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「ごめんね。呼び出したりなんかして」
渋谷の駅の交差点で美雪は軽く手を上げて微笑んだ。
高岡幸子は軽く頭を下げてボソリと呟いた。
「べつに。ヒマだったし」
休日だというのに制服姿の幸子。
「今日学校だったの?」
「午前中だけ・・」
「そう、どこかお茶しましょうか」
美雪の言葉に幸子は軽く頷いた。
「で、メールで軽く話したとおりなんだけど・・頭がおかしいとか思わないでくれる?」
ほっとココアを飲みながら言う美雪に軽く頷いている。
幸子の手には、生クリームが乗ったコーヒーだ。
クルクルとかき混ぜながらボソリと呟いた。
「別に・・・霊が見える人。初めてじゃないし・・・私もたまに見る」
「え?そうなの?」
幸子には、自殺した男の子の霊をみてしまい困っている、そして例のサイトを見てしまい困っていることを伝えてあった。
驚いた幸子に、興味なさそうにうなずいた。
「たまにしか見ないけど・・・でも、誰にも言わない。変人に見られるから」
「そう・・・」
A子ちゃんは、霊が見えるといったせいでイジメにあったことを思い出し声のトーンが落ちた。
「悪い。遅れた」
サングラスを外してやってきたスーツ姿の鷹矢が店に入ってくるなり一直線に美雪と幸子が座っている席へと歩いてくる。
数人の女が興味ありげに彼を見ている。
どこに居ても目立つ男だ。
「この人、前も会っていると思うけど ウンコ鷹矢さんだっけ?」
美雪が隣に座った鷹矢に微笑みながら言うと、ギロリと睨みつけながら低い声を出す。
「お前、オレに殺されたいのか?」
「あらぁ、ごめんなさい。お名前間違えたかしら。ウンコじゃなかった?」
「ショウウン タカヤ! 勝運 鷹矢だ」
よろしくねと笑いながら前に座る幸子に微笑む。
「高岡です」
幸子は、顔を紅くするでもなく、興味なさそうに頭を下げる。
駅で見かけた時と印象がだいぶ違って見えた。
相変わらず、霊のような 暗い瞳をしているが常識はあるようだ。
「幸子さんも霊がみえるんですって」
「へぇ・・・」
美雪の言葉に鷹矢は少し驚いて彼女を見た。
居心地悪そうに視線を落としている幸子に美雪は声を小さくして言う。
「変人にみられるから、あまり言わないみたいだけど」
「そうだな。あんまり言わないほうがいいかもな。オレも酷い目に会ったことが多々ある」
鷹矢の言葉に幸子は顔を上げた。
「オレも昔から霊が見える人だよ。ちなみに、修行してるから払ったりできるから困ったことがあったら相談して」
「でも、霊の声は聞こえないんですって!」
ケラケラと笑う美雪に鷹矢はギロリと睨んだ。
そんな二人を見て幸子は少し微笑む。
初めて見せた表情の変化に、鷹矢も美雪もお互い顔をあわせた。
「普通、霊の声は聞こえないみたいですよ。あたしも聞こえませんし・・・」
「え?そうなの?」
幸子の言葉に驚いて鷹矢をみると彼も頷いた。
「だな。ま、今回だけだとオレは思うけどな」
「サイト・・・見ちゃったんですね」
「見ちゃいましたけど・・・やっぱり、あのサイトのせいで死人が出てるの?」
「多分・・・」
「A子ちゃん、苛められてたらしいけど・・・A子ちゃんとは仲がよかったのかしら?」
美雪の言葉に幸子はコクリとうなずいた。
「A子っていうのは雑誌に出てた名前。本当は明子っていいます」
「明子ちゃん・・・」
鷹矢は呟いて腕を組んで長い足を組んだ。
「明子は、私と同じ霊が見えるからすぐに仲良くなりました。イジメなんて無かった。
週刊誌が書いていたのは殆どウソ」
「ま、そうだとおもったよ」
昨日、A子はイジメを苦に自殺したなどと言っていたのによく言うもんだと、美雪は隣の男をチロリとみた。
「でも、最近になって明子はおかしなことを言い始めたんです。声が聞こえるって・・・沢山の人の苦しむ声が・・。
私を連れて行こうとしている。怖い、怖いって・・・。明子はノイローゼみたいになっちゃって、授業中も急に
叫んで立ち上がったりして・・・それから2週間ぐらいして明子は学校に来なくなりました」
「来なくなった?」
鷹矢の言葉に頷く。
「はい。家にも居ないので、捜索願を警察にだしたそうです」
「本当に失踪してたのね・・・」
「あのサイトは?」
鷹矢が問いかける。
「私と、明子の二人でサイトを運営していたんです。心霊サイトなんですけど、クラスのみんなも面白がって
見に来てました。明子が行方不明になった時にクラスメイトの一人がサイトが変だって言ったんです。
写真が切り替わって、最後に”10日後に死ぬ”って出るって。面白がってみたクラスメイト7人が10日後に
本当に死んでしまったんです・・・。電車に飛び込んで・・・」
思い出したのか、かすかに幸子の手が震えている。
「幸子ちゃんはそのサイト見てないの?」
「・・・クラスメイトが、サイトが変だって言っている時パソコンが壊れていて見れませんでした・・。
それでも、サイトが気になって4日前に見たんです。明子と私がデザインしたサイトと全く変わっていました。
怖くなって、サイトを消しました・・・でも、あなた達に会った時にどうせ雑誌記者だろうと思って一時的にサイトをアップしたんです。
でも、また死んだらどうしようと思ってすぐにサイトを消したんです・・・」
「でも、俺達は見てしまった・・・か」
呟いた鷹矢に幸子は頭を下げた。
「ごめんなさい。私のせいで、死んでしまうかもしれない」
今にも泣き出しそうな幸子に困ったように隣に座る鷹矢を見る。
鷹矢は軽く笑った。
「気にするな。オレが全部解決してやるよ。オレはこういう妙な事件を解決するのが得意なんだ」
「え?そうなの?」
驚いて声を上げた美雪に鷹矢は頷く。
「そうですよ。幸子ちゃんも俺達も死なない。期限までになんとかしてやるさ」
鷹矢がニッコリと微笑むと幸子は安心したかのように微笑んだ。
「笑ってた方がかわいいぜ」
「なに言ってんのよ。高校生に」
どこまでのタラシ性質なんだと呆れた美雪に鷹矢は肩をすくめた。