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三鷹先生

 驚きすぎたのか、刹那、奇妙な音が私の周りに響いた。


「……くくっ……まぁ、朝から運動させられたしな」


 瀬戸は必死に笑いをこらえている。

 私はそこでやっと聞こえた奇妙な音が自分のお腹の音だと気付かされた。


「し、自然現象じゃない!」

「賢汰郎の所にでも行くか?」


 私は黙って頷き、そのまま早水さんのお店へ向かった。


「いらっしゃい!」

「いらっしゃ~い。あら、日鏡さんじゃない!」

「あ、三鷹先生!」


 早水さんのお店には三鷹先生もいた。

 どうやら瀬戸の話は本当らしい。


「三鷹先生……俺も居るんすけど」

「あら、ごめんなさい。気づかなかったわ」


 三鷹先生はにっこりと笑い、次には1オクターブ低い音が響いていた。


「瀬戸」


 そして、普通の声に戻り私に気にしないように言った。


「ところで、お二人さん注文は?」


 早水さんは困ったように片手を腰にあてた。


 私達はカウンター席に座り、座った所で瀬戸が注文する。


「そうだな、俺は……お任せで」

「そんなものねぇ!」

「ちっ。じゃあ、オムライスで。ふわふわ卵に一晩煮込んだデミグラスソースで頼む」


 なんなんだ、こいつ……と私は瀬戸を見ていたが三鷹先生が冗談よ、と私に言った。


「私も瀬戸と同じで」



 注文してしまったので、暇していると瀬戸が口を開いた。


「……何でお前、そんなに頑張れるんだ?」

「え? いや、何でって……そんなの決まってるじゃない、みんなを守るためよ?」

「まぁ、そうなんだが。だったら俺に協力するなんて、尚更言わないだろう……」


 瀬戸の事だって守りたい、と言いたかったが、こいつの前でそんな小っ恥ずかしい事が言えるわけなかった。


「別に、私の勝手じゃない!! ……私はもっと強くなりたいのよ」


 すると、三鷹先生は突然私の横に来て口の前でバツ印を作った。


「だめよ、日鏡さん。あんまり、強くなろうと意識するとあなたはモーメントでは無くなっちゃうわよ?」


 モーメント……。力と自分は別物として、力は一時的なものだと考える集団ーー実際は集団ではないがーーの事。

 三鷹先生は続けた。


「あなたは突っ走り過ぎるのね。日鏡さんが焦るのも、強くなりたいのも全部分かるけど、あなたは十分頑張ってるわ。一度、少し休んだらどう?」


 ……全部、分かる? ……頑張ってる? この人、何言ってるの?


「瀬戸、私帰る。オムライス、食べていいわよ」


 私は勢い良く席を立ち、急ぎ足でお店の外へ出た。そして、扉が閉まる音と共に裏路地を走り抜けた。


 何が、何が分かるっていうの? だいたい、あの人は私達が異世界から来た事知らないじゃない。休むべき? 冗談じゃないわよ。私が紗奈と蒼を守らないで誰が二人を守るっていうのよ……、私が巻き込んだのに。


 私はゆっくりと後ろを振り向いた。


「……追いかけて来なさいよ、瀬戸のバカ」


 ………いや、バカなのは私か。何を瀬戸に期待してるんだか。自分の感情も抑えられないで何がみんなを守りたい?

 本当、私は何をしてるんだろう。



「……手荒な真似をすいません。日鏡、蛍さん?」


 え? 何が起こって ……苦し、い……。

 声が聞こえ、振り向こうとした時にはもう遅かった。私は声の相手に口を抑えられ、気絶させられてしまっていた。

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