ep5.カラクリの椅子編・7話
一シャドウクラブ・鷹取戦から1週間後一
風春は岡田、巻と共にタクシーに乗っていた。
鷹取戦で内臓の炎症、肋骨の骨折、胸部打撲の為シャドウクラブ近くにある病院で安静にしていたのだが。
風春の手には´´招待状´´と書かれたチケットが握られていた。
その招待状は、シャドウクラブ運営側が風春が入院中にシャドウクラブに来ていた岡田に渡した物だった。
´´No.115様
シャドウクラブ主催者・銀山の推薦により
現在、賞金王であるNo.99とのスペシャルマッチへ招待致します
シャドウクラブ御来場の際に、こちらのチケットを運営スタッフにお渡し下さい
それでは、No.115様の快いご参加をお待ちしております。
シャドウクラブ運営一同´´
招待状にはそう記載されていた。
巻 「ハル…俺が代わりに出てやろうか?」
風春の隣に座る巻が珍しく心配をした。
風春 「いや…大丈夫っす」
岡田 「相手は陽炎のメンバーだよ。無理は禁物」
風春 「だからこそ…ここで無理でもしないと来た意味が無いんすよ…」
タクシーがフクロウフォレストの前で停車する。
・・・
シャドウクラブ場内。満員の客席に包まれるなか入場した風春は、運営スタッフに招待状を渡すと岡田、巻と共に闘技場へ向かった。
風春からチケットを受け取った運営スタッフがインカムを使い´´No.115が来場しました´´と誰かに情報を送っていた。
一シャドウクラブ管理室一
志波 「わかった。闘技場に案内しろ」
志波がインカムでスタッフからの連絡に答える。
すると大画面テレビに場内カメラの映像が映し出されると、風春達の姿が捉えられた。
志波 「No.115が来場しました」
志波の報告を聞いた銀山が、少し微笑んだ顔でテレビに映る風春を見た。
銀山 「そうか…では、パーティーを始めようか」
志波 「ハッ」
一シャドウクラブ場内一
風春は闘技場に着くと、運営スタッフが早速ボディチェックを始めた。闘技場内は先程、試合が終わった模様で選手が退場する途中だった。
ドッドッドッドッ、ドッドン
重低音が流れる。
風春のボディチェックの途中で場内が突然暗くなった。
ガ、チャ
場内マイクにスイッチが入れられる音が鳴ると、志波の声が場内に流れた。
場内マイク(志波) 「只今より、スペシャルマッチを開催致します」
突如告げられたイベントアナウンスに、客席のシャドウ使い達が歓声を上げた。
ワアァアア!ワアアァアーーー!
ワアー!ワォアァアァアーーーー!!
場内マイク 「スペシャルマッチの対戦選手は……現在賞金王のNo.99。そして、シャドウクラブ運営側の推薦選手No.115の試合を行います」
場内は推薦選手と言う言葉に驚いた様子を見せていた。
場内マイク 「更に、今回だけの特別ルールと致しまして賞金王ひとりに対してNo.115の選手と場内にいる登録選手でダブルスを組んで戦って頂く事となりました。…そこでNo.115とダブルスを組む選手の発表を致します」
そのアナウンスの直後。闘技場の暗いマット上にプロジェクションが映され、数字がランダムに表示され始めた。
ざわつく場内は、新ルールの追加とダブルスで選ばれる選手の事で戸惑いを隠せない状況に陥っていた。
マット上に映される数字の動きが止まった。
場内マイク 「…No.204、No.204の選手は闘技場に入場して下さい。まもなく試合開始です」
No.204。岡田の番号が呼ばれた。場内では、岡田の存在を知る者達が試合結果の予想に入ると、勝敗の賭け金額を話し合っていた。
