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遊園地

 地下鉄で得た地図の通りに進むと確かに見た事の無い物ばかりが建築されている不思議な場所へと辿り着く。車を停めてカイに着いた事を告げるとゆっくり顔を上げて目の前の光景に目を瞬かせる。

「降りるぞ」

「変な物ばっかりあるね」

「何だか分からないな」

 入口も今までの建物と違い大きな扉は巨人のためにでも作られたのかと思う程に大きく更に“ようこそ”の書かれた扉を抜けると小さな家のような建物があったと思うと大きな家もある。かと思えば屋根はあるがそこ以外は何も風を遮る壁は無く中身がそのまま剥き出しになっている建物もあった。

「何だこれ」

「遊園地ってたくさん遊べる場所みたいだけど」

「ここでどう遊ぶんだ…?」

 知らない物ばかりでここでどうしていいのか分からない。字のごとく遊べる場所ではあるのだろうけど遊び方の説明が欲しい。一つ一つ見て周りろうとなりまずは入口から一番近い小さな家を調べる事にした。

「チケット売り場だって」

「チケット?」

「大人はこのぐらい、子どもはこのぐらい払って遊べるらしい」

「ここに来たら自由に遊べるんじゃないの?」

「そう言う訳にはいかないらしい」

「…遊ぶのにもお金が必要なんだね」

「確かにぬいぐるみ取った時もお金使ったもんな」

 過去に熱中した事を思い出しながら家の中を調べるとこの遊園地の案内だと言う紙が見つかった。室内で保存されていたためか綺麗な状態で残っている。

「どれどれ…」

「メリーゴーランド…夢の馬車や素敵なお馬さんに乗って素敵な一時を…」

「…お馬がいるのが?」

「どこに?」

 示された場所に行くとそこは先程見た屋根はあるが中身が剥き出しの奇妙な建物。屋根の下に行くとこの紙に書いてある通りなら夢の馬車や素敵なお馬さんがいるらしいが今自分達の目の前にあるのは作り物の動物に明るい色をした奇妙な形の乗り物。

「…これが?」

「お馬さんってこんなの?」

「確かにまあ…見た目は図鑑で見たのと似てるが…俺が知ってる馬とは随分色が違うと言うか…」

 昔図鑑で見た馬と博物館で見た馬とは確かに似ているがそちらは茶色や白であったのに対して今目の前にある馬らしきそれは白に桃色、更に水色など見たことの無い色をしており角まで生えていた。

「俺が知らないだけで新しい馬か?」

「作り物だけど…誰が作ったんだろう。作った人はこんなカラフルなお馬さんに会ったのかな?」

「会ったのか?夢とかじゃないか?」

自然に溶け込む色じゃないだろ。

「カイ。紙に書いてある通りならこれに乗れるらしいぞ?乗るか?」

「やだよ。恥ずかしい」

「それじゃこっちの馬車?は」

「まあそれなら」

 馬とは別の何とも素敵な色合いの馬車とやらに座って見る。冷たい椅子に向き合って座って紙に書いてある通りであれば素敵な一時を味わえるらしいがこれがそうなのかとお互い首を傾げる。

「楽しいかこれ?」

「よく分からない」

「何でこんな物が…あ」

「何?」

「…このメリーゴーランド…小さなお子さま専用だって書いてある」

「…なるほど」

 そこそこ大きい自分達には楽しめない訳だと納得してメリーゴーランドを後にする。しかし本当に小さな子どもであったとしてもあそこに乗るだけで楽しめるものなのだろうか。

 遊園地の中を歩いていると駅や地下鉄で見かけた線路と似た物があるのに気付く。

「電車が走るの?」

「いや…それにしては…」

 その線路の行く先は明らかに空中だった。

「空に放り投げられるぞ」

「電車…じゃないけど乗り物っぽいのはあるね」

 空中に舞う線路の上にあるのは確かに座席は設置されているため人が座ることを想定しているのだろうけども、その乗り物は座席があるだけで屋根も何も無い。メリーゴーランド同じく剥き出しだ。座席はあるためカイが座り隣に座るとこの乗り物は何なのか紙を広げる。

