10 羽流解放戦線 takes place at night in the harbor その2
佳彦を囲っていた十数人の部下は、日本刀やドス、鉄パイプ等の凶器を手に、昂大と美樹に向けて突撃する。
昂大は素早く前に出ると、一番に突進してきたゴロツキの鉄パイプを避け、顔面を蹴り上げた。
非常に緻密に繰り出された一撃だった。的確に顎を破壊された男は、痛みで気を失う。
続いて迫る刃物をいなし、手首を返して刃物を弾き飛ばし、掌底を鳩尾に叩き込む。
「うひょー、相変わらず容赦のない攻撃ね」
感心する美樹にも、怒号と殺気が迫る。しかし昂大の方を向いたまま、数発撃って撃沈させる。
一瞬で十人ほどがやられ、佳彦は怒りを滲ませる。
「もっと囲め。消耗させろ」
佳彦の命令に呼応するように、コンテナの影から続々と援軍が現れる。
昂大は次々と襲い掛かって来る男たちの攻撃を、いなし、躱し、一撃で急所を狙って撃沈させていく。
(兵隊は百人用意した。これだけの人数がやられるわけ……)
ひゅん、という空気を切り裂く音が聞こえた時、銃弾が佳彦の右耳を掠っていた。
その弾は、拘束されていたハルの縄を確実に打ち抜いている。
――――――美樹の持つ銃のカートリッジが地面に落ちる。
「ほら、油断してると、脳天が飛ぶよ」
「何してる……! 早くやれ!」
美樹はコンテナの影に移動しながら的確に発砲し、男たちを寄せ付けない。美樹を見失ってしまった男たちは、次々と脳天をぶち抜かれて絶命していく。
美樹は先ほどコンテナの上に下ろしたライフルバックから、追加の銃を取り出す。
佳彦は冷や汗を隠すように部下の背後に隠れると、羽流の腕を強引に引いた。
「てめえ……」
それを見た昂大は、佳彦の元へ走る。しかし、部下たちの壁に阻まれてしまった。
空中で体を捻ると、顔面に飛び蹴りを食らわせ、右手で着地すると同時に足を伸ばし、隣の男のこめかみ部分を蹴飛ばした。
「このガキ……」
「なんて動きだ……」
ゴロツキたちは主人を守るように昂大を取り囲む。突撃はせず、一定の距離を保ったまま身構える。
そこへ、美樹の手にした小銃が撃ち込まれる。
「がはっ……!!」
「ぐあっ!!」
統率が取れず、瓦解したところを、昂大が一人一人仕留めていく。
「あいつ……ハルちゃんを人質に取るつもりね」
佳彦は金庫を持ち、羽流を連れて停泊しているプライベートジェットへ向かっていく。
その様子を見た羽流の母は、車いすから落ちて地面を這い、後を追いかける。
美樹は集中しすぎるあまり、遠くからゴロツキの反撃を受けてコンテナの背後に引っ込んだ。
「流石に人数多くて邪魔すぎ」
美樹はニヤリと笑い、懐からスタングレネードを取り出すと、
「昂大!」
男たちに向かって投げつける。
「!!!」
昂大はパーカーのカンガルーポケットに入れていた特注の耳栓を付け、素早く羽流の母を抱えてコンテナの影に入った。
激しい光と衝撃に、男たちが怯む中、昂大は羽流の母の耳を塞いで音から守った。
衝撃が収まると、昂大は母に小さく告げる。
「ここにいてください。ハルはおれが助けます」
羽流の母は、こくりと頷く。昂大はコンテナの影から飛び出すと、サングラスを捨て、怯んでいる男たちをなぎ倒す。
佳彦はプライベートジェットの傍まで来ると、乗船していた部下を呼び、自身を中に入れるように迫った。
「そうはさせない」
美樹はライフルバックの中に入れていた最終兵器、ロケットランチャーを構える。
光と音で悶絶していたゴロツキたちは、美樹の行動を止められない。狙いを定め、トリガーを引くとロケットが発射される。
「なっ!」
激しい爆発音と共に、プライベートジェットが炎上する。
逃げ場を失った佳彦は、真っ青な顔で背後から迫る昂大を見る。
