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ようこそ鬼道島へ  作者: ダノン
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6/29

6話

 ジリリリリリリ!

 目覚まし時計の電子音がけたたましく響く。

 モゾモゾと、布団に潜ったまま手探りでそれを探す。

 しかし、それは見つからない。

 というか俺、目覚ましセットしたっけ?

 ぼんやりとした意識を窓に向ける。

 カーテンの隙間から、差し込める陽はまだ登っていないのか、真っ暗だ。

 スマホで時間を確認する。

「うーん……」

 午前5時を指していた。

 一年中桜が咲き乱れるので、感覚は狂うが今はまだ12月。

 この時期の時間帯はまだ太陽は登っていない。



「お姉ちゃん起きて!」

 窓を挟んだお隣の家からは、蕾さんの声が聞こえてくる。

 どうやら美咲先生を起こしているようだ。

「あと30分!?ご飯冷めちゃうよ!」

 こんな時間なのにもう朝ごはんの準備してるのかぁ、偉いなぁ。

 姉妹以前に母親みたいだ。

「守くーん!ごめんね!これから起こること覚悟して!」

 シャー!向こうのカーテンが開かれる声がした。

 次の瞬間に昨日から「明日になればわかる」の意味を理解した。



「死にたいやつは死ねぇ!生きたいやつは生きろぉ!

 生と死は当然の権利だぁぁぁぁ!

 生きてきた意味は死ぬ間際に考えろ!

 うおおおおおおおおおおおおおお!!!!」



 大音量でデスメタルのシャウトが轟いた。

「ぎゃあああああああ!」

 思わず耳を塞ぐ。

 だが手で抑えただけでは、このシャウトは防ぎきれない。



「ウッヒョオオオオオオオ!!!やっぱりアガるぅぅぅぅぅ!」

 美咲先生のテンション高い叫びがこだました。

「はいはい!わかったからまずは、洗顔!そしてご飯食べて!」

「はーい!」

 もしかして、毎日この調子なのか?



