12
「ここが、幻の駅?」
美雪はホームを見上げながら呟いた。
両手をホームについてよじ登った鷹矢は美雪に手をさしだす。
なんとか引っ張り上げてもらって、ホームへと立った。
不思議なことに、電気は通っているようで、駅名をしらせる大きな看板の電気がついていた。
残念ながら駅名はかかれていない為、自分が立っているホームがどこなのかはわからない。
「まだうなり声は聞こえるのか?」
鷹矢の言葉に美雪は頷いた。
「はっきり聞こえる・・・風なんかじゃないよ」
顔をしかめながらブレスレットを触っている美雪に気づいて励ますように頭に手を置いて撫でた。
「大丈夫だって」
「・・・・」
「あっちから声が聞こえるきがする」
指を指しが方角には、エレベーター。
「あっ」
鷹矢は思い出したように声をあげゴソゴソと携帯電話を取り出した。
「なに?」
「サイトにあった写真だよ」
携帯電話のボタンを押して写真を表示させる。
サイトに会ったのと同じ順番だ。
ビル、エレベータに写真を表示させる。
「このエレベーターと同じじゃないか?」
「そう?」
エレベーターなどどれも同じようなものだ。
同じようにもみえるし、違うようにも見える。
美雪は首をかしげた。
「なんかあるよ」
確信を持って言い鷹矢はエレベーターへと近づいてボタンを押した。
静かにドアが開く。
「途中で止まったらどうするのよ?閉じ込められるわよ」
すでにエレベーターに乗り込んだ鷹矢に美雪は言った。
「もし閉じ込められたら俺達が向かう」
駅に着いた時点で無線はボタンを押さないでもこちらの声が聞こえるようになっていた。
常にオンの状態だ。
聖の言葉に仕方なく美雪も乗り込んだ。
人のうなり声が大きくなり美雪は思わず耳を塞ぐ。
声は耳から直接聞こえるのではなく頭に響くように聞こえ塞いでも音は小さくならない。
エレベーターのボタンは地下5階から2階まで表示されていた、
現在居る場所は地下5階のようだ。
「どうする?とりあえず一つずつ上にあがるか?」
鷹矢は言って、地下4階のボタンを押した。
地下四階でドアが開くと、美雪は耳を塞ぐ。
「すっごいうなり声」
「ビンゴ・・・かな」
明りがついていたホームと違い地下4階は真っ暗だった。
鷹矢の胸のポケットに入れていたライトが辺りを照らす。
誇り臭い廊下は一見普通のビルの廊下のようだ。
二人がエレベーターから出ると、確認したかのようにドアが閉じた。
エレベーターの明りがなくなると真っ暗になる。
不安になり鷹矢の上着を後ろから掴んだ。
「真っ暗・・・・」
「声はどうだ?」
「聞こえる。この奥から・・・・なんか、痛いとか・・・苦しいとか言っている」
美雪の声を聞いていた愛紀が声を上げた。
「うぉぉぉ、すげぇぇぇ。オレも行きたかったぜ」
場違いな盛り上がり方に、美雪はムッとして無線に向かって怒鳴る。
「ちょっと、いい加減にしてよ。こっちはすっごく怖いんだから!」
「ゴメンゴメン」
「GPSでは、鷹矢オーナー達は線路上に居るように見えます。ビルなんてないですよ」
「マジで?」
アランと愛紀の声に鷹矢はうなずいた。
「まぁ、ありそうなことだよな。森ン中とか道走っててもカーナビ君は道なんて表示してなかったりするもんな」
コツコツと足音を立てて進む鷹矢の上着を離さないように美雪も続く。
「声が大きい・・」
しばらく歩くと、大きな部屋に出る。
真っ暗な部屋を鷹矢がライトで照らした。
「祭壇がある」
