(´・ω・`)
いつものように、レーションを運搬していたが、ついに悪意が動きだす。ゼルの荷物を強奪しようという輩が現れた。
「おイ、止まれ着ぐるみ野郎。誰に断って商売してるんダ?」
「そうだ。ゴミみたいな味の物を売りつけてるらしいナ。みんな迷惑してる。特別にそれを買ってやる、ほら、全部で小銀貨1枚ダ。」
鼠族に囲まれていた。嫌な臭いの染み付いた最下位の獣人。悪名高い勇者協会の下部組織。醜悪な顔でニチャニチャと笑う。
公然と活動する犯罪者集団。それが、彼らだ。レイのレーションという稼ぎを聞きつけ、上前を強奪しようとしてきた。狡賢いが、短絡的な彼らには長期的に搾取しようなんて考えは無い。エサが無くなるまで貪欲に貪り食うのが、彼らのやり方だ。
「断る。」
「なんだと?知らないのカ。バックには、勇者協会がついている。逆らう事は許されなイ。」
「ビビって震えているナ。弱者は、分かる。こっちは、暴力で食ってるんだ、舐めるナヨ。誤魔化せない。」
「そうダ、今日は命まで取らなイ。」
「我が、震えているだと?違う、これは武者震いだ。」
くそっ、震えが止まらない。精一杯の強がりだが、意味は無いだろう。鼠族は、強者では無いが、おじさんよりは強い。そして、こいつらは、弱者をいたぶる事に慣れている。身体が恐怖で動かない。
「早くだせ、明日も持ってこい。分からないなら、生活出来なくしてやル。」
「出せ、全部だせ。」
怖い。だが、口は動く。なんとか騙す。せめてハッタリをかませ。
「愚かな。今なら見逃してやろう。」
「見えーる!身体が恐怖で動かないのは見えている。今、最も勇者に近い男!この先読みのブェフェスには、見えーる!チュワークさんにレーションとやらを上納し、勇者に推薦して貰う輝かしい未来が。」
「ブェフェスさん、おめでとウ。」
4人の鼠族の後ろにいた、ブェフェスという狐族の男が急に奇声をあげた。彼がこの犯罪チームのリーダーだろう。観察眼に優れているらしいギョロギョロした目に、生理的な嫌悪感を感じる。気持ち悪いが、実力者だろう。
裏稼業の男だ、前回のような不良とは違う。ハッタリは効かない。
交渉の余地は無かった。。抵抗しなければ、奪われ続ける。闘わなければならない日が、ついに来たのだ。大丈夫、闘える。ガタガタと意志に反して震える体を無視して、魔法を唱える。
「オーバライド、オーバライド、オーバライド。」
「無駄だ、チカラだけ得ても。見えーる。震えが止まっていない。攻撃は当たらなければ、意味が無い。そして、逃さない。」
その通りだ。おじさん、戦いのセンスは、ゼロだ。格闘ゲームは、やり込んでいたが、身体は動かない。
だから、さらに魔法を重ねる。おじさんはこの数日、だらだらしてたワケじゃない。ゴミみたいな魔法だが、こういう危険を考えて、オリジナル魔法を創造していた。
「サードビュー、マリオネット!」
「そのような魔法は知らない。気でも触れたか?見えーる。特に、周囲は変化していない。ボーイには、教育が必要のようだな。やれ!」
その命令に応じて、いつの間にか静かに周り込んだ鼠族の1人が、背後から、棍棒で殴りかかってくるのが見えた。彼らの必勝の常套手段だった。
なんて事をしやがる。サードビューで、背後が見えてなければ食らってた。だが、甘い。くるっと避けて、廻し蹴りを叩き込む!
そして、転がった鼠族を、混乱に乗じて全力で踏みつける。躊躇していい相手ではない。全力で、急所を踏む。
ダン!ダン!ダン!
