11話
「オレ、希導桜花さんのこと好きなんだよ」
目の前のチャラい男子の告白。
「お、おぉう」
身内の事が好きと告げられ反応に困る。
「だからさ」
ガシッと背中から腕を組む。
「何とか俺たちの距離が縮められるように、協力してくれ」
「いや、それはいいけど、何で桜花姉の事好きなんだ?」
「小さくてロリ体型だろ?」
「おう」
なんかやばい匂いがしてきた。
「でも、困ってたら支えてくれる包容力があるんだよ。そのギャップが好きでさ」
「あー、わかる気がする」
桜花姉はこの間も俺が落ち込んでたら隣で慰めてくれたことを思い出す。
「半分不純な気もするが、そういう事なら協力してもいいぞ」
「まじか!?親友ありがとう!」
「会って1分の相手を親友ってどんだけ俺の株が上がったんだよ」
半ば呆れ気味に嘆息をつく。
「お礼になにか奢るよ!」
「じゃあ、たこ焼き3人分」
「3人分!?」
「その中に桜花姉の分も含まれてるぞ」
「喜んで買ってこよう」
だっと屋台へとダッシュする徹。
数分後、ビニール袋に5人分のたこ焼きを買って帰ってきた。
「なんで余分に買ってきたんだ?」
「俺の分と姉貴の分」
たこ焼きを徹に任せて俺たちは歩き出す。
「姉貴?桜花姉に2パック食わせる気か?」
「ちげーよ。俺の姉貴の分」
「ふーん、お姉さんいるんだ」
「おう、双子のな」
「ふーん、てことは俺のクラスメイトになるのもその人か?」
「いや、姉さんはひとつ上だ」
「ちょっと待て」
疑問が生まれた。
「双子なのになんで学年違うんだ?」
「そりゃあ、オレ留年してるからな」
「あー……」
何故か納得できてしまった。
「なんだよ、その反応」
「いやすまん。上手く言えないが、勉強見てやるぞ?」
「違う!勉学は追いついてるんだ!」
「じゃあなんで留年してるんだよ?」
「出席日数が足りなかったから」
「学校で嫌なことでもあったのか?」
ちょっと心配になってしまう。こんなナリでも人間関係に苦労しているのかもしれない。
「いや、単純に朝遅く起きて、そこからゲームやって午後から登校してたら留年した」
「俺の純情を返してくれ」
「はっはっは!まぁ色々よろしく頼むわ!」
バシバシと肩を叩かれる。
「ところで、桜花さんはどんな相手が好みなんだ?」
「実の所わからん」
「ん」
右手のひらを広げる徹。
「なんだ?」
「お前の分のたこ焼き代返せ」
「なんでだよ、さっき親友だって言ったくせに」
「お前が使えないやつだってわかったから」
「お前な……」
財布から小銭を取り出す。
「まぁ、桜花姉が待ってるから本人から訊いたらどうだ?」
「やっぱこれ返すわ」
チャリン。渡した小銭がすぐ返却された。
「お前分かりやすいな」
「褒めるなよ」
照れる徹。
「いや、褒めてないからな」
呆れながらもザッザッザッと歩を進める。
「おーい!」
桜花姉が俺の姿を捉えて両手をぶんぶんと広げる。
「ゲッ……」
桜花姉が金髪の男子の姿を認めると嫌そうに顔を歪ませた。
「桜花さん、お久しぶりですね!」
桜花姉は俺の3つ上。つまり19歳だ。
この小さな島で顔を合わせる機会もあるだろうが、この反応を見るに、既に何かやらかしたな?
「なんであんたがいるのよ」
「いやぁ、転校生に挨拶したら桜花さんと待ち合わせてるって言うからさ」
「けっけっけ、それで追っかけてきたって訳か」
しおりんは段差に腰掛けていた。
背景に桜。桃色の髪が見事にマッチしていた。
「もしかして、朝露さん!?」
「そ、とおるっちお久ー」
ヒラヒラと手を振る。
「手術成功したって聞いたけど、もう外出していいのか?」
「まだ自分の足で歩けないから、車椅子か誰かにおんぶしてもらうしかないけどね」
けっけっけと軽い笑みを浮かべる。
「それで桜花さんに頼んだってことか」
「いんや、基本まもっちだよ。お使い頼んだからさくらっちに頼んだだけ」
さくらっちって桜花姉のことか。
「そっかー、でも桜花さんもやっぱり優しいですね!」
「ありがとう……」
すすすと徹から距離をとる桜花姉。
既に好感度マイナスなんだが。
「ところでさー、そろそろ渡してくれない?それ」
しおりんが買ってきたそれを催促する。
「はい、桜花さん」
「横に置いておいて」
桜花姉は直接受け取りたがらない。
「ほら、親友」
残りを俺へ。
「桜花さんに渡したから、あとは自分たちでテキトーにな」
あー、こいつが煙たがられる理由がわかった気がした。
まぁいいや。
「ほい、しおりん」
「サンキューまもっち」
ちょんちょんと彼女は自身の左横を指さす。
「ここに座れってこと?」
「そ」
「あざっす」
ありがたく隣へ腰掛ける。
「貸して」
「ん」
しおりんの分のたこ焼きを1度受け取る。
ガサガサとプラスチックの容器を固定している輪ゴムを外す。
蓋が外れると、丸いタコの包みから白い煙が吹き出す。
鰹節が踊っていた。
俺も自分の分のに手をつける。
ソースにマヨネーズに鰹節。
たこ焼きと言ったらこれだよなぁ。
2本の細い竹串で丸いそれを掴む。
しおりんも真似る。
膜を人齧り。
タコと細かい紅しょうがが顔を出す。モチっとした生地、紅しょうがの酸っぱさ、タコのコリコリとした食感。
これだよこれ!
