自分の書いた小説の主人公に憑依したようです
「お兄ちゃん、好き――抱いて?」
「いやフラン、俺たち兄弟だから……」
今思い出しても、自分で考えた設定ながら、妹が兄を好きになるいう設定は、実際自分が味わうとなるとかなり困惑するものだ。
というか、自分で小説を書いている時は、キャラの立場で嫌だろうから、そんな話や設定はしないなんてやらないしな。
そんな事してしまったら、小説は限りなく平凡な日々を書く事になると思う。
そんな小説誰が読むだろうか?
……いや、読まないだろう。
小説は様々なイベントや設定、ハードルといったものがあって、起承転結によって成り立つ。
だから、普通の話ではだめなのだ。
でも、まさか自分が自分の書いた小説の主人公に憑依するとは……。
―――
あの日、パソコンで小説を書き上げた瞬間に、ディスプレイが光ったかと思うと、俺は全然見た事ない世界に来ていた。
俺が意識を取り戻した時、目の前にいたのはめっちゃ可愛い女の子。
何が何かわからなかったし、『君は誰?』って聞こうとしたけど、声も出ないし身体も動かせない。
俺が困惑しているうちに目の前の女の子から出た言葉が『お兄ちゃん、好き――抱いて?』それに俺が混乱している間に俺の口が勝手に動き『いやフラン、俺たち兄弟だから……』と言っていた。
俺は喋っていないのになんで……?
俺は戸惑いながら、少し冷静に考えれみるとその言葉は、どこかで聞いた事のある言葉だった。
そして、俺は考えた。
フラン? 兄弟? あ~~!!!!!!
そして、俺は気づいたのだ。
そのセリフ、そして俺の目の前にいる女の子の特徴の一致する事……それは俺の書きあげた小説だという事に……。
―――
そこからというもの、俺は自分の書いた小説、設定をそれに抗うことも出来ず、まるで自らの意志でそうしているかのように自分でそれを味わって、悶えながら過ごしてきた。
そう、自分で身体を動かせなくても感覚はあるし、考える事も出来る。そして、思考に関しては、俺が書いた小説の主人公の思考を読み取る事が出来る。
つまり、俺は今自らの意志で動けないが、俺の書いた小説の主人公を身を以て体験しているのだ。
これは、小説を書いている人にしたら、究極の罰ゲームに値するかもしれない。
「皆さんご入学おめでとうございます。我がウェルホルム王立魔法学校は――」
そして今日、俺は書いた小説の冒頭と同じく魔法学校へと入学する。
今は書いていた小説の第二部の冒頭からだからいいけど、第一部の冒頭では、構内で歩きながらスマホでラノベを読んでいたらホームから転落して、さらにスマホを探していたら電車が目の前に迫っていて気づけば異世界に転生していた……という読んでいたラノベにありそうな展開で前世の記憶を持ったままライト=ハートラインとして生まれ変わるという話だった。
そんなもん、実際味わったら痛いだろうし、『転生してラッキー』なんて思えないだろうし、そんなに簡単に死んで異世界に転生という話を書くべきではないと思った。
そんな話ばっか書いてて、俺みたいに自分の書いた主人公に憑依したらどうするんだ?
