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地下鉄

 車中泊をしながら車を走らせて行き久し振りに何かが見えて来た。助手席で窓ガラスに頭をつけて視線だけ前に向けているカイに声をかける。

「カイ、あそこ」

「…んー?」

「階段がある」

「…階段?何で?」

「さあ…ここら辺殆ど入れそうな建物が無かったからあんまり期待出来ないが見てみるか?」

「うん」

 何か建物はあった形跡はあり、そこには奇妙な地下に続く階段があった。中に降りると何があるのか示す物も無く、カイと目を合わせて頷くと一段一段降りていく。

 小さな瓦礫こそはあったが階段を降りるには問題無い程度で暗い入口からどんどん進んでいくと中は明かりが点いていた。冷たいコンクリートで作られたその空間には今立っている場所から一層深い場所に見覚えのある物が敷かれていた。

「線路か?」

「本当だ。線路だね」

「こんな地下に?」

「地下だよねえ?」

 セントラル第十三ステーション。駅で見たあの線路と同じ物がこの地下にも敷かれていた。更に周囲を探索すると冷たい長椅子や料理のメニューがそのまま残っている小さな箱のような店。そこから少し離れた箇所にも同じ様に小さな箱のような店がある。

「めとろって書いてある」

「メトロ…メトロ…」

「何かかわいい名前だねえ」

「地下鉄だ」

「地下鉄?」

「地面の下、地下を走る電車だよ」

「何で地下をわざわざ…もう地上に電車があったのに?」

「…それだけだと足りなくなったのか?」

「じゃあ地下走ろうって…発想がすごいね」

 地上に出ていた電車が走る駅とは違い地下に作られたこの場所は自然の光が差さずに未だに通っている電気が点けてくれる明かりだけがこの地下を見せてくれる。

「電車あるかな?」

「…暗くて見えないな…」

 線路の先は暗く電車があるかどうか分からない。下手に動いて迷うよりはまずは探索を始める。

「カイ、ここ入ろう」

「…立ち食い専門店?」

「立ち食い…本当だ椅子が無い」

 まずは料理のメニューが残されている店に入ると奇妙な看板。立ち食い専門店の名の通りに何故か椅子が無い。

「何で椅子が?」

「立って食べさせて足腰を鍛えさせるため…とか?」

「えー?電車に乗りに来ただけなのにここで?わざわざ?鍛えるの?」

「いや…真意が分からないからな…」

 地上に出てきて結構経つと思ったがまだまだ知らない事は多そうだ。恐らくここで作られていたであろう料理も初めて見る物ばかりだ。

「…蕎麦は分かるが…」

「食べた事無いねえ」

「本で読んだだけだしな…あんな灰色なのか」

「上に何か乗ってる」

「何だこれ?ころっけ?」

「こっちは天ぷら…?」

「はー…?味の想像がつかない」

「残ってたりしないかな?」

「長期保存出来るの乾麺だけだろ?それ以外だと残ってないと思うぞ?」

 名前だけを知っている料理の実際の写真と自分の想像にあった料理の姿がまったく違い味の想像がまったく追い付かないままに料理を作っていたであろう台所の中に入る。料理器具はどれも何年も使い古したような歴史を感じさせる物ばかりで鍋に至っては元の色が分からない程に変色していた。

「麺…麺、パスタとかなら食べた事あるよね」

「あったな。三回しか食べなかったけど」

「ご飯ってフリーズドライのスープやらお米やらパンとかだもんねえ」

 あとはビスケットとか。

 食べてきた物は増えてはいるが食べた事の無い物の方が圧倒的に多い。今まで自分達が食べてきたのは長期保存の食糧で、すぐに食べないといけないような保存の効かない物と言えば恐らくソフトクリームだろう。すぐに食べなければ溶けてしまう。

 それ以外は無い。

「あ、あー…」

「あったか?」

「あったんだろうね」

「…あったんだなあ」

 カイが見つけたその先には“そば粉”と書かれた袋が空になって床に落ちていた。他にも恐らくここで出す料理の材料になるであろう物が入っていた箱や袋がそこらに空になって捨てられていた。

「みんな食べたんだね」

「ここに避難してた人に作ったのかな」

「地下だもんね。あそこの階段閉めちゃえば安全になるし…いっぱい避難してたのかもね」

「だろうな…それにしてもここの台所」

「何?」

「自動で出来る器具が一つも無いんだよな」

「…そうなの?」

「家事とか自動でやってくれる機械がどこでも当たり前にあった時代なのに、ここにはそれらしいのが無い」

 シェルターに入るまでの記憶だが、今まで手作業でやっていた家事を機械に任せて効率化するのがその時代では当たり前だった。料理を機械のボタン一つで任せたり、食器洗いも全て自動で行うのが普通であったはずなのにここにはそれらしい機械が無く恐らく全部手作業だ。