風春の応援の為に闘技場まで付いてきていた岡田と巻。
巻 「おーい。良くできたルーレットだな(笑)」
岡田 「…偶然とは思えないね」
岡田は場内スタッフにボディチェックを受けると闘技場に入場する。既に中には風春が入っており、岡田は風春の側に移動した。
風春 「お願いします」
岡田 「お兄さんとタッグで良かったよ。怪我の回復が全然出来てないでしょ?…2人なら勝ち筋はあるはずだ」
風春 「足は引っ張らないっす」
コッ、コ、コッ、コ、コッ
風春達の待つ闘技場へ紫猿の足音が段々と近付いてくる。
ヌゥッ
ボディチェックを既に済ませていた紫猿は、顔パスで金網の上部に頭がぶつからないように屈んで入場した。
紫猿 「…気まぐれにルール追加されちゃぁ困るよな。…そしたら俺にだって考えがある」
照明が徐々に闘技場を明るく照らし始める。すると紫猿は、胸ポケットから平たい銀色のウイスキー缶の様な物を取り出した。
キュ、キュ、キュ
紫猿は蓋を開けると口を付けずにゆっくりとウイスキー缶を斜めに傾ける。
トポ、トポ、トポ
黒い液体がウイスキー缶から姿を現すと紫猿の口に入って行く。
紫猿 「ん、んま、、よし」
すると場内の照明は闘技場を明るく照らし、3人の影が黒くマットの上に浮かぶ。
紫猿が飲んだのは´´怒りの蜜´´だった。
紫猿の内部では筋肉、五感、シャドウの力が増強され始めて行く。
その時
トンッ
紫猿の後ろに焦げ茶色をしたアンティーク家具の様な木の椅子が現れる。
その椅子に座り肩肘を付いた紫猿は、右手に持ったイチゴオレに刺さるストローを咥えた。
鋭い眼光で風春と岡田を見つめる紫猿。
風春(心の声) 「なんだ?…さっきまでとまるで雰囲気が違う…あの酒缶みたいなのを飲んでからか、空気に殺気が帯びるようになった」
巻は金網に近寄って観戦する。
巻 「おぉ…痺れるぜぇ…殺気ビンビンじゃねえか」
場内マイク 「只今より、スペシャルマッチを開始致します。試合は10分1ラウンド。勝利者にはこの試合に掛けられた金額全てと対戦相手が稼いだ報酬金を総取り出来る事と致します。お互いに異論が無ければ試合を開始して下さい」
ワアー!ワォアァアァアーーーー!!
ワアァアア!ワアアァアーーー!
場内のボルテージは最高潮を迎えようとしていた。
岡田 「お兄さん名前は?」
風春の方へ顔を向ける岡田。
風春 「あ、風春っす」
岡田 「風春ね。俺の名前は岡田だ、よろしく」
岡田は左の拳を風春に突き出した。
風春 「岡田、さん。やっと名前知れた。ぶっ倒しましょう」
ゴ!
風春の拳と岡田の拳が付き合わさった。2人は紫猿の方を向き臨戦態勢に入る。
風春 「ナックル!」
´´キャラクタチョイス´´
岡田のマスクから野太い声が発した。
岡田 「´´ハッスル´´で行く」
ボシュウゥウゥウゥ!
ブシュウウゥウウゥウッ!
風春の横にはナックルの姿が。そして岡田の前にはハッスルが姿を現した。
チュー、チュー
紫猿は立ち上がりイチゴオレを二口飲むと紙パックを椅子の上に置いた。
紫猿 「…やっぱりこっちの方が断然美味いな」
そう言って紫猿が風春達の方へ顔を向けようとした時。巨体のハッスルが太い剛腕を紫猿に向かって繰り出した。
ブォオォオォオワアァアッ!!!
スッ
紫猿 「おぉ…危ねぇ」
紫猿は瞬時に頭を下げて避けるとハッスルの剛腕が横切る風が紫猿の黒いスーツを揺らす。
すると紫猿は上体を低く構えると両手をマットに付けて右足に力を入れた。
紫猿 「´´連脚´´」
ズドゴドドドゴゴゴッ!!!