でもまぁ、そうやって書いてて、俺みたいに自分の書いた小説の主人公に憑依すれば、某小説投稿サイトのテンプレと呼ばれる『異世界転生もの』が減るかもしれない。
主人公たちも大変なんだ。
労わらないと。
あっ、でもそうすると小説がおもしろくなくなるか……。
キャラの気持ちと小説の面白さのバランスを考えるのはなかなか難しい。
おっと、そうしていられない。
今は自分の小説をどう書いていたか思い出さないと……。
確か、主人公ライト(俺)は身体が自由に動かせるようになるとラノベにありがちは『小さい時から魔法使えば魔力が増える』『魔法は詠唱しなくてもイメージすれば無詠唱で発動できる』といった事を試してみるとその通りだったっていう事で、主人公最強をいく感じだったな。
そして、この世界は過去に邪神が現れた際に邪神を封印したのが勇者じゃなく賢者と言う事で魔法使いの方が人気も地位も高いという事で、魔法使いが優遇されている世界。
そして、主人公ライト……もう俺でいいか。
俺は運よく顔も美人の母さんに似て整っていたし、生まれつき髪も茶髪と『キタ―――!!』状態で、そのルックスにプラスしてラノベの知識を使って魔法を極め学園で一番になって女の子にモテまくってバラ色の学園生活を送ろうって物語だ。
でも、その中でいくつか誤算があったという第一部があってその誤算は……。
一つは俺が最初に出会った妹、フランの存在だ。
妹はそれはもうアイドル級に可愛いんだけど、俺はその妹に『ライク』ではなく『ラブ』として好かれてしまっているという設定だ。
主人公に憑依して実の妹に「抱いて?」と言われてしまった時は倫理観が崩れそうだった。
この設定はまずい。
よくアニメとかでもあるけど、見てる分には、まぁおもしろいかもしれない。
でも実際に味わうとシャレにならない。
とにかくマズイ。
自分で書いといていうのもなんだけど、この問題は誰にも言えない悩みだし、こんな悩みを抱え込ませて悪かったと思っている。
そして、フランは俺が魔法を教えたという設定の為、おそらくこの世界で俺に次ぐ魔法使いになっているではないだろうか。
確かフランに俺以外の男を好きになるように言った事もあって、その好きなタイプって言ってたのが『お兄ちゃんみたいに強い人』『私より強くて私を守ってくれる人』っていう設定だったはず。
……いま思えば無茶な話だ。
そんなの俺が魔法を教えた事によって世界トップクラスの魔法使いになったフランより強い男なんているだろうか?
転生してチートになった俺より強い人間なんてそうそういないし。
俺はどういう風にしてこの問題を解決したんだっけ?
……ダメだ。
全然思い出せない。
思い出せないというか、自分で書いた小説なのに設定以外の第二部の物語の記憶が抜けている。
こんな状態で主人公としてこの物語を味わっていくのか……不安すぎる。
自分で書いた小説なのに不安でいっぱいだ……。
でも、今は自分を信じる事しかできない。
そう、自分を信じる事は大事だ。
うん。
でも、自分の書いた物語を味わうなんて恥ずかしすぎる。
おそらく、たぶん、普通では言わないようなセリフもあるだろう。
この物語は学園物だったと思うし、中にはめっちゃクサイ台詞とかもあるかもしれない。
……嫌だ。本当の自分ではないとはいえ嫌すぎる。
何の罰ゲームだ? 小説世界の反乱か?
……まぁ考えても仕方ない。
きっとテンプレを書いていただろうから小説の神様が『テンプレばかり書くな!』とお怒りなのだろう。
そして、自分で味わってみろと……。
なんで俺? と思うけど今は何も出来ないし受け入れるしかない。
……よし、気を取り直そう。
それで気を取り直して二つ目、それは魔法についてだ。
この世界では魔法と言えばおなじみの火、水、土、風の魔法が一般的でそれ以外は流通……ちょっと意味が違うけど一般的ではないという事。
だから身体強化の魔法については知られていない。
いや、実際には使われているんだけどそれは『気功』や『闘気』と言った形で広まっているという話で、気功や闘気は魔法使いではない者の一部にしか使用できないとされている。
だから、フランも使えるという設定だったけど、迂闊に身体強化の魔法は使用していたら怪しいし、フランには使用を控えるように言ってあるという感じだったはず。
……ますますフランに隙がない。
これ妹と結ばれるとかいう結末じゃないよな?
……大丈夫、俺はそんな話にしてないはず……たぶん。
俺に関しては第一部でいろいろとあって魔法戦士なんてどっかのアニメのキャッチフレーズで呼ばれるようになったという展開だ。
……自分でしたけど、これは絶対呼ばれたら恥ずかしい……ゴメン、ライト、いや俺か?
