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蒼境の子羊《メシア》たち  作者: くろ飛行機
1章 株式会社吉凶へようこそ
12/14

10 羽流解放戦線 takes place at night in the harbor その2


 佳彦を囲っていた十数人の部下は、日本刀やドス、鉄パイプ等の凶器を手に、昂大と美樹に向けて突撃する。


 昂大は素早く前に出ると、一番に突進してきたゴロツキの鉄パイプを避け、顔面を蹴り上げた。

 非常に緻密に繰り出された一撃だった。的確に顎を破壊された男は、痛みで気を失う。

 続いて迫る刃物をいなし、手首を返して刃物を弾き飛ばし、掌底を鳩尾に叩き込む。


「うひょー、相変わらず容赦のない攻撃ね」


 感心する美樹にも、怒号と殺気が迫る。しかし昂大の方を向いたまま、数発撃って撃沈させる。


 一瞬で十人ほどがやられ、佳彦は怒りを滲ませる。


「もっと囲め。消耗させろ」


 佳彦の命令に呼応するように、コンテナの影から続々と援軍が現れる。

 昂大は次々と襲い掛かって来る男たちの攻撃を、いなし、躱し、一撃で急所を狙って撃沈させていく。


(兵隊は百人用意した。これだけの人数がやられるわけ……)


