ep5.カラクリの椅子編・8話
岡田は目の前に置いたコントローラー盤のボタン上に指を乗せる。岩窟、紫猿、風春、ナックルの4人が闘いが始まるのを待ち、鋭い目付きで睨み合っていた。
カチ、、カチ、パチ、カチャ、
岡田の指がゆっくりとコントローラー盤の上を走り始めた。
その動き出しを皮切りに、皆が一斉に動き出した。
岩窟は黒い岩が集まった右腕をマットに打ち込んだ。
ガバゴギイィン!!
紫猿は岩窟の攻撃に警戒をして少し後ろへ下がる。
その瞬間紫猿の背後からナックルの右ストレートが飛んで来る。
紫猿は目でそれを確認すると直ぐに身体を前屈みにして避ける。
風春 「´´斬拳!!´´」
ナックルの後方にいた風春が斬拳を繰り出し紫猿の足元を狙う。
ズバチイィインッッ!!
紫猿 「効かねえって」
紫猿は斬拳をカラクリの木でコーティングされた左足で蹴散らすと、風春に向かって走り出し身体を回転させると風春の首根っこに左足を蹴り込んだ。
ブンブンッ!ズゴッッ!!
風春 「…んがっ!!」
紫猿の攻撃を受けて風春は横に飛ばされる。
紫猿 「…ん?」
パラパラ、パラ、
その時、紫猿の足元に見覚えのない黒い小石がマットの上に落ちてきた。
紫猿 「…そう言うことか」
紫猿が真上を見上げた。
そこには、岩窟が仕掛けた黒い岩の雨が紫猿に降り落ちようとしていた。
ヒュッ、シュッ、ビュッ、ゴッ、ゴゴ!!
紫猿は瞬時に左腕を頭上にかざした。
紫猿 「´´木壁´´」
すると、紫猿の足元からダークブラウンの液体が左腕に登って行く。
ズズズッ
その液体は六角形の硬いカラクリの木で出来た盾に形を変えると紫猿の左腕に取りついた。
紫猿はしゃがんで盾で身を守る。
ズガガガガガガンガガンッ!!!!!
黒く大小粒の異なる岩が紫猿の頭上に降り落ちる。紫猿は盾をぐらつかせながらも防御に徹していた。
風春(心の声) 「…痛みが引かねぇ…さっきまでの蹴りの力と比べて威力が増してやがる…ちくしょう」
ガンッ、ガラ、ゴロン、ゴロッ
岩窟の攻撃に耐えた紫猿が盾を影に落とし立ち上がる。
紫猿 「あぁ…痛ってぇ…お前もちょっとは考えるようになったか」
岩窟の岩が当たり、紫猿の額から血が出ていた。黒いスーツも所々岩に削られ破けている。
すると
紫猿 「ぁあ?…ハンマー?」
岩窟の横に黒い大きなハンマーを持った岡田の姿があった。
岡田 「超難易度のコマンド入力が完了した。…ありがとな岩窟」
紫猿、岩窟、ナックル、風春が1分間の激しい闘いをしている最中、岡田はコントローラー盤を使って隠しコマンドの入力を完了させた。
岡田 「風春!…兄さんのシャドウを借りるよ!」
´´融合´´
岡田 「やられてばっかじゃつまらないでしょ」
風春 「ナックル…岡田さんの指示通りに動け」
岡田 「風春のシャドウ、岩窟の隣においで」
シュンッ!
するとナックルは風春の前から離れると瞬時に岩窟の横に移動した。
紫猿 「何かするつもりか……´´円輪´´」
紫猿はナックルが移動する間に、両手をマットに付き左足の先をコンパスの鉛筆の様にして半径1.5メートルをくるりと回してマットをなぞる。
ズンッ
すると、紫猿の足元半径1.5メートルの範囲のマットが漆黒に染まる。
岡田 「´´融合´´、岩窟と風春のシャドウを融合する」
岡田が言葉を告げた後。
横に立つ岩窟とナックルの姿が重なり始めるとふたつの身体がぴったりと被さった。
ボシュシュウゥウゥウゥウッッ!!!