ハッスルの脚部を狙って紫猿の素早い右足の連続蹴りが入る。
紫猿 「?」
ハッスルの脚部はまるで固いコンクリートの電柱を蹴っているかの様にびくともしない。
ハッスルが紫猿の左足を掴むと宙に投げた。
ブウンッ!
紫猿 「少しは手応えがありそうな奴だな…」
ハッスルは放った紫猿が落ちてくる所を狙ってもう一度、右の剛腕を後ろへ引いて待ち構える。
すると、紫猿は空中に投げられた状態から軽い身のこなしで体勢を整え始める。
上体は緩やかに左回転を始め、その動きに少し遅れるようにして下半身の力強い足がしなるように同じく左回転を始める。
紫猿の身体がハッスルの元に降りてくる。ハッスルは剛腕をジャストタイミングで紫猿の鳩尾を狙って振り出した。
紫猿 「´´空・脚遊´´」
落下と共に回転速度を上げた紫猿の身体は、太く勢いのある両足の回転蹴りでハッスルの剛腕を蹴り落とし、更に顔面、肩に連続蹴りを打ち込んで行く。
シュルシュルシュルルルルル!
ゴキ!ゴ!ガッガッ!ズドゴゴゴッ!
スドドドドドドドドッッッッ!!!!
一気に紫猿の連続蹴りを食らったハッスルは戦闘不能に陥り巨体をマットに倒した。ハッスルは黒いコインに姿を変えるとチャリンと音を鳴らして黒い霧となって消える。
岡田 「今だ」
風春 「っし!ナックル行くぞ!´´斬拳!!´´」
ブンズバァアァアッ!!
紫猿がハッスルへの攻撃を終えマットに着地する瞬間。風春の斬拳が黄色い三日月状の斬撃を放ち襲い掛かった。
紫猿 「ぁあ?」
紫猿が風春の斬撃を確認すると、左足を軸にして強烈な一蹴りを繰り出した。
バシチィリィッシュウゥウゥ!
風春 「!?」
風春の斬撃は紫猿の足蹴りによって打ち消された。
紫猿 「ちまちま戦ってんじゃねぇ…お前らまとめて掛かって来いよ」
岡田 「…風春、近距離戦で行く。援護する行けるか?」
風春 「もちのロンですよ!」
ズガン!ズガン!ズガンッ!!
風春は左右の拳をマットに叩き付ける。
風春(心の声) 「力めねぇ…ちくしょう!まだ身体が動く内に終わらせる…短期決戦だ!」
ダダダダッ!
風春が紫猿に向かって思い切り走り出す。
´´キャラクタチョイス´´
ボシュッボシュボシュシュシュッ!
岡田 「´´shinobi´´で行く。影分身でサポートしろ」
走る風春の周りに忍者達が並走して紫猿に向かう。先に忍者達がマットを蹴り上に飛ぶと手に握るクナイを紫猿に飛ばす。
紫猿 「足休ませっか…」
ガッ
と言って紫猿はイチゴオレを置いた椅子を掴むと、椅子の台座部分でクナイを防いだ。
カカカカカンッ!
飛んだクナイは紫猿の構えた椅子に当たるも弾かれてマットに落ちる。
岡田(心の声) 「なんだあの椅子?クナイが刺さらない…」
走り込む残りの忍者達と風春は紫猿を取り囲むと、一気に打撃を繰り出して行く。
シュシュシュシュシュシュシュ!
ドッドッドッ、ガッガッガッ!!!
次々に繰り出される風春と忍者達の拳や足蹴り。だが、紫猿はその攻撃を巧みに避け受け流し長い足で打撃を打ち返して行く。
紫猿 「フン、、フン、、遅ぇ」
紫猿の足技を食らい消え行く忍者の中に、ひとりだけ残った忍者が紫猿に煙玉を投げ付けると玉が破ぜて紫色の煙が紫猿の上半身を包んだ。
岡田 「よし」
風春 「行くぞナックル」
煙玉を投げた忍者の真後ろに現れた風春が、右の拳に´´雷拳´´を発動させて煙にまみれる紫猿に向かって飛び掛かった。
バチバチ!バチ、バチバチチッ!!
