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第68話

「あなたは分かっておられるのですね、ハーフリングの神子殿」


 メーディウスさんは座った状態のまま、深々と頭を下げた。


「この世に生きる者が本来そうしなければならないことを。神ではなく、己の力で働かなければならないということを」


「え? いやいやあたしの勝手な思い込みだしそんなフェザーマンの巫女様に頭下げられるなんてちょっと頭上げてよ恥ずかしい」


 ミクンがぶんぶんと手を振る。顔が真っ赤。腐りかけた草原で長い間を過ごし、両親やおばあさんからハーフリングがどう思われているか聞いて覚悟の上で俺たちについてきたのに、神秘の種族と呼ばれるフェザーマンの巫女に頭を下げられるなんて思わなかったんだろう、彼女にしては珍しく照れている。


「旅立っていったフェザーマンたちに聞かせてやりたい言葉でした。やはり地に足のつかない一族は神に近いと思われ、思いあがったのでしょう。そして、恐らくは生神様とハーフリングの神子殿は同じ意見と思われます」


「何で?」


「もし生神様がフェザーマンを優先し、彼らが望んだとおりに助けに来たのであれば、そのような意志を持つハーフリングを神子になどしてはいない筈。同じ考えを持ち、ハーフリングの考えを尊重する、そしてエルフとドワーフと言う共にいることをも拒むような二種を等しく神子として扱い、御二方も互いを神子として認めあっている。フェザーマン以外には膝をつかぬ筈のグリフォンや、孤高の野獣、灰色虎の幼獣ですら、貴方とは直接関係のない無窮山脈の守護獣様までもが貴方に従っている。全てを平等に愛する生神様です」


「いや……俺が勝手に助けただけなんです」


「勝手に助けただけでも、助けられた相手は恩義を忘れません」


 メーディウスさんはおっとりと微笑んだ。


「ですから神子の方々はついていらしたのでしょう?」


 何となく振り向いた。


 みんな笑っていた。


 レーヴェも、ヤガリも、ミクンも、サーラも。いないけど恐らくはシャーナも。


 ブランは少し不満そうに前脚で土を掻いていたけど、グライフが嘴を寄せる。何か感じたんだろう、ブランも顔をあげてこっちを見た。


「そう、ですね」


 レーヴェは珍しく彼女なりに敬意を尽くした話し方をする。


「生神がシンゴでなければ、我々は今ここにいないでしょう」


「そうだな。生神ではない、シンゴだからおれたちはついてきた」


「シンゴがお人好しだから心配してついてきたんだ」


 ふと、あることを思いついた。


「と、言うわけで、うちの生神は敬意は持たれていないが人望はある。我々もシンゴの望むことをしてやりたい。一生懸命生きている人間や動物を助けてやりたい。だからここまで来た」


 えーと……こうすれば……。


 グリフォンの能力……うん、かなり強いな……。


「……ゴ……シ……」


 そうすれば、フェザーマンも……。


「シンゴ!」


  バシッ!


「痛ェ!」


 いや、痛くはないんだが、かなり強く背中を叩かれて、反射的に叫んでしまった。


「何すんだサーラ」


「何をしているんだ、ほめてやっているというのに」


「背中を全力で叩くのがほめるって意味?」


「聞いてないからだろう。何を考えていた?」


 それは頭の中で聞けばいいだろうに。


「な・に・を・か・ん・が・え・て・い・た?」


「分かった、喋るよ、喋るから、そのぜんっぜん笑ってない笑顔やめて」


 サーラが頭を引っ込めたので、俺はナセルさんに向かって話し出した。


「グリフォンはどれくらいの数いるんでしょうか?」


「グリフォンは神獣ですから、大事に守ってきましたので……主がいない者も含めて二百頭ほどは」


「なら行けるかな」



「我々を、荷運びに?」


「あー、嫌なら嫌って言ってくださいね。フェザーマンにもプライドがあるでしょうから、いきなり荷運びの仕事をしろなんて言えないし」


 思いついただけだから何とも言えないし。


「いえ、生神様のお考えであれば。ただ、何故そのような考えに至ったのかを教えていただけないでしょうか」


「今まで、俺が再生してきた大樹海、無窮山脈、ビガス」


 俺は指折り数えて言った。


「林業、鉱業、農業。どれも人間が生きるには必要なもの。だけど、それが回らないと何処も回らない。俺はできるだけ生神の力を使わなくてもみんなが生きていけるようにって考えたんです」


「なるほど……」


「街道沿いは魔物が出ます。他の人間が旅をするのは至難の業です。だけど、今まで、空に魔物が出たことはない。フェザーマンとグリフォンなら、安全な場所を、最短距離で、移動することができる」


「つまり、他人種との交流も出来、親しみを持ってもらうこともできる……」


「そうなればいいなあ、と、思っているんですが」


「なりたいです」


 うお、食いついてきた。


「我々がグリフォンを使って大樹海や無窮山脈、ビガスに荷を運べばよいのですね? その程度ならお安い御用です」


「いいんですか?」


 思わず俺は聞き返した。


「神秘の一族と呼ばれる皆さんが、荷運びに……と思わないんですか?」


「いいえ」


 ナセルさんは首を大きく横に振った。


「奈落断崖をご覧になれば分かると思いますが」


その視線が外の方に向く。


「私たち一族はこの断崖に住んでいる。ですが、ここは不毛の地です。木の一本も生えない、食べられる草も獣もない、海へ行って海藻や魚を取るしかない。他の種族の手を借りようにも、ここまで来てもらうのが困難で、来てくれたと思ったら奴隷商人だったこともあった。他人種の力を借りなければ生きていけないのに信じられない。我々はそう言う種族なのです」


「ナセルさん」


「ですから、今回のご提案が嬉しかった。ただ一方的に頼るのではなく恐れるのではなく、多種族と同等になるために、空を征けると言う唯一の特技を生かす、輸送と言う重要な役目を任された。ですから、望むところなんです」


「でも、他の人たちは」


 ナセルさんは軽く入口の方を見た。


 五十人近いフェザーマン。


 そのすべてが笑っている。涙ぐんでいる人もいる。うんうんと頷く人もいる。


「自分を神の一族、神秘の一族として、現状も見ずに空に旅立っていった者を見送り、この世界で生きることを望んだ者ばかりです。でも、死にたいわけではない。この世界のために何かして生きていきたい。そう思い、でも何をすればいいか分からずに悩んでいました。生神様はそんな我々に役割を与えてくれたのです。ただ生きるのではなく、この世界の人間の一種として巡る輪の一つとなれる。これがどうれだけ嬉しいことか」


「騙されないでお兄様!」


 急に来た猛々しい声に振り向いてみれば、そこには森に置き去りにしたフェザーマンの少女、ナセルさんの妹……アウルムさんがいた。

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