進撃と転進
「全軍突撃せよ!」
「「「「「うお~!!!」」」」
俺の軍団が共和国軍に突撃を開始した。先頭を行くのは俺の嫁、今では魔王と呼ばれている赤薔薇騎士団だ。何時もの様に正面の敵を蹴散らして戦っている。そしてその後に続く機動兵士団、装甲馬車からバリスタを乱射して魔王が広げた戦線を更に破壊して広げてゆく。
そして今回の戦闘の目玉、俺が必死で造り上げた熱気球が空に舞う。相手が迎撃出来ない高度をもう一人の嫁マミ先輩率いる魔導師が地上に向けて攻撃魔法を乱射するのだ。王国でも珍しい魔道士を俺は金の力で大量に雇ってマミ先輩の騎士団、魔導騎士団を作っていたのだ。ただし数が足りないのが問題だった、必死に材料をかき集めて造った熱気球は10機、兵器は集中してこそ効果が上がるのだが大群同士の戦いでは効果がイマイチなのだ、但し相手に与えるインパクトは非常に大きかった。
「坊ちゃん、戦況は有利です」
「だよね、まだ敵の主力が集まってないからね」
「冷静ですね、坊ちゃん。全然嬉しそうじゃない所がかえって凄いですな」
「そりゃあそうだ、小競り合いでは勝てるけど敵の主力が出てきたら絶対に負けるからね。それに俺は共和国が欲しい訳でもないからね」
俺の部隊は連戦連勝。スマイル領から出撃した俺達の軍隊は共和国中央を目指して進軍中だ、2人の嫁と俺が集めたスマイル領主軍2万人は破竹の勢いで進んでいたが俺は極めて冷静だった。理由は簡単先頭に居る嫁率いる軍隊は極めて強いが数が2千人程、そして他の2万人程はハッキリ言って弱い、敵の数が増えて分が悪くなれば簡単に総崩れして逃げ出すのが目に見えて居るからだ。でもまあこの戦いでは勝てそうだ、敵が1万人程の領主軍だったからね。
「わっはっは、好調だなゴールド。我が軍は無敵では無いか」
「2週間で3つの都市を落としましたわ!上出来ですわね」
「そうだね」
嫁達は2週間で3つの領地の都市を落とした事でご機嫌だ。そして俺はドンドン弱気になって行くのだ。先に進めば進むほど危険が増してくるからだ。
「どうしたゴールド?元気が無いな」
「総大将なのですから元気を出して下さいな」
「そうだな、決戦の日は近い。決戦に備えなくてはな!」
実際問題として決戦の日は近い、俺達が共和国の中心部に近づいているからだ。そして決戦をすれば確実に俺達は負ける、単純に兵力が少ないから。時間が有れば俺達の情報戦やスマイル領領民の豊かな暮らしや安い税、優れた工業力等を共和国住民に知らせる事が出来るのだが、今は俺達は侵略軍なのだ共和国の住民からしたら俺達は敵なのだ、だから物凄い抵抗を受ける事は間違いない。
連戦連勝の俺達スマイル領軍はかなりダラけた感じで進軍していた。勝ちすぎて油断しているが俺は別段咎める様な事はしなかった。嫁2人も慢心しているが、これは仕方ない。嫁は2人とも優秀すぎて世の中が上手くいくのが当然だと思っているのだ。だが俺は普通の人間なので世の中は上手くいかない事を知っていた、それに悪い事が重なる事も知っている。
「そろそろ決戦の匂いがするな」
「ああ、間違いない」
ここ2~3日敵兵の姿を見ていない。つまり敵は何処かに兵力を集中しているって事だ。つまり今度会うときは敵は集結した大兵力って事だ、小競り合いを止めて決戦に力を貯めている状態なのだな。俺達は敵が待ち受けている所にノコノコ行っている間抜けな状態だ、これに気がついている者が何人いるのかな?気がついていても周りが浮かれているから言えない状態に陥っているのかな?