嫌な感覚が、足に残り、まずは、1人沈黙した。
「なんだと!見えて無かったはずダ。そうだロ、ブェフェスさん。」
「そうだ。ラッキーボーイめ、見えーる、さっきは死角だった。」
「どうだろうな?」
☆
先程唱えたのは、ゼルが創造した2つのオリジナル魔法。
別視点
ゲームのように、第三者視点に切り替える事が、出来る。現実感が希薄し、あらゆる耐性を得る。感覚が減るので、体がスムーズに動かなくなる。
操人形
対象と電気的に接続されている状態で、身体に電気を流し、操る事が可能。少しでも抵抗されると、無効化される。以上の制約から、他人を動かすのは絶望的だが、自分を操る事なら出来る。
つまり、この2つの魔法を使うと、第三者視点で自分を動かせる。それだけの効果のしょぼい魔法。初級魔法だから、2つ使ってもこの程度。
ゲームなら、標準機能で、わざわざ使うまでも無くついているゴミ魔法。だけど、弱者である彼には必要な魔法だった。
これで、恐怖に震えて動かない自分の身体を、格闘ゲームのように操れる。背後からの攻撃が見えたのもそのおかげだ。HPは満タンだ。勇気は無いが、これなら戦える。
どさりと、ポーションの箱をおろして、震えの止まらない情けない体に、ファイディグポーズを強制的に取らせる。喧嘩はした事ないが、日本人なら格ゲーぐらいした事があるだろ?
オーバライド3発で限界まで強化された、ぷるぷると震える着ぐるみおじさんゼル。
対するは、先読みの狐族ブェフェスと鼠族3人。1対4の戦いが、始まった。
☆
いくぜ!格闘ゲームなら任せろ。
ROUND 1 FIGHT !!
しかし、ゼルはすぐに攻撃しなかった。何かを発見し無防備に足を止める。
「あっ!」
そう、ゼルは何かを発見して、左斜め上を見上げて立ち止まる。そういうポーズを遠隔操作して、自分にさせる。
古典的な作戦だ。1対5だったんだぞ。おじさんは、ずるい戦いもする。
視線の先には何も無い。しかし、視点は固定だ。気になるだろう。気になる。うん。つられて見たな?別視点だから、その様子が、よく見える。
油断が悪いんだ。開幕、変な方向を見たまま走り込んで、狐男にテレフォンパンチを正確に叩き込む。不意討ちを一発食らった狐族がガードしながら、後退しだした。ちっ反応が早い、追撃は無理。
なら、左の状況に気付けず、ぼんやりしている鼠族に、ヤクザキックだ。
他の2名の鼠族が、やっと状況に気付いて、構えだす。
ヤクザキックを食らい痛みに耐えかねて、しゃがんだ鼠族の頭が、いい位置に来たので、さらに気合いとともに、その頭にヤクザキックを叩き込む!この鼠族の頭が、サッカーボールに見えた。1点、殺ってやる。
「おらぁ!」
ゴォォォォォォォール。
よし、また1点。調子にのったゼルは、つい勝利のカズダンスを踊ってしまった。上手に踊れたかもしれない。やりましたよ、カズさん。
暴力を売っている犯罪者は、こんな隙は、見逃さない。鼠族の1人が、余裕も無いのに愚かにも油断してしまったゼルを、掴みあげた。
「着ぐるみ野郎、ただで死ねると思うナ。刻んで、バラしてやル。」
鼠族は、仲間をやられて怒り狂い、ゼルの胸ぐらを掴みあげて恫喝して来た!醜悪な顔で、睨みを効かせる。
ほーう、おじさんに触ったな。男に触られる趣味は無いんだよ。バカかな?
