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レーションの売れ行きが、好調でいい感じだ。新鬼神薬とレーションをガンガン売っている。日に工房を2往復する日もある。だが、従来の美味しいポーションの制作本数は、抑えてる。
ポーションが晩飯の日もあるので、レーションが晩飯になる日が来るかもしれないのが、怖い。
ドサッとレーションの入った箱をカウンターに置く。
「ジーニャ、納品だ。」
「ありがとう。いーち。にー。さーん。しー。92個ね。ゼルさぁん、これも古代の叡智でなんとかなんない?」
「考えておこう。」
レーションは、10×10の納品箱に入っていないので、また1個ずつ数え直す事になった可哀想なジーニャさん。
秤を使い重さで判断すれば簡単だろう。ただ、真剣に数えてる美人な横顔を近くでガン見出来るこの時間が、ゼルは好きだった。ぐへへ。考えるだけにしておこうか。
「あと、不味いから、無意味に食べなくなったんだけど、落としたってコッソリ捨てる獣人がいて、困っているの。これも何とかなんない?」
「ふむ。考えておこう。」
すっげーな獣人。本能のまま生きてる。
「そうそう最後に。狐族の強盗がウロウロしてるしてるらしいから気をつけて。」
「分かった、ありがとう。」
「ゼルさんには関係なかったかな?あっ、討伐してくれてもいいよ。」
「我もそんなに、暇ではない。」
納品を終えて、街をぶらつくゼル。
めっちゃ暇だった。
戦いたくない。勝てない。
錬金の邪魔になるから、昼間は工房に帰れないし、魔法もひとまず到達限界(初級)を迎えて覚える事もなく、かといって他に出来る事も無さそうなので、ブラブラしている。
お小遣いを貰っているので、魔道具店に入ったが、次元鞄は高すぎるし、他には、いいものが何も無い。ジャンク魔道具店。店名に偽りが無い程にゴミしか無い。普通に魔石は切れてるし、部品は欠品してる。
「ジャンク度が足りませんでしたか。残念です。もっと危険なジャンクを仕入れておきますので、着ぐるみの人、また来てください。」
「暇だ。」
喫茶店に入浸り、子供の相手をして、教会の椅子に座ってシスターを眺め、思案げな顔をしながら、時間を潰す。
ここ数日は、こんな感じだった。
☆
「ただいま。」
「おかえり、ゼル。」
「今日もまた随分と作ったものだな。凄いぞレイ。レイは頑張り屋さんだ。たが、たまには外に出たらどうだ?ほら。」
「あ、サラディア菓子店のクッキーだ。ありがとう。ん。ざいひょう、つかいひっはら、でかけふ、もぐもぐ。」
お土産で渡したクッキーを、速攻、食べだすレイ。もしや、それを食事としてすます気じゃ無いよね?
「あれ?レーションの形を変えたのか?」
「ん。気付ひは?ごくん。ポーションの枠に入る形に変えた。これで、数が分かりやすくなる。私、天才。」
「あぁ、、凄いぞレイ。」
この天才は、なんて余計な事をしてくれたんだ。おじさんの至福タイムが、短くなる。弾丸のような形に加工されたレーションを残念な目で見るゼル。
☆
その夜、彼は、悪夢を見た。運搬中に荷物を奪われる夢を見た。そして、それは正夢になる。
「うわああ。」
「ふあ。ゼルどうしたの?」
「少し、嫌な夢を見た。」
「大丈夫?今日はお休みする?」
「いや、問題ない。運搬は任せろ。」
隙あらば、甘やかしてくるレイの提案を断り、ゼルは不安げな顔で納品に出掛けた。おじさん、この年でお小遣いを貰っているのだ。せめて運搬くらい。
ゼルは、勇気が足りない。
守りたい人が出来た。簡単な魔法を覚えた。だからといって、すぐに人は変われない。それは、これまでの負け組人生で、成功体験が足りていないからだ。
彼は本質的に、弱者だ。強者と相対すれば、ビビって足が動かない。理屈じゃない、動かないのだ。トラックの前に、身体を投げ出す少年のような勇気は無い。彼は、勇者では無い、勇者になれないモブおじさんなのだ。
悪意に相対すると、身体が自分の意思に反して恐怖で足がすくんで動けない弱い自分がいる。彼は、この事を理解していた。
前回の3人組にはハッタリが通用したが、次はどうか?無理だろう。見逃して欲しいと切に願う。
しかし、現実は非情だ。
弱者を見逃してはくれない。




