育む蝕み
いらっしゃいませ。
最近地震やら台風やら色々大変ですね。
平穏無事を願っております。
「我々の干渉によって齎される知的生命体以外の生命体の実害と今後起こり得る損害について、運命の神に問いたい」
空白の空間が延々と拡張を続けている。
「地形及び水質の変化などによる実害が一つ。土地固有の動植物の消失が一つ。知的生命体の慣習の変化による二次災害を予見する」
運命の神の降臨は時間軸を歪める。
延々と拡張していた空間は停止した。
「であれば、それは我々にどのような問題が生ずるか」
神々はそれぞれに予想を立てる。
ある神は「問題なし」と考え、ある神は「知的生命体の増減に寄与し我々に対する信仰心が危ぶまれる」と考える。
「単純明快なこと。土地神が不機嫌になる」
それは神々にとっては留意すべき事柄である。
神と知的生命体の戦争に興じようと画策する神々にとっては無視できない事柄であった。
「不浄なる神々の面々にしてみれば、土地神が厄介でしょうが仕方のない。知的生命体同士の戦争も同様にして厄介。
神の存在を疑う愚鈍な知的生命体を袋叩きにするには必要不可欠なこと。土地神も黙認してくださるでしょうね。」
浮上なる神々にとっては信仰されないことが最も存在安定する条件である。戦争によって過激派が信仰を開始する危険を犯してでも戦争をすべしである。
ーーー
「我々は神々を冒涜しすぎている!」
大通りで叫ぶ老人。今のご時世、神を信ずる若者は減少し続けている。宗教廃止論者が世間の論調を掌握した現在、真摯な信徒も身を潜めている。教会は過激派によって放火され、それに便乗したカルト教団が宗教施設を率先して破壊して回っている。
名ばかりの神を騙り、私利私欲を貪るだけの低俗な連中こそがカルト教団であり、本来の過激派の滅殺対象である。
カルト教団は遂に、神の否定を叫んで回る。
神より賜ったとされる経典のその全てをも否定する。
倫理や道徳。神学の傍で発展した医学や哲学と論理。
戦争に用いられた数多の武具や技術。神の奇跡とされた農業技法とその他分野。宗教によって育まれた偉人の確かな存在も空想とされる。絵空事と扱われたことで確かに救われていた人々は静かに息を詰まらせる。その現実と現象は神の存在否定の影となって時代の流れに踏み荒らされている。
ーーー
例えば、頭痛が信託と崇められ、崇高に扱われていた事で気に悩むことのなかった世代とその文化が継承されなかった新世代。
神の存在否定によって無益な苦しみに喘ぐこととなる。
老人は叫ぶ。
「誰か!話を聞いてくれ!神学の否定によって教育的不幸を子供に強制している!神学を学ばなかった子供達の不幸な顔が!神の教えに従わなかった我々の罪が次の世代に呪いのように付き纏っている現実を!我々は宗教こそ、神学こそを学ばねば人道に背く事になるのだ!人類は未来永劫の果てに地獄に突き進む!天国を知らぬ子孫が、孫が、悲痛な顔で死んでいくのだ!」
人々は足を止めない。
ある人が歩く速度を緩めようにも、関心なき孤独の群れに呑まれて留まれない。不幸な者は不幸である事を知れない。
真に不幸な者は不幸とは何たるかを知る機会にも恵まれない。
不幸と自らを嘆く幸福を知ることができない。
神学は幸福を学び、不幸に向き合う術を教え、苦痛を試練と耐え抜く技術を受け継いでいくモノである。その否定で幸福になる者などは、神学を学び得なかった存在であって、それも一過性のモノに過ぎない。時が経てば皆等しく不幸に喘ぐこととなる。
「神を崇めなさい!」
心からの叫びは心の開き方を知らない人々には届かない。
お疲れ様でした。
ゆっくりお休みになってください。




