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ダッシュ!!  作者: 浮雲士
三部
204/204

準々決勝、日本対アルゼンチン(8)





(勝っった!!)


 爆破したかのように喜ぶ仲間たちとともに喜びながら、ミカエルは心中で勝利を確信する。

 日本はPKを二回連続で外し、自分たちは2本決めている。今の状況はまさにアルゼンチンの理想と言うべきものだ。

 勝利を確信するには早いと思われるかもしれないが、残るキッカーはティト、ディエゴ、アルフレッド。この三人で勝利しないはずがない。


(無理をして最後まで走った甲斐があった……!)


 そう思いながらミカエルは痛みが増した右足を見る。

 試合前からかすかに痛みがあった足。今では一定のリズムを刻むような痛みがある。こうなったのは後半の同点弾の時、ピッチに軸足である右足を叩きつけるように踏んでからだ。

 準々決勝に来るチームで、無傷なところなど存在しない。対戦している日本も前エースであるオノが怪我で欠場しているのだから。 

 PKの時にパネンカをしたのは痛みのある軸足では普通のキックが蹴れないと判断したからだ。また延長後半の日本のノーゴールの原因となったミカエルの倒れた理由もナカガミとの体のぶつけ合い以上に、右足の痛みでミカエルが自然にバランスを崩したからだ。 

 だからボールがゴールネットに突き刺さったとき、ミカエルは青ざめた。もっとも接触で倒れたと判断した主審とVARに助けられたが。


(日本の三人目のキッカーはイワナガか……)


 絶体絶命な状況なのに厳めしい顔をしてアマデオを睨みつけているイワナガ。

 ミカエルは彼が嫌いだ。その理由は今日の試合、散々彼に邪魔されたからだ。

 今日の日本の守備はフジナカ、タカノが中核になっているが、イワナガの貢献度はその二人に次ぐ。

 フィジカル──頑強な体と豊富なスタミナ、そしてミカエルの母国であるアルゼンチンリーグで鍛えられた南米選手たちへの対応。今日の試合、それが非常に有効に効いていた。

 後半や延長戦で優勢だった時も、文字通り彼は体を張ってこちらの邪魔をしてくれたのだ。ある意味、フジナカたち以上に厄介で鬱陶しかった。悪化した足の痛みの何割かは間違いなく彼にある。


(だがあれぐらいのしぶとさと気質が無ければボカでレギュラーを張れるはずもないか……)


 今日の試合で見た、ファウルと紙一重の強く激しい動き。それはもはや日本人のサッカーではなくアルゼンチン人のサッカーと言ってもいい。あの動きは欧州のクラブではあまり見られないものだ。

 主審の笛が鳴り、イワナガは鼻息荒くボールに駆け寄る。

 放たれたシュートは右に飛ぶ。そしてアマデオもそれに反応しており左手を伸ばす。

 だがあと数センチ届かず、ボールはゴールネットに突き刺さった。


「よっしゃああああっっ!! 見たかぁ!」


 ガッツポーズをして絶叫し、こちらに勝ち誇った笑みを向けるイワナガ。こういう挑発的な行動も日本人らしからぬものだ。

 彼が一時、鷲介たちにもみくちゃにされた後、アルゼンチンの三人目であるティトがボールをセットする。

 ティトの表情は落ち着いており、主審の笛が鳴った直後、迷いなくボールに接近。右足を振るう。

 ゴール左、正確に枠内に飛んだボール。並のGKなら反応できても防げないだろう。

 だがどうしたことか、ヒョウドウはの伸ばした右手はボールをゴールの外へ弾いた。


「どうだぁ!!」


 ミカエルにはわからない言葉──おそらく日本語──を口にして高らかに叫ぶヒョウドウ。なぜか彼は険しい視線を駆け寄ってくる仲間たちに向けている。


「やるじゃねーか日本も。ま、一本ぐらいは問題ない。──俺とアルフレッドが控えているんだからな」


 ティトを慰め、圧倒的強者のようなセリフを口にしながらも頬を引くつかせているディエゴ。

 僅かに希望が芽生えた日本の四人目は想定した通りナカガミだ。彼は主審の笛が鳴るやすぐにボールに近づき、効き足である左足を振るった。


「!!」

「あのガキ!」

「やってくれるな」


 ナカガミの蹴ったボールは右に飛んだアマデオを嘲笑うかのように、ゆっくりとアルゼンチンゴールを揺らした。しかしミカエルが大きく目を見開き、ディエゴが唸り、アルフレッドが顔をしかめたのはそれが理由ではない。