電撃が音を鳴らし右の拳に帯びる。
風春 「´´雷…!!?´´」
風春が雷拳を紫猿に打ち込もうとした瞬間。紫色の煙の中から、黒い足が姿を現し勢いよく風春に向かって伸びる。
ドゴッ!!
風春 「ングッ!!」
風春の左耳に紫猿の右足蹴りが決まる。風春はマットに手を付くとすぐに身を引いて紫猿との距離を取ろうとした。
だが、紫猿はそうさせなかった。
紫猿 「攻め方は面白い。だが、ただの子供騙しだ」
紫猿は風春がマットに付いた手を足で蹴り払うと風春の胸板に一蹴りを加えて無理矢理起き上がらせる。
更に左足を軸にして強烈な右足の連続蹴りを風春の頭から膝にかけて乱れ蹴りを加えて行く。
トッドォッ!、ゴゴ!ドドドドドドッ!
ドガドグドゴドッドッドッドドドゴゴッ!!!!!
防御しきれず紫猿の足蹴りをもろに食らう風春は、ただ身体を後ろへよろめかせる事しか出来なかった。
風春 「!、!、!!?」
ズガシャァアァアァアンン!!!
風春は勢いよく後方の金網に身体をぶつける。
´´キャラクタチョイス´´
岡田 「´´岩窟´´闘えるか」
心配な声でキャラクタの選択をした岡田。岡田の影から岩を出現させながら岩窟が黒い石を身に纏いながら現れる。
岡田 「…回復しきれていないか。すまない…ここが踏ん張り時なんだ、行こう!」
岩窟は岡田の横をゆっくりと通り過ぎると、紫猿を鋭い目付きで睨んだまま向かって行く。
紫猿 「あぁ。…お前か、まだやられ足りなかった?」
と言うと紫猿は後方に置いてある木の椅子まで歩く。
そして、左足を椅子の台座の上に乗せた。
紫猿 「´´木椅子´´」
バキッ
紫猿が言葉を発した途端。木が割れる音がすると、その音の通り紫猿が乗せる椅子の台座が割れて凹んだ。
パキバキパキバキキキ、
カキカチカキカチカキカチ
すると、割れて凹んだ木材が意志を持ち始めた様に紫猿の左足に纏って行く。本来存在していた木の椅子は徐々に骨組みを変え、紫猿の左足の爪先から太腿の付け根までを木材で完全にコーティングした。
ガチン!
岡田(心の声) 「コイツ…鎧式タイプのシャドウ使いか…」
ダークブラウンに染まる紫猿の左足。
紫猿は岡田に向かって指を指した。
紫猿 「お前は戦わねえの?…」
岡田 「くっ…」
コッ、コ、コッ、コ、コッ
紫猿は岩窟との距離を徐々に縮める。
ド、ドンッ!!
風春 「ンゴホッ!、、まだ終わってねぇぞっ!!」
金網にもたれかかってほぼ意識が飛んでいた風春が、現世に意識を取り戻すと自らを奮い立たせるように、左右の拳をマットに殴り付けて叫んだ。
紫猿 「ぁあ?」
紫猿は後ろで立ち上がる風春に顔だけを向けた。
岡田(心の声) 「行けるか?…このタイミングしかないよな……コマンド入力」
すると岡田はコントローラーデザインのマスクに指を走らせる。
それは岡田の出せる技の隠しコマンドの入力手順だった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
一岡田哲也・中学3年生の頃一
俺はよく行くゲームセンターで友人とスナック菓子を沢山買い込んでゲームをするのが日課だった。
サク、サク、サクサク
畑山 「げぇっ。コイツ苦手なんだよなー」
大画面に映る格闘ゲームを横並びで遊ぶ俺と畑山は、コントローラー盤の空いているスペースに開けたポテトチップスの袋に手を突っ込みながらゲームをしていた。
岡田 「ん?…あーソイツかぁ。俺も初めは手こずったなー」
畑山 「コイツのハメ技に引っ掛かると長くて嫌なんだよなー!」
岡田 「…じゃあ1つだけヒント教えようか?」
畑山 「え?あんのかよ攻略法なんて」
岡田 「ソイツの飛び道具は前にしか使えない」
畑山 「そんなの知ってるよ!ジャンプしても避けられないから困ってんだろー」
岡田 「そう。そこなんだよ思い込みは……上に逃げるしかないと思ってたら勝てないよ」
畑山 「はあ?……はぁ、、上がダメで。って、あとやるとしたら。下って、スライディングしかないぞ……」
サク、サク、サクサク
悩む畑山を横目に俺は忍者のキャラクタでムキムキに仕上がった強敵をコンボ技で倒し、気持ちよく次のステージへ進んだ。
その時だった。
ダンッ!!!