近づいてくと神棚のような祭壇が置かれていた。
1メートルぐらいの高さの木で出来た棚に、鏡とお札が置かれている。
コップには水が入っていたようだが、すでに中身はなくなっていた。
祭られている榊も茶色に変形しており鷹矢が触ると粉になって床に落ちていった。
「この奥から声がする」
祭壇が見えないように鷹矢の背中に隠れていた美雪が言った。
鷹矢は祭壇をライトで照らす。
「奥にドアがある」
美雪にライトを渡して、鷹矢は祭壇を動かした。
壁にドアがあり、紙のお札がベタベタと張ってある。
何かを閉じ込めてあるように貼ってある札を見て美雪がますます顔を曇らせた。
ドアを開けばお札は破けてしまうように貼ってある。
「何かを閉じ込めましたって感じだな」
鷹矢は注意深くお札を確かめて言った。
「残念だが、このお札効力無いぜ。どこのインチキ霊能力者が貼ったんだが・・・」
「ドア開けてみろよ」
面白そうに言う愛紀の言葉に美雪は首をふった。
「やめようよ・・怖い・・」
鷹矢もドアの中に何かを感じて額に出てきた汗をぬぐった。
「確かになんか居るな・・・」
美雪も何かを感じているのだろう。
「苦しいって、痛いって言っている」
「明子ちゃんもこの声が聞こえたのかねぇ・・・・」
鷹矢は呟いてドアを力強く引っ張った。
ビリビリと音がしてお札が破けていく。
開いたドアから風が吹いて、美雪は目を瞑った。
風が顔に当たり、痛みを感じる。
耳を劈くような、うなり声と悲鳴が聞こえてその場にうずくまった。
「大丈夫か」
鷹矢に無理やり立たせられて美雪はなんとか立ち上がる。
「無理、帰ろうよ」
美雪の言葉を無視するように鷹矢は低い声で何かを言った。
お経のような、呪文のような言葉を発し、人差し指と中指を立てて宙に何かを描くと風がやんだ。
「なにしたの?」
鷹矢が風を止めたような気がして美雪は言う。
「ここは悪霊みたいな悪いのが溜まっているみたいだな・・・」
開かれたドアの中は、土が見えた。
鷹矢がソレを無線で伝えると、聖の声が帰ってくる。
「工事途中で何かの原因で中止したって線が強いかもね」
「駅を作っている途中で何かがあって工事を中止したって感じですかね」
愛紀の声に鷹矢はライトで注意深く照らしながら中に入る。
「心霊現象があったのかもしれませんね」
「ここで沢山の人が死んでいるんじゃないの?」
美雪は鷹矢にしがみ付きながら言った。
「どうしてそう思うんだ?」
鷹矢の問いかけに美雪は嫌そうに答える。
「痛いって、苦しいって声が沢山聞こえる・・・それに凄く嫌な感じがするの」
「なるほど、声はオレには聞こえないけど沢山の霊の気配はするな・・・」
鷹矢がそういったと同時にライトの明りが消え辺りが真っ暗になった。
「ちょっと!なに電気けしているの」
パニックになりかけている美雪を落ち着かせるように鷹矢は彼女の肩を抱いた。
「勝手に消えた。動くなよ」
ますます大きくなるうめき声に美雪は耳を塞ぐ。
右足を何かに引っ張られて体制を崩した。
「きゃ・・」
慌てて支える鷹矢も何かに足をとられる。
「チッ」
舌打ちして、右手をあげて人差し指を中指を立てて口の中で短く唱えると鷹矢の足を掴んでいたものは消えた。
「美雪!」
暗闇で見失った美雪の名を呼ぶと悲鳴がかえってきた。
「助けて!」
声を頼りに手を伸ばすが、彼女の体を掴むことは出来なかった。
「何かに引っ張られる!」
背中も頭も体全体を引っ張られる何かを手で掴むと、人の手だということが解りまた悲鳴を上げた。