その瞬間。岩窟とナックルから灰色の煙が溢れだすと一瞬で隠れてしまった。
岡田(心の声) 「よし、ここまでは順調。後は融合の順応に1分位か?…そこさえ凌げば勝機は確かだ。俺が出したこの´´ランダムハンマー´´でアイツを食い止める」
´´ランダムハンマー´´
それは、岡田のコマンド入力により隠しツールとして影から取り出したアイテム。黒い大きなハンマーに突き刺さる長い棒。その棒に付いているスタートとストップのボタン。このハンマーは、ランダムに表示される数字をボタンを押して止まった数字が´´数字=重量´´の効果として発動する。また、このハンマーを持つ者には、ハンマーの重量が適応されずに使うことが出来る特別アイテムだった。
岡田 「スタート…」
棒に付いたスタートボタンを押すと、ハンマーの黒い部分に黄色く数字が表示された。
ランダムに動く数字。今度はストップボタンを岡田が押すとハンマーに表示された数字が´´2´´で止まった。
岡田 「2トンか」
岡田は右肩にハンマーを担ぐと紫猿に向かって走り出した。
ズビュッ!!
岡田 「!?、なんだ?」
その時。黒い何かが突如岡田に向かって飛んできた。スレスレでそれを避けた岡田は、飛んできた物を目で確認した。
岡田(心の声) 「チェーン?」
ガシャン!、チャラチャリチャラチャリ
岡田の横を通り過ぎた黒いチェーンが闘技場の金網に当たると、マットに落ちてゆっくりとどこかへ戻って行く。
その黒いチェーンは紫猿が発動したシャドウの力で黒く染まる円形のマットから伸びていた。
ビュンッ!ギュンッ!!ビュンッ!!!
岡田 「くっ!」
ダダダッ!!!
紫猿の足元黒色の円からは、次々に黒いチェーンが岡田と風春、融合をしている岩窟ナックルに向かって飛び出した。
走る岡田はチェーンから身を避けながら紫猿に向かってハンマーを振りかざす。
ダンッ!、、ブウンッ!!
紫猿 「なんだそのデカハンマーは」
紫猿は飛び掛かってきた岡田のハンマーをカラクリの木でコーティングされた左足で豪快に蹴り飛ばす。
ブウンブンッブンッ!!
ガシャアァアァアァア!!!!
2トンもの重さのハンマーが意図も簡単に岡田の手を離れて黒い金網に激突した。ぐにゃりとハンマーの形をそのままに跡を残した金網は、暫くすると元の金網の形に戻る。
巻 「この金網にも何か細工がしてあんのか?イカチーな!」
対して風春は、自分に飛んでくる黒いチェーンをなんとか避けると、岡田がハンマーを紫猿に振りかざしたと同時に紫猿に全速力で近付く。
ダダダダダッッ!!!!!
風春 「次は当てるぞ!´´雷拳!!!!´´」
バチ、バチバチ、バチチバチチッッ!!!!
風春の右拳に電撃が散り始めると黒い腕へと変化する。
左足で岡田のハンマーをさばいた紫猿は、後方から来る風春の方へ半回転すると、勢いをつけた左足で風春の顔面を狙った。
ブウンッ!!!
バギギギイィイィイィイインンンン!!!!!
場内に激しく電撃が弾ける様な音が響いた。
風春の雷拳が紫猿の蹴り出した左足のすねに激しくぶつかる。
風春 「!!?、がはっ!、(痛ぇ…なんだこのボコボコは…)」
紫猿は風春に足蹴りを加える直前、すねの部分を複雑な凸凹形状に変化させていた。その形はまるで野球のスパイクの裏の様な凸凹だった。
紫猿 「…くっ!、(なんだ?俺のカラクリの木が衝撃を弾けずに内側にまで電気みたいな痺れが走ったぞ…)」
その時
岡田の側を通っていた黒いチェーンの1本が動き出し岡田の右足に巻き付いた。
岡田 「!?、しまった!」
チュリィイィイインッ!!!
岡田の右足に巻き付いたチェーンが勢いよく岡田を宙に持ち上げ反対側にいる風春に向かって飛ばした。
バゴオォオオン!!!
風春 「!!?んぐ!」
岡田 「(なんて力だ…)、ぐはぁ!!」
チェーンによってぶつかった風春と岡田は、身体を黒い金網まで飛ばされ、もたれ掛かるも意識が朦朧としていた。
紫猿は風春達と少し距離を取ると、その場で姿勢を低くして構えた。風春と岡田を睨み、呼吸を整える。
紫猿 「…動くなよ」
ズズズッ
紫猿の両足が太くなり始める。
紫猿 「…´´飛脚´´」
紫猿が両足に重心をしっかりとかけ始める。
その足は先程よりも1.5倍の太さに変わり、凄まじい筋力が足の骨に纏う。
岡田(心の声) 「…頼む…まだか…」
融合をしている岩窟とナックルは灰色の煙に包まれたままだった。
すると
岡田はマスクにデザインされたコントローラーのAボタンを1回だけ押した。
それは、´´融合´´した岩窟とナックルが出せるたったひとつの必殺技コマンドの最後の入力ボタンだった。
紫猿 「終いだ」
ドドシュウゥウッッッ!!!!