「ここは何て所?」

「えーっと…ジェットコースター…」

「初めて聞く名前だ」

「凄まじいスリルとスピードに病みつき…」

「スリルとスピード?」

「迫力満点…空中で連続三回転」

「空中で連続三回転…?」

「カイ、降りよう。離れよう」

「動かないじゃん」

「もし動き出したら俺達空中三回転だぞ!」

 よく見てみるとこの乗り物に乗った人達が確かに空中を走る線路に沿って回っているのが分かった。慌ててカイの手を引いてここから離れる。今は動いてないにしても動き出した事を考えたら恐ろしいことこの上ない。

「どんな場所だ…何でそんな怖い思いをわざわざするんだ…」

「昔の人って平和過ぎたから逆にそう言うのが欲しかったんじゃない?」

「理解出来ないな…」

「…あ!見てよあれ!」

「先に行くなって!」

 意味の理解出来ない乗り物ジェットコースターから離れるとカイは何かを見つけたのか走り出す。その後ろ姿を追って行くと驚くことに巨大なコーヒーカップがあった。

「何だこれ!」

「でっか!」

「…どう言う乗り物だ」

 この遊園地はどうやって遊ぶか分からないものが多過ぎる。カイを追いかけて少し息が切れてしまったので適当な所に手をかけると何かを押したような感触がした。

「…ん?」

「どうしたの?」

 既に巨大なコーヒーカップの中に入っているカイが不思議そうな表情をして見つめたその時、何かが起動するような音が聞こえたと思うと音楽が流れ出した。

「え?」

「え?何か始まった?」

「やばい…変なボタン押したかも?」

「ジンが珍しいねえ」

「呑気な事言ってないで」

 コーヒーカップの中で寛ぐカイの元に駆け寄ろうとすると床が動き出した。よろけて転びそうになったのを何とか踏みとどまるが巨大なコーヒーカップが音楽と共に回り始める。

「何これ!何これ!」

「あっははは!回ってる!」

「どういう乗り物だよ!」

「ジン!こっち来てー!」

「床も動いてて簡単に行けない…!」

 カップの中でわざとらしく笑っているカイの元に行こうとも床もコーヒーカップもあちらこちらに動くせいでなかなか思う方向に進めない。そう思っていると音楽が変わり何かと思うと立体映像が飛び出してよく分からない色とりどりの生物がコーヒーカップの周りを踊っていた。

「えー!面白い!」

「面白くない!!」

「あ、でもジン近くに来れたよ」

「え?あぁ…」

 訳の分からない間にいつの間にかカイのコーヒーカップまで来ていたらしく手を引かれてようやく同じくコーヒーカップに座る。その周りで図鑑でも見た事無い生物が笑いながら飛び回りこちらがこの乗り物に振り回されていた事など分からないようにただただ笑っていた。

 音楽が止まりようやくコーヒーカップも動きを止めた。カイに手を引かれてふらつきながら歩きどこか休める場所を探そうとカイが遊園地の紙を見るとレストランがある事を見つけた。

「何か飲み物とかでも残ってればいいねえ」

「あー…そうだな」

「ねえジン」

「ん?」

「ずーっと見えてるあの乗り物…」

「何?ジェットコースター…?」

「違うよ。その後ろに隠れてるの」

 カイが指を差した方向にあるのは円形の形の乗り物だ。扉と窓がある小さなこれまた丸い乗り物が等間隔で円形の建物に付いている。

「後で調べるか…」

「うん」

 空の向こうまで見えそう。

 そうカイは独り言のように呟いた。


 レストランの中は綺麗に残っていた。窓はひびが入っていたがそれ以外は特に気になる部分は無く。椅子に座りテーブルに突っ伏しているとレストランの中を探索していたカイが戻って来る。