「守くーん」

「はーい……」

 蕾さんの呼ぶ声でカーテンを開ける。

 空はまだ闇が支配していた。

 街灯がかろうじて光を放っていた。

 向かいの蕾さんは朝早いだろうに、黒煙色の髪は寝癖ひとつない。

 まだまだ眠い……。

 目頭を擦る。

「ごめんね、起こしちゃって」

「もしかして、毎日この調子ですか?」

 申し訳なさそうに、両手のひらをパンと合わせる。



「ごめんね、あんな姉で」

「いや、苦労してますね……」

「あはは……」

 乾いた笑み。



 ガチャ。



 不意に俺の部屋のドアが開いた。

「蕾さーん、朝ごはん……」

 眠そうな桜花姉。

 栗色のくせっ毛がいつもより跳ねてるように感じられた。

 服装は水色と白のチェック柄のパジャマだ。

 それだけ告げて窓へと向かっていく。

「うん、用意出来てるよ。守君の分もあるよ?」

 上目遣いで問いかけてくる。

「いや、流石にご馳走になるには……」

「まもりん甘えときな。条件なの、毎朝こんな調子で起こされるから、お詫びとして朝食あたしの分も用意してって」

 寝ぼけているのか、ボソボソと呟くように告げる。



「そういう事。今日になったら理解できる。わかったでしょ?」

「そういうことなら、いただきます」

 ギシ。

 屋根を伝って蕾さんの部屋へと上がる。

 昨日は拒否られたのに、今回はすんなり入れて貰えた。

 彼女の部屋は、水色、ピンク、オレンジ色と色様々なカラーボックスが所狭しと設置されていて、その中には、熊やうさぎのぬいぐるみ。

 さらには「霊力魔法少女ヒナコ」のフィギュア。

「甘い蜜にはご注意を」という実写映画化もされた人気作品の主人公、レイサのフィギュア。

 この部屋から蕾さんはアニオタだとわかる。

 とぼとぼと歩きながらそれらを見やる。



「失望した?」

「なんでです?」

「アニメのフィギュア飾ってるから」

「いや、むしろ同じ趣味持ってて親近感湧きました」

 ぎぃ。

 廊下へ出る。

「え!?守君もアニメ好きなの!?」

「アニメ以外にもゲームもラノベも好きですよ」

「ほんと!?どんな作品好きなの!?」

 声が弾む蕾さん。



「うーん、主にロボット作品が好きですけど、「甘蜜(かんみつ)」の原作は全巻揃えてますし、「ヒナコ」はブルーレイ全部もってます」

「そうなの!?」

「はい」

 トタトタトタと階段をおりる。



 ガラッ。



 居間の扉を開く。そこには既にご飯が用意されていた。

「おう、教え子、桜花ちゃん」

 美咲先生が朝の挨拶を無視して、手にした箸と一緒に手を挙げて俺たちを迎える。

「まだ何も教わっていません」

 紅色の髪にピンクのネグリジェに体を包み、もぐもぐと焼鮭を口へ運ぶ。

「はっはっは!冬休み終わったら覚えとけ!」

 そういえば今年もあと数日か。

 美咲先生の宣言を聞き流しつつ、そんなことを思う。



 本日の朝食は、焼鮭に豆腐とワカメ、そしてネギの味噌汁。

 ご飯の横には、パックの納豆の姿があった。

「「いただきまーす」」

 俺と桜花姉は、揃って食事前の口上を述べる。

「おう、食え食え」

 美咲先生が促す。

「お姉ちゃん、それ私のセリフ」

「はっはっは!細かいことは気にするな!」

「もう……」

 大仰な美咲先生の態度に「はぁ」と彼女はため息をついた。




 そんなこんなで午前10時前。

 あの後、朝飯を頂いてから俺の部屋で蕾さんとオタクトークに花を咲かせていた。

 桜花姉はリビングでテレビを見ていたようだ。

 そして今、暖かな気候の元俺たち3人は島を歩いて病院へと向かっていた。

 昨日、蕾さんが話していた友達のお見舞いだ。

「今日の占い結果どうだった?」

「うーん、かに座は良くも悪くもっていう無難な順位」

「いて座は?」

「うーん……」

 蕾さんの問いに、桜花姉はこれを言っていいのかと悩むように唸る。



「教えてよー!」

「…………最下位だった………」

「えー!?不吉なこと起きなければ良いけど…………」

 ちょっとショックとしょんぼりする蕾さん。

「しかも内容が、恋のライバル現る!だって」

「恋のライバル……」

 後ろを歩いていた俺に蕾さんが視線を向ける。

 振り向こときに黒煙色の髪がふわっとなびく。



「そんなわけないよねー」

「ねー!」

 蕾さんは強がってるのか、ちょっとうわづいていた。

 しかし桜花姉は気にしない。

「おとめ座は?」

「1位だった!」

「えー!?いいなぁ!」

「しかも運命の再会を果たす!だって」

「運命の再会」



 再び蕾さんのが振り向く。

 ちょっと不安気だ。

「まぁまず、まもりんのはずないよ。紫音(しおん)ちゃんずっと入院してたんだし」

「だ、だよね……!」

 桜花姉のフォロー。

「ところでさ」

 占いの話に区切りがついたところで、俺は切り出した。



「昨日の喧嘩、2人は気にしてないのか?」

「喧嘩?」

「昨日の?」

 2人は首を傾げる。

「ほら、鬼がどうこうっていう」

「あー、あれね」

「別にいつもの事だよ」

「「ねー」」

 俺にとっては2人の仲が悪くなるんじゃないかと心配だったが、そうでもないらしい。

 トットットと3人で歩く足音が響き、陽の光で作られた影たちは後ろに伸びている。



「けど、お互い謝ってないし、溝は埋まらないんじゃないか?」

「守君」

「はい」

「人間同士っていうのはね、100%歯車はガチっとハマらないの」

「はぁ……?」

 歯車?なんの話だ?