紫猿がマットをぐにゃらせるほどの強力な踏み出しで発射すると、ダーツの矢の如く両足の爪先を揃えて風春と岡田に向かって垂直に飛んだ。そして身体を回転させるとドリルの様な先端となってふたりに襲い掛かる。
ヒュッ!ビュンルルルルルルッッッッ!!!!!!!!
風春(心の声) 「…やべぇ」
岡田(心の声) 「諦めるな…最後まで」
ババシュゥウウンッ!!!!
その瞬間。
たった1秒に満たない時間の間に、融合を終えた´´岩窟ナックル´´が風春と岡田の目の前に現れた。
青く棚引く髪型。額に当てられた鉢巻。全身に黒い岩を鎧のように身に纏い、左の拳をマットに付いて参上した。
紫猿 「…まとめて殺ってやる」
回転しながらも進行方向を下目で見つめる紫猿は速度を増して突き進む。
ドリル状に回転した紫猿の鋭い両足が、風春達の1メートル前まで来ていた。
岩窟ナックルは低い体勢のまま右腕を後ろに引き、
強く拳を握った。
岩窟ナックル 「´´雷拳岩´´」
ふたつの声が重なり響く。
バキメキバキバキッ!
岩窟ナックルの握る拳に黒い礫が纏い始める。
バチン、バチ、バチバチバチバチチバチ…
更に岩窟ナックルの全身に電撃が散り始めると、その電撃が全て握った右の拳に集まる。
ギュルルギュルルルルルッッッ!!!!!
迫り来る紫猿の´´飛脚´´に岩窟ナックルの剛腕が狙いを定めて足の先端を殴り潰す。
ズギュバギュルリイィイィイィイインンンンッッッ!!!!
止まない紫猿の回転。
岩窟ナックルの右拳は紫猿の両足先端ど真ん中を突いている。
激しく飛ぶ火花に電撃音が鳴る。
だがその時、紫猿の飛脚によって周囲に飛び散った岩窟ナックルの拳に纏う黒い礫が、空中でピタリと一瞬止まると、
黒い礫は進行方向を紫猿に変えて勢いよく襲い掛かる。
シュ…シュシュ…シュシュシュシュシュッ!!!
ザク、ドク、ザクザク、ドッドドドドド!!!!!
紫猿 「ぐっ!…なんだ?…石が飛んできやがる」
紫猿は飛脚の攻撃を解除してマットに着地すると体勢をすぐ整え、岩窟ナックルに近寄り足蹴りに転じた。
紫猿 「´´連脚´´」
紫猿の凄まじい足蹴りが岩窟ナックルの全身に襲う。
だが、紫猿の攻撃は逆効果だった。
岩窟ナックルの全身に纏われた黒い岩を紫猿が足蹴りで砕くと、飛び散り細かくなった礫が全て紫猿に向かって飛び掛かる。
シュシュシュシュシュッ!!!!
ドスグスドドドドッ!!!!!
紫猿 「今度はコイツの身体の石が俺に…ぐふっ!!」
紫猿がひるんだ一瞬の隙。
岩窟ナックルは右拳に溜め込んだ電撃を、紫猿の土手っ腹にめり込ませた。
岩窟ナックル 「´´雷拳岩´´」
バチバチ、ババチチ、バチバチバチンッッッ!!!!!!
ドッゴゴォオオォォオオォォオオッッッッ!!!!!!
紫猿 「…!?!?…ガッハァア!!」
岩窟ナックルの雷拳岩の攻撃は、紫猿の身体を黒い金網をへこませるほど吹き飛ばした。
攻撃を受けた紫猿は意識を失い、
前に突っ伏して倒れる。
試合終了を認めた観客達の歓声と罵声が場内にこだまする。
ワアァアァアーー!
ワォアワァアァワアアーーーー!!
ブーゥブゥブウー!
ブーブーブーブーブーーーー!!!!
ザキン、ザキン、ザキン、
紫猿に歩み寄る岩窟ナックル。
ズバァアッ!
斬拳を紫猿の足首から伸びる影に振るい切り裂くと、岩窟ナックルは黒い霧となって消えた。
巻 「スゲェ!…やったなハル!ぶっ倒したぞ!」
ガラガラガラガシャアァアン!