「でもパパやママは全部自分達でやってたよ?」

「シェルターにいた頃はな。シェルターは無駄に電力消費出来ないからそうせざる得ないんだけど」

 ここは別にシェルターとして作られた訳ではないのに何故わざわざ手作業なんだろうか。

「人の手で作った方が美味しいんじゃない?」

「それか自動家事ロボットが出来る前に作った店とかな」

「それ何百年前?」

 あっちの方も探索しようとさっさとカイは店を出て行きその後ろ姿を追う。

(何百年前)

 出ていく前に改めて店を振り返りもしかすると本当にここは何百年前も前から変わらぬ姿で存在する店かもしれない。

「狭い!」

「狭いな」

 もう一つの店の中に入ると今まで入ってきた店の中で一番狭い。何とか物を置く棚はあるがそこにら何も無くこれまた小さなテーブルがあるだけでここで何が出来るのか分からない狭さだ。

「…何かは…売ってたんだな?」

「それっぽいね。数字が棚に書いてある」

「空っぽだな」

「何も無さそうだねえ」

 人が何人、五人でも入ればこの狭い空間は埋まってしまい身動きが出来なくなってしまいそうだ。

 隅々まで確認するのに長い時間がかからないのは有り難いがこうもすぐに終わると探索しがいが無い。

「ジン。見てみて」

「うん?」

「仕舞う所がたくさんあるよ」

 カイがそういいながらテーブルの下にある引き出しや手を伸ばして届く場所にある扉、更に周りから隠れるようにある引き出しなども至る所にある。

「場所が狭いから色々工夫されてるな」

「考えてるねえ」

「…カイ。その引き出しの奥に何かある」

「え?」

 カイが開けた引き出しの奥に光る物がある。手を伸ばして取るとそこにはチョコレートがあった。

「奥に隠れたんだな。やったな」

「他にもあるよ?」

「…何だそれ?紙?」

 チョコレートの他にも何かあり引っ張り確認すると何やら数字と日付、記させてる数字を合計した数が書かれた紙がある。

「…何に使う紙?」

「えーっと…購入した商品を返品する場合はこちらのレシートをお持ち下さい…食品に関しては交換しかねます」

「レシート?」

「これが?」

「レシートって何だっけ?」

「…何か買ったら貰う…紙?」

「何でそんなのが…?」

「買った物の…証明じゃないか?これに書いてる通りにこの紙に書いてあるのに違う物買って…それでここに書いてある通りに返す時に間違いを証明したり?」

 考えてみれば生まれてから一度も買い物と言うのをした事が無い。お金を使う行為だとは分かるしそのお金と交換して欲しい物を貰う行為。

 ただその行為に関して欲しい物は貰ってもそれ以外に何か付いてくると言うのは知らない。

「買い物って結構面倒なのかな?」

「お金払って貰って終わりじゃないだな…」

「考えたら…ここに数字書いてあるよね?」

「そうだな?」

「これに書いてある数字とここに書いてある数字が違ったらお金足りないって払ったりお金多いって教える事が出来るかも?」

「あ、なるほどな?」

「つまりこのレシートとやらは」

「間違いなくここに書いてある物をここに書いてある数字で買いましたって証拠」

 よく見たら更に日付やこの店の名前なのかそれらしい文字も記載されている。何の意味があるのかと思ったがこんな小さな紙一枚にこれだけの情報量を載せているのに驚きだ。

「よし…他は何かあるかな?」

「チョコレート食べながら行こう?」

「もう開けてるのか」

 今食べてもいいのかと聞かずにカイはチョコレートの包装を解いて半分に割る。

「はい。ジンの分」

「ありがとう」

 チョコレートを受け取り歩きながら食べる。久し振りに甘い物を食べてその口一杯広がる甘さに頭が揺れるような錯覚をした。

「あ、何かある」

「箱の形…あれか?」

 スーパーで見た物と似ている。淡く光を放っているそれは以前見た飲み物の箱ではなく中にはいくつか残っている。

「…お菓子?」

「それっぽいな。クッキーがある」

「お金ある?」

「あるは…あるけど」

「足りない?」

「足りないな…」

「えー…目の前にあるのに」

 飲み物よりもずっとお金が必要らしい。今持っているお金ではこれは手に入らない。確かに目の前にあるのに手に入れられないのは少し悔しい。無理矢理開けて手に入れるような野蛮な真似は出来れば避けたい。