神成高校男子生徒 「おおぉおい!!!どう言う事だよ金が払えねぇってのは?」
横地 「そ、そんなっ…最初っから僕は払わないって言ったのに…」
俺と畑山がいるゲーム台から離れた場所で、金髪に染めた髪型の不良高校生が俺と同じ制服の学生にたかっていた。
岡田 「おい、今あそこでたかられてるの俺達の中学じゃねえか?」
畑山 「ん?…やめとけ。あの金髪の野郎、神成高校の奴等だよ。度々色んなゲーセンで弱そうな奴に金せびって回ってるって話だぜ」
岡田 「あそこのゲーム台、ウチラのゲームと同じソフトだなぁ…ちょっと行ってくる」
と俺は席を立ちスタスタと金髪不良高校生3人組に俺と同じ制服を着る男子学生の所まで向かった。
岡田 「あのー…」
神成高校男子学生 「あ?こっちは今立て混んでんだよしばかれてえのか?」
岡田 「いや、違うんす。コイツ、俺の友人なんすよ」
と俺は嘘をつき席に座る男子学生の隣に座って肩を組んだ。
岡田 「お前何年?」
横地 「え、、3年だけど」
岡田 「マジ。じゃあ同い年じゃん。その制服ウチの中学だよな。名前は?」
横地 「そ、うん。え、横地」
と肩を組んで横地と顔を近付けてヒソヒソと情報を聞き出した俺は、横地から事の経緯をざっくりと聞いた。
話に寄れば横地は、学校帰りにいつものゲーム台で遊んでから帰ろうと寄ったものの。そこへ金髪不良組が賭けゲームを横地に強制参加させて格闘ゲームに負ければ5000円払わなければ帰さないと言われた挙げ句、横地は先程ゲームに負けたらしい。
俺が横地から話を聞いている間、金髪不良組はスマートフォンで誰かと電話をしている様子だった。話を聞き終わるタイミングで向こうもスマートフォンをズボンのポケットにしまったので俺は話を切り出す。
岡田 「もし良ければなんですけど、俺が横地の負けた5000円肩代わりするんで、先輩と僕でゲームをして僕が勝ったらその5000円帳消しにしてもらえませんか?」
神成高校男子学生 「あぁ。別に良いけど…もし、お前が負けたら倍払って貰うぞ」
岡田 「じゃあ、負ければ1万円」
神成高校男子学生 「そう。じゃあ座れ、腹減ってんだ早くやるぞ」
俺はさっきまでやっていたソフトと同じ格闘ゲーム台の前に座った。横地は席を俺と交換し隣で見守る。金髪不良組は反対側の台にひとり座り、残るふたりは台を挟んでレフェリー役として学生カバンを椅子代わりに座った。
神成高校男子学生 「ゲームは1試合2ダウン先取で勝敗を決める。泣きの一回なんか無いからな」
岡田 「わかりました」
と言うとお互いに100円を2枚入れてキャラクタ選択をする。
俺は使い慣れた忍者を選び、対する向こうは学ランを着た金髪男子を選んだ。
岡田 「ヤンキーか。ちょっとクセはあるが天敵ではない」
´´fight´´
の文字が画面に現れ直ぐにゲームが始まった。
序盤は互いに距離を縮めずに相手の技の特徴を掴もうとしていた。
だが、俺は相手の使うヤンキーの攻略を既に理解していた。ヤンキーの得意技は急に相手の懐に入り込んで胸ぐらを掴み蹴りあげる´´ドラァ蹴り´´。と俺は勝手に呼んでいるのだが、要は掴み技を得意とするキャラクタ。掴ませなければ勝てる、と言う話ではなくここはわざと相手を懐に誘導する。その後に、近距離でこちらの連続技を繰り出せれば相手に避けられる確率が低い状態で攻めに転じれる。
