正解の外側
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第1話「正解の外側」
正解は、もうある。
この世界では、それが前提だった。
⸻
「問題ない。」
目の前のアンドロイド科の男子学生が言う。
少しも迷いがない声。
「本当に~?」
隣の席で、AI人間科の女子学生が笑う。
不満気な声。
レイ「ああ。完璧。これ以上はない。」
即答。
月「え~、やだやだ!」
レイが導き出した正解は完璧だ。
入学してから半年が経ち
いよいよ課外授業がはじまる。
金星と火星が衝突するこの期間に向けて編成された私たち3人は、共有された端末に浮かぶデータを観ながら過去事例でシミュレーションの真っ只中にいる。
何度見返してもレイが作った正解は完璧だ。
でも…どこかで引っかかる。
アニカ「ねえ、月ちゃんはどこが「やだ」?」
月「つまんないのがやだ!!」
教室が一瞬、静かになる。
この期間に編成されたパーティーは10組。
アンドロイド科、AI人間科合わせて30人が一同に月を見る。
(…なんだ?あの個体は)
(不可解。発言における思考力に問題あり。)
レイ「つまらない…?…理解不能。」
アンドロイドは首を傾げる。
月「はい。すべての条件を満たしていま~す。
満足度も最大値で~す。問題はありませ~ん。」
「ありませんよ?」
「でもさ、そういうんじゃなくてさ~!」
月は頬杖をついて、窓の外を見る。
「“それ”ってさ、私じゃなくてもよくない?」
アンドロイドは少しだけ沈黙した。
レイ「……最適化された結果だ。」
月「でしょ?」
軽く笑う。
月「だからやだ」
理由は、それだけだった。
正解は出ている。
でも、選ばれない。
違和感は、小さかった。
でも消えない。
わかってる
レイの答えは正しい。
でも、
アニカ「なんでだろ」
「うまくいってるのに、うまくいってない感じ…」
「正しいって、こういうことだっけ。」
この世界では、
すべての選択に“正解”がある。
"この世界では、間違えることができない"
間違いはない。
迷いもない。
ただ、
それでも、
選ばれない正解がある。
「ねぇ」
月がこちらを見る。
「“それ”ってさ」
少しだけ、笑って。
「アニカちゃんなら選ぶ?」
答えは、出ていた。
はずだった。
⸻
そのとき、
教室のドアが開く。
⸻
「課外授業の依頼だ」
先生が言う。
「対象は――」
少しだけ微笑んで。
「AI人間。」
「……“回収”になるかもね?」
教室の空気が変わる。
「……」
誰かが小さく息を呑んだ。
「判断は、 持ち帰ってからでいいよ。」
教室を、ゆっくり見渡す。
一人ひとり、確かめるみたいに。
目が合った気がして、息が詰まる。
「さて——担当は」
名前が呼ばれる。
⸻
それが、
すべてのはじまりになることを、
まだ誰も知らない。