「スタン!」
「ヂュヂュ。」
黒焦げになり、沈黙。よしっ。これで1対2だ。いけるかもしれない。
勇者なら、この勢いでイケてた。だけど、彼はモブおじさんなのだ。
おじさんは、若者のようには行かない。息切れするように、ゴールデンタイム終了のお知らせが来た。
体に激痛が走る。
「ふぐっ」
何故だ?まだ魔法は切れていない。
そうか、限界を超えて体を無理矢理動かしたため、自分の攻撃動作で自分にダメージを受けてしまったのだ。
不意討ちで一方的に攻撃していたのに、こんな落とし穴があるなんて。
おじさんは、なんという貧弱なフレームだろう。サードビューで意識が曖昧になって無ければ痛みで行動不能になっていたかもしれない。
だが、商品の運搬中だったのが、幸運だ。地面の箱から、レーションをくすねる。この男は、あろう事かレイの商品に手を付けた。2つ掴んだうちの1つを、噛み砕き飲み込む。1つは、ポケットに。
あばばば。
くそ不味い。サードビューで意識を希薄にしてなお、この不味さ。
☆
光に包まれて、回復した。
ROUND 2 FIGHT !!
「ブェフェスさん大丈夫カ?」
「大丈夫だ。くそっ、このラッキーボーイめ、不意討ちとはなんと卑怯な。」
「先にしたのは、貴様だ。」
「不意討ちは、勇者協会のものだ。他人の家の壷を割る権利も持っている。権利侵害をするな。」
「そ、そうなのか。」
鼻血を抑えながら、先読みの狐族ブェフェスが文句を言ってくる。このブェフェスは、先読みという特別なスキルを持っている。その先読みを活かした武勇により、勇者協会の幹部、勇者に認められる一歩手前まで来ていた。
「血を流したのは、久しぶりだ。だが、ラッキーは何度も起こらない。見えーる。僅かな視線の変化、筋肉の緊張。さらに、感覚を強化して見逃さない。センスアップ!ラッキーボーイよ、もう攻撃は当たらない。」
ブェフェスは、感覚を強化する感覚強化という魔法をかけた。これにより、先読みのさらに先、相手の心の内まで見透かせるようになった。
ゼルは、ぷるぷると恐怖に震えている事まで見透かされた。
「どうかな?」
しかし、ゼルは、ビクンッと跳ねるように変な挙動でパンチを放つ。痙攣したかのような蹴りを放つ。不自然な蹴りを放つ。
「ぶへっ。ぶほっ。ぶひっ。」
そう、操人形の魔法により、体内を流れた小さな電流で強制的に、なんの挙動もなく、不意を突くように、筋肉は反応。
不意討ちといえるような、己の人体を壊す事を厭わない不可思議な挙動で、操り人形のように攻撃してくるゼルを、先読みする事は、出来なかった。
「観念したか。」
余裕ぶるゼルだが、痛み分けだったりする。筋肉の限界を超えて動かすと、自分もダメージを受ける。痛い。
2つ目のレーションを、噛じって飲み込み回復する。あばばば。泣きそうだ。
2回戦目は、引き分けた。そろそろ次のラウンドに移行する。しかし、レーションのおかげで、不死鳥のように戦えている。格ゲーなら3ラウンドだが、ボクシングみたいに、12ラウンドとか戦えるんじゃないか。昔は50ラウンドとかあったようだし。あれを50個。うん。死ぬな、味覚が。
一撃KOが無ければ、負けない。このまま戦えば、物量で押し勝てる。そんな甘い計画を立てた時、ブェフェスのセンスアップで強化された目が狡猾に光り、空気が変わった。
「くそっ、変な動きをしやがって!しかし、見えーる。貧弱な肉体が、動きについていけずに悲鳴をあげてるな。そして今、レーションとやらで回復したのを見逃さない。残念だったな。アンラッキーボーイよ。弱者は全て奪われるのだ。」
☆
鼻血をだらだらと、垂らしながら、先読みの狐族ブェフェスは、不敵に笑った。
ROUND 3 FIGHT !!
ゼルはあっさりと、ニチャニチャと笑う狐族ブェフェスに、荷物を奪われた。キャラの基本性能が、違いすぎる。
「アンラッキーボーイ、これでもう回復出来ない。見えーる。ボーイの這いつくばる未来が。」
もう回復出来ない!!
どうやら、最終ラウンドになってしまった。