わかっていた俺は、ヤンキーにわざと技を成功させて蹴りあげられた。
横地 「あぁ…やっぱりダメだ」
岡田 「黙ってろ」
俺はヤンキーに胸ぐらを掴まれた瞬間から、忍者の隠しコマンドを入力し始めていた。
それは´´忍術・召喚´´のコマンド。これはこの格闘ゲームに登場するキャラクタをひとりだけランダムで召喚し、忍者とふたり同時で攻撃を繰り出せる連続コンボ技。
岡田 「よし。…決まりだ」
俺は忍者が蹴られた後に起き上がった瞬間に隠しコマンド最後のボタンを押して成立させた。
岡田 「…あれ?何も反応しない…」
チラッと横を見た俺は、黒いコードの先に付いたコンセントを持ったレフェリー役の同じく金髪不良と目が合った。
再びゲーム画面に目線を戻した時には´´KO´´の文字が表示され、相手に1勝を与えてしまった。
レフェリー役神成高校男子学生 「間違えてコンセント抜いちまった…」
岡田(心の声) 「どうりでコマンドが反応しない訳だ」
神成高校男子学生 「おい!変な事すんな!オモロくないだろ!次やったらお前からも金貰うからな!」
レフェリー役神成高校男子学生 「はーい」
そうすると直ぐに2ラウンド目が開始される。
ここは俺の使う忍者の連続技が見事にヤンキーに決まりKO勝利を収めた。これでお互い1ダウンずつ取った。
次が最後のラウンド。
俺は不良が好きとか嫌いとかではなかった。ただ単純に弱いものいじめをする奴らが気にくわなかった。
だから、この試合どうしても負けるわけにはいかないと決めていた。
神成高校男子学生 「そう言えば、1ラウンド目の時にコマンド長いこと打ってなかったか?…隠し技でも狙ってたのかー?」
岡田(心の声) 「チッ、気付かれた。…もう隠しコマンドでダウンを狙うのは難しいな。…だとしたら一撃で終わらせるしか勝ち目はない。ってなったら超難易度のコマンド入力しか、ないよな…」
この格闘ゲームの全キャラクタに備え付けられている超難易度の必殺技がある。
だがそれは繰り出す技の中でも一番コマンド入力が長くプロのゲーマーでもミスなく入力を出来る者は一握りの数だけ。
´´final round´´
ゲーム画面に最後の試合開始の表示が現れた。
俺に迷ってる時間はなかった。この必殺技の長いコマンド入力中は、防御が疎かになる為、体力ゲージをギリギリまで消費してしまう諸刃の剣。
試合開始早々俺はコマンド入力を始めた。向こうも負けられないラウンドなだけに初めから攻めに転じて来る。相手に必殺技ゲージを貯めさせる前に必殺技を繰り出さなければ。
俺はパズルのピースを1つずつはめて行く様にコマンドボタンを入力して電子盤に記憶させて行く。相手から攻撃を無駄に受けてしまうのは想定内。このコマンド入力は、例え相手に殴られようが飛ばされようが無効化されないシステムだ。大切なのはスピードと正確さ。コマンド入力さえ間違えなければ一発逆転できる必殺技だ。
横地 「負ける。やっぱり無理だよ、帰ろうよゲージが赤にまでなっちゃったよ」
岡田 「黙って見てろ!ギリギリまで諦めんな!」
その時
相手の使うヤンキーが忍者の胸ぐらを掴むと妙な閃光が画面に走った。
忍者はヤンキーに投げ飛ばされる。
岡田(心の声) 「?、なんだ今の?」
それでも俺はコマンド入力を止めなかった。
俺の体力ゲージが残り1ミリの所で止まった。