 彼が決めたPKのキック、それはミカエルがやったパネンカだったからだ。

 彼は仲間たちと共に追いついたことを喜んだあと、こちらを横目で見て、微笑む。──意趣返しというような、勝ち誇った笑みを。

 

「さすがにここまで俺たちに食い下がっただけはある。だがこれで終わりだ」


 逆襲に息を吹き返した日本サポータの大声援を聞きながら、怒りの笑みを浮かべずんずんとした足取りでペナルティスポットに向かうディエゴ。

 ミカエルは冷静さを欠いてないかと思ったが、ボールをセットシカを上げた彼の表情は先程とは別人のように冷めていた。これなら問題ない。

 主審の笛が鳴った後、一呼吸する時間を置いてディエゴは左足を振るう。

 早さ、威力共に申し分ないボールがゴール左上に飛ぶ。ヒョウドウの伸ばした右手も届かない。


(決まった!!)


 ミカエルがそう思うと同時、ボールはゴールに突き刺さる──のではなくゴールポスト内側に当たりバウンド、ゴール外へはじき出された。

 確実にゴールするための狙いすましたシュート。しかし狙い過ぎたために起きたシュートミスだ。


「な……」


 結果的とはいえ日本連続のゴール死守に喜ぶ日本代表とサポーターの声を聞きながらミカエルはもちろん、そばにいる仲間たち全員は唖然とする。 


「ま、キッカーは五人いるんだ。せっかくなら全員蹴らせないとな」


 戻ってきたディエゴは少しも悪びれず言う。

 その態度にさすがにミカエルはかっとなる。が、それより先に立ち上がった最後のキッカーであるアルフレッドがディエゴを肩に手を置き、言う。


「ああ、まかせろ。俺のシュートが試合を決める」


 皆を見渡し、力強く宣言するアルフレッド。

 アルゼンチンのエースストライカーの堂々とした力強い宣言に、怒っていた仲間たちは怒りを引っ込める。


「さてと、五人目だ。日本の最後のキッカーはやはり彼か」


 隣にいるペドロの言葉にミカエルは思わず眉間に皺をよせる。

 日本の五人目、鷲介はアルゼンチンサポーターのブーイングに全く表情を動かすことなく、ボールを手にしてゆっくりとペナルティスポットに向かっていた。











 スタジアム中にいるアルゼンチンサポーターから聞こえるブーイング。

 鷲介はうるさいと思いながら手にしたボールをペナルティスポットにセットし、ゆっくりと離れる。


(さて、どちらを狙うか)


 5人目のPKキッカーに決まったことを知ったとき、鷲介は心中で呻いた。二、三番目辺りがよかったと。

 鷲介がプロになってからPKをほとんど蹴ったことがほとんどない。正直片手の指で数えるぐらいの回数だ。

 それはRバイエルンでのPKキッカーはジークと決まっているし、彼がいない場合はフランツやエリックなどが代役を務めるからだ。

 PKとは縁が薄い鷲介だが、万が一蹴ることに備えて、時々の居残り練にてPKの練習はしている。

 とはいえこのような大舞台でのPK経験は皆無だ。はっきり言って、緊張している。


(いつも通り右上か左上を狙うか。それとも意表をついて別のコースにするか。

 いや相手は俺がPKを蹴ること自体少ないことは知っているだろうし、あまり意表を突く意味はない。

 でも、だが──)


 脳内で悩みながら鷲介は足を止めて振り返る。

 ゴール前にいるアマデオはまばたきを全くしない落ち着き払った鷲介だけを見つめている。 

 PK戦で圧倒的優勢から一気にイーブンになった場合、GKへかかる重圧は普段よりもずっと増す。中にはプレッシャーで本来の動きもできなくなるという。

 しかしごく一部のGKはそんな状況の変化が起きた場合、逆に集中力が上がる選手もいるという。どうやらアマデオはそんなGKの一人のようだ。


(──決めた。いつも通りに蹴る)


 彼の顔を見る直前、鷲介は久司やミカエルと同じパネンカをやろうかと思っていた。タダでさえトリッキーなキック。しかもそれが連続なら確実に相手の意表を突けるだろうと。

 だが集中が極まったアマデオを見て、やめた。今の彼にパネンカを始めトリッキーな真似をすれば確実に見破られると確信したからだ。

 主審の笛の音が鳴る。鷲介は一、二秒ほどボールを見つめ、蹴る場所を決めてボールに駆け寄る。


(いつも通り、蹴る!)


