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ようこそ鬼道島へ  作者: ダノン
紫音ルート
20/28

紫音ルート3話

「なぁ、紫音」

「んー?」

翌日の昼前、蕾さんたちのバイト先に向かう途中だ。

相も変わらず桜は散って咲いての繰り返しだ。

俺の彼女は車椅子の上でキャスケットをかぶり、桃色の髪をツインテールにまとめている。


「進路考えてるか?」

「んー、とりあえずB型の作業所通おうかなって考えてる。この島にもいくつかあるみたいだし。守は?」

「俺はこの島出たくないから、ここで就職するよ」

「そっか」

「どこに住むの?」

「やっすいアパート暮し」

「部屋は1階ね。僕が通えるために」

「通うというか、一緒に住まないか?」

俺は勇気をだして同棲の提案をする。


「守」

「うん?」

「僕の世話ってすっごい大変だぜ?」

「具体的には?」

ガラガラと車椅子を押しながら会話する。

「まず、君の苦手な清拭。そして家事は手伝えないから全部守が担当。そしてさらに」

「もう結構です……」

「でしょ?僕と一緒に暮らしたいって気持ちは嬉しいけど、それなら母ちゃんのいる実家でいいじゃん」

「それはそうだけど、そこまでお世話になる訳には……」

「そーゆー謙虚とこ、もういらない。母ちゃんも守の義理の母になる気満々なんだぜ?」

「マジ?」

「マジ。だからさ、もうほぼ家族なんだし、遠慮なし。変に一人暮らしするより、うちにいた方が僕たちとしても嬉しいの」

「そっか……」

ポリポリと頬をかく。

家族……か。

なんだかムズ痒かった。



「いらっしゃーせー!あ、まもりんに紫音ちゃん!久しぶりー!」

大島屋へ。

紺色で白の糸で大島屋と刺繍されたエプロン姿の桜花姉が出迎える。くせっ毛の栗色の髪の俺の従姉は今日も元気そうだ。

「桜花姉久しぶり」

「さくらっちおひさー」

俺と紫音は同時に桜花姉に挨拶する。

「蕾さーん、まもりんと紫音ちゃん来たよー」

『え?本当!?』

奥から蕾さんの声がする。

パタパタと厨房から顔を出す蕾さん。こちらも同じエプロンで白の三角巾にを頭に巻き、黒煙色の長い髪をポニーテールでひとつにまとめている。

「昨日ぶり、2人とも。来てくれて嬉しい!」

笑顔がまだぎこちないが、元気よく迎え入れてくれた。

「今日は何食べる?お姉さんが腕によりをかけて愛情込めて料理します!」

「作るのは蕾さんだけじゃないでしょー」

力こぶを見せる蕾さんに呆れる桜花姉。


「注文決まったら教えてね」

桜花姉がウインクしてメニュー表を持ってきてくれた。

パタパタと跳ねる栗色のくせっ毛を目で追いかける。

「もしもーし、守?」

「なんだ?」

「僕じゃなくてさくらっちを追ってたから嫉妬した」

「独占欲強いな」

「いや普通、彼女の前で他の子に目移りしてたら不機嫌になるよ。想像してみ、僕が守以外の男子にかっこいいーって言ってるところ」

「それはちょっと嫌かも」

「だろぃ、懐かしかったの?」

ブーブーと文句を言っていたかと思うと、今度は優しく微笑む。


「そりゃあな。ついこの間まで一緒に暮らしてたのに、遠い存在になったなって」

「また一緒に住みたい?」

「いや、今は紫音がいるからな」

「何度も言うけど、そーゆーところ!人前で恥ずかしいでしょ!」

「そんなつもりなかったが?」

「はぁ……もういいよ。何食べよっかなー」

不機嫌になって優しくなって怒る。

感情が豊かで可愛らしいことで。

「言っておくが自腹だからな?」

だが釘は刺しておく。

「奢ってくれない甲斐性なし彼氏」

「せめて割り勘な」

「あいよー」

軽い返事が帰ってきた。

しょうがない彼女なことで。

心の中でぼやく。


「おーい、さくらっちー」

「注文は決まった?」

パタパタとやってくるくせっ毛の従姉。

「ヤサイマシマシニンニクアブラカラメで」

「んなもんあるか!」

俺のツッコミ。

「ヤサイマシマシニンニクアブラカラメね」

「あるの!?」

「まもりんは?」

「えー、無難に餃子定食でいいよ」

「じゃあ、僕もそれで」

「はーい、餃子定食2つねー」

「ちょっとまて。ヤサイマシマシニンニクアブラカラメはどうした?」

平然と伝票にサラサラとペンを走らせる。

「「あれは冗談」」

「俺は本気とだと思ったぞ……」

「僕達の間でのやり取りさ。昔、身体が良くなったら何食べたいって聞かれた時の口上」

「それ、知らん人の前で言ったら本気で捉えるぞ」


「店員さーん」

別に席の人が注文受付をする。

「はーい」

「ヤサイマシマシニンニクアブラカラメで」

「えっと……当店ではそのようなご注文は……」

苦い笑みを浮かべる若い店員さん。

