表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
副・救世主は悩ましく  作者: 小山モーゼル
第五章 睫毛
90/171

第15話 新たに踏み出すこと

 燃えかけた林の整理、囚人護送は、随分と遅れて着いた徒歩自警団が請け負ってくれた。その間に食事をとってしばしの仮眠、太陽が昇ってからケーイチとレッタは旅支度を整えた。今度こそ間違いなく出発である。

 レッタは昨日と同じケイトとの別れの挨拶を繰り返して、ほとんど同じ台詞。ケーイチは苦笑しながら、エリックが余分に差し出す金を断った。


「いいったら。これ以上もらうわけにはいかない」

「銃のことを教わった時より、昨日はもっと大変だったんだ。受け取ってくれ。ほんの僅かだし」

「僅かでも、それはあの農民たちに払ってやんな」


 農民たち、ケーイチは空部屋で眠る彼らを横目に建物を出てきた。到底安心しきった顔とはいえず、結局、根本的な解決にはならなかったのだ。

 エリックは謝罪ならいくらでもした。クリーズ家の一人息子として。しかし農民が最も求めていた金銭は、まるで捻出することができなかった。それもそのはずで、家財なぞは目ぼしい物はほとんど売り払ってしまっている。家に残っていたせめてもの高級食材で作った料理も、彼らの心を慰めることはなかった。むしろら客用に温存してあったとはいえ出された高級食材を、苦い顔して口にしていた。

 エリックは農民たちの眠る家の方に顔を向けると差し出していた金の袋を下げた。ケーイチは頷くと続く彼の言葉を黙って聞いた。


「そうだな。この金は農民たちへの償いの一つにする。あの人たちには敷地と空部屋を無償で貸すことにしたよ。ここで農業をしていくらかでも生活を楽にしていってくれればいい。もちろん、被害に遭ったのは彼らだけではないから、全体の解決には程遠いけど」

「それでも解決の一歩になるだろうさ。これから君はどうするんだ」

「もっと勉強して、父の仕事を手伝えるようにする。より高性能で安全な肥料を開発したい。きっとそれが本当の償いだろうから」

「信用を取り戻すのには時間がかかるかもしれない。でも新たな実績が出せれば自ずと信用は戻ってくる。活躍している君を見るためにも、また会いにくるよ」

「やっぱり、寂しくなるな」


 鼻こそすすりはしないが、エリックの瞼に薄っすら涙が浮かぶ。ケーイチは一歩近づいて涙の粒を拭った。長い睫毛は、変わらず美しく瞬いた。


「俺の言ったことは変わらない、君はいい友達だ。死線を共にくぐり抜けた戦友と呼んだっていいかも。君に見合う人を見つけるのにも、新しい恋はどこにだって転がってる。案外近くにかも」


 横のケイトをちょっとだけ見た。レッタとハグを交わす彼は、ケーイチの視線と聞いていたエリックとの会話で、仄かに頬を染めて目を逸らした。首を傾げるエリックは何も気づいていないが、今はこれでいい。

 ケーイチはエリックの頬に手を添えた。お互い確かな瞳で約束を交わすと、証を作るみたいに、一言ずつ呟いた。


「またな、エリック」

「再会の日を。ケーイチ」


 二人の別れの挨拶に一同赤面してどよめく。短く最後の唇を交わして、ケーイチは一番頬を燃え上がらせるレッタの手を取った。あとはもう振り向かず、足取り軽く門へと進んでいった。


 レッタは跳ね上がり続ける心臓に声を弾ませながらケーイチの真意を問おうと必死だった。彼は、どうということもないといった爽やかな顔で手を引いた。


「け、け、け、ケーイチさん、い、いい今なにを⁉︎」

「キス。珍しくもなかろう」

「珍しいですよ!男同士で、恋人なんですか⁉︎」

「違う、友達」

「友だちならキスはしないですよ!ほっぺとかならまだしも、唇どうしで!」

「そりゃ視野が狭いってもんで。友達同士だってキスくらいするさ。お前もそのうちわかるようになる」

「こればっかりは大きくなってもきっとわからないです!」


 ゲラゲラと笑うケーイチの声に、懐かしい声が重なった。自警団から知らせを聞いたハルトたちは門まで迎えにきてくれたのだった。どきまぎするレッタも、ハルトの顔が見えたとあらば翼を広げて愛しい彼の胸へと飛んでいった。しかしそれより前に、走るケーイチの方が先に着いた。


「久しぶり!賊に襲われたって聞いたけど大丈夫だったのか?」

「へーきへーき、俺もレッタもこの通り。こいつぅ、会いたかったぜ!」


 いきなりハルトに抱きついて彼の頭をゴリゴリ拳で撫でた。目撃するレッタは最前のキスを思い出して、いきなり頬を爆発させると墜落する。首尾よくラスナの腕に落ちた。エミリアも不思議そうに彼女の顔を覗き込んだ。


「どうしたのよレッタ、急に落ちるなんて」

「どこか悪いとこでもあるの?」

「な、な、ないんです。でも、ケーイチさんが・・・」

「ケーイチがどうかしたの?」

「い、いえ!なんでもないんです!」

「変なの。ま、元気そうでよかったけど」

「ふふ、レッタ、ケーイチくんにハルトくんを取られちゃってるよ」


 じゃれつくように再会を喜ぶケーイチとハルトの姿、いつもならハルトを取り上げるべく焦るはずなのに、ドキドキといつまでも見ていてもいいような気がした。ボーッと目をとろつかせるレッタは、やっぱり二人から心配される。


「ねえ、やっぱり熱でもあるんじゃないの?」

「私、診てあげるよ」

「・・・ケーイチさんになら、ハルトさんを取られちゃってもいいかな」

「へ?」

「わ、わたしなんてことを!そんなこといけません、たとえケーイチさんが相手でも、ハルトさんはわたしのなんですから!」

「まーたそんなこと言って!バカレッタ!」

「い、いひゃひゃひゃ!やめてくらひゃい!」


 ラスナにほっぺた伸ばされて悲鳴を上げる。おかしな光景に笑いながら、各々荷物を背負い直した。


 レッタの中に、自身の趣向とは別に新たな趣味ができたのかもしれないのは、本人含めて誰も知らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