31話 アンダース一家の壊滅
「な、なんだい……。あの娘は? あのアンダース一家相手に恐れるどころか、逆に襲い掛かったね」
「お姉ちゃんは強いから大丈夫だよ! それよりもマテウスさんに確認をした方がいいよ」
「なにを? マテウスさんに何を確認するのよ! 私が大事にしている森の安らぎ亭を潰そうとしている人に『あなたは私達のお店を潰す気ですか?』と質問しろって言いたいの? 本当の事を言うわけないじゃない!」
呆然と呟いたリカルダの独り言にディモが元気よく頷きながら答え、アマーリエに向かって提案をするが、叫ぶように否定された。そんな様子を見ながらもディモは冷静に話し続ける。
「そんなことないよ。今の話はアンダース一家だっけ? その人が言っただけでしょ? よろず屋であんなに良くしてくれた人が、悪い人だとは考えにくいよ。とりあえずは、次期領主として店で『アンダース一家が暴れているから対応して欲しい』と依頼すべきじゃない?」
「そうね。マテウスさんがそんな事をするなんて考えられないわ。だって、彼は私達の店に支援をするつもりだったのだから。そんな恩は受けられないと、私達が逆に断ったけどね。出来るところまでは自力で頑張りたいと伝えたの」
ディモとアメーリエの会話にリカルダが頷きながら参加してきた。そしてマテウスが宿に対して支援を申し出ていた事を伝える。そんな事情を知らなかったアメーリエは、ひどく動揺しながら小さな声で絞り出すように呟いた。
「えっ? そうなの? そんな話を誰からも一言も聞いてない……」
「マテウスさんから口止めされていたのよ。『私の支援が彼女の気持ちを傷つけるかもしれない。お願いだから、黙っていて欲しい』と。彼は、そこまで貴方の事を考えてくれたのよ」
今までのマテウスへの対応を思い出した娘の弱々しい声に、リカルダはアメーリエを抱き寄せると背中を撫でながら優しい声でマテウスの為人を説明した。
「いいなー」
優しく抱きしめながらアメーリエをあやしているリカルダを見ながら、ディモは母娘のやりとりを羨ましそうに眺めるのだった。
◇□◇□◇□
「さあ。じゃあ第二ラウンドといこうかね。ディモが気に入っている宿屋だから店先を血の海に出来ないから、第二階位程度で勘弁してやるよ」
「意味分からねえ事を言ってんじゃねえ! 野郎ども! アンダース一家の怖さを教えてやれ!」
「「「おぉ!」」」
宿屋の前に叩き出され、嘲笑するように放たれたヘレーナの言葉にユルゲンが青筋を立てながら叫ぶ。その声に呼応するように鬨の声を上げたアンダース一家の男達は剣を抜く者や棒を振り回す者など、全ての者が目に殺気を込めてヘレーナに襲いかかった。
「いいねぇ! この感覚! 身体がゾクゾクしてくるよ。まずは一人目!」
「ぐぇぇぇぇ」
棒を持った男が殴りかかってきたのを軽やかなステップでヘレーナは躱すと、殴りつけながら棒を奪い取る。そして、その棒を構えると神速の早さで男の鳩尾を突いた。数メートルほど吹っ飛ばされた男は、嘔吐しながらのたうち回っていた。
「くそ! おい、一人で掛かるな! 数人で囲め!」
「へえ。ちっとは頭が回るじゃないか。無駄だけどね! 剣神ヘレーナの実力をその目に焼き付けて、後悔して残りの人生を反省しな! 後で逆さまに吊した状態で土下座させてディモに謝らせるからね!」
ユルゲンの言葉を聞いたヘレーナが感心したように言いながらも、囲まれる前に一気に間合いを詰めると目の前に居た男の鳩尾に強力な一撃を入れる。そして、横にいた数名の男達に横薙ぎの一撃を放つ。一瞬で数名の手下を無力化されて唖然としているユルゲンを見ながらヘレーナの口角が上がる。その表情を見た瞬間、ユルゲンの視野は狭くなり相手を殺す事だけしか考えられなくなった。
「ふざけるなぁぁぁ! もう、宿なんか関係ねぇ! こいつをやっちまえ!」
「「「うぉぉぉぉ!」」」
「安い挑発に乗ってくれるもんだね。どんどん掛かってこい! 一人残らず開いてやる!」
一〇分後、残っている手下とユルゲンが嘔吐しながら無力化されていた。持っていた武器は全て破壊され、ユルゲンが装備していた【怒りのグローブ】と呼ばれる魔道武具も完全に力を使い果たし、見るも無惨な状態でヘレーナの手によって引き千切られていた。
「ふーん。怒りによって力をアップするグローブねぇ。私の居ない一〇〇〇年の間に魔道武具も進化しているんだねぇ」
「く、くそう……。なんなんだよ。この女の強さは。泣く子も黙るアンダース一家が手も足も出ねえだと。俺の【怒りのグローブ】が……。おい! なにをする! ちょ、やめろ! 引きずってどこに連れていくんだよ!」
ヘレーナは破壊した魔道武具の【怒りのグローブ】を興味津々に眺めていたが興味を失ったのか放り投げると、ユルゲンを引きずって宿の前から少し離れた場所に連れて行くと詠唱を始める。
「この辺りでいいかな? 『我は敵から守るために壁を求める。立ち尽くせ。この場所が汝の住処となる』んー。久しぶりの第二階位の土属性魔法だけど上手くいったねー。これは良い柱になりそうだ」
「おい! なにをする……。ぐぇぇぇぇ」
鼻歌交じりで土属性で壁を平行に作ったヘレーナの姿に恐怖を覚えたユルゲンが虚勢を張って問い掛けようとしたが、途中で悲鳴を上げる。どこからか取り出した紐を使って土下座の体勢に強制的にさせられる。そしてまたどこかから取り出した棒を使って壁に逆さま向けに吊されるのだった。




