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第90話

「どうするシンゴ!」


 ヤガリが戦斧を持ちながら叫ぶ。


「あれはあからさまなデコイだ。だが見捨てるわけにはいかない。だから」


 俺は蒼海の天剣を抜いた。


「このまま突っ込む!」


「正気か!?」


 レーヴェの叫びに、俺は叫び返す。


「……もちろん、魔物を倒しながら」


 天剣は鏡のような刀身に光を宿している。


 敵と認識したものしか斬れない剣……。


「神具にはぁ……」


 自在雲の速ささえ、俺の頭の中の計算に入っていた。一秒か、二秒。その程度しかないのに、俺の頭は限りなくゆっくりと計算式を叩きだし、俺はイライラするような遅さで剣を振るった。


「こぉいう使い方もぉ、あるんだぁっ!」


 入り口に並べられた仔馬たちと、一人の大人(成人と認められているかは分からないけど)のケンタウロス、その背後にいる魔物目掛けて。


  すっ。


 豆腐でも斬るように剣が滑る。


 ケンタウロスたちをすり抜けて、背後にいる魔物たちとそいつらが持っている縄だけがスパッと斬れて。


 急制動をかけた自在雲が完全停止した時には、数十の魔物は一掃されていた。


「すごい! すごい!」


 ミクンがパチパチと手を叩く。


「剣が、すり抜けた?」


 アウルムの目はまん丸。


「これが……生神様の力……!」


 プフェーアトさんが言葉を失っていた。


「俺の力と言うよりは神具の力だな。俺は神具や端末を借りないとまだ力を完全に発揮できない」


 プフェーアトさんが雲を飛び降りた。


「レイモーンの仔馬たちか!」


「ヴィーゼの若馬!」


 子供の一人が声をあげた。


 見覚えのある顔を見たからか、怯え切っていた子供たちの顔が歪み……んん?


 泣き出すかと思った子供たちが、笑っていた。形容しにくい醜悪な笑みを。


 かぱあ、と口を開け、その口からどす黒い何かが溢れ出す!


「離れろ、プフェーアトっ!」


 サーラがプフェーアトさんの腕を掴んで叫ぶ。


「な……何……何が……」


 プフェーアトさんが見上げる空で、どす黒い靄はこごって黒い塊と化し。


 大人のケンタウロスの口に入り込んだ!


「ぐ……う……があああああ!」


 ケンタウロスが叫ぶ。自分の喉を絞め、指を突っ込み、口から塊を出そうと足掻くが、恐らくはアメーバ状の物体、ずるずると入り込み続ける。


 そして、最後の一塊までもがケンタウロスの中に入り込んだ時。


 異変が起きた。


 どくん、と脈動するケンタウロス。


 全身がどす黒く染まり、筋肉が膨れ上がり、何倍にも大きくなり……そして、街道で俺たちを襲ったのと同じ、魔獣ケンタウロスが誕生した。


「そ……うだ」


 プフェーアトさんが呟く。


「《《あれ》》を飲み込まされて、全身が俺を無視して暴れ回って……壊すことしか頭になかった……あれは、あれは……!」


「もういい」


 レーヴェが軽くプフェーアトさんの馬の方の背を叩く。


「敵が同じことを繰り返すなら、こちらもまた繰り返す。そうだな、シンゴ?」


「ああ。同じことをやらせてもらうだけだ」


 M端末を取り出す。


「待て、シンゴ!」


 サーラの凛とした声が飛んだ。


「仔馬だ!」


 仔馬――。


 俺は崩れ落ちているケンタウロスの子供たちを見た。


「まず仔馬を! でないと何度でも魔獣ケンタウロスが出来上がる! 元から断たねばならない!」


 そうだ、子供たちから黒い靄が吐き出されてそれがケンタウロスに……。


 子供を使ったのか。恐らくは俺を殺す実験に。


 ふざけるな。


 人間、怒りを通り越すと頭の中が冷たくなるっておじさんは言ってたけど、まさにその通りだ。


 俺の目はぽっかりと空いた洞窟に向けられた。


 ……待ってやがれ。


 絶対、潰してやる。


「サーラ、魔獣の動きを止めることは?」


「任せておけ」


 サーラの手から生み出されたのは、炎の縄。


「魔獣だろうと何であろうと……」


 縄の端を掴んで、サーラは吠えた。


「この緊縛からは、逃れられん!」


「その間に……!」


 子供は十人ほどいる。


 【巻き戻し】は一回に一人しか使えない。何をされたか分からないが……それが分かれば……。


 その時、端末に文字が浮かんだ。


【神威/NEW】


 こんな時に!


 でも、何かいい神威が出るかも知れない。そうすれば子供たちを助けられるかも……?


【神威・鑑定:見たものをなんでも鑑定し、効力、ステータス、状態などを理解できる】


 おい。おい。


 こんな時に? こんな時に? こんな神威ぃぃ?! 何の役に立つんじゃこれはあ! この忙しい時にぃ!


 文句が駄々だだもれに出てくる。そりゃあそうだ、このタイミングだぞ、この状況を打破する何か強い神威が出るって期待するじゃないか!


 ……いや。


 一応使ってみるか? 今まで意味がない神威が目覚めたことはなかったし。


 試しに、魔獣ケンタウロスにやってみよう。


「【鑑定】」


 じっと見ると、ピントが魔獣ケンタウロスに合わせるようになり、端末と脳みそ同時に情報が流れ込んできた。


 数値情報がほとんどだが、【状態】の所は文字だった。


【状態:魔獣化/ケンタウロス固有臓器である魔力受容体を負の力で強化し、そこに負の感情を流し込み、肉体と精神を暴走・強化させられた状態。神威【巻き戻し】によって時間を戻すしか方法はない】


 知ってるよ。知ってるけど。知ってる……けど……?


 今、戻す方法出てなかったか?


 俺が知ってるからか? それとも【鑑定】の能力?


 試す価値は……ある。


 倒れているケンタウロスの子供たちを見る。


「もう一丁……【鑑定】」


 ケンタウロスの子供に目線を送り、神威を使う。


 きゅうう……と仔馬にピントが合う。


 そして、鑑定結果が……おお?

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