あとはおなじみの『無詠唱の魔法はあり得ない』って設定だ。
これも、実は気功は無詠唱の身体強化の魔法なので実際使っている人はいるんだけど、それが認知されていないという設定で、無詠唱と言っても万能ではなく、無詠唱で魔法を使用する場合はイメージを持続させないといけない。
それに比べて、詠唱は言葉にする事でそのイメージを潜在的に脳に刷り込まれるので詠唱した後でも発動しているという少し普通とは違う設定だったはず。
だから、無詠唱の身体強化である気功は身体強化する箇所をイメージしながらその部分の能力を上げる。
その分、戦闘中にイメージを持続させながら戦うといったセンスも要求されるから注意が必要なんだったと思う。
まぁ、自分の意志で身体が動かせない俺にしたら問題ないかもしれないけど。
すべてはまな板の上の鯉と同じだ。
そして、三つ目の誤算は最初戦士学校に入学したって話だ。
ある日、熊に追われている女の子ではなく、おっさんを身体強化を使って熊を倒し助けたところそのおっさんが王立戦士学校の校長でスカウトされたという第一部だったはず。
最初は、身体強化の魔法を使えるという事で魔法学校にスカウトかと思ってたけど、この世界には身体強化の魔法は存在しない事になっているし、あってもそれは気功や闘気と呼ばれ戦士特有のものだと思われていたので俺は女子生徒が一人もいない戦士学校に入学する『オチ』にしていたのが第一部。
まだ、入学できる年齢より一つ小さかったけど特待生として入学してからも大変で、この世界は勇者より賢者、戦士より魔法使いだから戦士学校に通う生徒はやさぐれていて、学校は荒れているという設定だったから、その時の大変な記憶は主人公であるライトの記憶を通じて伝わってきている。
入学するなり年齢も一つ下、しかも特待生という事もあって教室に入るなり早々に絡まれて、返り討ちにしてそこからアウトローに一直線。
街で二人組の女の子を助け、めっちゃ可愛かったリノアちゃんといい雰囲気なところに友達が来てそれを見て助けた二人が逃げたり、絡まれては返り討ちして、気づけば学年の番長になり、三年の番長と互角の戦いをしたり、二年生と街のギャングという組織が絡んでいた大きな事件を解決したりして、最終的には学校の番長へと、目指していた形とは違う形で学校で一番になっいたという自分だったら笑うに笑えない展開で悲しい記憶を、憑依した事によって俺も感じ、心を苦しめる。
本当にごめんって感じだ。
でも、ここまでなら俺の親が泣いて終わるところかもしれないけど、事件を解決するのに魔法を使ったのと、事件を解決した功績から晴れて俺は入学適齢期に特待生としてお金の心配もかける事なく、魔法学校の最高峰であるウェルホルム王立学校に入学できたってところから始まるのが第二部だったはず。
俺は今、この場面までは記憶が戻っている。
もしかしたら、その場面になったら記憶が戻ってくるのかもしれない。
今は小説を書いた自分がバッドエンディングにしていないのを願うばかりだ。
まぁ自分で言うのもなんだけど、短く言えないほどの苦労をしてこの学校に入学した俺にとって、この校長の長い話も全然苦にならないと思っている主人公の気持ちを感じると、自分が書いた小説ながら素直に主人公を応援したくなる。
「みなさんが素晴らしい学園を送り立派な魔法使いになるのを期待しています。――では一年生代表ライト=ラインハート君前へ」
「はい!」
そうだ、主人公の目指していた学園生活は今日始まる。
正直不安でいっぱいだけど、何もできない俺に自分が書いた小説が主人公にとって良い結末になるのを願うしかないが、これも作者の責任。
しっかり見届けよう。
(だって、それしかできないもんな)
ジャンルに迷っています。
とりあえず、転生でも転移でもないような気がするので、小説の中の世界観に合わせて、ハイファンタジーにしています。
間違ってたらご指摘くださいm(__)m