「だってさっきあの席の子が」

俺たちの方を示す。

「ほら見た事か!早速勘違いして疑問の渦が巻き起こってるわ!」

俺と紫音、桜花姉はそれを注文した人と、店員さんに頭を下げた。


「ありがとうございましたー!また来てね」

昼食を摂り、満腹で店を出る。

桜花姉はそれを笑顔で手を振りながら見送ってくれた。

俺達もそれにオウム返しする。

「しっかし、あれで良かったのか?」

ガラガラと車椅子を押しながら紫音に訊く。

「あれとは?」

「俺と同じ注文でってこと。1番高いやつ頼むって言ってたろ?」

「あれは守が奢ってくれる前提。お小遣いそこまで多く貰ってないからさ。それにせっかくなら同じもの注文したいじゃん?」

「なんでだよ?」

「だって、短い命だもん。同じ時、同じ物を共有して少しでも守の財産として残しておきたいんだ」

シンと二人で黙り込む。

その言葉で桃太郎の呪いで、紫音は長く生きられないことを思い出す。

チチチと小鳥の囀りとガラガラと、車椅子を押す音が響く。

「まぁ、そんな暗い話はいいんだよ、前にも言ったけどさ、人間は必ずいつか死ぬ。短いかもだけど、楽しく生きたいじゃん?」

「そう……だな」

俺の心に黒いモヤが渦巻くが、それを気にしてか、ニカッと笑みを浮かべる紫音。

「だからさ、それまで楽しく生きようぜ」




「さて、今年度の体育だが、いつも通り全学部、合同で行う」

週末は過ぎ去り、月曜日、四限目は体育の授業だ。体育館に集められた俺たちは、そう告げられた。

美咲先生の申したとおり小中高、全学部での合同授業だ。


小学生は全学年ではあらず、まばらな人数だ。9人ほどと聞いた。

中学生も1年生が2人。

2年生が欠けて、3年生が3人だ。

高等部は、1学年が3人。

2学年が5人。

3年生が3人だ。

合計25人だ。

「なお、この授業での朝露の扱いだが、病院側から歩行のリハビリに専念するようにと言われている。訓練には希導、お前が協力しろ」

「はい」

「そして希導、お前がこの学校にいる間は、お前がこの授業を取り仕切れ」

「なんでですか!?それは教師である美咲先生の仕事ですよね!?」

思わず反論する。

「なんでもクソもあるか。あたいは受け持ちが多いんだ。この授業の間にも、並行して業務を真っ当せねばならん」

「えー、横暴ですよ……」

「なんと言われようと構わん。とにかくやれ。困った時のサポート位はしてやる」

「……はーい」

なんとも腑に落ちない。


「とりあえず、今日はドッチボールでもやろうか。俺と紫音を抜いて23人だから……」

「待て希導」

「なんです?」

「今日は鬼ごっこだ」

「いや、同じ年代ならともかく、小学生と高校生じゃあ、不公平じゃないですか」

「それを上手く纏めるのがお前の仕事だ」

「勝手が過ぎますよ!」

流石に怒声を浴びさせる。

「なんとでも言え、お前のためでもある」

「はぁ……」

呆れてものも言えん。

とりあえず、準備体操とストレッチを済ます。

「じゃあ、学部ごとで100m走から始めるか」

「それにいみはあるのー?」


小学部の女子生徒が質問を投げる。

「大体のみんなの足の速さが分かるからね。小学生が本気で走るのと高校生が本気で走るのとは、大きな差がある」

「さってどのくらい?」

別の小学部男子生徒の質問も受ける。

「分からん。だから測るんだよ」

「希導、100m測り終えたで」

「ありがとうございます。恵さん」

俺が小学生の相手をしてる間に恵さんが、測定を終わらせてくれていた。

「それじゃあ、俺は紫音のリハビリ協力するから、恵さんは全員のタイム測ってて貰えます?」

「了解や」


「守も大変だねぇ」

「ほんとにだよ」

俺は紫音の両手を掴みながら彼女の歩行練習に協力する。

「それじゃあ、行くで。よーいスタート!」

ダッダッダ。

恵さんの号令で、小学部の生徒が一斉に走り出す。

走り終えると、ぜぇぜぇと肩で息をする生徒とまだまだ余裕な表情を見せる者と様々だ。

「次、中等部や」

「はーい」

5人の生徒が位置に着く。

俺は紫音と歩きながら、横目で様子を伺う。

「よーいスタートや」

恵の合図で5人の中学生が一斉に走る。

ダッダッダ。

「ん?」

俺は違和感を覚えた。

「そこの男子」

俺はその違和感の相手を呼び止める。

「俺っすか?」

「そうだ。お前手抜いただろ?」

「はい」

嘘偽りなく平然と答える。

「なぜだ?」

「だって小学生も混じえるんでしょう?本気で走ったら1人位は手加減しないと」

一理ある。が。

「これは全体の平均タイムを測るのが目的だ。一斉に走って1人だけ手を抜いたら、全体の実力が分からない。納得できないと思うが、他の中等部は疲れたろう。高等部が走り終えたら、お前たちはもう一度走れ」

