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やっと主人公の名前出たのでタイトル詐欺返上!

 あのオープニングムービーですが、正式サービス開始前に行われたベータテストの時の映像が使われているそうです。黒い竜にお姫様がさらわれるシーンはベータテストの最終日2日前に行われた最大の公式イベント「ロスフェラード攻防戦」の時の映像だとか。


 ちなみにその「ロスフェラード攻防戦」というイベントは「黒の王魔竜」こと黒竜グリムレット率いる魔竜軍団からロスフェラード聖王国の王都を守れ、という大規模戦闘イベントでベータテスト時代のほぼ全員のテストプレイヤーが参加したそうです。が、結果は敵が強すぎて見事王都は壊滅、王家の王さまや王妃さま、お姫様三姉妹は1人さらわれた以外は皆殺し、となったそうです。


 「運営やりすぎ」「鬼畜運営」「約束された敗北じゃねーか」と当時酷評されていたのも見ました。


 まあ、運営を擁護しますと、PCの死亡にまつわるシステムテストを行うためにあえて強すぎる敵との敗北イベントを出してテストプレイヤーの反応と動きをモニターしていたらしいのですが。


 「いえ、キャラクターデータおよび設定は問題なく登録されていますので、何のご心配もなく、ゲームをお楽しみいただけます」


 「……とは言ってもですね……」


 確かに理由はよくわかりませんが、見た目は「私」のアバターになっているようですし、問題はないのかもしれません。でも、こう、ゲームの世界的に有名人ですよね?この人。いきなりそんな人になります、と言われても、もやっとしたものを感じるわけです。


 「そうですね。他言無用に願いますが、キャラクターメイキング時の設定について、説明をさせていただきます」


 フェルエさんはちょっと居住まいを正すと、改めて私に「アナザーアース・クロニクル」のキャラクターメイキングの、本来プレイヤーには説明されていない部分について解説を始めてくれました。


 いわく。


 「アナザーアース・クロニクル」ではあらかじめ世界の歴史というものがデータとして記録されています。キャラクターメイキングが行われた際に、完成した設定をその記録されている世界の歴史に「さかのぼって」矛盾が起きないように書き込んでいくそうです。(それにかかる時間が約1日という時間だそうです)

 逆に、既に歴史に存在する人物(世界の歴史というデータベース内の既存のキャラクター)がプレイヤーキャラクターになる可能性も用意されている、とのこと。


 「PCは『女神の祝福を受け、異界の魂を持つ存在』と『アナザーアース・クロニクル』では定義されています。世界設定としてはプレイヤーキャラクターとして活動を始めるのは、ある日突然、女神の祝福に目覚める、ということになっています。それは世界に存在する人物全てに可能性があり、それを『実は存在していたと後から決める』か『初めから存在が決めらていた』かは、関係がないのです」


 とはフェルエさんのお話。全然関係ないですが、このPCの定義、昔から人気の異世界転生とか転移とかの小説を思い出させますね。


 ただこの「既存のNPCがPCとなる」のは、当然、既存のNPCは設定が完全に決まっているため、少しでもオリジナルの設定を入れると成立しなくなるそうです……つまり、ぶっちゃけますと、全ての項目で《ランダムに設定する》を選択した場合のみこういう現象が「起こりうる」そうです。


 「また、『アナザーアース・クロニクル』のソフトおよびアカウントは4か月ごとの一斉販売となっています。これを私たちは都合、第1世代、第2世代……と呼んでいますが、あなたのアカウントはサービス開始時の第1世代のもの。これは最初期のアカウントのため、設定できる内容の幅が広く許容されるよう補正がかけられています」


 つまるところ、最初のユーザーには「実はどこかの王族の隠し子」とか「伝説の武具に選ばれる素質がある」とか多少(?)ぶっ飛んだ設定も許されるサービスがされていたそうです。そして、全て《ランダムに設定する》ことで選ばれる可能性のあるNPCキャラもそれなりに世界的に重要な人物が当たる可能性が用意されていたらしいです。


 「第1世代のアカウントにはベータテスト時のキャラクターの子供が作れるという特典もありましたので、結果的に第1世代のアカウントで全てランダムで作成されたユーザーは今まで存在していませんでした。サービス開始から約1年が経過しており、ゲームに未ログインの第1世代のアカウントはあなたのものをのぞくとあと『1』しかありません」


 ええ、その残り1には心当たりがありますね。


 「そのアカウントも購入者の死亡が確認されていますので、あなたがある意味で『最後のこの世界の来訪者』であると言えます。そのため、結論から言いますと……全ての項目を《ランダムに設定する》を選ばれた時点で、このキャラクターが選択される確率は100%でした」


 しれっと言ってますけど、それ、私が全て《ランダムに設定する》選んだ時点でこうなるってわかってたってことですよね?

 あの「えっ」とか「本当によろしいのでしょうか?」て言ってたのはこういうことですかっ。


 「ご不満でしたら先日の説明の通りにキャラクターの再作成は可能です。いかがしますか?」


 確か、7日間の期間と再作成費1万円でしたか……別に焦って始めたいわけでもないですし、時間もお金も問題ないとは言えますが。


 「自分の生まれてくる親も、自分が生まれ育つ環境も、自分で選ぶことができるわけじゃないですよね?これは運命を司る女神たる私があなたに指し示した『運命』と言えます。それはリアリティだと、言えませんか?」


 思わず、うぐっ、とうなってしまいました。最近のAIは皮肉まで言えるようになったんですね。


 「……わかりました。このキャラクターでお願いします」


 「はい。では、あらためて『ノエル』さん。あなたが世界に降り立つ前にいくつかの注意事項を説明させていただきますね」


 結局、押し切られるみたいな形で了承させられました。まあ、じゃあ作りなおすことにしたと言っても、自分が「こう」と思う作りたいキャラクターイメージがあるわけでもないのですけれど。


 痛覚設定、ハラスメント設定、ユーザー間トラブルに関するGMコール、ゲーム内での掲示板の利用規約などまさしくゲーム的な説明がつらつらとしばらく続き、ようやくキャラクターメイキングは終了のようです。


 「では、最後に。『アナザーアース・クロニクル』では個別にチュートリアルを設けてはいません。しかし、必ずプレイヤーキャラクターの前には導き手たる存在が現れ、あなたに世界で生きていくすべを教え、導いてくれるようになっています。それに従うかどうかはあなたの自由ですが、それを忘れないようにしてください」


 すーっと意識が遠くなるような、逆に自然と目が覚めるような、そんな感覚に襲われ、今まで黒とフェルエさんしかなかった視界がぼやけ歪んでいきます。


 「よい運命と人生が、貴女とともにあらんことを」

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