30話 食堂での乱闘騒ぎ
「ちょっと! 何事だい! 店で暴れるなんて許さないよ!」
「お母さん! 急に、この人達が押し入ってきて、ヘレーナさんに因縁を……」
「おうおうおう! 言ってくれるねー。この街を裏から取り仕切っているアンダース一家のユルゲン様の弟が、こいつに酷い目に遭わされたんだよ!」
「ア、アンダース一家? あの?」
慌てて厨房から出てきたリカルダにアメーリエが説明する。それを遮るように兄貴と呼ばれた男ユルゲンが大声で話し出す。普通の宿屋を経営している自分には関係ないと思っていたが、悪名高いアンダース一家の噂は客商売をしているリカルダの耳にも入っていた。
「ああ、あのアンダース一家だよ! お前んとこの客が俺の弟に因縁を付けた上に、心にまで傷を負わせたんだ。こいつには慰謝料を払って貰わないとなー。お前の娘が代わりに払ってくれるのか? 俺は構わねえけどな! ぎゃぁはっはっはっは!」
「な、なにを言ってるのですか! 早く出て行って下さい!」
下品な笑いをしながらアメーリエの身体をなめ回すように見ているユルゲンの視線に、嫌悪感を前面に出しながらリカルダが叫ぶ。そんな様子を見て下っ端の男達も同じように卑下た笑いをしながら食堂にあるテープルや椅子を壊し始めた。
「や、止めて下さい!」
「あー! 思い出した! 私が第一階位程度で開いた男じゃないか。全く反省してないみたいだね」
「ひょっとして、アメーリエさんに宿を紹介して貰う時に絡んできた人?」
「なにか知ってるの? アメーリエ?」
「うん。私が宿屋に案内しようとした時に因縁を付けてきた人があの人。それをヘレーナさんがどこかに連れて行った」
しばらく話を聞きながらヘレーナだったが、なにかを思いだしたようで大きく手を打った。そして納得した表情でうんうんと頷きながら納得しているヘレーナと、やっと思い出したディモ。そして、恐る恐るな表情でアメーリエに確認するリカルダ。今までの話をしていたアメーリエだったが何かに気付いたようで、ヘレーナに向かって質問をする。
「ところで、ヘレーナさん。『第一階位の開く』ってなにをしたんですか?」
「ああ。まずは殴り続けて抵抗する気力を奪うだろ。それから逆さまに吊すだろ。気持ち悪いけど服を開くだろ。後は回転させて放置だ」
「ち、ちなみに、階位が上がると?」
何事かと話を聞く体勢になっているリカルダと乱入してきた男達。実際に開かれたであろう男は青い顔をしていた。そんな様子を見たアメーリエだったが、興味が沸いたのか怖い物見たさで質問を続ける。
「えっ? 聞きたいのかい? 本当に? 大丈夫かい? 色々と」
「や、やっぱりいいです! 話さないで下さい!」
「おい! 俺達を無視するんじゃねえ!」
「うわぁぁぁ! い、痛い……」
質問を受けて嬉しそうな顔で嬉々として説明をしようとするヘレーナを、慌てた様子でアメーリエが止める。二人のやり取りをイライラとした表情で見ていたユルゲンが、うっすらと輝いた右腕でテーブルを思いっ切り殴りつけた。通常なら砕けるはずもないテーブルが木っ端みじんに砕け、そして破片が飛び散りディモに向かった。
慌てて避けようとしたディモだったが、勢いがあったのか避けきれずに当たり悲鳴を上げる。無様に転んだ様子を見てユルゲンが腹を抱えて笑う。
「ふははは! 恐れろ! 怯えろ! アンダース一家の名を心に刻め! 二度と……。げふあぁぁぁぁぁ」
「黙れ。喋るな。臭い。おい、お前ら、アンダースかインダースか知らねえが、よくもディモに傷を付けたな。全員、開いてやるから表に出ろ」
「ぐっ! 出るわけないだろ! 俺らはここの宿屋をぶっ潰すのも依頼されてるからな」
ヘレーナの威圧混じりの言葉に気圧されながら、彼女に開かれた男が思わず口を滑らせる。それを聞いたアメーリエが睨み付けるようにしながら叫んだ。
「な、なんで! 誰が?」
「次期領主様だよ! 『森の安らぎ亭の後を継ぐ事を諦めさせたら報酬を渡す』と言っているからな。金貨を大量に用意されているのか、なにかの権利をくれるのか。詳細までは伝えられてねえが、俺達のような者が出てきた方が都合が良いだろうが」
鼻血を出しながら立ち上がったユルゲンが吐き捨てるように伝えてきた。そしてヘレーナに殺気を飛ばしつつ、周りを破壊しながら突っ込んだ。
「死ねやぁぁぁ!」
「はっ! 弱い奴ほど吠えるねぇぇぇ! でも、嫌いじゃないよ! がむしゃらな奴は!」
ユルゲンの拳を軽く流しながらヘレーナは嘲笑を浮かべながら殴り返す。もんどり打ってひっくり返ったユルゲンが椅子にぶつかり、勢いと重さで破壊される。周りいた男達もヘレーナに向かって殴りかかろうとするのを見て、アメーリエが悲鳴を上げる。
「やめて! お店が壊れちゃう!」
「お姉ちゃん! お店の外でお願い!」
「ディモのお願いながら仕方ないね! そらよ! 外に出ててな! お前もだよ! ほら次ぃぃぃ!」
ヘレーナはディモの声を聞いて笑いながら頷くと、ユルゲンの胸ぐらを掴んで玄関口に投げ飛ばす。そして、その横にいた男を殴り飛ばすと周りに居た男達も次々と投げ飛ばすと自らも店の外に飛び出すのだった。




