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まぁ、ダメですか?

 さぁ、しー君とヒロインである小町ちゃんのイベントを悪役令嬢として(ただの好奇心)見届けねばならないので、先に教室に向かったお兄様と小町ちゃんよりも早く教室に着かなければならない。


 この校舎から教室のある校舎に行くためには、校舎と校舎の間にある中庭を超えなければならない。しかし、その為の渡り廊下は景観重視な中庭には無く、大回りしなければならない。

 お兄様達は渡り廊下に向かったはずだから、今からそちらに行くとふたりに会ってしまうことになる。折角のイベントの余韻を崩したくはないから、渡り廊下からお兄様達を抜かして教室に行く事はできない。でも、合わないように後ろから隠れて行くと、小町ちゃんが教室に着いて私とキヨが遅刻になってしまい、しー君のイベントを奪ってしまう事になる。


 何が嬉しくてキヨとしー君のツーショットを見ないとならんのだ。……いや、それはそれで腐な感じの子にはウケるだろうけどさ。私は純粋にしー君と小町ちゃんのお姿を見たい訳で……


「ってな訳で、此方から行きますわよ!」



 窓枠に足をかけて中庭にレッツゴーしようすると、



「えっ!?こっちって中庭しかないよ。……まさか」


「そのまさかですわ。」


「だ、駄目だって!何で渡り廊下使わないんだよ!」



 えー、だってさ、考えていったらこれが一番早いし。校内履きとか無いからこのまま行っても靴に土がーってならずに済むし。いや、何か土がぬかるんでる気がするケド、はねたって後で洗えばどうにでもなる。メッチャ高そうなローファーだが大丈夫だろう。たぶん。



 窓枠にかけてある足を踏み込んで向こう側の地面へと降りようとした瞬間……



「どぉうわっ!!」


「ああ!!ごめんユリ!……大丈夫?」


 乙女らしからぬ声が出た。酷いよ、飛び降りようとした瞬間に窓枠にかけてない方の足掴むとか。キヨ、それは紳士としてその行動はどうなんだ。……あ、窓から飛び降りるとか淑女のする事じゃ無かったわ。


 キヨの予期せぬ事態が起こったため、私の描いていた理想の着地像には至らず、結果……ぬかるんだ地面とキスするはめになった。

 うわぉ。結構痛い。ねぇ、これ鼻血出てない?出てないよね?かろうじて折れてないみたいだけどさ、顔どころか髪も一部制服も泥だらけになった。けど、それよりも気になるもの……それは



「しー君!!」


「わっ!」


 暫く地面に顔を押し付けた状態で止まっていたので心配になったのか近くまでキヨが降りて近づいてきていた。


「ユリ……これ、使え。」


 そう言ってキヨが差し出してきたのはハンカチだった。

 これがただのハンカチだったら、お礼の言葉を言って顔なり何なりの泥を拭うのに使わせて貰うのだが。キヨの手にあるソレはひと目で高級品だとわかる物。アイロンがかかっていて折り目が付いた白く、シンプルかつ細部に施してある刺繍が素晴らしいそのハンカチは泥なんか拭ったらきっと染みになるだろう。根が庶民の私からしたらこれは少し気が引ける。


「?使わないのか?」


「え……と、」



 10円の駄菓子を学校帰りに食べ歩くのが至福な時の私からすればそのハンカチを使うのは庶民てきな何かが無くなりそうな気がする。


 くっ!こうなれば!



「今行きますわ!!しー君!!」


「え、あっ!ちょっ……」



 ハンカチ片手に呆然とするキヨを置いて、私は泥まみれのまま走った。拝啓前世のお母様、まだ私には高級シルクのハンカチは早かったようです。敬具。泥まみれの娘より



 まるで林か森のように生えた常緑樹の中を小走りで泥が跳ねることも諦め、芸術的な歌壇にも目もくれず、私は教室の方向へと一直線に行った。


 ちら、と目の端にうつるのは此処から離れた渡り廊下に並んで歩いているお兄様と小町ちゃん。


 よっしゃ!間に合う。



 そして私は教室のある校舎へと辿り着いた。後は、窓から廊下に入るのみ!




 シュタッ!





 今度はしっかりと着地できた。そしてそのまま目の前のドアを開ける。






「……どちら様?」




 そこに居たのはしー君でもなく、ゲームの画面の端にいたモブでもなかった。





 私はただしー君と小町ちゃんのイベントを目にしたくて失念していたのだ



 1階は、3年生の教室だという事を。

(1年生は3階です。)



 ギャース

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