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ようこそ鬼道島へ  作者: ダノン
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5話

 その日の晩、夕飯を3人でつつきながら桜花姉の様子を伺う。

 島田さんは流石に夕飯までお世話になる訳にはいかないと、宿屋に向かっていった。



 今晩の献立は、ほうれん草のおひたし。

 人参とじゃがいもの味噌汁。

 麻婆豆腐。

 そして安定と信頼の白米だ。

 和食の中に混じる中華。

 湯気が立ち込める味噌汁。

 ピリッとした香辛料の香りが食欲を刺激する。



 俺と叔母さんは普通のご飯茶碗だが、桜花姉だけは丼に米がinされていた。

 不思議だったが、その理由はすぐにわかった。

 ご飯の上に麻婆豆腐をぶっかけた。

 あー、麻婆豆腐丼か。いいなぁ。

 それを見守り、俺は桜花姉に声をかけた。



「桜花姉」

「んー?」

 栗色のくせっ毛を揺らして俺を見やる。

「さっきの蕾さんとのやり取りだけど」

 この親子に鬼のことを聞くのは、タブーな気がしたが、何故か問いかけていた。

「ああ、鬼の話?いいよ、いつもの事だから」

 思いのほかあっけからんとしていた。

「気にしてないのか?」

「んー、全く気にしてないって訳でもないけど、あたし達の家の人たち以外鬼のことは信じてないし」

「なんで桜花姉達はそんなに鬼に固執するんだ?」

「まもりんの頭頂部に小さなコブあるでしょ?」



 話が飛躍した。が、気にせずついていく。

「ああ、あるぞ。物心ついた時から既に気になってた。母さんに聞いても上手くあしらわれてた」

「そのコブね、あたしとお母さんにもあるよ」

 箸でビシッと俺を指す。

「んな馬鹿な」

「だったら触ってみる?」

 グイッと顔を近づけてくる。



 栗色の髪からは、柑橘系のいい香りがした。

「桜花、はしたないわよ」

 叔母さんが注意する。

「はーい」

 桜花姉は頭を引っさげた。

「守君」

「はい」

「そのコブはね、私達希導家が鬼の子孫である証なの」

「え……?」

 ポカン。



 箸でつまんでいた人参が味噌汁の中に戻り、ちゃぷんと波紋を広げた。

 正直、話についていけなかった。

「ということは、俺たちは鬼?」

 この一言を絞り出すのが精一杯だった。

「人間とハーフのね」

「このコブは、人間の遺伝子が強すぎて角が生えなくて中途半端に頭に小さな山を作ったの」

「じゃあ、桜花姉が主張してた鬼がこの島を守ったのって本当?」

「そうだよー」



 呑気に答える桜花姉。

「お姉ちゃん!守君や桜花ちゃん達に迷惑だよ!」

 突如、2階から蕾さんの声が響いた。

「良いって良いって〜、いつもあそこから出入りしてるんだから今更でしょ」

 ドタドタドタ。

 階段を勢いよく降りてくる音が耳に届く。

「おっ邪魔しまーす!」



 バタン!



 リビングの扉が勢いよく開かれた。

 ポカーン。

 ニッコリとした女性が姿を現す。

 薄紅色の髪は首元まで伸びており、服装は黒の肌着と下は申し訳程度の水色ホットパンツだ。

「あら、美咲(みさき)ちゃんいらっしゃい」

「みさ姉は今日も元気だねぇ」

「おうとも!元気こそがあたいの取り柄だからね!」

 ニカッと親指を立てる。



 この親子は普通に受け入れているが、俺はこの展開についていけていない。



「そ・し・て!」



 美咲さんと呼ばれた女性は俺にロックオンする。

「君が蕾のハートを射抜いた守君だね!」

「はぁ、どうも……」

「硬っ苦しいのはなし!あたいのことは咲倉先生か美咲先生と呼びなさい!」

 バンバンと背中を叩く。



「何故先生なんですか?」

「だって冬休み終わったら、あんたの通う学校の担任だもん、あたい」

 はい?

 なんて?

 担任?

 この人が?

 頭の中で様々なピースが浮かぶが何一つ一致しない。

 理解したことを整理すると、この人は俺の担任の先生。

 推測すると。



「えーと、美咲先生は蕾さんのお姉さんですか?」

「おうとも!」

 ニカッと屈託ない笑みを浮かべる。

 おおー、歯が白い。

「そういう事で本題!あんた、あたいの可愛い妹を本土へ連れていこうとしてるって?」

 チラッと蕾さんを見やる。

 話合わせて。

 アイコンタクトで知らされた気がした。



「はい、俺たちはまだ正式ではありませんが、ほぼ恋人同士です。好きな相手と一緒にいたい、一緒に暮らしたいって想いは誰でも抱くと思います」

 ジー。

 美咲さんと俺の視線が交錯する。

 ぼんっ。蕾さんの顔がまた沸騰した。

「あんた、蕾のどこが好きなのさ?」

 さっきまでの勢いはどこへやら、真剣なトーンになった。

「まず、蕾さんは俺に一目惚れしたと告白されました。俺は受け入れることに時間がかかってまだ正式な恋人ではありません。ただ、今日1日デートして、純粋で真っ直ぐですぐ頬を赤く染める所が可愛らしいと思いました。まだ初日でこれくらいしか語れませんが、これが俺の想いです」



 さっき桜花姉と口喧嘩した時に少しだけ、恋心が枯れた気がしたが、これで再認識した。やっぱり俺この人のことが好きかもしれない。

「ふーん」

 俺を舐めまわすように足から頭まで、ジロジロと観察する。



「わかった。とりあえず、蕾とはまだ正式な恋人じゃないんだな?」

「は、はい」

 ノリの違いで体が竦んでしまう。

「じゃーまだチャンスはあるな!」

 また勢いが強くなった。

「あたいは蕾をこの島から出したくない」

「なぜです?」

「うーん、姉のお節介?」

「お姉ちゃん!そうやって上手いこと言いくるめようとしてるけど、単に世話役がいなくなるのが嫌なだけでしょ!?」

「世話役?」

 思わず疑問が口に出た。

「そう、お姉ちゃん生活力が皆無だから、私が身の回りのお世話してるの」

「具体的には?」

「明日になればわかるよ」

 また明日かー。

 一体明日は何があるんだ?



 桜花姉と叔母さんは苦虫を噛み潰したような表情をしている。

「まー、それはそれとして守君」

「はい?」

「まだ妹と正式ではないが、ほぼ付き合ってるようなものだろう?」

「そうですね」

 ずいっと顔を近づける。

 そのまま壁際まで追い込まれる。

 ドンッ!

 壁ドンされた。

 ドキドキというか恐怖を感じた。

 彼女からはウッディムクスの香りがした。



「妹を泣かせたら許さないから」

 小声でボソッと俺にだけ聞こえる声量で囁く。

 ドスの効いた低い声音だった。

 その言葉に俺は冷や汗をかいた。

 ただ囁いただけではない。そこには本当に蕾さんのことを案じていると感じられた。

「さて、希導家の皆さん、夕飯中にすみません!失礼しましたー!」

 ピュー!

 ダッダッダ!

「お姉ちゃん待ってー!」

 逃げるうさぎと狩りに不慣れなライオンが必死に追いかけるように、2人は去っていった。

「とりあえず、夕飯冷めるから食べましょ」

 叔母さんの言葉で俺と桜花姉は我に返った。

 既に料理は冷めていたが、美味しく頂いた。

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