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風が凪いでいる、と思ってから、違うと気付いた。風は、ある。雲が流れている。眼下で砂埃が待っている。草が飛んでいる。
もっと、ちゃんと感じなきゃ。ここに空気があること。世界が在ること。私が在ること。私を成している力を。感覚を。熱を。
お腹に、熱が集まった。
血が、身体を駆け巡っている。
暴れて、吹き出しそうだ。
筋肉を絞って、血を鎮める。
血の勢いを、指先に持って行く。
空気に触れて、熱を動かす。
気がザアっと動く。
熱が動いて、背中が冷えた。
膨れ上がる空気が天空に走る。
もっとだ、もっと。
走れ。激しく。摩擦を起こして。
ぶつかれ。
暗雲が集まる。
電子たちが騒いでる。
ケンカしてる。
火花が散っている。
放電している。
段々と大きくなる。
太く、強く、速く。
電気を束ねる。
光れ。育て。
大きく。
咆えろ。
啼け!
落とす!
その瞬間。
さっきの、おじさんたちが思い出された。
ドン!! と、家屋が爆ぜた。
しまった、はずした!
次いで、空気が急に冷えて、水滴になった。落ちだす。雨と一緒に落ちそうになって、踏ん張った。駄目だ、身体から力が抜けた。かなり雲を集めちゃったから、しばらくは止まないだろう。
さっきの建物を狙ったのに……でも家屋は破損できたから、しばらくは、きっと修復に時間がかかる。中のおじさんたちは……生きてるかな。多分。あの角度じゃ。殺したかった訳じゃない。
キヒリの気配は、消えた。
雷を予想して逃げたんだろう。
消滅したとは思えない。
多分。
……良かった。
もし、まだキヒリがここにいて戦うとなったら、今度こそ負けただろう。私のヒットポイントは、もうゼロです。
とか言ってないで、もう一仕事しないとな。
私は、キヒリは逃げたのに違いないと思った瞬間に感じた安堵を、心の隅に追いやった。いなくて良かったと思ったのじゃない、死んでないのに違いないと思って感じた安堵なんて、絶対間違ってるし。
息を整える。
ゆっくりと、身体を下げる。
私はもう一度、先ほどの室内に入った。
建屋はぐしゃぐしゃになったが、中の人も室内も、思ったよりは綺麗だ。とはいえ壁は崩れ落ちてるし雨もひどいし、室内にいたオジさんたちも、落雷で崩れた家屋の餌食になって泥だらけ血だらけになっているのだが。
でも生きている。
ちょっと、ホッとした。
私がやろうとしてたことも、ヒタオを殺したキヒリと、変わりない。しかも私のほうが無差別殺人じゃんね、これ?
ナコクを潰すってことは、そこに住む人たちを殺すことに、他ならない。例え、この時に死んでなくても、この先、生き残れるか分からない。住処を奪うこと、クニを追うことってのは、その人から生きることを奪うことだ。
逆に私は、必要とあれば、そうしてでも自分のクニの人たちを守らなきゃいけないってことじゃないか。って今さら、気が付いた。
生かさなきゃ、生きてくのを支えてあげなきゃ死んじゃう人たちが、この世界にはいる。みんな仲良しこよしで、誰もが誰もを尊重して譲り合っても生きられるほど、この世界は裕福じゃないんだ。
雨ひとつ降らないだけで、何百人、何千人と死んじゃう世界だ。
身体に力を込めてみる。
見えるかな。見せられるかな。
キヒリの姿を見ていたら、なんかちょっと要領が分かった気がしたんだけど……。
「あっ」
「うわっ!」
「うわああぁ!」
と、さっきまで激怒してたおじさんたちが、私を見上げて驚き、逃げようとしていた。見えたようだ。
どんな姿で見えてるんだろう。できるなら……と思って、日神子の格好をイメージしながら、力を込めてみたんだけど……元の私が見えてるんじゃ、あんまり迫力なさそうだから嫌だなぁ。
ゆっくりと手を広げて、大きく口を開ける。
喋りますよというジェスチャーに、皆が固まって私を見上げている。
『わが名は、日神子』
はっきりと、口を動かして、念を送った。
聴こえたかな。
「ひみこ……」
って呟いてる人がいる。良かった、聴こえたらしいわ。
『ヤマタイの女王である』
ひとつひとつ、ゆっくりと区切って話す。
『主らが差し向けた使者は、刺客であった。妾を屠ろうとしたがため、首をはねた』
「なんと……」
「しっ」
「国王様!」
一番偉い感じの人が呟いたのを、他の方々が口止めなさる図。なるほどね。
私はその人の目の前にまで、身体を下ろした。
『二度はない』
次はクニごと全滅させるよ? という迫力を込めたつもりなんだけど、伝わったかなぁ?