忍者は立ち上がるも、頭の上にキラキラと星がクルクルと回り気を失っている。
神成高校男子学生 「悪いな!これで決まりだ。裏コードを入力した。諦めろ、俺の技からは逃げられない」
岡田(心の声) 「…?裏コード?ヤンキーのキャラクタ設定にそんな技隠されてるわけがないだろ……でも、実際の所は俺もわからない。そもそも裏コードなんてのは本来のゲームソフトを狂わせバグを起こす反則技…まぁだからと言って今さらゲームをリセット出来る相手じゃないのは分かってる。大丈夫だ…この距離を縮められる前に気絶から戻ればギリギリ入力が間に合うはず」
´´忍術・融合´´
俺の使う忍者の最終奥義。この技はランダムで召喚されたキャラクタが忍者自身と融合をして必殺技の攻撃力を2倍に高める隠し技。
ヤンキーの身体に青いオーラが漂っていた。
これはいつでも裏コード技を発動出来る状態。
ふらつく忍者。
カチャカチャガガチャチャカチャカチャチャ!
岡田 「起きろ、…起きろ、…これで…入力が……終わる…」
俺は長いコマンド入力の最後のボタンに指を乗せて忍者の気絶が消えるのを待った。
ビュキイィイィィイイン!!!
神成高校男子学生 「決まりだ!」
ヤンキーが裏コード技を発動させた。
その時。忍者の頭の上にキラキラと回る星が消える。
カチャン
俺は最後のボタンを押してコマンド入力を完成させた。
ドドロンッ!!
俺のコマンド入力により忍者の横に現れたキャラクタは岩窟だった。
´´忍術・融合´´
忍者と岩窟のふたつの姿が重なる。
ヤンキーの発動した裏コード技はストップをかけられ、ヤンキーは右の拳を後ろに引いた状態でぷるぷると震えながら固まっている。
神成高校男子学生 「おい!何だよ動かねえぞ!!」
キュウイィイィイィイイインンッ!!!!
超難易度の必殺技コマンド入力が完了し、必殺技発動の高音が鳴り響くとまばゆい光が融合した´´忍者岩窟´´に入り込む。
恐ろしい程の連続コンボ技を忍者岩窟が残像を残しながらヤンキーを襲う。
一気にヤンキーの体力ゲージを奪い、技が終わりきる前にゲーム画面に´´KO´´と表示が出た。
・・・
勝った。はずだった。
俺と横地は、ゲームセンター裏手にある汚いコンクリートの上でボコボコに殴られて倒れていた。
横地のズボンのポケットから、くしゃくしゃに丸められた5000円札が少し顔を覗かせていた。
岡田 「…はぁー。痛ってぇ」
横地 「…ごめん。ありがとう…」
岡田 「あぁ。なぁ横地…今日から俺達友達な」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
一現在・シャドウクラブ闘技場内一
岡田はマットに片膝を付いてしゃがむと、自分の影の中からゲームセンター専用のコントローラー盤を取り出した。
岡田 「1分で充分だ…岩窟、耐えてくれ」
岩窟は固く強い闘志で紫猿に向かう。
その意志は風春も同じだった。ふらつく風春の前に移動したナックルが強く拳を中央で掴む。
・・・
シャドウクラブ管理室から紫猿達の戦いを大画面テレビで銀山は見ていた。
銀山 「カラクリの木は硬い…」
・・・
紫猿は立ち止まり首を右に傾けてポキッと音を鳴らすと顔を元に戻す。
紫猿 「とっとと終わらそうぜ」
紫猿はマットのほぼ中央に立ち、その前には岩窟と岡田、後ろにナックルと風春が攻める瞬間を待ち構えていた。