「じゃーん。フルーツジュースと保存用パン」

 ボトルに入った飲み物と缶に入ったパンをいくつか持って戻って来た。食器も綺麗に残っていたらしく鮮やかな色のグラスにフルーツジュースを注ぐ。

「飲める?」

「飲める…」

「気持ち悪い?」

「さっきはな…今は平気だ」

「それじゃ飲んで?」

「ん…」

 注がれたフルーツジュースを一口飲む。甘い、けども酸味もあるその味に息を吐く。カイも一口飲んで息を吐きテーブルの上にこの遊園地の案内を広げる。

「色んな乗り物があるね」

「そうだな…」

「見てよ。高い所から一気に落ちるなんて…これもスリルを味わえるって」

「だから何でわざわざそんなの…」

「だから平和だから求めたんじゃない?」

 日常では味わえないそれをわざわざ味わいにやって来る。思えば水族館もそうだ。深い海の中には行けないから日常ではイルカショーに遭遇する事など無いからそれを求めてやって来る。

「…こう言う建物って…平和の象徴みたいなもんかな」

「そうかもねー」

「今日が絶対平和だから…遊んでられるんだろうな…」

「かもね…」

 そう結論付けて椅子に深く座る。レストランの窓から差し込む光が温かくここのところ眠りが浅かったのもあり一気に眠気が襲う。

「…カイ、ちょっと寝る」

「ん。分かった」

「遊園地見てもいいけど…乗ったりするなよ?」

「分かってる」

 あまり信用出来ない返事を聞いて目を閉じるとあっという間に眠ってしまった。

(…ここに来てた子どもも)

 こんな風に普段は体験する事が出来ない事を体験して楽しんで次は次はと走り回っていたのだろうか。そして疲れて眠ってしまう。

 もういない両親がまだ生きていてこの世界もまだ機能していればあの博物館に水族館にこの遊園地に子どもの頃に手を引かれて訪れただろうか。

 そして今の世界で会った人達は平和が続いていればきっと会う事は無かっただろう。

(すれ違うぐらいはあるかもしれないけど…)