「諦めよう。これから来るかもしれない人に譲ろう」

「クッキーもあるのに…何か知らないよく分からないのもあった~…」

「またの機会だな」

「またの機械かぁ」

 何だか少し食い違ったような気がするがそのまま真っ直ぐ進むと地上に出るための階段があったがこちらの方は瓦礫で塞がり出られようになっていた。この地下鉄は一本道であり地上のようにあちらこちらに行くようになってはいないらしい。単純で探索しやすいがやはり少し物足りない。

「これで終わりか」

「あっさり見終わったね」

「そうだな。もう戻るか?」

「そうだね…戻って別の所行こうか」

「そうだな…ん?」

 ふと来た道の壁に何か埋め込まれているような何かを見つける。

「カイ。こっち」

「ん?」

 カイを呼んでそちらに向かうと見ても何に使うのか分からない機械が何台も壁に埋め込まれて設置されていた。

「…何これ?」

「さぁ?」

 画面に触れるようにと指示が出ているが何が起こるのか分からない機械に触れるのは戸惑われる。

「何なんだろうな…」

「まぁでも…爆発したりしないでしょ?」

 そう言ってカイはあっさりその画面に触れた。

「あ!カイ!」

 何でもすぐに触るなと言う前にカイが触れた画面は一瞬暗くなったかと思うと途端に変わる。

『ご希望のボタンに触れてください』

「…え?」

『切符の購入でしたらこちらに。目的地までの経路をお調べする場合はこちらに』

 画面に現れたのは恐らく女性、の動く絵がこの機械の用途を説明していた。

『電子チケットの確認・購入・入金はこちらにお願いします』

 動く女性の絵が一つ一つ丁寧に説明してくれている。ステラとは違うがこれも人工知能の一種だろうか。

「何か適当にやってみる?」

「うーん…とりあえず押してみるか?お金は無いから…」

「目的地までの経路って…何だろう」

“経路”のボタンを押すとまた絵の女性が喋りだす。

『こちらはセントラル第三メトロステーションです。現在地から目的地を選択して下さい』

「地図だ」

 画面一杯に地図が出て来たかと思うと今自分達がいる場所を示す矢印とこの周辺のかつてこの周辺にどんな建物があったかが分かる。

「何だろうここ」

 カイが気になる箇所があったのか画面を触れる。

『こちらはセントラルアミューズメントパーク。我が国最大規模のアトラクション数を誇る遊園地でございます』

「何それ楽しそう!」

「ここは?」

『こちらはセントラルスカイタワーでございます。展望台からの絶景をおたのしみいただけます』

「展望台からの絶景…高い所か」

 あまり行きたくは無いなと思いながら他の箇所を触れてみる。

『フラワーパーク・イザナでございます。四季折々の花が一年中楽しめる地上の楽園でございます』

「地上の楽園だって」

「へぇ地上に楽園があるのか」

 地図は印刷出来るらしく大きな紙に一枚まとめて印刷してリュックへと仕舞う。ここで得たのはこれぐらいかと思い画面の絵の女性にお礼を言って去ろうとすると足元に何か落ちている事に気付く。