 心中で言うのと同時、右足を振るう。蹴ったボールは心中で呟いたとおり、いつも通りのシュートとなってゴール右上に向かう。

 そしてそれに見事反応しているアマデオ。左に飛んだ彼が伸ばした左腕はまっすぐ伸びており、グローブも大きく広がっている。

 横っ飛び理想と言うべきアマデオの動き。鷲介が蹴ったボールはそんな彼が伸ばした左手の真横を通り抜け、狙い通りのゴール右上に突き刺さった。 


「よっっっし!!」


 ゴールが決まったのを見て鷲介は大きくガッツポーズ。後ろにいた仲間たちも雪崩のように駆け寄ってきては鷲介を囲み、初めてのリードに喜ぶ。


「よくやった!」

「さすがは日本のエース!」

「”黒鷲”!」

「”サムライソード”!!」


 鷲介は今までで一番もみくちゃにされ、その激しさも文句も口から出ない。


「さて、あとは兵藤がゴールを守るだけだが」

「キッカーはアルフレッドだけど、何とかなるだろ!」


 何故かがははと笑って岩永が言う。そしてそれが聞こえたのか、ゴールに向かっていた兵藤が振り向き、こちらに──というよりも岩永に冷たい眼差しを向ける。

 睨まれた岩永は小さく息を吐き、不敵に笑う。さっさと決着をつけてこいと言うような表情だ。

 この二人、なんだか先程からいきなりこんな様子だ。アルゼンチンの二本目が決まった後、岩永が戻ってきた兵藤に誰よりも速く駆け寄り、励ますように何かを言っていたが。

 あの様子を見るに、もしかしたら慰めや励ましの言葉ではなく、兵藤を奮起させる刺激的なことを言ったのかもしれない。

 一体二人の間に何かあったのかと鷲介は思うが、その思考はペナルティスポットに向かっているアルフレッドを見て中断する。

 アルゼンチンの五人目であるアルフレッド。アルゼンチンが誇る世界最高峰のストライカーは堂々とした、余裕さえ感じる様子でゴール前に歩いていく。

 

「アルフレッド! アルフレッド!」

「”赤獅子”! ”赤獅子”!」


 アルゼンチンサポーターが発するゴールを、勝利を願う大声援。それを全身に浴び、アルフレッドは獣の王者である獅子の顔になってゴールを見据える。

 そして相対する兵藤は落ち着いた、しかし勝利への熱を感じさせる表情で相対している。あの集中ぐあい、もしかしたら先程のアマデオに近いものかもしれない。


(どうなる……?)