闘技場の金網が一部開かれると、一目散にハルの元へ巻が駆けつける。
風春は意識を失い、
岡田はふらつく足取りでなんとか紫猿の側まで歩くと白い紙を影に落として影移しを済ませていた。
岡田 「…やった…な…」
バタンッ
岡田は立っている事が出来ずにその場で倒れてしまった。
直ぐに闘技場内に入ってきた救急スタッフ達により、風春、岡田、紫猿は救護室へ運ばれた。
巻は風春の側から離れずに一緒に救護室へ向かった。
場内マイク(志波) 「只今の試合、No.99の戦闘不能により、勝者No.115とNo.204のふたりと致します。尚、今試合に掛けられた金額及びNo.99の獲得賞金の合計金額3000万円は勝者ふたりに報酬金として進呈致します」
・・・
救護室に運ばれる紫猿。カラクリの木がコーティングされていた左足からは大量の血が流れていた。
その後から続いて救護室に入った風春達。
巻は風春についていたものの、救護スタッフにソファで待つよう指示を受けてやむ無く座ることに。
巻は右手に黒く染まった紙を持っていた。これは、岡田が紫猿の影移しをした際に回収し忘れた物を巻が拾った物だった。
巻 「そう言えばこれ何なんだっけか?」
と言って巻は顔もとに黒い紙を近付けた途端、巻の鼻に複雑な香りが入り込んでしまう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
一紫猿博巳・シャドウクラブに来る以前一
暗い部屋。なのかここは。俺には分からなかった。覚えているのは誰かに突然頭から布を被せられ、何かで殴られた所までだ。その後の記憶がない。
ガタン、ガタンガタンッ
揺れている。走行音か。そうか、俺は車の後ろに乗せられているのか。
頭がズキズキと痛む。身体が自由に動かせない。手足は椅子か何かに縛り付けてあるのか。
つまりは、車の荷台に俺はいるらしい。狭い気配が無いところ、トラックの中にでもいるのだろうか。
何故、こんな事になったのか。
心当たりはある。
暴力団の俺は、頭に頼まれて´´銀山´´と名乗る謎の組織にスパイとして入り込んだ。
それが潜入して3日前の出来事だ。
バレたにしては早すぎる。密告か、裏切りか。それとも全く見当も付かない奴等に捕まっているのか。
すると突然後ろから声が聞こえた。
銀山 「紫猿、、博巳…」
男の声だ。聞き覚えがない。
バッ
俺に被せられた布が外された。だが、変わらず視界は暗く辺りが分かりずらかった。
俺は声が聞こえた方を向いた。
銀山 「だぁーれだ。…て顔してるね。…それはねこっちの台詞だよ紫猿」
分からない。暗さに目が慣れていないせいで相手の顔が見えてない。
そう思っていたが、違う。
そもそも俺の目が誰かに殴られたのか何かで、かなり視界が悪くなっていた。目がズキズキと痛むのを今さら認識した。
銀山 「君にチャンスを与えよう。…自分が一体何者なのか、事細かに説明して僕達の命令通りに動くか。それとも…」
話を止めた男はおそらくトラックの荷台の壁となる部分を2回叩いた。
ゴンゴンッ
ガ、ガガァーーーーーーー!
俺の視界に明るい光が差し込んできた。
トラックのシャッターがゆっくりと開く。
視界不良の俺でも分かる。そこは高速道路のど真ん中。車が次々に速度を上げながら走り、鼠色のコンクリートはベルトコンベアの様にトラック荷台の下から新しい地面を吐き出している。
銀山 「時速90キロで走るトラックから椅子に縛り付けたまま道路に突き落とされる。…どっちが良いかな?」
すると、話していた男とは別の男ふたりが、俺の座っている椅子ごと開けられたトラックの荷台ギリギリの所まで移動させた。
チャリチャリチャリチャリン
金属音。
男ふたりが移動させた時に初めて俺の耳に入った。
銀山 「時間は30分だ。トラックと紫猿博巳に巻き付けた太いチェーンがちゃんと繋がっていられるかな?…」
俺は下を見た。腹には太いチェーンがぐるぐると巻かれていた。そうか、この音か。
俺は裏切らねぇ。誰が何と言おうが、俺を利用しようが口なんか割らねぇ。
ギギ、ギギィィ
俺の背もたれを男が少しずつ押し上げる。
俺の頭がシャッターが閉まっていた部分から外に出る。鼠色のコンクリートが夏のスコールの様にザーザーと音を鳴らしながら視界を流れ行く。
銀山 「さぁ…30分以内に答えを出すんだよ…」
そして男は俺の座る椅子を軽く蹴落とすと、俺は椅子にくくりつけられたままコンクリートの上に身を預けた。
ズッ!ガガガガガガァアァア!ズザザザーーーーーーーー!!!!
