶対に、タイヤを見つけてやるぞー。
そして、「ゼル、格好いいよ。」って言われるんだ。人生に何の目標も持たなかった男が、異世界に来て、2つ目の目標を立てた。
銀髪で、真っ白な肌をした美少女ハーフエルフのレイと、お手手を繋いで、てくてくと、歩く。これは、これで、魔導バイクにない良さだ。
悪魔ゼルは、手のひらを、くるくる返す。果てしない世界を断絶するかに見えた絶望に陥りかけたが、救いはあったと。
しかしながら、それとこれとは話が別。諦めきれずに、タイヤをキョロキョロ探しながら歩いたが、見つからなかった。ゼルは、この後、1人で血眼になってタイヤを探すのだが、結局、後になっても見つかる事は無い。この時は、まだ希望という名の欲望に囚われていた。
☆
「レイ、久しぶりじゃない。ゼルさんも、おはよ。」
「ん。マスターを呼んで。」
「おはよう、ジーニャ」
なんやかんやで、ギルドマスターに、レーションの1年契約を結び、代金を先に貰った。そして、目標金額の白銀貨2枚に到達したのだった。
ジーニャさんは、今日は忙しいらしく、相手をしてくれないので、今回のギルド話は、バッサリと、カット。
☆
ねじれた角の老人に会い、作って貰った契約書を貰う。その神経質な丸眼鏡の老人は、レイを見つけて、険しい表情で聞いてきた。
「なんだ、小僧。もしや、誘拐なのか?隠居しとるワシを巻き込むな。」
「全然違うぞ。彼女が依頼主だ。」
「こんな、綺麗なお嬢さんが作っておったのか。美味いワケだわい。」
「ん。ポーションあげる。」
「くく、ありがとうな。そうだ。お嬢さん、少し待っておれ。」
まるで、孫が会いにきてくれたかのように、相好を崩して、軽い足どりで、何かを取りにいく爺。おじさんの時と、対応が違い過ぎる。
「もし、くそったれチュワークが、青い契約書を出してきたら、このペンでサインしろ。」
「ん。」
ねじれた角の老人は、不敵に笑ってペンを渡してきた。真剣な表情で、こくりっと頷き、それに応えるレイ。
深くは聞かない、何も言わなくていい、分かってる。二人は信頼で繋がっている。
おぉっ、なんだか、凄く格好いい、やりとりだ。ハードボイルドですね、レイさん。
さてさて、ようやく準備は、完了した。いよいよ、決戦に向けて動き出す。大商人チュワーク、待っていろ!




