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蒼境の子羊《メシア》たち  作者: くろ飛行機
1章 株式会社吉凶へようこそ
11/14

9 羽流解放戦線 takes place at night in the harbor その1

 ――――――頭が痛い。

 羽流は佳彦に攫われてから、睡眠薬で眠らされていた。

 意識を取り戻すとそこには、夜の闇が広がっている。


「あれぇ……」


 遠くから船の音が聞こえ、冷たい夜風が羽流の頬を撫でる。仄かに香る潮の匂いと、遠くに見える夜の街明かりに目を凝らした。

 どうやらここは、港のような場所らしい。


「お早う、ハルちゃん」


 羽流の傍で、佳彦が足を組んで座っていた。

 羽流は椅子に縛り付けられ、身動きが取れない。


「ど、どこ? お母さんは!?」

「心配しなくても大丈夫だよ」


 佳彦は不敵に笑い、指を鳴らす。すると、佳彦の背後に車椅子に乗せられた女性が連れて来られた。顔面蒼白で生気がなく、浅い呼吸を繰り返している。


「お母さん!!」


 羽流の呼びかけに、女性は僅かに顔を向けた。


「……ハル」

「お母さん! ハル……ハル……!」

「親子の感動の再会。しっかりと味わっておきなよ」


 佳彦はにっこりと笑い、部下の一人を呼びつける。部下の手にはアンティーク調の手提げ金庫が握られており、それを佳彦に手渡した。


「まったく、先代には驚かされたよ。まさか本当の鍵は、羽流ちゃんの網膜認証(・・・・)でしか開かないようになっているなんてね」


 羽流は拘束を解こうと暴れるが、びくともしない。そんな羽流の前に、佳彦は金庫を持ってくる。それを見た羽流の母は、掠れた声を上げる。


「やめて佳彦君……何度も言ったでしょ。それは、父がハルのために残したものなの……」

「だからなに?」


 佳彦は冷たい表情で羽流を見つめる。その表情は普段の温和な雰囲気とはかけ離れたものであり、羽流を心の底から軽蔑するように眺めていた。


「財産を得る権利は、僕にもあるはずですね、義姉(おねえ)さん?」

「何を言ってるの……父は遠江グループの経営権を貴方に渡した。だからせめて、財産の少しをハルに残そうとしただけじゃない」


 ハルの母の説得もむなしく、佳彦はハルの瞳を無理やり開けようとする。


「いいですか。この世の中は、力の強い者だけが全てを手にするんです」


 佳彦は機械のような挙動でハルの網膜をスキャンし、無理やり金庫を開いた。

 中に入っていたのは、本物の(・・・)〈OOEYAMA〉の金庫番号と鍵だった。


「僕は強者だ。お前たち弱者とは違う。わかりますか?」


 佳彦は、羽流の母を鬼の形相で睨みつけると、淡々と早口で言い放つ。


「僕は人並み外れた美貌を持って生まれた。姿、振る舞いで人を魅了し、声で人を操る。人間は等しく、見た目に踊らされるのです。僕はその才能で、望むものをすべて手に入れてきた。親を操り、教師を虜にし、資産家に取り入って金を奪い、コネを使って社会の中枢に潜り込んだ。そして僕は、遠江家という巨大な器を手に入れたのです」


 佳彦は用のなくなった羽流を突き飛ばすと、鍵を握りしめた。


「私は、この才能ですべてを手に入れるまで止まらない。貴方たちは、私の養分でしかない。小さくて、惨めで、何よりも醜い(・・)。努力もせず、ただ遠江家に生まれただけで、莫大な財産を手に入れるなど愚かしい!」


 佳彦は、羽流の腹部を蹴り上げる。


「がはっ……」

「ハル……! やめて佳彦君。暴力なら私に……」

「嫌い。なん。です。よ。キラキラした目をした子供(ガキ)が!!」


 ――――――痛い。

 何度も踏みつけられ、激しい痛みが意識を支配する。

 だがハルは、痛みよりも悔しさでいっぱいになった。

 苦しんでいる母の叫びは、この男には届かない。

 自分はどうなったっていい。けれども、母だけは、母の病気だけは治したかった。


「佳彦様。船が来ました」


 部下の声を聞き、佳彦の虚ろな目が光を取り戻す。


「……行こう。この二人は海に沈めて置け」

「承知いたしました」


 それはあまりにも乾いた殺害宣言だった。佳彦は再び笑みを張りつけ、羽流を優しく撫でる。


「ハルちゃん。大好きなお母さんと一緒に、海の底に行こうか」

「うっ……うっ……」


 ハルは恐怖で何も言い返せなかった。

 怖くて、悔しくて、涙が止まらない。


「じゃあね。ハルちゃん」


 ハルの体が、持ち上げられる。


 ――――――もしも。かみさまがいるのなら。


 ハルは心の奥で願う。


 ――――――どうか、お母さんだけでも、助けてください。


 その時だった。


「羽流!!!」


 その場にいた全員が、声のした方へ顔を向ける。


 ――――――コンテナの上に立つ、スーツ姿の美女と、パーカ―の少年。


 美女は背負っていたライフルバックを下ろし、夜明かりに向かってサングラスを投げ捨てると、銀色の銃身を構える。


「ほんと、最低だわ」


 涙で顔がぐしゃぐしゃになった羽流の様子を見た昂大は、静かに怒りを噛みしめる。


「お前ら……羽流を泣かせたんだ。覚悟は、できてんだろうな」


 夜そのものを背負うような、ただならぬ気配を纏った二人に、佳彦は目を細める。

 昂大と美樹は、コンテナから地面に降り立つと、臨戦態勢に入る。


吉凶(ウチら)の可愛い依頼者に手ェ出したこと、骨の髄まで後悔させてあげる」

「……おう!!」


 佳彦は、部下たちに突撃の指示を与える。

 夜の港で、戦いの火ぶたが切って落とされた――――――。


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