「…カード?」

 拾い上げて確かめて見ると一枚のしっかりとした作りのカードだ。掠れており何のカードなのか分からないため捨ててしまおうかとも思ったがカイが待ったをかける。

「滅茶苦茶ボロボロだけど…このカードこれじゃない?」

「これ?」

 カイがもう一度画面に触れる。そしてボタンを押すと一枚の絵の女性が一枚のカードを持っている。

『電子チケットのご購入はこちらでお願いいたします』

「…ん?」

 絵の女性が持つカードと今持っているカードが似ている。照らし合わせて見ると確かに掠れていない部分と絵の女性が持つカードは一致した。

「これが電子チケット?」

「これが電車に乗るために使えるカード?」

「…乗れる電車が無いけど」

「あ、待ってよ。何か他にも使える所あるみたい」

「何処?」

 それは絵の女性が教えてくれた。

『電子チケットはご乗車以外にもお買い物のお支払い。自動販売機でもお使いすることが可能です』

 そう言って画面が変わると絵の女性がカードを持って買い物をしているのかお菓子を手に取り対面にいる人にカードを見せていた。

「これが買い物?」

「カード見せるだけでいいの?」

 更に画面が変わり絵の女性は今度はあの箱形の機械の前に立っている。ボタンを押してカードを機械に触れると中から飲み物が出てきた。

「買えた?」

「買えたねえ?」

『電車もバスもお買い物もこのカード一枚!セントラルパスカードはご新規でご購入された方に何と500ポイントプレゼント!ご購入お待ちしております!』

 そう言ってまた最初の画面に戻った。

「何で最後あんな元気に喋ったんだ?」

「何?ポイントプレゼントって」

 最後は意味が分からなかったが使い方は理解出来たためカードはこのまま持っておく事にした。

「…あれ?そしたらさっきのお菓子の箱でこのカード使える?」

「使える…かもな?」

 あの女性の言っていた通りであればもしかしたらこのカードで手に入るかもしれない。あの箱の機械の前に戻り絵の女性のやり方を思い出す。

「どこに触れるんだ?」

「ここじゃない?タッチって書いてある」

 お金を入れる箇所とは別に確かにそう書いてある部分がある。触れると箱全体が違う淡い光を放つ。驚いていると絵の女性と似ている声で機械が話す。

『ご希望の商品をご選択下さい』

「選択?どうやって?」

『商品の下に番号がございます。ご希望の商品の番号をご入力下さい』

 そう説明されるて目の前に数字のボタンが現れる。希望の商品の番号と言われてもすぐに入力出来ずにいるとカイが素早く番号を入力する。

「何か…飲み物のと勝手が違うね」

「そうだな。お金じゃなくてカードだからか?」

「かもね。あ、見てみてジン」

「ん?」

 カイに言われて機械を見ると中にあるお菓子が押し出されて落ちていく。そのまま下に落ちると思ったら人の手の形をした機械が優しく受け止めてそのまま箱から飛び出した機械の手が目の前にお菓子を差し出す。

「お、おぉ…」

「あ、ありがとう」

 予想しなかった受け渡しに顔を引きつらせながら何とかカイがお礼を言えた。機械の手からお菓子を受け取ると「ありがとうございました!よい一日を!」と言って手は箱の機械に戻って行った。

「…何かすごい機械だな」

「だね…何か色んな機械に教えてもらったりした日だったね」

「ん?下に何かある」

「紙?」

 お菓子を受け取った後に出てきた一枚の紙はこのお菓子に書かれている名前とその横に数字。その下にザンキンと書かれた数字がある。

真っ白な紙にあるその紙は先ほど拾ったレシートと似ていた。

「これが俺達がちゃんと買い物したって証拠か」

 日付も書かれておりこの箱の機械を作った所なのか他にも何やら何かあった際の連絡先はこちらなど事細かに書かれていた。

「初買い物記念」

「取っておくか」

「そうだね」

 今日は何かと細かな収穫が多い日だった。お菓子をすぐに食べたいと言うカイを制してこれはまた別の日に食べると食糧箱に仕舞っておく。

「にしても何でお金があるのにわざわざこんなカードにしておくんだろ?」

「お金が重いからじゃないか?」

 あの絵の女性が言っていたようにこれ一枚で済むのなら皆楽を求めてこのカードを求めるだろう。

「でも機械が壊れたら使えないよね」

「そこは…カードとお金両方持ちか?」

「楽なはずなのに逆に持ち物が増えてる?」

「確かに…」

 色々と考えて作り出されたカードなのだろうけど結果的に出かける時にあれこれ持つ事になっていたのだろうか。

「そしたら…この地下鉄もそうじゃないか?」

「どういう事?」

「地上に電車は既にあるのにわざわざ地下にも作ったのはどういう事だ?」

「地上に一つでいいのにわざわざ地下にも電車を増やす意味?」

「お金があるのにカードを作る理由、地上にあるのに地下にも作る理由…」

 移動手段をこれでもかと増やしたのはそこまでしないと人の移動が追い付かないからなのか、お金を使える手段もあれこれやと作るのは買い物する時にどれを出すのか迷ったり戸惑ったりしないだろうか。

「むしろ多い方が良いのか?」

「移動する手段もお買い物の方法も?」

「一個しか選択肢が無いよりは複数あった方がいざと言う時に方法を変えて実行出来るから…その方がいいのかな?」

「単純な方が説明が少なくて済むけど複雑だけど選択肢増やした方が評判良かったのかねえ」

「だからカードや地下鉄なんかあったのか?」

「さあ?案外地下に電車走ったら面白いかも?何て単純な理由かもよ?」

 そしたらその単純な理由はあの古そうな店が出来た頃、何百年も前の人達が笑いながら言ったのだろうか。

 そう思うと地下の少し暗い雰囲気に楽しげな声が加わり雰囲気が和らいだ。

「次、どこ行こうか?」

「遊園地行こう?」

「遊園地?」

「何かすごく楽しそうな感じ」

 印刷された地図を見てカイは笑い目的地が決まった。

「…そうだな。遊べる物があったら遊ぶか」

「珍しいね。ジンが遊ぼうなんて」

「たまにはいいだろ」

 探索探索で少しは何も考えずに楽しむ事も大事だと言って次の目的地の遊園地に大きな丸を付けた。

 地下から階段を上がり地上に出た時久し振りに日の光を浴びたような眩しさがあった。








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