 普通に考えればアルフレッドが外すの考えにくい。彼のシュートはジークと同じくパワーも精度も世界屈指なのだから。

 しかし兵藤もこの大会でテツと同じく急成長している一人。今日も幾度となく彼のシュートを見て止めていることを考慮すれば、PKを止める可能性は十分ある。

 主審の笛が鳴り、アルフレッドは一呼吸した後、ボールに向かって走り出す。

 ジークと同等と言ってもいい右足が鞭のようにしなり、振るわれた。

 ボールはゴール右上に飛ぶ。枠内だ。そして兵藤もそちらに動いている。伸びる兵藤の右手。アマデオと同じく目一杯伸びており手も広がっている。あれでは届かない。


「!」


 が、届かないと思っていた手は届き、ボールを弾く。横に逸れるボール。バー側面に当たりゴールの内側へ──


「止めろ!!」


 鷲介が叫ぶと同時、横っ飛びをして倒れていた兵藤は起き上がり右腕を伸ばしてボールを抑える。


「ボールは!?」

「ゴールは!?」


 日本代表、アルゼンチン代表の仲間たちが同時に叫ぶ。そして大型スクリーンにゴール内部が映し出される。

 兵藤の手はゴール内側にあった。そしてボールはゴールラインに、ぴったり、くっつくような形で、止まっていた。

 PK失敗。その言葉が鷲介の脳内に浮かぶと同時、仲間たちはピッチを震わせるような声──勝利の猛りを上げた。


「勝ったぁあぁぁぁぁっぁぁぁ!!」

「ベスト4だぁー!!」


 声を上げ、涙を流す仲間たち。鷲介も例にもれず傍にいる久司らと抱き合い、肩を組み、喜ぶ。


「勝ったぞおおぉぉ!!」

「勝ったぁぁぁぁ!!」


 馬鹿の一つ覚えのように同じ言葉を繰り返す鷲介たち。サブメンバーはもちろんスタッフや監督もピッチに雪崩れ込んできて、大いに喜ぶ。

 くたくたの体を酷使するかのような喜びを発散する日本代表。観客席にいるサポーター達も声を枯らすかのような声を発している。

 一時それが続いて落ち着いたとき、鷲介は周囲をぐるりと見渡す。当然視界に映るのは敗者となったアルゼンチンイレブンだった。












 勝利に沸く日本の傍らで、敗北したミカエル達アルゼンチン代表は失意の底にあった。

 無理もない。2本先行して上での大逆転負け。しかも絶対的エースであるディエゴとアルフレッドの二人が揃って外したのだ。

 二人の放った素晴らしいシュートが外れた結果、負けたというショックの大きさに、本来なら最後のアルフレッドのPKに幾人か主審に文句を言いに行くだろうに、誰も動かない。あるものはピッチに崩れ落ち、あるものは頭を抱え、またあるものは天を仰いでいる。

 崩れ落ちたペドロの横でミカエルはただ、茫然自失となっていた。しかしすぐに正気に戻り、敗北を受け入れる。


「負けたか……」


 アルフレッドのPKは一見ゴールしたように見るが、PKはボールが完全にゴールラインを超えていなければゴールとして認められない。

 ゴールラインにくっついたように見えるボールは、ゴールラインを超えたとみなされないのだ。

 またそれに念押しするかのように大型スクリーンにそのシーンが何度も繰り返しリプレイされ、またボールの中に入っている小型のセンサーもゴールインを認めていないと文字が映し出されている。

 当然最初アルゼンチンサポーターはこの判定に不服でありブーイングを発していたが、抗議に動かないミカエルたちを見て、自然と静まり返った。

 しかし彼らが、ミカエルたちが、負けを受け入れられた最大の理由はそれではなく、皆に向かってピッチに頭をこすりつけている10番の姿だ。


「すまねぇ……!」


 涙を堪えるような声でディエゴは皆に対し、ただ謝罪する。ホアキンたちが無理やり起こそうとするが、彼はそれを跳ねのけ謝罪を続ける。

 チームの要であり絶対的エースのでぃご。チーム一の自信家でもある彼が敗北を認め、皆に謝罪する姿。これこそがミカエルたちの異議を唱える気持ちを折ってしまった。

 またPKを外したアルフレッドもミカエルたちに「すまない」と謝罪した後、監督やサブメンバー、スタッフのところへ行き謝っていた。おそらくこの後サポーターの下へも行くのだろう。


「負けたか……」


 再びミカエルは呟く。心中には悔しさ、悲しさ以外の感情がいくつも生まれては交じり合っており、言葉では言い表せられないぐらいぐちゃぐちゃだ。

 そんな時、周囲を見渡すと、ふとこちらを見ている鷲介と目が合った。そしてミカエルは、彼の下へゆっくりと歩き始める。


「よう」

「ああ」

「お前たちの勝ちだな」

「そうだ。俺たちの勝ちだ」

「PK戦での勝利か。確か日本は今日、初めてPK戦でW杯初勝利を挙げたんじゃなかったか」

「……言われてみれば。確かにそうだったかもな。ま、挑戦し続けていれば不名誉な記録はいつか途絶えるものだし、新たな歴史も作られるものだ」


 ミカエルのささやかな嫌味──日本はPKに弱い──を聞くも、鷲介は微笑み同様にチクリとこちらを刺す。

 自分たちを破っての、初めてのW杯ベスト4。そう返されてはミカエルには何も言えない。

 軽く肩を竦めたのと同時、右足に痛みが走り、顔をしかめる。そしてそれを見た鷲介が言う。


「やっぱり足、痛めていたのか。動けるってことはそこまで重傷じゃなさそうだが」

「試合前からかすかだが痛みはあったが、十分動けたからな。十分リーグの開幕戦までは間に合うだろうさ」


 そう言ってミカエルは右足を掌で軽く叩く。実際今日試合でどれだけ悪化したかはわからない。歩けたりはするが精密検査をすれば想像を超えた重傷と判断されることは珍しくはない。

 とはいえそんなもしもの影をミカエルは見せない。それを見れば間違いなく鷲介は気にするだろうし、今負けた直後でそんな気遣いをされるのはミカエルのプライドが許さないからだ。