佳彦は冷静に羽流の頭に銃口を当て、昂大を制止する。
「もう諦めろ」
「諦める? 何を?」
佳彦は汗を流しながらも、ニヤリと笑う。
「僕の手には財宝の鍵と、ハルがいるんだ。何を諦めろと言うのかな」
「……」
昂大は一歩ずつ、近づきながら佳彦を睨みつける。
「わからないのか!? それ以上近づくと……」
「撃つのか」
昂大は視線を佳彦から羽流へ移す。羽流は何かを懇願するように、昂大を見つめ返した。
「ハル。今助ける」
「ご、ごめんなさい。ハルが、ハルが、鍵を渡しちゃったから……」
こんな状況でもなお、涙を流しながら謝る羽流を見て、昂大は心が熱くなるのを感じた。
「お前のせいじゃない」
昂大は、精一杯羽流を安心させようと、口角を上げた。
それを見た羽流は、恐怖を押し殺し、にーっと精一杯笑い返す。
「何笑っているんだこのゴミが!」
二人のやり取りに、佳彦は激昂する。
銃を振り上げ、羽流の頭を殴ろうした時――――――。
「ぐあっ!」
佳彦の銃が弾け飛ぶ。
美樹がコンテナの上から、愛銃のレミントンで狙撃していた。
その隙を、昂大は逃さない。
銃を撃たれた衝撃で体勢を崩した佳彦に、昂大は飛び膝蹴りを食らわせる。
「がぁ……くそぉ……」
佳彦は吹っ飛び、コンテナに打ち付けられる。
昂大は羽流を抱きかかえ、素早く距離を取ると、優しく地面に下ろした。
「大丈夫だったか。怪我は?」
「うん。だいじょーぶ」
昂大は羽流の頭を優しく撫でる。
「お前は本当によく頑張ったよ」
羽流はその言葉に、昂大に抱き着いて泣き叫んだ。
美樹は急いで佳彦の元へ走り、銃を突き付ける。
佳彦の顔面は、昂大の飛び蹴りでぐちゃぐちゃになっており、鼻と歯が折れて出血しているなど、無残な顔になっていた。
「貴方の負け。さあ、部下たちに降伏を宣言しなさい」
「く、クソがぁ……」
美樹は佳彦を無理やり立たせ、部下たちの前に引き摺っていく。
「皆さんのボスはこの通り、情けないお顔になっちゃいましたー。この結果に納得いかない、義理人情の厚い連中は、いくらでも相手になるけど……どうする?」
その様子を見た動ける部下たちは、皆一斉に散っていく。
すぐに閑散となったコンテナ街は、佳彦をさらに惨めにした。
「なん、でぇ……」
「何人いても烏合の衆。貴方に勝ち目なんてなーいの」
独りになった佳彦は、もはや脅威でも何でもない。
殺す価値もないちっぽけな男の顔に、美樹はもう一度だけ蹴りを入れた。
「ハルちゃん。無事でよかった」
「みぎおぜえさぁぁぁん……」
羽流は美樹にも抱き着くと、わんさか泣き喚いた。
昂大は肩の力を抜くと、羽流の母を連れてくる。
「ハル……本当に」
羽流の母は、顔色が優れない様子だったが、羽流の無事に涙を流した。
そして親子は強く抱きしめ合う。
「ごめんね……ごめんね……無茶させたね」
「ううん、無事で、無事で本当によがっだよぉぉぉ」
そんな様子に、昂大と美樹は肩の荷を下ろす。
昂大は佳彦の持っていた金庫の鍵を、羽流に手渡した。
「これはお前のもんだ。これで、母さんを治してやれよ」
「うん……!」
「それならとりあえず、お母さんを病院に運びましょっか」
美樹は車のキーを指でくるりと回し、停めてあった車を回してくる。
羽流の母を後部座席に乗せると、美樹は昂大に手を振った。
「行ってきて。金庫の場所はわかるでしょ」
「えっ。でも、いいのか?」
「一刻も早く手術しないと、でしょ? だったら、貴方が最後までハルちゃんを護衛しなさい」
そう言うと、美樹はそのまま走り去っていった。
昂大は羽流と顔を合わせる。
「それでいいか、ハル」
「うん……!」
赤く腫れた目で、再びにーっと笑った羽流は、昂大の手を握った。




