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最近、実際にゲーム内の仕掛けを初見で分析して対応するって滅茶苦茶難しいということを思い知らされました。

ノエルはお話の都合でさらっとやってのけてますけどそんな簡単じゃないですよねえ……。

 大陸暦1053年 戦の月 30日



 =B8階=


 B8階「杯の王国」の現状。


 ・100レベルのモンスターが地形それぞれに存在している。

 ・湖や森では近づくと襲われたので何とかしないと階層の探索ができない。

 ・そもそも杯のカードはどこにも見当たらない。


 目的自体は杯のカードよりB9階へ降りる道があるかどうか、なんですがどちらにしてもあの100レベルモンスターたちを何とかしないとですね。とは言っても1人で何とかしようと思ってもどうにもなりませんが……。



 森は火で焼き払い、

 火の山は冷たい水で鎮め、

 湖は砂で埋め尽くし、

 砂漠には木を植えた。



 入口の銘板の文章抜粋です。状況がわかると割とストレートな表記、ですね。


 森、木=リビングフォレスト

 火の山、火=マグマティタン

 冷たい水、湖=レイクスピリット

 砂、砂漠=砂漠にいると思われる100レベルボス


 と考えれば、あの文章が言いたいことはなんとなく見えてきます。ボス同士の相性、と同時にどのボスがどのボスによって倒されるか、を示していると見えます。




 MMORPGには「MPK」という言葉があります。


 「MPK」とはモンスター・プレイヤー・キラーの頭文字を取ったもので、簡単に言うとモンスターを利用してプレイヤーキャラクターを倒す行為を言います。その際は強いモンスターを複数、意図的に他のプレイヤーの側まで連れて行って攻撃させる、という手段がとられます。


 いきなりなぜこんな話をしたかと言いますと、これからこれと同じことをするからです。


 銘板の文章を実行しようとするならば、どうにかしてあの100レベルボス同士を戦わせないといけません。けれど、それぞれ生息している領域があるため(レイクスピリットとリビングフォレストはそもそも湖と森そのもので動かなさそうですし)、今のままだと戦闘は発生しません。


 その状況を変えるために、意図的に100レベルボスを別の100レベルボスの側まで連れて行って攻撃させるわけです。





 というわけで、火山の火口を空中から見下ろしております。


 眼下にマグマが溜まっていますけど、熱いのであんまり近づきたくはありませんが……とにかく〈鑑定〉をかけてみます。



 マグマティタン

 ボス

 種族:精霊

 レベル:100

 属性:火

 スキル:〈溶岩の体〉〈水属性弱点〉



 ……うん、いますね。これからこいつを森まで誘導しないといけないわけですが、まず私を狙うように仕向けないといけません。


 どうしましょう?


 いや、攻撃したら反応すると思うのですが、近づくのは危険すぎますし……かといって、射程の長い遠距離攻撃手段はないんですよね。


 仕方ないこれでいきましょう。


 「じゃあ、行きます『よ』っ!!」


 〈ドラゴンハウル〉。一応、遠くまで届きますしね。


 マグマの中に何かが光ったかと思うと、マグマ自体がせり上がって来ます。黄色く輝く2つの目らしきものが現れ、頭、腕、胴……と大雑把な人型を取って行きます。


 ていうか、やっぱり大きい!


 グリムレットさんと変わらないくらいありそうです。


 空中にいる私めがけて腕を振り下ろしてくるので、慌てて下がります。動き自体はそんなに速くはないですが、当たると即死でしょうね。


 とにかく、敵意をこちらに向けられたようなので、後は森まで誘導、ですね。まずは安全を確保するために山とマグマティタンに背を向けて全力で飛んで距離を取ります。


 これくらいでいいかな、という所で振り返りました。


 山頂に全身を見せていたマグマティタンがゆっくりと戻って行くのが見えます。


 ……。


 いや、待って。待ってください。


 戻らないで。戻るな。戻るなーーー!!こっちに来い!来ーーーい!!


 戻るんじゃなーーーーーーーーい!!!