耳につけてる無線はノイズしか聞こえない。
暗闇に目が慣れたのか、美雪の体を掴んでる手が壁から出ているのが見えた。
必死にもがくが、腕からは逃れることが出来ない。
「助けて!」
必死に手を伸ばす美雪の手を鷹矢は掴んで紙で出来たお札を壁に貼り付けた。
静電気のような青い光が一瞬お札の周りを一周するとピッタリと張り付いた。
同時に壁から出ていた無数の手が消えて美雪は慌てて鷹矢に駆け寄る。
「こ、怖かった」
「一時的に封印しただけだ、すぐに復活するかもしれない」
「はぁぁぁぁ?」
「しょうがねぇだろ。なんなんだ、アレは・・」
うめくように言って、鷹矢は奥へと歩き始めた。
「・・・か・・大丈夫か?」
いつの間にか復活したのか、無線のイヤホンから聖の声が聞こえてきた。
「は、はい・・・」
美雪が答えると、安心したかのような聖と愛紀の声が聞こえる。
「怪我は?」
「大丈夫です」
「ノイズしか聞こえなくなったからあせったぜ」
チカチカとライトが瞬いたあと、辺りが明るくなる。
「懐中電灯がついた」
鷹矢は懐中電灯で穴の奥を照らして呟いた。
「・・・また祭壇??」
奥に木で出来た棒が立て垂れており、その前にまた祭壇らしきものが置いてある。
嫌がる美雪を引っ張って鷹矢は懐中電灯で慰霊碑らしき棒に書いてある文字を読んだ。
「昭和20年 3月10日 安らかにお眠りくださいって書いてある・・」
鷹矢が呟くと、聖が少しして言った。
「・・・・その年月って東京大空襲じゃないか?」
「えっ?」
美雪が驚いて声をあげるとアランの声が聞こえた。
「あ、そうですね。今ネットで調べたら、日にちあってますよ。よくわかりましたね聖さん」
「まぁね」
「これは慰霊碑?」
美雪が言うと鷹矢は不思議そうに祭壇を眺めた。
「おかしくねぇか?こんな地下に慰霊碑って・・・、地下鉄の工事で死んだ人を祭るならわかるけど・・・」
言いながら慰霊碑に近づく。
美雪の耳には、うめき声が聞こえ逃れるように首を振った。
痛い、苦しい、熱い。
悲鳴にも似た声は、空襲で死んだ人の声なのだろうか。
そう思うとますます怖くなり耳を塞ぐ。
「まだ声聞こえるか?」
「・・・・あ・・・なんか・・・・」
美雪はどこかで聞いたような声に顔を上げた。
うめき声に混じってサイトを見たときに聞いた声が聞こえる。
「あのサイトの声だ」
「・・・・明子ちゃんかな?」
鷹矢が言うとまたライトが瞬いた。
「やだ・・・」
不安そうに辺りを見回している美雪に、鷹矢も辺りを見回す。
電気が消えると同時に美雪の腕を何かが掴んで引っ張られた。
「いやぁぁぁ」
悲鳴を上げながら祭壇に倒れこんだ美雪はそのまま手に引きずり込まれる。
「やだ」
悲鳴を上げてバタバタと床に倒れてもがいている美雪に鷹矢は手を伸ばした。
「早く、霊をなんとかして」
「・・いや、それ霊の手じゃねぇだろ」
霊と人間の区別ぐらいつく鷹矢は言うと美雪は大きな居悲鳴を上げた。
人間の手が壁から出てくる。
常識外のことにパニックを起こして大きな声をあげる。
「たすけて・・・ください」
かすかな声に、美雪は悲鳴をこらえて壁から伸びる手を掴んだ。
ひんやりとした手は確かに人間のものだ。
細い指に細い手首。
「おい、美雪」
鷹矢は慌ててかけよって美雪の足を掴んでいる手を引っ張り出した。
土の中に半分埋もれるようにしていた女性は鷹矢に引きずられて出される。
「生きているの?人間なの?」
