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アルフォンスは薔薇園へと戻ってきた。

数種類の華やかな薔薇が咲き乱れ、庭園を彩る。


だがアルフォンスは花に全くと言っていいほど興味がない。強い香りに眉を顰める。


「侯爵様、ここにおられましたか。」

「…あぁ、シーゼ子爵か。どうした。」

「いえ、どうしたって…。突然お姿が見えなくなったので皆探しておりましたよ。」


ダニエル・フォン・シーゼ子爵。

イーゼンブルク領から共に招待を受け、視察に同行する青年である。

もとは商人の家系であったが、先の戦で多くの新型装備や武器を支援し勝利に貢献した。そのため子爵を叙爵した新興貴族であるが、帝国の武力維持の要となるため歴史ある貴族家からも一目置かれる存在である。


「視察だ。」

「視察は建国記念祭の後ですよ…。あぁ、そういえば、ちょっとした噂を耳にしました。」

「なんだ。」

「明日の記念祭に『私生児の公女』が姿を現すようです。」

「私生児…このタイミングで?」


脳裏に、あの少女が浮かんだ。


「正確には、トスカ公爵家に認知されているため『庶子』ですかね。体が弱いとかで17年間社交の場に一度も出ていない公女がわざわざ明日お見えするとは…なにか思惑がありそうですね。」

「母親の身分は?」

「子爵だそうです。庶子ではありますが、血筋はれっきとした貴族…おそらく公国安定のため帝国貴族が集まる明日お披露目し婚姻を結ばせようとしているのでは。」


さすが鋭い。

頭の回転が早くすぐさま損得計算できるのはさすが商人、というべきか。


「それ以外ないだろうな。特にイーゼンブルク領の貴族と婚姻成立となれば簡単には公国に手出しはできまい。庶子とはいえ血筋の確かな公女だしな。…シーゼ卿、いまいくつになった。」

「え…29です。」

「ふむ…」


ダニエルを上から下まで眺める。


「シーゼ卿が有力物件か。」


「ははっ。まさか。」

とは言いつつ頭では計算していた。

公国の公女が手に入れば家格により拍がつく。

帝国貴族としての礎をより強固にできるだろう、と。


「そろそろ戻りましょう。」


2人は宴会場へと歩き出した。

1人は機嫌良く、もう1人黒の男は思案顔で。


あれが公女か?


裏庭にいた少女を思い出す。

美しい笑顔の仮面をはりつけた少女は

今頃何を考えているのだろうか。


明日、私が侯爵だと知れば

どんな顔をするだろうか。


「明日になればわかるか。」


少しだけ、楽しみだった。


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