 というわけで、火山の火口を空中から見下ろしております。


 ……まあ、敵を引き連れて誘導しようとしたら距離を置きすぎて元の位置に戻ってしまうとかよくありますね。あるあるです。


 というかマグマティタン、結構目が悪い(?)のか、あんまり離れるとすぐこちらを見失って元の位置に戻ってしまうようです。

 つまり、相対的に私の危険が上がるわけですが……とはいえ、やるしかないですね。


 「もう一度、行きます『よ』っ!!」


 〈ドラゴンハウル〉に反応して、マグマティタンがゆっくりと姿を現します。


 さあ、あらためて。命がけの追いかけっこの始まりです。





 マグマティタン、よくよく全身の姿を見ると腕が長くて普通に直立していても腕の先が地面につくほどですね。その腕を振り回しながらゆっくりと私を追いかけて来てます。


 私はと言うととにかく動き回りながら腕に当たらないようにしつつ、湖を迂回して森へ向かって行っています。というかいくら巨体でも歩くのが遅いので、いい加減、当たると即死の赤熱した腕を避けてまわるのもしんどくなってきました。


 マグマティタンの方を向きながら飛び回り、後退していたところで不意に何かに引っかかって動きが止まりました。


 足を見ます。木の枝が巻き付いています。


 まずい。リビングフォレストからも攻撃されるのを忘れてました!


 さらに眼下の森から木の枝が蔦が蔓が飛んできます。


 このまま絡み取られて森に引きずり込まれるのはまずい!


 動けないまま、マグマティタンに殴られるのもまずい!


 「〈ドラゴンクロー〉!」


 どういう形でも死に戻りになってしまえば1からやり直しでしょう。それは嫌です。


 〈ドラゴンクロー〉を発動。爪の生えた手が2つ。対象は私。


 私自身の腕を掴んで、私自身を引っ張っる!


 マグマティタンの拳が私をかすめて行きます。ついでに足に絡みついた木の枝も焼き払って。

 マグマティタンが私を追いかけてリビングフォレストの領域に入ってくれたようです。足元から森が燃え、火が広がっていってます。

 腕を振り回すと、私を襲おうとした枝や蔓に当たり、焼き払っていってくれます。


 こうなればもう大丈夫。リビングフォレストも自分を焼く脅威に対応しようとします。マグマティタンも足元から攻撃してくる存在に意識が移ります。


 勝敗は見えていますが、ゆっくり殴り合ってもらいましょう。



     ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇



 森が一面焼け野原になりました。

 その中に真っ赤な巨人が立ちつくしています。


 リビングフォレストは倒されたかな?まあ見た感じ、木が1本も残っていないようなのでたぶん倒されたのでしょう。


 さあ、ここから再び私の出番です。今度はマグマティタンを湖に誘導しないといけません。

 とは言え、森まで連れて行ったことでだいぶコツはつかめました。


 「さあ、『次です』っ!」


 〈ドラゴンハウル〉をぶつけると、こちらを振り向きました。地味に硬直が発生してないように見えますけど、まあいいか……さあ、着いて来てもらいますよ!




 火山から森へは湖を迂回しないと行けませんでしたが、森と湖はすぐ近くでしたので今度は楽でした。

 マグマティタンに水の触手が次々と襲い掛かり、体中から煙が上がっています。


 わあ、ひどい。


 ……と。眺めている場合じゃありません。レイクスピリットがマグマティタンを倒してくれている間に砂漠にいるであろうもう1体のボスモンスターを誘導して来ないといけません。


 そのまま湖を離れて、砂漠へ、遠くに見える砂丘に向かいます。


 かなり大きいですが、さて、どうしようか……と思っていると砂丘から砂の塊が1つ2つ3つと飛んできました。

 〈ドラゴンスケイル〉で受け止めますが衝撃で空中でよろけます。3発当たって【HP】が半分に……たぶん100レベルボスだと考えると攻撃力が低かったと思うべきか……。


 と、砂丘に穴が開きます。ちょうど2つの目と大きな口に見えるような形で。


 そのまま砂丘が這うように私に向かって動き始めます。



 サンドコロッサス

 ボス

 種族:精霊

 レベル:100

 属性:土

 スキル:〈砂の体〉〈水属性吸収〉



 マグマティタンの時に比べるとずいぶんアクティブですね。スキルが微妙に他のボスたちと違うように見えますが、あんまり気にしても仕方ない、かな?