「これまでの借りを今日の試合で返すつもりだったのにな。また新たな借りができちまった。これは一体、いつ返せるのやら」

「来季のCLで戦う機会はあるだろ」

「俺個人とクラブはともかく代表戦の借りは別だ。──最低でもあと四年、待たなくちゃならないんだからな」


 時折新聞にてW杯で戦った国同士が親善試合や他大会でリベンジを果たしたと載ることがあるが、ミカエルからしたらとんでもないことだ。

 W杯での借りは、W杯でしか返せない。この胸に宿る無念や悔しさが晴れるのは、今後のW杯でアルゼンチンが日本を破ったときだろう。


「そうだな。──じゃあ俺たちは四年後のリベンジを楽しみにしていればいいわけだ。挑んで来いよ」

「当然だ。今度はPK戦なんてすっきりしない終わり方じゃなくて、しっかり90分で決着をつけてやるよ」


 不敵な笑みを浮かべる鷲介に、ミカエルもまた挑発的な笑みを返す。

 そして同時に苦笑し、ミカエルたちは何も言わず自分のユニフォームを脱いで互いに手渡す。


「それじゃあな」

「ああ」


 短い、しかし再会の望みを込めた別れの言葉を発し二人の”ゾディアック”は背を向ける。

 そしてミカエルは未だピッチに倒れているディエゴの下へ行き、足が軋むのにも構わず無理やり片腕を掴み、引っ張り上げた。


「ディエゴ、そろそろ立てよ。サポーターに挨拶に行こうぜ」

「ミカエル……」


 ディエゴは今年で29歳。次のW杯では33歳になっている。流石に全盛期である今よりは衰えるだろうし、日々、若い才能を輩出し続けている世界屈指の強国であるアルゼンチンでは、彼の代表入りも安泰ではない。また代表に入っても次のW杯のエースである自分のサブになる可能性は十分ある。

 それを知っているにもかかわらずミカエルは言った。


「この敗北は四年後、一緒に勝利することで拭おうぜ」


 涙と鼻水まみれだったディエゴは一度顔を伏せ、腕で拭う。

 そして顔を上げた彼は赤くなった目元など号泣した名残を残しつつも、いつもの傲然とした笑みを浮かべ「当然だ!」と言い放ち、いまだにピッチに座りこんでいる仲間たちの下へ大股で歩いて行った。

 先程まで号泣していたディエゴから檄を受けて、仲間たちもゆっくり動き出す。そしてサポーターの下へ行き挨拶を済ませて入場ゲートへ入っていく。


「お疲れ様ミカエル」

「ペドロさん──」


 唐突なペドロの行動に、ミカエルは目を丸くする。

 後ろにいた彼はこちらに声をかけた次の瞬間、ミカエルの頭を掴み、自分の胸元に引き寄せたのだ。


「ちょ、ちょっと」

「お疲れ様、ミカエル」


 再び同じ言葉がかけられる。だがそこには優しい彼がピッチで決して発しない、優しさと労わりが込められていた。

 子供の頃からの付き合いでありクラブ、代表ともにいた彼。そんな兄貴分の心からの労をねぎらう言葉を聞き、気付けばミカエルの両眼には熱い雫が滴っていた。


「っっぐぅ……」


 サッカーを始めたばかりの時、近所の子供たちに負けたときに泣いていた時のようにミカエルは泣く。

 そしてペドロもまた彼を慰めたときのように、優しく抱擁するのだった。











イタリアW杯 準々決勝 


第一試合 日本対アルゼンチン スコア 4-4(PK戦 3-2)


得点者    柳鷲介(日本 前半8分 アシスト 中神久司)

       アルフレッド・オマール・ケンペス(アルゼンチン 前半34分 アシスト ティト・アイマール)

       ティト・アイマール(アルゼンチン 前半44分 アシスト ミカエル・レオン)

       ミカエル・レオン(アルゼンチン 前半51分)

       鹿島勇司(日本 後半15分 アシスト 藤中鉄一)

       鹿島勇司(日本 後半27分)

       柳鷲介(日本 後半39分)

       ミカエル・レオン(アルゼンチン 後半48分)


PK戦 日本


一番目:堂本×

二番目:小清水×

三番目:岩永〇

四番目:久司〇

五番目:鷲介〇


後攻 アルゼンチン


一番目:ミカエル〇

二番目:ラモン〇

三番目:ティト×

四番目:ディエゴ×

五番目:アルフレッド×



マン・オブ・ザ・マッチ 柳鷲介



リーグ戦 24試合 18ゴール10アシスト

カップ戦 3試合 3ゴール4アシスト 

CL 10試合 18ゴール4アシスト

代表戦(三年目)2試合 3ゴール1アシスト




W杯 5試合 9ゴール5アシスト

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― 新着の感想 ―
 勝った〜〜〜〜〜〜!!!!あの展開からPK戦勝てたか。
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