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アンズの小鉢料理帖~時々、定食屋常連観察日記  作者: 皆見アリー


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エピローグ2

そもそも祝賀会に若夫婦で出席することになったのは年末のことだった。

父親が腰を抑えて「痛い、痛い」と騒ぎ、医者に診てもらったところ棚卸で腰でもひねったであろうと。

無理をしなければ1か月もしないうちに痛みもなくなるだろうと、ただし年齢を考えても無理は禁物という話だった。

そこから、「新年の祝賀会に出るのは無理だ」と父親が言い出して、満面の笑みをコウに見せたのであった。


「コウ、お前が陛下に拝謁しておいで」

とんでもないことを言われて、コウは固まった。

息ができないほど固まった。

父も母も妻も世話役の爺やも番頭も視線をコウに投げかける。

「嬉しくて言葉も出ないようだね、よし、決定だ」

「無理です…!」

動かない口を無理やり動かした結果、かすれてしまった。


「御用達10年後の祝賀会での拝謁だ。滅多なことではお会いできない方だから、お前もいい年なのだし、行っておいで」

「次…次行きます」

このままでは押し付けられると必死でコウは抵抗する。

父は目を丸くして、感心している。

「お前、ずいぶんと豪気なことを言うね。次拝謁できるのはさらに10年御用達を続けたあとだよ」

「さらに10年…御用達…?」

「そう。あと10年御用達を続ける自信があるんだねえ、お前」

声がかすれてしまっているコウに対して父は「感心、感心」と呟く。

目だけがニヤッと細まり、コウの喉がひゅっと鳴った。


「跡取り息子がいつのまにやらちゃんと自覚していますね、良かったわ」

「立派になって、坊ちゃん…」

「爺もお世話しただけありました…長生きはするもんですな」

母も番頭も世話役の爺やまで一緒になってコウを「立派な跡取り息子」と持ち上げる。

世話役は本当か演技か涙に目を潤ませている。


「いや…あの、そう言う意味じゃなくて!」

「お前ね、何もしないで御用達をあと10年続けられるって思っているわけじゃないだろう?御用達には通常の監査とは別に2年ごとに監査が入る。次、10年後に謁見に行くつもりなら今年の監査はお前に仕切ってもらおう」

さらにとんでもない話にコウは首を左右にブンブンと振る。

ここで監査を押し付けられようものなら、コウの役目になる未来しか見えない。

母も番頭も爺やも感動のあまり涙を拭く演技をしている。


「2年ごとの監査で御用達でなくなる家って言うのも結構あるからね。10年前一緒に謁見を受けた、油問屋、酒問屋、菓子問屋はそのあとすぐ交代してしまったからね」

あまり嬉しくない聞きたくない情報にコウはごくりと喉を鳴らした。

「何が理由で…?」

「前の番頭が引退したあと新しい番頭の目下の者への虐待、不仲な取引先への不払い、ああ、そこの若旦那が良かれと思って役人を接待しようとした、ってのもあったよ」

コウは息をのむ。

虐待も不払いも役人の接待だってコウは考えないが、何が原因で長い御用達の立場を失うかもしれないと思えば足も手も震えてくる。


「いやあ、御曹司の放蕩が監査項目に入ってなくてよかったよ。そうなってたら、うちはとうの昔に御用達はく奪されていたからね」

父の言葉に母も爺やも番頭もうんうんと頷く。

放蕩などどこの若旦那でもしていることだが、放蕩を引き合いに出されてしまえばコウは返す言葉もない。

監査と皇帝との拝謁、どちらかを選べと言われても、こんな神経をすり減らすような二択は生涯起こらないでほしい。


「では、立派な跡取り息子の今年初の仕事で陛下に拝謁してきてもらおう。何のことはない。新年の祝賀を聞いて、お姿を見て、お言葉をもらうだけだ。終われば新年のお菓子がもらえるから、ちゃんと持っておいで。10年の節目は豪華なんだよねぇ」

「だけって…十分、大事ですよ、それ!」

コウは叫ぶ。

一介の市民にとって皇帝など雲のはるか上の人だ。

そんな人との謁見なんて、何か粗相でもしたら…と考えて震えが収まらなくなる。

そんなコウを見て、両親も番頭も世話役も呆れた表情だ。


「アンズさん、身重のところ悪いけど、当日体調が良ければ、付き添ってあげてくれないか?」

「私がですか?」

「そう、御用達20年目はうちだけだから、陛下から直接お言葉をたまわるだろうから」

そんな父の言葉に半泣きのコウが目を潤ませてアンズに訴える。

アンズは目をぱちくりと瞬かせる。

義父はアンズの父シュレンが皇帝であることを気づいていると父シュレンから手紙を結婚後すぐにもらっている。

同じ手紙には「新年の祝賀には若夫婦を謁見させるつもりでいるらしい」とも書いてあった。

宮廷にいる父ちゃん…どんな姿でどんな顔をしているのだろう。

「はい」

アンズは快諾した。

隣の夫はアンズが付き添いで来ることに安堵したものの皇帝陛下との謁見を想像して赤くなったり青くなったりで忙しい。


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