56億7千万光年への挑戦①
第5章 56億7千万光年への挑戦
<フロンティア号>は漆黒の宇宙空間を進む。
コクピットで明たちは会議を行う。インパルスのブリッジと違って狭い。席は6つしかない(最後部ソファは客用)。麗子とヨキがチューブドリンクを配る。
「うまいな。君たちの飲食物は何でも美味い」ジグが褒める。
「食糧はどれくいらい積めたんだ?」マーチンにとっては死活問題だ。
「切り詰めれば20日はもちます」食事担当麗子ちゃん♡。ありがたい。
「10日かあ」
私の話聞いてましたかー?と麗子は冷たい目でマーチンを見る。もっともリナ王女の話だとあと約70時間で裁判、翌日(王女は正確な時間は言わなかったが、トスーゴ星のデータより約10時間後と推測)には刑が執行されるらしい。つまりあと80時間程しかない。
「ボッケン、副長からのプレゼントって何?」飲みながら明が尋ねる。
「資料が二つ。一つは王女の結晶体のデータ、つまりトスーゴ星の位置。もう一つは暗黒星を呼ぶ隕石の落下ポイントを記した星図だよ」
改めて説明すると暗黒星が恒星を捕食するには以下のプロセスがある。
①恒星系内の惑星に“種”と呼ばれる隕石が落下する(超強力な磁場を持ち惑星の地軸を狂わせる)
②“種”は惑星の地熱を吸収し成長し(“植物”と呼称)、“暗黒星”を誘導する
③“暗黒星”が恒星に接触、恒星をエネルギーに変換し“宇宙のたまご”に転送する
明たちの目的はトスーゴ星に行くこと。宇宙の卵はトスーゴ星の近くにあり、バリアーを張って暗黒星に飛び込めば、一気に距離を縮めることが出来る(途中で脱出できればの話だが)。
ヨキが「まず暗黒星を見つけなくちゃ始まらない」
「そのためには隕石落下ポイントを一つ一つ巡るしかない」マーチンが説明する。
「タイミングの問題もあるが、一つ目は×だった。暗黒星が現れたら知らせるセンサーを設置した。次は?」明は麗子を見る。
「14光年先です。ワーププログラミング出来ています」流石!
「ワープ!」
ワープ先の宙域にも暗黒星の反応は無かった。
「レーダーに反応!トスーゴ艦隊接近!」
<フロンティア号>は転進する。
「速度が上がらない!マーチン!」
「近くに白色矮星がある。そいつの(重力の)せいだ」
「でも追ってこない」
「この<フロンティア号>は元々トスーゴの船だ。識別信号を復活させた。不安だったけど、うまくいったようだ。王女の船を調べる事が出来たお蔭だ」マーチンが威張って言う。
明は計器に手を置く。船に語りかける。
「お前も帰りたいだろ?連れて行ってくれよ。お前の故郷に」
美理はトスーゴ星の地下牢に囚われていた。
日の当たらないジメジメした澱んだ空間で、まるでメイド服のような囚人服(誰の趣味だ?)に着替えさせられ、朝から晩まで尋問を受ける。今までの客人のような扱いとは程遠い、手のひらを返したような仕打ち。それでも食事はまともだし、尋問官や対応するのが女性ばかりなのは“神王”への配慮だろうか。
尋問は氏名からはじまり、生い立ち、母の事、父の事、インパルス乗艦の経緯、<アポロン>に連れて来られた経緯、リナが停戦交渉に赴くと知らされた時にどう答えたかetc.読心術を持つエスパーがいるため噓はつけない。
美理は何ひとつ偽ることなく知っている限りの返答をする。その姿は気品に満ちていた。
<フロンティア号>がワープアウトする。
ただちにボッケンは暗黒星を探す。ここにも反応はない。
「前方で戦闘。どうする?兄き」
「迂回は・もう無理か・・このまま突っ切る!」
「トスーゴの識別信号オフ。全速前進!」
「了解」
「アンテナバリアー出力上げろ」
<フロンティア号>は青い航跡を残しながらトスーゴ艦隊とATU艦隊の戦場へ突入する。
トスーゴのイギャロン級巡洋艦数隻がプラズマ砲を発射。
光の束がATU艦隊を襲う。数多の爆発が起こる。
ATU艦隊の反撃。無数の光が飛び交う。
青い光がその真っただ中を横切って行く。
自動追尾のビームがそれを追いかけるが、追いつけない。
<フロンティア号>の針路をATU艦隊が塞ぐ。
ヨキが「撃ちたくはないが・・」
「任せろ」副戦闘席に移動したジグが引き金を引く。
主砲発射! 衝撃で<フロンティア号>の船体が震える。
主砲弾はATU艦には命中せず、その傍を通過する。だがその衝撃で艦は吹き飛ばされる。
<フロンティア号>は開いた隙間を駆け抜ける。
艦隊を突破、明は船をアステロイドベルトに向ける。
「なんであんたが撃ってるんだよ。初弾はおいらが撃ちたかったのに」ヨキがジグに詰め寄る。
巨人のジグの座れるサイズの席が副戦闘席しかないのだから仕方ない。
あと75時間。
トスーゴ星・地下鍾乳洞。
「はあっはあっはあっ・・」ピンニョは必死に飛ぶ。
<命の塔>の地下は信じられないほど広大だ。所々に光る石があり暗闇ではない。
「完全に迷った。どこだ?美理ちゃんは?・・はっ!」
ピンニョは姿を消す(ステルス)。
ふたりの人物が話をしている。
「ぞっとしたわ。同じ顔をしているんだもの。しかも同じ事ばかり言って」
「我々トスーゴは他の生物とは違う。それをエレーヌ様はわかっておられなかった」
「ATUより送られて来た“奴らの声の入ったデータ”は押さえました」
「どう考えても邪魔だわ。あの娘」
「消しますか?エレーヌ様のように」
「!!」
「誰だ!?」
ピンニョはその場を離れる。
「どういう事?・・あの娘?・・美理ちゃん!」
やみくもに飛び回ったせいでピンニョはさらに迷宮に迷い込む。
《こら》
それでもピンニョは飛び続ける。
《とまれ!》
いつの間にか光る石はなくなり、暗闇が広がる。
《わしの話を聞けえ!》
「え?(頭の中に声が!)・・・パミイ?」