半分泣き顔の美雪の言葉に鷹矢は落ち着けと手を掴んだ
「生きている人間だ」
鷹矢が言うと、女はゴホゴホと咳をして苦しそうにその場に倒れたまま起き上がらない。
「大丈夫か?・・もしかして、明子ちゃん?」
鷹矢の言葉に無線から驚きの声が聞こえた。
「おいおい、明子ちゃんってあの行方不明だっていうA子ちゃんだろ?」
「いや、制服きているし。この髪型といい。明子ちゃんだろ?」
鷹矢が問いかけると、女は弱弱しく頷いた。
「え?本当に明子ちゃん?」
アランが驚いたような声を出す。
「行方不明になったのは一ヶ月前ですよ。生きているんですか?」
「生きているようにみえるけど・・・」
かすれた声を出す美雪に鷹矢は手に持っていた懐中電灯を渡した。
「オレが思うに、ココで死んだ霊たちはちゃんと供養されていないから自分達が居ることをアピールしたくて
呪いのサイトとかつくったんじゃねぇの?」
「そんなバカな」
かすれた声を出す美雪に鷹矢は肩をすくめる。
「ま、こいつらも必死だからなぁ」
鷹矢の言葉に、明子が弱弱しく声をだす。
「つかまっちゃったんです・・・ここの霊に・・気づいたらココに居ました」
「よっし、ちょっと行ってくる」
「行くってどこに?」
立ち上がった鷹矢の手にはお札が握られていた。
「ちゃんと供養してやるからって説得するんだよ。お前も協力するよな」
「はぁ?どうやって?」
「お前は霊と話せる、説得するんだよ」
「はぁ?」
当たり前のように言う鷹矢に美雪はポカンと口をあけた。
「いいか、ちゃんと供養しますからのろわないでください!っていえ」
「はぁ?」
無理やり鷹矢に立たされて、背中をドンと押される。
慰霊碑の前にたって、美雪は不安になり鷹矢を振り返った。
「・・・・」
出来るかどうか不安だったが、鷹矢が言うならやるしかない。
美雪は意を決して慰霊碑の前で両手を合わせて祈るように頭を下げる。
気づけば、うめき声も風の音も聞こえない。
静寂だった。
「静かになった・・」
美雪が顔を上げると、鷹矢は満足そうに頷いてお札を慰霊碑に貼り付けた。
不思議なことに鷹矢がお札をはると、青い光がお札を囲む。
「どうして青い光がでるの?」
美雪の言葉に鷹矢は驚いたように目を見開いた。
「お?見えるのか?青い光」
コクリと頷く美雪に、無線からアランの声が聞こえた。
「それは凄いですね。普通見えないらしいですよ。僕も見えませんから」
「そうなの?」
美雪も驚いて鷹矢をみると、苦笑しながら手を伸ばして美雪の頭を力強く撫でる。
「お前才能あるよ」
「うれしくないんだけど」
嫌そうにして言う美雪に笑って、鷹矢は明子の傍に座った。
「立てる?」
左右に首を振る明子の顔は衰弱しきている。
目を開けているのもやっとのようだ。
「多分、しばらくはコレで大丈夫だろ」
美雪に懐中電灯を持たせて、鷹矢は明子を背負う。
それを手伝いながら美雪は不安そに慰霊碑をふりかえった。
「私達も死なないってこと?」
「今はお札でおさえているし、美雪がお願いしたから大丈夫だろ」
「そんなことよく言えるわね」
「オレの、長年のカン」
美雪はため息をついた。
「鷹矢がそういうなら安全だろう」
聖が無線を通じて言ってきた。
「なら、いいんですけど・・」
明子を背負って歩き出した鷹矢に続いて美雪も歩く。
洞窟のような穴から部屋へと戻ったところで鷹矢が穴を振り返った。
「ちゃんとした、人に頼んで供養してもらう。何年もかけて供養しないとだめだろうな」