「はぁい」

理解はしたが納得はできないという表情だ。

「お前のせいだぞ」

「だってしょうがないだろ……」

中等部の生徒は口々に文句を垂れる。

「いい判断だ、希導。この調子で頼むぞ」

いつの間にかそばに来ていた美咲先生が、口出しする。

「こういうのは、普通先生の仕事ですよね?」

皮肉混じりに先生に問いかける。

「あたいはお前のカリスマ性を評価している。社会に出て、朝露を守りながら仕事をするのに必要なことだ」

「本当ですかね?」

「いつか身に染みる時が来る。多分な」

「そんな曖昧な……」


「次は高等部や。中等部、誰でもええ、うちの代わりにタイム測ってくれへんか?」

「ガッテン承知!」

1人の生徒が張り切って恵からタイマーを受け取る。

高等部の生徒が走り始める。

ダッダッダッダ。

速度が他の学部とは違った。

「サンキュー」

「これくらい承知の上ですよ」

そして小学部、中等部と違い、体力に余裕がありそうだ。


「希導、これが小学部と高等部の違いや」

恵さんが、記録した用紙を俺に見せる。

小学生は全体で23秒ちょっと。

高等部は18秒ちょっと。約5秒の差。

小学生の体力を見るに、調整は必要だ。

「次、中等部、行けるか?」

恵さんが彼らに体力回復は済んだかと訊く。

「いけまぁす」

ダルさを感じさせる伸びた声。

中等部が一斉に走る。

ダッダッダ。

先程の生徒も今度は指示に従ってくれた。

「これが結果だ」

誤差は2秒程度。

これなら問題ないな。

しかし、小学部の授業終了まで残りわずか。

「申し訳ないけど、鬼ごっこは次の時間だ。小学部はちょっと早いが解散して担任の先生の指示に従ってくれ。怒られたら、俺のせいにして構わない」

「はーい」

手を挙げて返事をしてくれた。


「中等部と高等部は残り時間、体育館でのみ自由行動。ただ、紫音に危害が及ばないように注意してくれ」

「はーい」

「何するー?」

「テキトーにバスケでもするか」

「ルミ、うちらはバドミントンでもしよか」

「いいね!」

それぞれが思い思いに体育館で自由に動き始める。

俺は紫音を、車椅子に乗せて、その横で待機する。

「守はなにかしないの?」

「紫音に何かあったらまずいだろ?横でボディガードだ。構いませんね?先生」

「うむ、初日にしては上々だ。大目に見てやる」

「守はやっぱり優しい」

「うん?何か言ったか?」

「別に何もー」


「ったく、見せつけやがって」

「だよなー。ボールわざとぶつけてやろうか?」

男子生徒が口々に不満を口にする。

悪口くらいなら構わんが、わざと危害を加えるなら許さん。

「お前ら、わざt」

「全員に通達だ。希導の悪口は構わん。だが体の不自由な生徒にわざと危害を加えてみろ。内申点落とすからな」

美咲先生がまさかのフォロー。

1部の生徒が、納得いかない表情を見せるが、流石に美咲先生に反論するものはいなかった。

「先生、ありがとうございます」

俺はぺこりとお辞儀。

「希導よ、上に立つ者とはな、このように全員が納得出来るものじゃない。時には今みたいに悪意を見せる時がある。今回はあたいがフォローしたが、いつでも助けられる訳じゃない。自分自身の力で乗り切る能力も身につけろ」

「はい!」

先生のことを少し見直した。

キーンコーンカーンコーン。

しばらくして授業終了の報せが響いた。

「あー、疲れたー」

「次は鬼ごっこだろー。だりー」

中等部の生徒は不満気だ。

「希導、お疲れさん」

「お疲れ様だぜ」

「ありがとうございます。2人とも」

恵さんとルミちゃんが労ってくれる。

「ほな、昼にしよか。うち腹ぺこや」

「今日も一緒に食べる?」

「もちろんや」

相川姉妹は今日も一緒に昼ごはんを摂るらしい。

「俺達も一緒だよな?紫音」

「もちろんさぁ」

こうして無事俺の仕切る体育の授業は終わった。

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