「んー!」
しおりんはたこ焼きを一気に口に入れたようだ。
「喉と胃が焼けるー!」
「そうなるから、たこ焼きはちょっとずつ食べるんだよ」
「まもっち最初に教えてよー!僕、これ初めてなんだから!」
「おや以外」
「今まで病院食だったからねー。こうして外で食べるのは初なんだよ。ちなみにお年玉も今年始めてもらった」
「なんで?」
え?しおりんの両親ってケチなの?
「そんな怪訝そうな顔しないー。単純に使い道がなかったから断ってただけだよ」
しおりんのこれまでの生活を想像して、ちょっと切なくなった。
「だから今は幸せだよー。こうして婚約者と外出できて」
「いや、あれは子供の頃の……」
「けっけっけ、今はそういうことにしとくか」
「桜花さん!今度一緒に本土に行きましょう!」
「行ってどうするのー?」
徹が桜花姉にアタックしていた。
「そりゃあ、有名なテーマパークまで行って……」
「北東北から有名テーマパークってお年玉全部使い切っても足りないからやだ」
そう。この鬼道島は北東北付近の島なのだ。
雪国の近くなのにここだけ気候が穏やかなのは本当に不思議だ。
「やっと見つけた!」
徹と嫌がる桜花姉のやり取りを横目でしおりんと他人事のように眺めていると、つんざく様な高い声が響いた。
振り返ると、黄金色の長いウェーブのかかった髪に、徹と似たような顔立ちの女の子が仁王立ちしていた。
「ゲッ姉貴……!」
姉貴、ということは彼女が件の徹の双子の姉か。
「おっ、眠子ちゃんいいところに」
「まーた希導さんに迷惑かけてたでしょ!」
眠子と桜花姉に呼ばれた子は、ずんずんと徹との距離を詰める。
「いや、誤解だって……」
「誤解ぃ!?アタシには希導さん嫌がってるように見えたけど!?」
「……………」
目が泳ぐ徹。
「それで、アタシが頼んだものは!?」
「そこに」
俺が持っていたビニール袋を指す。
「あなたが持ってくれてたのね、ありがとう」
黄金色の髪の女の子は俺から受け取る。
「って違うじゃない!アタシはお好み焼き頼んだでしょ!?」
「いや、これにはわけが」
さすがに可哀想なので、俺が介入し事情説明開始。
「ふーん、桜花さんだけじゃなくて、いとこの希導守クンにも迷惑かけたと」
「いや迷惑だとは思ってないよな?親友」
「死ぬほど迷惑だ」
徹の問に笑顔でぐっと親指を立ててやる。
「ですってぇぇぇ!」
ずんずんと距離を詰める眠子さんと、バックで後方に歩を進める徹。
「まぁいいわ。とりあえず、希導守クンに自己紹介ね。アタシは橘眠子コイツの姉。よろしくね」
「はい、こちらこそ」
求められた握手に応じる。
「ところでなんで桜花姉は徹のことあんなに嫌ってるんですか?」
「そりゃあ、小さい学校のトイレの大声で『桜花さん!ダメダメ!イクゥ!』ってひとりエッチしてたからねぇ」
「あぁー……」
そりゃあ嫌われるわ。
「まぁ、ヒトリエッチするくらいならいいけど、大声で喘いでたらねぇ」
「別にいいんじゃない?」
眠子さんの嘆息に否定するようにしおりんが会話に参加する。
「いいの?朝露サン……?」
「良いも悪いも、さすがに大声出さないけど、まもっちとヤってることを想像して僕もしたし」
「「そうなんだ……」」
俺と眠子さんは揃って顔を赤らめた。
「まぁ、せっかくだしこれいただくわ」
自慰行為の話題から逃げるように、眠子さんはたこ焼きの蓋を開けた。
「ねぇ、まもっち」
「おぶって」
「今の話の直後にそれ!?」
「えー、何?変な想像した?この後僕の身体拭くんだからさぁ」
ニヤニヤと人の心の隙間をついてくる。
「身体拭くってどういうこと……!?」
眠子さんが引いていた。
「これにはわけが……!」
これまでの流れを説明し、ようやく理解して貰えた。
「そういうことねー。朝露サン」
「ん?」
「随分攻めるね」
「そりゃあ、恋のライバルの下着姿を2回も覗いてるんだよ、まもっちは」
しおりーん!?
「え?アタシの周りって変態しかいないの?アタシがおかしいだけ……!?」
小声でブツブツと脳のショートを防ぐのに必死だ。
「あ、いたいた。守くーん!」
蕾さん登場。
「咲倉サン!」
「あ、眠子ちゃん」
「希導守クンが女の子の下着覗いたそうです!」
「あ、それ私だよ」
「ぴーーがががががががーーー」
完全に壊れたな。
「ど、どう言うこと!?」
蕾さんにも事情説明。
この一連の騒動は、あまりに大声で話していたため、俺は変態と島民の方々に誤解されたのは、また次の話。