 というかほんとに砂の山がそのまま動いて追いかけてくる……のですが、手がない分、砂の塊をばんばん飛ばして来て狙ってきますので攻撃がやばい!1発くらいなら当たっても大丈夫そうなんですが、3発当たって【HP】半減ですからそうそう当たるわけにはいきません。〈リジェネレート〉も使って回復してますが【MP】の残りが不安に……。


 というか空中を飛びながら飛んでくる弾を避ける、そんなゲームもありましたよね。違うゲームをやってる気分になって来ました。


 幸い、マグマティタンと違ってちょっと離れるとすぐ元に戻る、ということはありませんでした。


 必死に逃げ回ってようやく湖に到着です。


 というか湖の上空に侵入するとレイクスピリットの水の触手が襲ってきます。流石に砂弾と触手に同時に襲われたら無事でいる自信はありません。


 よし、こうしましょう。


 地面ぎりぎりまで降りてきます。サンドコロッサスは私を追いかけて来ながら砂弾をばんばん飛ばして来ます。それを地面ぎりぎりの高さでなんとか動き回って回避します。


 私に当たらなかった砂弾が湖の方に飛んでいき、湖面に着弾します。


 水面がぞわっ、と動きました。


 よし、読み通り!


 レイクスピリットへサンドコロッサスの攻撃が命中したことになりました。

 2発目、3発目と砂弾が私の横をすり抜けて湖面にヒットし、そのたびに水面が動きます。

 それを確認しながら、湖の水辺ぎりぎりの位置でサンドコロッサスを待ち構えます。


 目の前に巨大な砂丘が現れました。


 今だ!


 一気に加速して、湖面すれすれを全速で飛んでいきます。


 レイクスピリットは何度も砂弾による攻撃を受けたので、私に対して敵意が向いていません。


 サンドコロッサスは私を追いかけて湖に踏み込んできます。


 湖から水柱がいくつも立ち上がると、砂山に向かって撃ちこまれていきます。

 逆にサンドコロッサスは湖の中に沈みながら色が変わり、より大きくなっていきます。

 湖の水面が目に見えて下がっていき、水が茶色く濁っていきます。逆にサンドコロッサスは湖に、レイクスピリットの中に沈んでいきます。


 ……どうなっているんでしょう、これ?


 しばらく空中で見ていると、湖は水の量を減らしながら茶色が濃くなっていき、最終的にどろどろになって動かなくなりました。


 あれ?「湖は砂で埋め尽くし」とあったのでサンドコロッサスが勝つと思ったのですが……相討ち?


 と。何かが下から飛んできました。〈ドラゴンスケイル〉が防ぎます。


 「……泥?」


 思わず声が出ました。飛んで来たのは泥の飛礫。

 元湖の茶色の塊に穴が開きます。目と口の位置に。

 急に大きく盛り上がったかと思うと、そいつは現れました。



 マッドコロッサス

 ボス

 種族:精霊

 レベル:100

 属性:土

 スキル:〈泥の体〉〈木属性弱点〉



 ……いや、水に砂を混ぜても泥にはなりませんよ!?


 ……いや、深く考えたらいけないんでしょうね。


 それより。


 銘板の文章の最後は「砂漠には木を植えた」。〈鑑定〉結果には〈木属性弱点〉とあります。


 けれど木属性のボス……リビングフォレストはさっきマグマティタンに焼き尽くされました。


 間違っていた?いや、文章の順番通りのはずです。


 というか泥の弾丸に泥の触手まで飛ばしてきましたよ、マッドコロッサス!?


 完全に元のサンドコロッサスとレイクスピリットの両方の攻撃手段を使ってます。どっちにしてもまともに戦える相手ではないので、元森の方に逃げることにします。


 何か銘板の文章を読み間違えたでしょうか。マグマティタンをレイクスピリットに倒させるところからスタートで、マッドコロッサスを最後にリビングフォレストに倒させるのが正解?


 全力で飛びながら必死に考えていて、ふと、気づくと、マッドコロッサスからの攻撃が飛んできていません。


 後ろを振り返ると、マッドコロッサスの動きが止まっています。

 いや、よく見ると体中から何か根のようなものが出ています。

 ぐずぐずとマッドコロッサスの体が崩れていき、地面に広がって行きます。


 あれは、もしかして?


 完全にマッドコロッサスが溶けてしまうと、広がった泥から物凄い勢いで木が生えてきました。


 〈鑑定〉をしてみます。



 リビングフォレスト

 ボス

 種族:精霊

 レベル:30

 属性:木

 スキル:〈群体〉〈復活〉〈火属性弱点〉



 これはスキルにある〈復活〉というやつの効果でしょうか。それっぽいですが。


 とにかく、これでボスたちの処理は完了、かな?


 あ、さっそくリビングフォレストが襲い掛かってきたので生えてきた木を全部斬り倒しておきました。

 〈復活〉したら最後は私でも倒せるようになる、という仕掛けのようですね。

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