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ようこそ鬼道島へ  作者: ダノン
紫音ルート
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紫音ルート10話

 あれから数年後、俺たちは高校を卒業後、籍を入れた。


 美咲先生と恵さんの宣言通り、俺は生徒会長になることはなく、そして紫音もまた生徒会入はお断りされた。


 生徒会に入らない代わりに、俺と紫音は同じ時を過ごせという2人の気遣いに感謝して甘えさせて貰った。


「ねぇ守」

「うん?」

「子どもが欲しい」

「ぶっ……!」


 桜が舞いコンクリートに散りゆく花びらでできたピンク色の道を2人並んで歩く。

 今日も暖かい陽射しが俺たちを優しく包む。

 あれから紫音はリハビリにリハビリを重ねて一人で歩けるようになっていた。


 と言っても、今まで車椅子で一人で歩いてこなかった彼女には当然体力はなく、すぐに息が荒くなる。

 医者からは毎日10分は歩きなさいと命を授かっていた。


「子ども……子どもかぁ……」

「ダメ……?」

 不安げに上目遣いで顔を覗き込んでくる。

 桃色の髪に黄土色のキャスケット。

 微かにアールグレイの爽やかな香りが嗅覚を刺激する。


「ダメじゃないけど、お前の体のことを考えるとリスクが高すぎる」

「まぁそうだよねぇ……」


 それに『幸せの絶頂地で必ず死亡する』その言葉が呪いのように俺にまとわりつき、子どもが欲しいよりも紫音を失いたくないという気持ちの方が勝ってしまう。


「でもね、事前にかーちゃんには相談済みなんだ」

「お義母さんはなんて?」

「『養子を引き取ればいいじゃない』だってさ」


 俺の住まいは変わらず朝露家でお世話になっている。


「養子……養子かぁ」


 それならば紫音の身体的負担はないが、やはり『早死に』というワードが付き纏う。


「守が渋ってる原因当てて見せようか?」

「おう」

「僕が死ぬのが怖い」

「正解」

「やっぱり」


 紫音との間に子どもは欲しい。たとえ養子でもだ。


「前にも言ったかもだけどさ、人間はいつか必ず死ぬんだよ?それが早いか遅いかだけ。僕が先立っても守への想いは消えないし、守も僕との思い出を大事にしてくれるでしょ?」


「そりゃあ、もちろん」

「それだけで、僕は十分幸せなんだ」

「そっか……」


 胸がジーンと暖かくなる。紫音は俺のことを大事にしてくれていて、それと同じくらい俺にとって彼女は、かけがえのない相手だ。


「じゃあ、養子とる方向で」

「やった!早速かーちゃんに連絡して児童相談所に相談だ!」




 こうして養子を引き取る形で話は進んだ。


 様々な手続き、研修を経て、児童養護施設へと俺と紫音は赴いた。


「わぁ、可愛い……!」

 2、3歳程度の幼児が歩いて俺たちに寄ってくる。

 紫音は頬を緩ませて、抱き寄せる。

「可愛い可愛い!僕この子に決めた!」

「早い早い早い。確かに可愛いが、一瞬で決断するな」


「君何歳?」

 紫音の問に幼児は一瞬間を置き、指を3本立てた。

「さんさい」

「3つかー!可愛いねぇ!」

 頬擦りを3歳の子にする。

 件の子は、満更でも無さそうだ。

 初めて、かどうか分からないが、大人の優しさに戸惑ってる感じがした。


「おい、ババァジジィじゃまだ!」

 不意に背後から不機嫌そうな男子の声。

 振り返ると、4歳くらいのクソガキが仁王立ちしていた。

「ここはおれのテリトリーだ!邪魔するな!」


 なんだぁ、こいつ……!


 ピキっとこめかみの血管が浮き出るが、ここは我慢我慢。


「ごめんね、すぐ避けるから」

「ふん……!」


 笑顔で対応する。

 クソガキは俺と紫音の間を通り抜ける。


「あの子、不安なんです」

「不安?」

「はい、他の子が引き取られる中、自分だけが取り残されてどんどん同世代の子はここを去って幸せになるのが羨ましくて。それが悪い方に態度に出て、あなたたちみたいに子どもを引き取ろうとする人達にちょっかい出して気を引いてるんです」


「なるほど」


 俺は先程のクソガキに歩み寄る。


「ねぇ君」

「なんだよ、ジジィ」


 ピキッ。

 脳の血管が再び浮き出す。



「君の名前は?」

「……和樹(かずき)

「へぇー、かっこいい名前だね」

「別に……」

「何歳?」

「5」

 指を5本立てる。

「好きな物は?」

「アニメ……とゲーム」

「ほぉほぉ、どんなアニメみたりゲームするの?」

「ゲームは嘘……」

「嘘……?」

「興味があるから言ってみただけ……」

「もし、ここの職員の人がいいって言えば、うちでやってみないかい?」

「なんでそんなに、俺に質問するんだよ」

「もし良かったら仲良くしたいと思ったんだけど、ダメか?」


「……ダメ……じゃない……」


 照れくさそうにそっぽを向く。


 その後、クソガキは照れながらも俺と会話をしてくれた。


 好きなアニメ、ゲームがあったらどんなのをやりたいか、俺とそいつはしばらく話していた。


 その間紫音はと言うと、最初に出会った子の手を引きながら、俺たちに混ざった。

 紫音が目をつけた子は香織(かおり)という子らしい。



 空が暗い闇に覆われた頃、俺たちは施設を後にしようとした。

 すると和樹と香織ちゃんが見送ってくれた。

「ジジィ、ババァ、また来るか?」

「その呼び方変えてくれたらまた来るよ」

「……なんて呼べばいい……?」

「お兄さんとお姉さんかな」

「お兄さん……お姉さん……また来るか?」


 ぶっきらぼうに呼び名を変える。


「おう!」

 俺は元気よく返した。

「ヒナコの良さ今度たっぷり教えてやるよ!」

「女向けのアニメに興味ねぇよ!」

「チッチッチ、女物と甘く見るなかれ……」

「……まぁ、見といてやるよ……」


「おねえちゃん、またね」

「またねー!香織ちゃん!」


 紫音はと言うと、香織ちゃんにベタ惚れだった。


 俺も試しに香織ちゃんと話してみたが、紫音の影に隠れてしまって、それを見た和樹が俺の脛を蹴り飛ばしていた。


 俺は和樹と仲良くなり、紫音は香織ちゃんと仲良くなって行った。


「俺は2人を引き取りたい」

「僕もそう思ってた!」


 俺たちの気持ちは一致していた。

 そのためには2人との信頼関係を築くところから始めなくてはならない。


「次は香織ちゃんと話せるといいなぁ」

「和樹君が邪魔しなきゃね」


 それから数回の面会を重ねて和樹と香織ちゃんは俺たちの子、希導和樹と希導香織となった。


 しかし、それと同時に紫音の死へのカウントダウンは静かに進んでいた。


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