 そう何度もこうであったらこうだろうかと言う存在しない世界を考えていた。


「……」

 目が覚めると窓から差し込む光が昼間の光ではなく夕方の赤い光に変わっている。

向かい合うように座っていたカイの姿は無く、やはり遊園地の中を見ているのかとすぐに分かりリュックを背負い外に出る。

 昼間の明るい内にあった遊園地と夕方の明かりが包む遊園地の雰囲気は違う。影が伸びて今日はもう終わりだと言う寂しい声が聞こえるような雰囲気だった。

 動く事の無いメリーゴーランドに誰も座席にいないジェットコースター。

 何回回ったのか分からないコーヒーカップが夕方の光を浴びて色を変える。

「…ん?」

 そんな中何処からか軋む音が聞こえた。

 金属の何か揺れるような音に耳障りの悪い軋む音。その音の方向が分かり歩いていくとカイがいた。

「カイ」

「…ジン」

「これ…動いたのか?」

「観覧車って言うんだって…適当にあったボタン押したら動いた」

「適当に押すなよ」

 あの円形の建物、観覧車はゆっくりと回っている。その回る姿をカイは黙って見つめていた。

「カイ」

「ん?」

「乗るか?」

「え?」

「これでいいか」

 そう言って丁度自分達の前に来た乗り物の扉を開けて飛び込むように乗る。カイもそれに慌てて着いて来た。

「ねえジン」

「何?」

「…ジン。高い所苦手じゃん?」

「苦手だよ」

「なら何で乗ったの?これすごく高い所まで行くよ?」

「カイは好きだろ?景色が向こうまでよく見えるから」

「…うん」

 観覧車の中は固い座席が用意されているため。広い窓が上がって変わっていく景色をどんどん変えて見せていた。

「震えてるじゃん」

「…だな」

「本当に…何で乗ったの?」

「…何でだろうな?」

 ここから落ちたら乗り物が止まったらと思うと普段なら絶対に乗らないはずなのに、それでも観覧車に飛び乗ったのは単純にカイが好きそうな乗り物である。

 それだけだ。

「…あのね」

「うん」

「まだ寂しいし悲しい」

「分かってる。そんなすぐに吹っ切れるものじゃないし」

「カナエが夢に出てくるんだよね」

「うん。たまに夜に泣いてるからそうだろうと思ってた」

「…起きてたの?」

「俺も眠りが浅かったから」

 運転をしていて助手席で無表情に窓の外を見ていたり上の空。まだまだカナエの事を思っているのだからそれはむしろ当たり前で何も後ろめたい事じゃない。

「ごめん。元気付けようとしてくれてる?」

「かもしれない。でもそれは…カイが自分でどうにしか飲み込む感情だから俺は特別何もしないよ」

「わざわざ苦手なのに観覧車に誘っても何もしないって言うの?」

「そう。何もしてない。元気になれるかはカイ次第だよ」

 ほら、今が一番高い所じゃないかと窓の外を指差す。

「…指震えてるけど」

「そうだな」

「…うわ…すごい」

「だな」

 震えながら窓から見えた景色は果てが見えない広い世界を見せてくれた。カイが窓に張り付くようにしてその世界をずっと見ていた。

 薄目で見た景色はいくつか建物がある。また目的地が決まりそうだと思いながら窓から目を逸らした。

「ジン」

「何?」

「乗り越えるのって難しいねえ」

「辛いのは仕方ないだろ。無理に乗り越えようとしなくていいからな」

「無理にか」

「だから無理して笑わなくていいからな」

 病院を離れてからカイなりに乗り越えようとしたのか作り笑いを向ける事には最初から気付いていた。

「…よく分かるねえ」

「当たり前だ。生まれた頃から見てるんだぞ」

「お兄ちゃんってすごいね」

「すごいだろ。だから無理に笑うな本当に笑いたい時だけでいいから」

「うん…」

 観覧車の窓に張り付きながら夕方の光に照らされてカイはそのまま観覧車が地上に着くまで何も喋らずにいた。

 扉を開けてカイが出ようと声をかけるが椅子に張り付いたままの自分に怪訝な表情を見せる。

「降りるよ?」

「…うん」

「ジン?」

「……」

「もしかして足も震えてる?」

「手…貸してくれ」

 ずっと我慢していたのが結局全身に震えが出てしまい立てなくなった。

 カイは一瞬呆気に取られたがすぐに手を差し出してくれる。そしてその手を取り引っ張られるようにしてようやく外に出れた。

 観覧車は相変わらず回り続けており誰も乗っていないのに変わる景色を見せ続けている。

「歩ける?」

「段々平気になってきた…」

「良かった。手、離すよ?」

「それはまだ」

「仕方ないな」

 呆れたような感情と織り混ぜた笑いを見せて観覧車から離れていく。軋む音と乗り物が回る音がずっと響いている。

「止めなくていいのか?」

「止め方分かんない。コーヒーカップみたいに勝手に止まるもんじゃないんだね」

「じゃあ観覧車はずっと回り続けるのか?」

「かもね。またその内誰か乗るかもね」

 そしたらその誰かが自分達と同じ様に景色を見ながら話し、向かい合うんだろう。

「味わえばいいね。いつもと違う日を」

「そうだな」

 元来た道を戻ると入る時は歓迎していた入口が今度はまたのご来園をお待ちしておりますと次に繋げるような言葉を贈っていた。

「また来る?」

「また来るかもな」

「ジェットコースター乗る?」

「絶対に乗らない」

「あはは、だろうね」

 そう言ってカイは久し振りに自然に出てきた笑い声を上げた。





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