 ひゅん、という空気を切り裂く音が聞こえた時、銃弾が佳彦の右耳を掠っていた。

 その弾は、拘束されていたハルの縄を確実に打ち抜いている。


 ――――――美樹の持つ銃のカートリッジが地面に落ちる。


「ほら、油断してると、脳天が飛ぶよ」

「何してる……! 早くやれ!」


 美樹はコンテナの影に移動しながら的確に発砲し、男たちを寄せ付けない。美樹を見失ってしまった男たちは、次々と脳天をぶち抜かれて絶命していく。


 美樹は先ほどコンテナの上に下ろしたライフルバックから、追加の銃を取り出す。


 佳彦は冷や汗を隠すように部下の背後に隠れると、羽流の腕を強引に引いた。


「てめえ……」


 それを見た昂大は、佳彦の元へ走る。しかし、部下たちの壁に阻まれてしまった。

 空中で体を捻ると、顔面に飛び蹴りを食らわせ、右手で着地すると同時に足を伸ばし、隣の男のこめかみ部分を蹴飛ばした。


「このガキ……」

「なんて動きだ……」


 ゴロツキたちは主人を守るように昂大を取り囲む。突撃はせず、一定の距離を保ったまま身構える。

 そこへ、美樹の手にした小銃が撃ち込まれる。


「がはっ……!!」

「ぐあっ!!」


 統率が取れず、瓦解したところを、昂大が一人一人仕留めていく。


「あいつ……ハルちゃんを人質に取るつもりね」


 佳彦は金庫を持ち、羽流を連れて停泊しているプライベートジェットへ向かっていく。

 その様子を見た羽流の母は、車いすから落ちて地面を這い、後を追いかける。


 美樹は集中しすぎるあまり、遠くからゴロツキの反撃を受けてコンテナの背後に引っ込んだ。


「流石に人数多くて邪魔すぎ」


 美樹はニヤリと笑い、懐からスタングレネードを取り出すと、


「昂大!」


 男たちに向かって投げつける。


「!!!」


 昂大はパーカーのカンガルーポケットに入れていた特注の耳栓を付け、素早く羽流の母を抱えてコンテナの影に入った。


 激しい光と衝撃に、男たちが怯む中、昂大は羽流の母の耳を塞いで音から守った。

 衝撃が収まると、昂大は母に小さく告げる。


「ここにいてください。ハルはおれが助けます」


 羽流の母は、こくりと頷く。昂大はコンテナの影から飛び出すと、サングラスを捨て、怯んでいる男たちをなぎ倒す。

 佳彦はプライベートジェットの傍まで来ると、乗船していた部下を呼び、自身を中に入れるように迫った。


「そうはさせない」


 美樹はライフルバックの中に入れていた最終兵器、ロケットランチャーを構える。

 光と音で悶絶していたゴロツキたちは、美樹の行動を止められない。狙いを定め、トリガーを引くとロケットが発射される。


「なっ!」


 激しい爆発音と共に、プライベートジェットが炎上する。

 逃げ場を失った佳彦は、真っ青な顔で背後から迫る昂大を見る。


 佳彦は冷静に羽流の頭に銃口を当て、昂大を制止する。


「もう諦めろ」

「諦める? 何を?」


 佳彦は汗を流しながらも、ニヤリと笑う。


「僕の手には財宝の鍵と、ハルがいるんだ。何を諦めろと言うのかな」

「……」


 昂大は一歩ずつ、近づきながら佳彦を睨みつける。


「わからないのか!? それ以上近づくと……」

「撃つのか」


 昂大は視線を佳彦から羽流へ移す。羽流は何かを懇願するように、昂大を見つめ返した。


「ハル。今助ける」

「ご、ごめんなさい。ハルが、ハルが、鍵を渡しちゃったから……」


 こんな状況でもなお、涙を流しながら謝る羽流を見て、昂大は心が熱くなるのを感じた。


「お前のせいじゃない」


 昂大は、精一杯羽流を安心させようと、口角を上げた。

 それを見た羽流は、恐怖を押し殺し、にーっと精一杯笑い返す。


「何笑っているんだこのゴミが!」


 二人のやり取りに、佳彦は激昂する。

 銃を振り上げ、羽流の頭を殴ろうした時――――――。


「ぐあっ!」


 佳彦の銃が弾け飛ぶ。

 美樹がコンテナの上から、愛銃のレミントンで狙撃していた。


 その隙を、昂大は逃さない。

 銃を撃たれた衝撃で体勢を崩した佳彦に、昂大は飛び膝蹴りを食らわせる。


「がぁ……くそぉ……」


 佳彦は吹っ飛び、コンテナに打ち付けられる。


 昂大は羽流を抱きかかえ、素早く距離を取ると、優しく地面に下ろした。


「大丈夫だったか。怪我は?」

「うん。だいじょーぶ」


 昂大は羽流の頭を優しく撫でる。


「お前は本当によく頑張ったよ」


 羽流はその言葉に、昂大に抱き着いて泣き叫んだ。


 美樹は急いで佳彦の元へ走り、銃を突き付ける。

 佳彦の顔面は、昂大の飛び蹴りでぐちゃぐちゃになっており、鼻と歯が折れて出血しているなど、無残な顔になっていた。


「貴方の負け。さあ、部下たちに降伏を宣言しなさい」

「く、クソがぁ……」


 美樹は佳彦を無理やり立たせ、部下たちの前に引き摺っていく。


「皆さんのボスはこの通り、情けないお顔になっちゃいましたー。この結果に納得いかない、義理人情の厚い連中は、いくらでも相手になるけど……どうする?」


 その様子を見た動ける部下たちは、皆一斉に散っていく。

 すぐに閑散となったコンテナ街は、佳彦をさらに惨めにした。


「なん、でぇ……」

「何人いても烏合の衆。貴方に勝ち目なんてなーいの」


 独りになった佳彦は、もはや脅威でも何でもない。

 殺す価値もないちっぽけな男の顔に、美樹はもう一度だけ蹴りを入れた。


「ハルちゃん。無事でよかった」

「みぎおぜえさぁぁぁん……」


 羽流は美樹にも抱き着くと、わんさか泣き喚いた。

 昂大は肩の力を抜くと、羽流の母を連れてくる。


「ハル……本当に」


 羽流の母は、顔色が優れない様子だったが、羽流の無事に涙を流した。

 そして親子は強く抱きしめ合う。


「ごめんね……ごめんね……無茶させたね」

「ううん、無事で、無事で本当によがっだよぉぉぉ」


 そんな様子に、昂大と美樹は肩の荷を下ろす。

 昂大は佳彦の持っていた金庫の鍵を、羽流に手渡した。


「これはお前のもんだ。これで、母さんを治してやれよ」

「うん……!」

「それならとりあえず、お母さんを病院に運びましょっか」


 美樹は車のキーを指でくるりと回し、停めてあった車を回してくる。

 羽流の母を後部座席に乗せると、美樹は昂大に手を振った。


「行ってきて。金庫の場所はわかるでしょ」

「えっ。でも、いいのか?」

「一刻も早く手術しないと、でしょ? だったら、貴方が最後までハルちゃんを護衛しなさい」


 そう言うと、美樹はそのまま走り去っていった。

 昂大は羽流と顔を合わせる。


「それでいいか、ハル」

「うん……!」


 赤く腫れた目で、再びにーっと笑った羽流は、昂大の手を握った。


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