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「ねぇ、電車こないかな」
線路の上ではなく、線路の横にある細いコンクリートの平坦な道を歩きながら美雪は前を歩く鷹矢に声をかけた。
振り向きもせずに鷹矢は答える。
「大丈夫だろ」
トンネルのような地下鉄の線路。
明かりはポツン、ポツンとあるほかは真っ暗だ。
鷹矢はジャケットの胸のポケットにライトを入れてその明かりを頼りに歩く。
鷹矢の懐中電灯が照らした明かりだけが頼りだ。
美雪は思い出して、鞄からヘットライトを取り出して頭につけた。
おでこにあるライトのスイッチを押す。
真っ暗だった足元が照らされて良く見えた。
「・・・ダッせぇ・・」
頭にライトをつけた美雪を振り返って、言うがどこがダサいのかわからない。
「探検家とかこういうのつけるじゃない」
「頭にライトとか、ありえねぇ・・」
鷹矢が再び歩き始めたので慌てて美雪はついていく。
地下だというのに、風が強く髪の毛を揺らした。
何処から聞こえるのか、風が低いうなり声を上げている。
「ねぇ・・・風が人の声みたいに聞こえて怖いんだけど」
「そんな音するか?」
首を傾げる、鷹矢に美雪は耳を済ませる。
確かに、ビューューという低い音に混じってウーといううめき声のような音が聞こえる。
「なんか沢山の人の声みたいな・・・」
男とも女とも言えない低いうなり声が風と共に聞こえる。
鷹矢に聞こえないということは霊のこえなのだろうか。
急に怖くなり、鷹矢の上着を掴んだ。
「ねぇ、聞こえない?」
「いや・・・聞こえない」
「やっぱり、戻ろうよ。この先なんか怖い・・・」
何かがこれ以上進んではいけないと告げている。
足が重くなり、前に進まなくなった美雪を鷹矢は振り返った。
上着を離して一歩下がった美雪の腕を掴んで無理やり前に歩かせた。
「ダメだ。行かないとマジで何にも解決しないぞ」
「無理、怖いんだもん」
「大丈夫だ」
「なんでそんなに自信があるのよ」
「オレは、ちゃんと修行している。何があっても、大丈夫だ」
そういって、少しかがんで美雪の瞳を覗き込んだ。
青い瞳がライトに照らされて良く見える。
「コレ持ってろ」
美雪の右手にブレスレットをつけた。
「なにコレ」
左手につけられたブレスレットを掲げて見ると、銀で出来た少し細身のチェーンに丸い玉がぶら下がっている。
「お札みたいなもの。オレがデザインしたんだぜ。特注で作っている」
「お札?」
「そう、お守りとか持ち歩くのダセェじゃん。この玉にちゃんと呪が書いてあるから同じ効果」
そういって、丸い玉を指差した。
良く見ると確かに漢字でなにかかかれている。
「オレのつけているアクセサリーは全部ソレなんだ」
首にも手首にも耳にもついているアクセサリーをまじまじと見ると確かにどこか変わっている。
首にぶら下がっているネックレスに付いているヘッドは良く見れば梵字のようなものが書かれていた。
「このブレスレットは霊を寄せ付けないように俺が呪をかけておいた。だから大丈夫だ」
「・・・う・・ん。ありがとう」
左手首を触るとチャラリと音がした。
恐怖が少し薄れた気がして美雪はもう一度腕についているブレスレットを見る。
お札やお守りはたとえ気休めでもどこか心を安心させてくれるようだ。
「ほら、行くぞ」
暗い道を歩き始めた鷹矢に慌てて付いてく。
手探りで鷹矢の手に触れた。
「なんだよ」
「・・・怖いんだって」
そういうと美雪に鷹矢は深いため息をつく。
「いつもそうやってれば、かわいいんだけどなぁ」
「はぁ?」
「いんや、ほら、行くぞ」
そういって、美雪の手を握って歩き始めた。
大きな暖かい手の鷹矢に不思議と心が落ち着く。
大丈夫、怖くない。
ジジッと耳にノイズが入り、アランの声が聞こえる。
「大丈夫ですか?」
「おう、今地下鉄の線路の上」
鷹矢が答えると、愛紀の声が聞こえてきた。
「なにモタモタしてんだよ。ちっとも動いてないじゃねぇか。GPS機能が壊れたかと思ったぜ」
「悪い、こいつが怖いってうごかねぇンだもん」
鷹矢の言葉に美雪は頬を膨らます。
「だって、変な声が聞こえる気がするんだもん」
美雪の声が聞こえたのか、聖の声が無線を通して話して来た。
「どういう声?」
美雪はマイクのスイッチを押して無線に答える。
「よくわからないんですけど、男と女の低いうめき声みたいな・・でも、風の音かも」
「そう・・。200メートル先に駅があるはずだよ」
まだ200メートルも歩くのか。
ウンザリしている美雪に気づいたのか鷹矢はぐいっとつないでいた手を引っ張った。
「大丈夫だって。それとお前の頭に付いているライトまぶしい」
仕方なく美雪は頭からライトを外して鞄につける。
足元を照らすライトのお陰で少しは歩きやすくなった。
鷹矢に引っ張られながら歩く美雪の耳には風の音ともうなり声とも解らない音が聞こえている。
一歩一歩あるくと、声も少しずつ大きくなっていく。
「・・・・泣き声みたいな、叫び声みたいなのが聞こえる」
「確かに嫌な感じがするな」
鷹矢も辺りを見回して言った。
『その辺りにドアがあるはずだ』
聖の声が無線を通じて聞こえてきた。
キョロキョロと辺りをみるとコンクリートと同じ色のドアを見つけた。
大きくなく、一人の人間がやっと入れるような小さなドア。
「ありました」
鷹矢が無線に言うと アランの声が聞こえる。
「気をつけてください。そのドアの向こう側は線路になっていますけど、生きた線路なんで電車ききます」
「マジ?」
不安そうな美雪を引っ張りドアのとってらしき鉄のノブに手をかけた。
少し重そうなドアを開いて鷹矢はどこから取り出したのか懐中電灯で辺りを照らした。
目の前に線路、左奥に二股に分かれており向こう側の線路の奥に光が見えた。
「えーっと、地図で確認したとおりだったら、この線路越えて向こう側の線路に言ってあの光が幻の駅ってやつか?」
鷹矢が無線に向かって言うと、苦笑気味のアランの声が帰ってきた。
「そうです」
「この線路とか、向こう側の線路とかあの光とか言われてもわからんって」
愛紀も苦笑しているようだ。
「なんか電車の音が聞こえる」
呟いた美雪に鷹矢も耳を澄ます。
風の音に混じってカタンカタンと電車が走る音が確かに聞こえる。
「おい、電車の音が聞こえる」
「ちょっと待ってください・・・あぁ、ちょうど列車が通過します。この電車が通り過ぎたらすぐに渡ってください。
5分後にまた列車通貨予定です」
「あぁ?すぐ渡ってたら轢かれてたぞ」
鷹矢は一人文句を言った。
目の前を列車が通り過ぎるのを確認して鷹矢は線路を注意深く渡った。
繋いだままの手を引っ張られて美雪も線路を渡る。
早足に渡り、二股に分かれている線路へと入る。
「・・・うめき声だ・・」
風の音ではなく、人のうめき声が聞こえ美雪は顔をしかめた。
真っ暗なトンネルに明りはポツンと遠くに一つ見える。
「アレが駅の明りか・・・」
鷹矢は呟いて歩き始めた。
敷き詰められた大きな石ころで歩き難いものの、美雪も引っ張られながら歩く。
「なんか、怖い」




