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第93話

 ケンタウロスの子供たちが怯えた目でこっちを見ている。狭い部屋に押し込められ、ほとんど光のない場所で怯えさせることによって負の感情を増させるんだろう。


「無事か!」


 入ってきたプフェーアトを見て、子供たちの顔にパッと生気が戻る。


「プラダリーアのプフェーアトだ! 助けに来た!」


 わあ、と笑顔が開く。


「先に……この負の力を【浄化】しちまわないとな」


 俺は端末を構えた。子供たちは怯えて逃げようとするが、プフェーアトが大丈夫、と宥めた。


「この方は生神様だ」


「生神様?」


「ああ。俺も捕まって人間を襲わされたが、生神様が戻してくれた。大丈夫だ」


「【浄化】!」


 柔らかい光に部屋の内部が浮かび上がる。あちこちに血の跡。子供たちには切り傷や打ち身がはっきりと刻まれている。恐らくは殺さない程度に傷つけられたんだろう。神威【再生】を使った後に魔法【回復ヒール】で怪我を治す。


「うわあ……」


 子供たちが感動の目で俺を見上げた。


「大丈夫、だったろ?」


 俺の笑顔に、子供たちを笑顔を戻した。


 と、そこに飛び込んできたのは。


「ガキども、命令を……!」


 魔物が飛び込んできた。


 ちょうど俺と目が合う。


「ガキ……ども……?」


「お前がこの子たちを痛めつけたのか」


 俺は笑顔で言った。


 生前、高校時代、同級生が、俺の笑顔が怖い、と言ったことがあった。


 もちろん普通に笑うのは全然問題ないらしいが、俺はキレた時に笑う傾向があるらしい。その笑顔が下手なヤクザより恐ろしい、と同級生は言っていた。おじさんが亡くなって家と財産を継いだ俺に金を要求した不良共を叩きのめした時だったか。俺は、笑いながら、不良共を足蹴あしげにしていたらしい。その笑顔がとことん、怖かった、と。


 多分、今の俺は、その時と同じ……いや、それ以上の笑顔を浮かべている。


「え、な、なんだ」


「痛めつけた、んだな?」


 胸倉をつかんで壁に叩きつけ、壁を背によろめく人型をした魔物の顔面の横にガンっと拳を叩きつけ。


「なんで、そんなことをした?」


「け……研究のためだ! 生神を殺すだけじゃなくても、ケンタウロスは興味深い実験体だから、色々探ってみたくなるのも当然だろう!」


「思わないね」


 ケンタウロスの子供たちの視線が俺の背中に刺さる。


「――俺を殺そうとするなら自分の力でかかってこい。でないと――」


「ひ、ひぃっ」


「俺に殺された方がマシだって、思わせちゃうよ?」


 俺は善人じゃないし博愛主義者でもない。


 キガネズミを最悪の手段で殺したし、ワー・ベアから情報を得るために【再生】を使って死ねなくした上で全力で痛めつけたこともある。暴力は嫌いだけど、博愛だけで暴力には立ち向かえないことを知っている。人間の本性が善だけではないと言うのはおじさんもよく言っていた。親を亡くした七歳の子供を引き取れないと言った親戚に啖呵たんかを切ったおじさんの言うことだから分かる。


 俺はマザー・テレサやガンジー、キング牧師にはなれっこない。


 たった一つ、こういう時におじさんが教えてくれたのは、『《《不要な暴力》》はふるうな』、だった。


 こっちからは絶対に喧嘩けんかを売るんじゃない、あっちが喧嘩を売って来て、それが回避不可能となって、相手に一発殴られた後だ。暴力と言う力は揮い時を誤れば自分に責任を押し付けられる、と。


 小学校の時親なしと俺をからかってきた同級生や、金を要求してきた不良。こっちを弱いと思って喧嘩を売ってきた相手は、容赦なしで叩きのめした。


 もちろん喧嘩を売られたからだけで叩きのめしたわけじゃない。その前に陰湿ないじめをしてきた連中だ。無視、仲間外れ、嫌がらせ。ゲーム感覚で行われたそれを耐えきって、俺は、反撃のタイミングを伺い、確実に相手が悪いと言われる証拠を揃えてから喧嘩を買って、勝ってきた。


 だから、同級生も医者も警察も、あっちが悪いと言うしかなかった。敢えて言うなら過剰防衛だけど、相手が俺にやらかしたこと、証拠は全部取ってたし。


 そして、目の前のこいつも。


 俺にケンタウロスの実験体と言う形で喧嘩を売ってきた。臓器だけ生き残ったケンタウロスの再生が叶わないという一撃を受けた。


 なら。


 俺の攻撃のスイッチを押したのはこいつらだ。


「他に、何をした?」


「けん、研究を」


「どんな?」


「何も! 何も、してない! 研究しただけだ!」


「お前の研究ってのは、子供を怯えさせたり脅したりして負の感情を引き出して、人間を解剖して魔獣化して俺に襲わせることか?」


「ひぃぃぃぃっ」


 ぐ、と拳を握り。


 魔物の腹に叩き込む。


「ぐ、ぐはっ! ぐほっ!」


 もう一発。今度は顔面に。


「ひぃぃ……」


 今度は鼻血を垂らしながら、魔物は呻く。


「たす、助けて……」


「あの子たちも、きっとお前に、同じこと言ったよね?」


 口角が上がっているのは自分でもわかる。分かるんだが抑えられない。


「その時、お前は、どうしたんだい?」


「ひ、ひ……」


「そうだよな? なら、お前も同じ目に遭って当然だよな?」


 胸倉をつかみ上げ、俺は笑う。


「ご、めんな……」


「ごめんで済んだら生神はいらないよな?」


「生神様」


 軽く肩を叩かれ、びくっと俺の身体が震えた。口角が下がる。


「いいです、オレたちの為に怒ってくださったこと、感謝しております。それ以上は構いません、その報復はオレたちがすべきことです」


「……そう、だな」


 俺は胸倉をつかんだ魔物を床に叩きつけて、手を引いた。


 そのまま座り込む。


 キレた時の興奮が引いた後、変に脱力する。アドレナリンが引いた影響なんだろうか。


 はあ、と息を吐いて、よっこらしょ、と立ち上がる。


 サーラから預かった炎の縄で、腹と顔面を殴った魔物を縛り上げる。


「熱い! 熱い!」


「守護獣がわざわざ温度を下げて相手を捕えるために作り上げた炎の縄だ」


 俺は転げまわる魔物を見下ろして告げた。


「お前の処遇は守護獣に任せる。その前に……」


 俺は笑った。


「他の研究者は何処にいる?」

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