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第89話

 風を切って自在雲が飛ぶ。


「空を征く鳥でもここまで速くはないだろう」


 プフェーアトさんの感心した声。


「神具だからな。俺にある信仰心が高ければ何処までも速くなる」


「しかし、この背に生神様と守護獣様を乗せたとは。罰が下りそうだ」


「俺が大丈夫だから、下さないよ」


「それより」


 一瞬振り返って、仲間もついてこれないほどのスピードなのを確認すると、プフェーアトさんは俺を見た。


「天馬様は危険なのか」


「同じ守護獣であるサーラがそうなんだって言うからにはそうなんだろう」


 真剣なプフェーアトさんに俺も真剣に答えた。


「俺たちは君たちに会ったあの時、敵対勢力の影を見た。魔物がケンタウロスを連れてどこかに消えている、そして洞窟である神殿がサーラの示した範囲内にあり、何より彼女自身があれだけ……ってことは、神殿が荒らされている……だけならいいけど、守護獣を封じ、自分たちの聖域として扱っている可能性もある」


 そして恐らく、ケンタウロスに対する人体実験も。


 喉の出口まで出掛かった言葉を飲み読む。


「多分」


 俺の小声に、プフェーアトさんが反応した。


「辛いものを見るかも知れない」


「承知の上です。それでも、ケンタウロスの問題にただの一人たりともケンタウロスが来ないと言うのはおかしいと、オレは思うのです」


 そして進む先を見る。


「それでも、やはり神の力なのですね。紛れもなく真っ直ぐに神殿を目指している」


「間違いはない?」


「はい。随分前、《《気配》》が告げた場所に向かっている」


「この水晶球は、助けを求めている存在に反応する」


 自在雲の先端に掲げられるように置かれた導きの球は、しっかりと北を示している。


「これほどまでに強い反応は初めてだ。守護獣だけじゃない……捕らえられたケンタウロスの物も混ざっているかもしれない」


「まだ、生きているのか?!」


「殺すのが目的だったら捕らえたりしない。生かして捕らえて、そして……」


 実験材料に。


 さすがにそれは飲み込んだが、多分言葉の切れ端は届いたんだろう。プフェーアトさんは深刻な顔になった。


「そうだ、生きたまま捕らえるには理由があったはずだ。……オレが忘れてしまっただけで。何か……何か、生神様の言う敵対勢力とやらが何かしたんだ」


 サーラはイライラと前を見ながら頷いた。


「これ以上あんな悲鳴を出させてたまるか……これ以上あんな嘆きを出させてたまるか……」


 ぶつぶつと呟いていて、アウルムは怯えてミクンにしがみつく始末。


「サーラ……いや、守護獣様」


 ヤガリがそっとサーラの二の腕に触れる。


「大丈夫です。今からそれを助けに行くんですから。おれたちがいる、だから風の守護獣も力を込めて呼んだんですよ」


「分かっている……その為に私が言いだしたはずの約束を破らせたことも。だが……」


 サーラの声は一層低くなり、周りの空気が熱を帯びる。


「あいつは滅多なことでは弱音を吐かん。その奴がここまで必死に助けを求めている……嫌な想像ばかりが頭をよぎる。既に嫌な予感が当たっているというのに、これ以上何が起こるか分からないとなると……」


「させない」


 俺の言葉は、俺が思っていた以上に低くなっていた。


「俺の力は死んだ人間を生き返らせることはできない。獣なら大丈夫なのに、理由とか理屈とか、そんなのは分からないけど。でも、逆を言えば、生きてさえいれば俺の力は通じる。通じさせる」


「主よ……」


 守護獣としての本能か、守られているヤガリが傍にいるおかげで炎になって飛んで行かないで耐えているサーラが、燃える瞳を俺に向けている。


「主よ、我が暴走しそうになったら止めてくれ。我の力は溢れる炎水マグマ。それを心のままに暴走させれば、どのようなことが起きるか……」


 サーラは忍耐力を試されているようなものだ。そもそも炎は燃え、荒れ狂うもの。制御できない熱量こそが本質。その彼女が必死で抑え込んでいる破壊の力……どれほどのものか想像すらつかない。


「天馬さんを助け出した時」


 俺はサーラに届くように力を込めて言った。


「俺の守護する者をひどい目に遭わせたなどと言われないようにしよう」


 ぐ、とサーラは息を飲み込んだ。


「……分かっている。我の炎に耐えうるは、地においては我が主と我が同輩以外にはなし。彼の守護対象を傷つければ、その先一生涯文句を言われかねぬ」


 呟いて、サーラは顔をあげた。


「すまん、シンゴ」


 いささか強張ってはいたが、普段のサーラの笑顔だった。


「焦っていた。シンゴは精一杯急いでくれているのにな。そうだ、今できることを一生懸命やるしか、我ら生物にしかできることはないのだから」


 自在雲の周りに溜まっていた熱気が散っていく。


「見えた」


 ミクンは前方を指さした。


「あそこ! ちょっと盛り上がってるところ! 周りにいっぱい影がある……あ!」


「どうした!」


「ひどい……なんであんなことができるの……」


 俺以上に視覚のいいレーヴェも、まっすぐ前を見て言葉を失っている。


 数十秒後、俺たちはミクンやレーヴェの見たものを目の当たりにする。


 そこにいたのは……数十の魔物。ここまでたくさんいるのは初めてだ。


 だけど、それ以上に息を飲んだのは。


 魔物たちは手に手に縄を持って、それを引いている。


 引き出されて、前に出されたのは、縛り上げられたケンタウロスの仔馬たちだった。

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