銀山 「うーーん。どうかな、どっちの方が持つかな?…カラクリの木は硬い…紫猿の身体はどうかなー」
焼ける様に熱い。既にボロボロに破けた俺のスーツが、更にコンクリートに擦れて破れてく。俺の耳には椅子と服が地面を擦る音と太いチェーンが金切り音を上げる音しか聞こえなかった。
俺はなんとか体勢を変えようと体重移動だけに頭を使った。
紫猿 「ん…んんっ!」
ガタンッ
銀山 「ほう…上手いこと仰向けになった」
俺は頭さえ上に上げていれば、椅子の背もたれ側がコンクリートの上を滑る状態に切り替えることが出来た。
後ろで縛られた手首のロープはコンクリートの摩擦力であっという間に外した。
10分。その位は経っただろうか。俺の体感だけじゃなんとも分からない。この木の椅子だって持った所でほんの4、5分と言った所だろう。
なんとか次を考えないと。
その時、俺は太いチェーンに引っ張られて身体を右に左へと振られた。
俺の顔スレスレを車が走り抜けて行く。
ありえねぇだろ。
人がトラックに引きずられてるのに、何の躊躇もなしで走り抜ける奴等の気が知れない。
まぁ。命乞い出来る程の身分も品格も無い俺が言う事ではないが。
俺は俺のやり方で生きていく。横に振られた俺は、縛られた足のロープもコンクリートを使って千切り、両手で椅子に捕まりながら、スレスレを通り抜ける車を足蹴りしながら体勢を整えた。
銀山 「そうか…君の抗う姿をまじまじと見ていたこちらが馬鹿だったな」
すると、トラックの中から俺を眺める男は胸ポケットから拳銃を取り出し俺に向けた。
パンパンパンッ!
紫猿 「んバカかッ!」
キイイィン、チィイイン!
躊躇なく飛んできた弾丸が、俺とトラックを繋ぐ太いチェーンやコンクリートに当たる。
俺は足で位置をコントロールしながらもがいたが、時間の問題なのは明らか。あの男にとって俺の存在なんてゴミ以下だと理解出来た。
だからって何も吐きゃしねぇよ。
ここで死んだらそれが俺の寿命だ。
俺に拳銃を向けた男が腕時計を確認した。
銀山 「…ふーーっ、なんと時間切れだ。…チェーンを切れ」
バチチンッ!!
チュリチュリチュリリィイィイィインンンンン!!
銀山 「…後で回収しろ」
90キロの時速で引っ張られる椅子にしがみつく俺の身体の速度が緩まった。そして俺を引っ張っていたトラックがどんどんと小さくなっていった。
チェーンが切られ、ニシキヘビの様にウネウネと動いていたがそれも途中でピタリと止まった。
俺は高速道路の真ん中で命拾いした。
今になって身体のあちこちが焼ける様に熱い。横を通りすぎる車の音とクラクション。煙草の1本でも吸えればと胸ポケットを叩いたが何もなかった。
そんな時だった。
獅子頭正毅 「よそ見すんなよ(笑)」
紫猿 「ぁあ?」
仰向けの俺の視界に、金髪と黒髪のメッシュの頭をした血気盛んそうな男が顔を出して立っていた。
高速道路のど真ん中で。
獅子頭 「車からアンタの事見てたんだよ…なんかトラックに引っ張られて面白い事やってるなーって…んでしばらく離れて、アンタ見つけたら生きてんじゃん(笑)」
道路に鳴り響くクラクションの音で俺の耳にはほとんど何を言っているか分からなかった。
ただ分かった事は、ずっとこの男はチューインガムを噛んでいた事だ。
獅子頭 「強運の持ち主に良い話がある。…まぁまずこれでも飲んで元気出しな…」
キュキュキュ
平たいウイスキー缶の蓋を男が開けると、仰向けの俺の口に液体を少しだけ注いだ。
甘酒みたいな味だった。
どうせならアルコール度数の高いウイスキーで胃を満たしてやりたかった。
獅子頭 「こりゃぁカラクリの木かぁ…ほうぅ。初めて現物を目にしたが、どこの誰がこんな貴重な代物を持ってやがった?」
紫猿 「…知らねぇよ」
俺は溝に捨てるような台詞を吐くと急な目眩に襲われて目を瞑った。




