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35. 朝香さんから母親の仕事を知らされて驚く


 九条さんと朝香さんにアパートの中に入ってもらって、みんなで食卓に着く。


 朝香さんが少々厳しい顔で私たちに言った。


「確認したいことはひとつだけ。前に確認したことをもう一度の確認するだけよ。

あなたたちはうち以外のプロダクションや会社と関係ないということをもう一度確認したいの。契約とかはしてなくても裏で何かあったりしないでしょうね?」


 和田っちが即答する。

「まったくありません」


 私たちがみんなうなずく。

 それを見て、朝香さんはちょっと安心したような顔をした。


「わかったわ。でも、馬場千草さんと馬場若葉さんは青山部長の娘さんって話を聞いたんだけど、その辺はどうなってるのかしら?」


 青山部長の娘さんってなんだ?

 突然とわけのわからないことを言われて、私たちふたりは困ってしまうのだった。


「は?何のことですか?」

「青山部長って誰ですか?」


「はぁ、まったくねぇ・・・」


 呆れた顔をした朝香さんが説明を始めた。


「最初から説明するわね。

巻六輔って知ってる?

知ってるわよね。

その牧六輔が今度ベストアルバムを作るというので、毎日朝早くから会社に来てるのよ。でも彼ってば、若い女の子が好きだから、このコンペの録画を熱心に見始めてね、仕事が進まないのよね。

それで、今朝、昨日のあなたたちのライブの映像を見て、彼が言うのよ。

『赤いのはいっぱいあるけど、黄緑のキミハラはこの世に一台しかないはず・・・』

当時はRRRの高田グレンゴルグが試作品を使っていたんだけど、製品として売り出す前に製作所がギターから手を引いたのでこの世に一台しかないんですって。

で、巻は、あなたのギターはそのギターだって言うのよ。

だから、この娘は高田グレンゴルグの関係者だろうし、それから、よく見るとQちゃん、QQQの事ね、彼女にそっくりの美少女だからやつの娘に間違いない、って言うのよね」


 私は、巻六輔ってなかなか鋭いなとは思ったが、青山部長っていったい誰なんだ?


 ここで若葉がきっぱりと言う。

「はい。RRRの高田Gは私たちの父ですが」


 WBSYのみんなが驚いているのがわかった。


「やっぱりね。

それで、青山部長の子供たちがなんでうちの会社のコンペに出てきたのか教えてくれる?」


 まだよくわからないので、私が聞く。

「青山部長って誰なんですか?」


「はあ、やっぱり、知らないのね。

青山部長は高田グレンゴルグの妻にして、QQQの母親よ」


 うちの母親は馬場圭子なんだけど、青山ってなんなんだ?


「そうか。ねえ、お姉ちゃん、芸名じゃないの?」

 若葉が言う。


「ああ、そういえば・・・じゃあ、母かもしれません・・・

大きな会社で事務職をやってるってことしか知らないんですけど、部長なんですか?

それで、私たちの母は一体なんの仕事をやっておるんでしょうか?

母の娘がこのコンペに参加するのが何か変なんですか?」


「Qちゃんも最初は知らなかったみたいだけど、あなたたちも何も知らされてないのね」


 朝香さんはまたまた呆れた顔をして教えてくれる。


「えーっと、青山部長はYYプロダクションのアイドル事業統括部長よ。

YYプロダクションはうちのライバルプロダクションで、彼女はこのコンペを妨害する工作、昨日話したようないろいろなことをやっている張本人よ」


 母は今まで私たちに仕事の話は一切してこなかった、というか秘密にしている感じであったのだが、まさか、芸能関係 の仕事に就いていたとは・・・


 それで、ライバル会社に対して手段を選ばない妨害工作をやっているって・・・


「・・・母ならやりそうな感じですね」


 私がボソッと言うと若葉も同意したようにボソッと言う。


「うん、母さんならね」


 それを聞いて、ふーっとため息をつく朝香さん。


「Qちゃんも言ってたわね」


 ここで、これまでじっと聞いていた和田っちが朝香さんに聞いた。


「芸能プロダクションの社員の子供が別のプロダクションのオーディションに出るのに問題があったりするんですか?」


「別にないわ、OKよ。あなたたちはYYプロの妨害工作とは無関係のようだし」

 と朝香さん。


「それで、お母さまはご存じなの? 」


 私が答える。

「知りません」

「そうよね。青山部長はこんなことは許さんでしょうから」


「それから、Qちゃん……お姉さんは何か言ってなかった?」


「姉貴は、こわいことが起こるとか、私たちは知らなくていいとか言ってました」

 と即答する若葉。

 よくそんなことを覚えているな、と感心する。


「それから、決勝大会のQQQのライブが無事にできることを神様に祈ってました」

 と和田っち。

 和田っちもよく覚えているな。すごいな。


「Qちゃんらしい言い方ね。

まあ、彼女がうちからデビューする時もいろいろと揉めたからね」


 ちょっと遠い目をした朝香さんであった。


「まあ、よし。

事情はだいたいわかったわ。

面倒なことになるかもしれないけれど、あなたたちは余計な心配をせずに、ライブに集中して頂戴。

面倒なことが起こったら、それはこちらで引き受けますから、なにかあったら九条に言ってください。

MHプロとしては、あなたたちにはライブでのベストなプレイを期待します」


「問題ないということで良いのですね」

 と和田っちが確認する。


「あなたたちに関しては問題なしよ」

 ちょっと引き攣った笑いをしながら朝香さんが言った。


 話はこれで終わりのようだ。


「じゃあ、私は急ぐので先に失礼するけれども、みんなは九条と一緒に来てね」


 玄関から出る時に朝香さんが私に言った。


「そういえば、Qちゃんには確か弟さんたちがいたと思うんだけど・・・」


 答え方によっては、私たち姉妹が男とばれる危険がある質問だった。

 だが 、事前に姉貴と口裏を合わせていたので、焦らずに落ち着いて答えられるのである。


「私たちには、弟がふたりいるんですよ」


「えっ、いったい何人兄弟なの?」

 驚く朝香さん。


「兄弟姉妹は、全部で5人です」


 朝香さんはまたまた呆れた顔をして言った。


「弟さんふたりが、うちの会社と関係しないことを、心から願うわ」


「いろいろ、どうもすいません」


「いえいえ、つまらないことは気にしないで、今日のライブがんばってね」


 そう言って、朝香さんは九条さんを残して去っていった。


 玄関の扉が閉まると、和田っちが私と若葉に言った。

「初めて聞く話が多くてちょっと混乱してるんだけどさ・・・わかるように整理してくれるよね」



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