THE dETECTIVE M@STER
千春 ♂
真 ♀
和美 ♂
操 ♀
静香 ♀
鳴川の一件から、たった一日。
俺たちはいつものように喫茶桐壺に集まっていた。昨日は疲れたみたいなことを言っていたが、帰った後にしっかり調査を続けていたらしい。
「鳴川さんから電話で聞いて、色々と分かったよ。分からないことも増えたけど……」
議題は、謎の少女のこと。
直前まで鳴川のことに執着していたと言うのに、その一件があって以来、アイツはぷっつりと姿を見せなくなったという。ひかるは何かを感じて、興味の対象を鳴川からその少女にスライドさせたのだろう。
「基本は、昨日千春が教えてくれた通りだよ。草野球の練習中に、ファウルボールに驚いた通行人が転倒した。慌てて駆けつけ、怪我の処置を申し出たんだけど、彼女は無言で逃げるように立ち去ってしまった――と、概要はそれだけ。そこに間違いはない」
「だったら何が問題なんだよ」
「詳細だね。突っ込んで聞いてみると、色々新たな発見があった。まず、女の子の服装。『中学か高校の制服』って時点で望高のじゃないのは分かってたけど、聞いてみたらやっぱりそうだった。普通のセーラー服で、どこの学校か分からないってさ。あと気になったのは、その子、首にストールを巻いてたって言うんだよね。この暑いのにだよ?」
「そういうファッションなんだろう」
「いや、セーラー服にストールはない。真冬でもどうかと思うもん」
俺が適当に言った言葉を、真は一蹴する。そういうものだろうか。
「それと、彼女は書類みたいのを持ってたらしいんだよね。A4のコピー用紙を、三十枚くらい。転んだ拍子に散らばっちゃって、鳴川さんも拾うのを手伝ったらしいんだけど――その時、少し内容を見たんだって。それ、台本だったらしいのよ。役名と台詞、ト書きの文章が、横書きでズラッと書かれてたんだって」
「演劇部ってことか」
「分からない――けど、手がかりにはなると思う。今のところ、逃げた子の氏素性は何も分かってない訳だし」
演劇部、か。制服は望高のものではないという話だが、調べる価値はあるかもしれない。
「目撃証言に、演劇部どうこうってのがなかったっけ?」
珍しく真剣な声音で和美が聞く。
「ああ、そうだったね。まずはこっちを検証してみよっか。その日――七月二十七日前後の目撃証言は、この三つだね」
『7月28日午後2時頃 西校舎横の木によじ登っていた』
『7月28日夕方 演劇部の部室からつまみだされていた』
『7月下旬昼過ぎ 西校舎の昇降口で男子を襲っていた』
何度聞いても頭が痛くなる。
「アイツ、暑さで頭がおかしくなったんじゃないだろうな……」
そもそも、『襲う』って何だ。具体的に何をしたんだ。
「やっぱり、今回は演劇部がキーになるのかなあ」
和美も首を傾げている。
「多分ね。例の女の子が望高の生徒かは知らないけど、少なくともアイツは望高演劇部と接触してる。当たってみて損はないと思う」
指針は決まった。俺たちは飲み物の代金を払って外に出る。今日も陽射しが強い。真は黒の日傘を開き、前に出る。
「今日はバスで行こうか?」