「偵察部隊から至急報!敵発見!」
先行して偵察している熱気球から報告がやって来た。予想通り敵が集結している様だ、報告によると敵の兵力は約20万。予想通りの大兵力だ、おそらく共和国の全力の動員数だろう。
「各部隊の隊長を呼べ!作戦会議を開く!」
「了解しました!」
「やっとやる気を出したかゴールド!待ってたぞ」
敵の主力部隊を見つけたので俺の出番だ、嫁に任せておいたら全滅してしまう。折角集めた俺の領民とスマイル領につぎ込んだ金と労力が無駄に成ってしまう、そんな勿体ない事は俺はしない俺は基本敵に貧乏性なのだ。
野営のテントに集まった隊長達は全員緊張していた。当たり前だな、敵が20万人も待ち構えているのだ、戦えば負けることは皆分かっているのだ。そんな中で俺はヘラヘラ笑っていた、余裕の表情が有るのは俺だけだ。
「どうした貴様ら!臆病風に吹かれたのか?」
「うむ、あれは流石に無理な気がする」
「10倍の数はチョット・・・・・・魔力が持ちませんわね」
「フハハハ~!情けない奴らめ!では俺が難易度の高い作戦を与えてやろう!」
「おお~!流石軍神!全く怯えていない!むしろ喜々としておる」
俺の自信満々の言葉に各指揮官達は感動した様な顔で俺を見ていた。まあ直ぐに驚くと思うけどな。
「で?どうするのだゴールド」
「勝つ戦いから負けない戦いに移行します。つまり戦いません!」
「「「「え~!!!!」」」
「でも敵は目前だぞ!」
「はいは~い!皆さん転進の準備を開始して下さい。撤退戦は難しいですよ~!」
会議に出ていた連中はいきなりの撤退命令に驚いていた。折角来たのに敵の目前で逃げ出す事に不満を持つ連中も多かった。
「文句のある人は勝手に突撃してください、馬鹿は要りません。それに撤退するよりも良い作戦が有るのなら言って下さいね」
「「「・・・・・・」」」
俺は文句の有りそうな連中にニッコリ笑って言ってやった。ソフトに言ったがハッキリ言えば文句が有るなら死ね!って事だ。司令官の命令に逆らう奴は要らないのだ。
「ふんふんふ~ん」
「楽しそうだなゴールド」
「うむ、戦いが無いのは気楽でいいな!」
「追撃が来たらどうしますの?」
「勿論迎撃する」
ご機嫌な俺に対して周りは微妙な顔をしていた。勝ち戦から逃走に移っているから当然なのだが、納得のいかない連中も多いだろう。だが完全な負け戦から逃れられてホットしている連中が多いことは俺には分かっていた、俺は小市民だから彼等の気持ちは良くわかるのだ。それに普通の撤退戦が難しいのは負けて逃げるからなのだ、俺達は負ける前から逃げているので余力は十分にある。それに追撃を掛けてくる騎兵なんかは空に浮かんでいる熱気球から直ぐに発見して迎撃出来るので全く驚異に成らないのだ、これが俺の自信の元だったのだ。
「何だお前ら元気がないぞ!スマイル領に転進なのだ!」
「転進じゃなくて敗走だよね」
「まあブッチャケ逃げてるわね」
騎兵による追撃を気球からの魔法攻撃で迎撃しながら俺達スマイル軍は共和国軍20万人をゾロゾロと引き連れて進んでいった。見方を変えれば転進では無く敗走している様に見えていたかも知れないが、ゴールドは頑なに転進と言い張っていた。
「スマイル領に帰ってどうするんだ?ゴールド」
「要塞都市で防衛でもしますの?」
「ハハハ、そんな事はしない。負けるからな!」
要塞都市に引き篭っても20万の兵士に囲まれたら負けるのだ、食料の供給を絶たれる事もなく力押しで負けるだろう。勿論俺は引き篭るつもり等ない、そもそも戦うつもりがないのだ。戦えば負けるからな、つまり戦わなければ負けない訳だ。
「戦わなければ負けないってのは屁理屈にしか聞こえないぞ」
「ははは、平気だ。任せとけって。最後に笑えば良いんだよ!」
逆境に慣れていないエリート出身の嫁達は青い顔をしていたが、逆境になれているゴールドは平気だった。むしろ逆境に成らないと本気を出さないのだ、これが才能の無い人間の強みって奴だ。プライドなんか無いから何でも有りなのだ。




