表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼境の子羊《メシア》たち  作者: くろ飛行機
3章 ぬくもり
28/31

9 仲良くしようよ

 朝、いつものように登校した昂大は、教室の扉を開ける。

 大きなあくびをしながら自席に座ると、ぼんやりと黒板を眺めた。


(なんか……頭がぼんやりするな)


 目を瞑り、拳で額を軽く突く。昨晩は雪のことを考えていて、よく眠れなかった。それにしても、やけに頭がぼんやりとする。

 視界が揺らぎ、甘い香りが鼻をくすぐる。気づけば顔が火照っている。


 ――――――なんだ。何か変だ。


「えっ」


 昂大は、周囲に人が一人もいないことに気づく。

 そんなことはあり得ない。今日は平日で、土日ではない。それならこの時間に誰も教室にいないのはおかしい。


 がたっと机を揺らし、勢いよく立ち上がる。

 なぜ席に座るまで気づかなかったのか。考えてみれば、登校してから誰の姿も見ていないような気がする。


 尋常ではない状況に、再び頭を抱える。

 妙な眠気と、高鳴る鼓動。学校全体の空気感が違う。まるで別の場所にいるようだ。


 そんな状況の中で――――――ゆっくりと教室の扉が開かれていく。


「あ。いた」


 教室に入ってきたのは、五組のクラスメイトの一人だった。

 爽やかな笑みを湛え、昂大に近づいていく。


「見つけた!」

「いた!!」

「待て、俺が行く!!」

「私が!!」


 生徒たちが雪崩のように教室に入り込んでくる――――――。

 皆、表情に何の曇りもない。いつも通り、普段通りの自然体だった。


 しかし、人波は昂大に向かって次々と迫って来る。

 全員の腕が伸び、昂大を捕まえようと迫って来る。


「……は」


 殺気も敵意も感じられない表情と矛盾した強引な動きに、昂大の反応が遅れてしまう。

 逃げようとした時には手遅れで、為すすべなく取り押さえられてしまった。


「お、重いって……っ」


 圧し掛かられ、もみくちゃにされていく――――――。

 すると一転、生徒たちの顔から笑みが消え、青筋が立った。


「俺が捕まえたんだ!!!」

「離せ!! 俺や!!」

「はあ!? 私だけど!」

「最初に触れたのはウチなんやけど!!」


 やがて、生徒たちは乱闘し始める。

 男子も女子も、胸倉を掴み、拳を振るい、蹴りを繰り出し――――――挙句の果てには本や箒などを持ち、攻撃し合っている。


「な……んだ、これ」


 まさに混沌だった。理性もない、優しさの欠片もない、動物的本能のような暴力と怒り。

 昂大はこの理解できない状況を、ただ茫然と見続けることしかできなかった。

 やがて一人の男子生徒が本で殴られて意識を失った。


 血が、床に飛び散っている。

 だが混沌は止まらない。ますますエスカレートしていく――――――。


「何……してんだ」


 昂大の時間がようやく動き出す。腹の底から怒りが湧き、大きな声を上げる。


「やめろ!!!」


 昂大の叫びに、ピタリと喧騒が収まった。


 ――――――パン。パン。パン。


 教室の外で、誰かが手を叩いた。その人物は堂々と教室に入って来ると、昂大に近づいていく。


「みんな……駄目だよ。喧嘩しちゃ」


 教室に入って来たのは、まっさらな笑みを浮かべた雪だった。教室に飛び散った赤い血を眺め、慈愛に満ちた表情で怪我人にハンカチを手渡す。


「ほらみんな、仲良くして(・・・・・)。ね?」


 雪の言葉に、生徒たちは一斉に武器を下ろし、雪の傍に寄る。


「ご、ごめんなさい……」

「喧嘩したのは、その」

「違うんです! 嫌わないで……」


 生徒たちは膝をつき、涙を流し、雪に謝罪する。

 その異常な光景を前に、昂大の背筋に悪寒が奔った。


「なんだよ……これ」


 怯える昂大を一瞥した雪は、満足そうに微笑むと、小さく言い放つ。


「じゃあ早く、昂大君を捕まえて」


 ギロリ。

 昂大に向け、一斉に視線が向けられる。今度は正確な動きと統率されたチームワークが発揮され、昂大は雪の前で跪いて拘束された。


「驚いた? これが私の臨起(ちから)だよ」

「ち、ちからって……」

臨起(りんき)。へえ、臨起のことも、君は教えられてないんだ」


 雪は体を抱えるように腕を組む。


「ほんと……虫唾が奔るよ」


 雪の怒りに呼応するように、昂大の頭に痛みが襲う。

 気を失った昂大を見た雪は、生徒たちに笑みを向ける。


「ありがとうみんな。じゃ、運んでね」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