「最高でも90%なの。必ずどこか噛み合いが悪い時があるの」

「はぁ……?」

「友達でも喧嘩は誰でもするでしょ?お互い謝っても謝らなくても元通り歯車が回れば、また問題なくその人とは付き合える。そういう人を真の友達だと思うの」



 イマイチ理解が追いつかなくて、釈然としない。

「まもりん、つまりはね」

 桜花姉が口を挟む。

「あたしは蕾さんのいい所を90%知ってる。逆に悪い所も10%知ってる。その10%を許せるか否かなんだよ」



「逆にいい所40%で悪い所60%だとすると、いい所はあるけど、悪い所が目立ってその人と付き合っているとモヤモヤする。そうすると人間関係上手くいかないの」

「人間関係を円滑に育むコツは、その悪い所を許せるかどうかなの。悪い所を許せない相手は申し訳ないけど、縁を切るのが1番ってこと」

 うーむ、難しい話になったな。



「つまり、2人はお互いを許せる。だけど、許さない相手とはそれまでってこと?」

「端的に言えばそうだね。私達も動物で、人間という種なの。同じ種でも、趣味趣向、運動が得意、勉強が得意。個体ごとに様々な違いがあるでしょ?」

「そうだな」



 桜花姉の問いに相槌をして蕾さんが続ける。

「つまりは、100%思考が合致する人はいない。その中で上手く付き合える相手を探すのが重要なの」

「ほぉ」

 難しくて、理解が追いつかない。

「こんな話する間に着いちゃった」

 桜花姉の言葉に俺は目の前の建物を見上げる。

 鬼道島病院。灰色の建物で屋根にはソーラーパネルが設置されていた。

 そう大きく記されていた。



「さ、入ろ!」

「おう」

 桜花姉が入館を促す。

 ウィーン。

 自動ドアが開く。

「あら、桜花ちゃんと蕾ちゃん。いらっしゃい」

 受付の看護師さんが2人を歓迎する。

 そして俺の存在に気づくと、バッと身を乗り出した。



「あなたもしかして守君?」

「はい、そうですが、何故俺のことを?」

「なぜって水臭いわねぇ。突き指、捻挫その他もろもろの軽い怪我だけど、何度かお母さんと泣きながら受診しに来たでしょ?」

 記憶を巡る。

 あー、たしかにこの病院だったな。

 思い出した。軽く怪我した時、母親がここに連れてきて先生に診てもらったっけ。



「その顔は思い出したね。紫音(しおん)ちゃんも喜ぶわよ」

 紫音ちゃん。その名前に微かだが記憶にある。確か……。

「まもりんと紫音ちゃん友達なの?」

「今記憶辿ってる」

「顔を見れば思い出すわ。きっと。思い出さなかったら、あんたのこと引っぱたくからね」

 謎の脅し。

 まぁ、その子に合えばわかるだろう。

 多分。



「運命の再会を果たす。恋のライバル現る。そんなわけないよね」

 蕾さんの不安げな言葉がチクリと疼いた。



 ピンポーン。

 エレベーターに上り、紫音ちゃんとやらの病棟に着く。

朝露紫音(あさつゆしおん)さんと面会お願いいたします」

「はーい」

 桜花姉が声をかけて、看護師さんが対応する。

「304号室へどうぞー」

「「「はーい」」」

 俺たちの返事がシンクロした。

 テクテクテク。

 俺たちは桜花姉の隣に蕾さん。その後ろに俺というフォーメーションが完成していた。



 薬品の香りが鼻を通る。

 車椅子で移動のため看護師さんに押してもらう患者さん。

 入院着に身を包み、早足で歩を進める男の子。

「お母さーん」

 どうやら親がお見舞いに来ていたようだ。

 そんな人たちを尻目に目的地の304号室に到着した。



「紫音ちゃーん、入るよー」

「どっぞー」

 軽い返答が返ってきた。

 ガチャ。

 その病室は個室だった。

 部屋の中心にベットが用意されており、背もたれが、70度くらい上がっていた。そこに1人の軽快そうな女性が横たわっていた。

 桃色の髪に黄土色のキャスケットを被っている。髪はしばらく切っていないのだろう、長く伸びたそれはベットに木の根のように這っていた。

 ぱっちりしたつり目で、髪が短ければ男と間違われそうな、中性的な顔立ち。

「お見舞いに来たよー」

「体調はどう?」

 2人が思い思いに声をかける。



「いつもどおr……ゴホゴホッ」

 咳き込んだ彼女。

「無茶しちゃダメだよ」

 桜花姉は心配して駆け寄り、背中をさする

 しかし、とうの本人は彼女ではなく、俺を捉えていた。

「紫色のコスモスが咲き乱れる畑で」

 不意にその子が言葉を紡ぐ

「君の横顔に見惚れて」

 俺は咄嗟に答えた

「「永遠の愛を誓う」」

 思い出した。

 俺この子知ってるー!

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