七転八倒8
しばらくすると、ヤンと羽薬缶はその場を去った。
万利は汗を流し、どっと息をつく。
少しの間、無言の時間が流れ、息を整えた万利は、彼方が感じているであろう疑問に答える。
「危なかったー。今のは恐らく、ホラ吹きヤンと、黒夜叉羽薬缶だね」
「ホラ吹きヤンと黒夜叉羽薬缶?」
「私も詳しくは知らないけど、噂程度の話だけどね。まず大前提として、灼冥之木って知ってる?」
彼方は顎に手を添え、うーんと考えると、難しい表情をする。
「灼冥之木?聞いたことないな」
「まあ、私も詳しくは知らないんだ。そういう組織があるって話」
「なるほど。だけど、それがさっきの二人とはどういう関係が?」
「うん、それを今から説明するね」
彼方は、黙って聞く姿勢を整える。
灼冥之木とは、今もっとも力を持つ、犯罪組織である。
組織を知る人間が少なく、そして様々な勢力を取り込んで大きくなっていること。
幹部は委員長と呼ばれ、その下の部下がヤンと羽薬缶の二人である。
灼冥之木のボスには、委員長が誰も逆らえないということ。
ヒーロー界にも、灼冥之木のメンバーが入り込んでいるという話も聞く。
「つまり、さっきの二人は灼冥之木の幹部の部下ってこと?」
「そうだよ。私もこの話は、あまり信憑性の高くない話だと思っていたけどね」
というか、今気になる単語が…ヒーローの中に裏切り者が紛れ込んでいる?
「ヤンと羽薬缶って人はヤバい人なの?委員長じゃないのに」
先ほどの万利の態度は普通ではなかった。
「ヤンと羽薬缶は、灼冥之木に加入する前から、何かと有名人だからね」
「そうなんだ」
彼方はなるほどと頷く、悪い方の有名人なんだろうな…
「ヤンは軽薄な態度と裏腹に、頭が回るタイプで、プロヒーローを二十人は殺している」
「二十人!?」
彼方は息を呑む。
「羽薬缶は血を見ると、夜叉のように暴れまわる。髪が黒いから黒夜叉ね。でも意外なことに子供好き。子供を守るために仲間を殺したという話を聞くね」
「ヒーローは何でそんな犯罪者を放置してるの?」
万利は難しい顔をする。
「放置してる訳ではないよ。単純に強くて、並みのヒーローじゃ歯が立たないからさ」
「その二人が今ここにいる理由は、ヒーロー試験の妨害?」
「まあ、十中八九そうだろうね。黒ドレスも恐らく、灼冥之木のメンバーである可能性が高い」
「じゃあ、どうしてヒーロー試験は中止されないのか?」
彼方は納得できないといった表情をする。
「ヒーローは退くことは、敗けを意味するからじゃない?」
「だからって何もしないのは」
「たぶんだけど、ヒーロー協会も状況を理解できてるから、プロヒーローや熟練のヒーローを配置してるんじゃないかな?」
不安な気持ちが大きい、他の受験生は大丈夫なのだろうか?




