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予約掲載設定とやらを使ってみようとしたけど思ったようにいかず。難しい……。
さて、キャラクターブックの1ページ目は【キャラクター名】【家名】の部分は入力が可能そうでしたが、他の部分は触ってみてもうんともすんとも言いません。
「1ページ目は主にあなたのキャラクターの数値的なデータとなります。この項目の多くは2ページ目以降のあなたのキャラクターの生い立ちを設定することで決まりますので、直接、決定する部分は名前と家名および生年月日と年齢のみとなります。家名は姓と認識してもらって構いません。家名を登録しない、家名がない状態も可能です。また、年齢については両親の種族からあなたの種族が決定された時点で、入力することが可能になります」
1ページ目をあれこれいじくっている私を見て、フェルエさんが説明をしてくれました。なるほど。では2ページ目を見てみることにしましょう。
「2ページ目はあなたのキャラクターの家族および育った環境となります。『アナザーアース・クロニクル』のキャラクター作成の根幹を成すページと言えます。まずは父親と母親の設定を決定ください。両親の種族および職業を設定することで、あなたのキャラクターの種族、初期ステータスおよび得意なスキルの傾向が決まり、あなたのキャラクターが具体的にどういう存在であるか、のゲーム的なイメージが固まることになります」
フェルエさんの説明に、試しに【父親】【種族】を選びますと、ぶわっと膨大なリストが表示されます。
「あなたのアカウントはプレミアムセットが購入・設定済のプレミアムアカウントとなっております。通常より多くの、専用の種族を選択することが可能となっております」
そんなものを買った覚えはないのでおそらくは(以下略)。
正直な所、リストの量が多くなっただけでしたら私にとってはあまり意味がないかむしろ邪魔だったように思います。
「【兄弟姉妹】【その他家族】の設定は任意となっております。ここに登録しますと兄や弟、姉や妹、祖父母や親戚と言った血縁関係者を作成することができます。また、プレミアムアカウントの場合、他のアカウントと連携をとることで、他のプレイヤーキャラクターと血縁関係を構築することが可能です」
なるほど。面白いシステムですが、特に知り合いのいない私には関係のない話ですね。もしかしたら、彼はこれを活用したかったのかもしれません。
「【文化レベル】【社会的地位】はあなたの育った家庭が置かれた環境の設定になります。これは両親の種族によって選択範囲が決まり、【文化レベル】ではモンスターに近い種であるならば原始人や蛮族、あるいは人間に近い種であるなら農耕民や文明人と言った選択ができるようになります。【社会的地位】は貧乏、裕福と言った財産状況や貴族、奴隷といった身分を決定できます。最終的にこれらは初期の所持スキルおよび所持品に影響を与えます」
フェルエさんの説明は続いてますが、手元のキャラクターブックでは説明された項目はまだ動かせません。両親の設定が埋まってないからでしょうね。
「なお順番に説明はさせていただいていますが、まだ各項目を操作できない状態だと思います。その場合、各項目について視線を集中しますと、説明が視界に表示されます。私が説明した内容と同じになりますので、改めて設定したい時にご参照ください」
ふむふむ。試しに【文化レベル】をじっと見つめると目の前にウィンドウが表示され、先ほど話してもらった内容が表示されますね。ついでに他の項目も見てみましょう。
【家庭環境と育成方針】
あなたの育った家庭の全体的な雰囲気と、両親があなたを育てた時の子育ての方針です。家族個々との人間関係は各血縁関係者の欄で設定ができます。ステータスの初期値と成長率、スキルの初期レベルと成長率、取得率に影響します。
【生まれた場所】
この項目は出身地ではなく、あなたの母親があなたを出産した場所になります。通常は自分の家、ないし種族と社会レベルによって変化します。特殊な場所で生まれたことはキャラクターのステータスにボーナスとペナルティを与えたり、キャラクターのNPCからの反応が変化する場合があります。
【異常な誕生】
英雄や歴史に名を残す人物が生まれた時には、不思議なことが起こったりします。この項目は設定が必須ではありませんが、あなたが生まれた時に起こった出来事を設定できます。また、この項目で【あなたが生まれると同時に母親/両親が亡くなる】【生まれると同時に捨てられる】という設定を行うことができます。この場合、【その他の家族】の項目に【育ての親】を設定できるようになります。
【幼少期に経験した出来事】
【青年期に経験した出来事】
【成人期に経験した出来事】
【壮年期に経験した出来事】
【老年期に経験した出来事】
あなたのキャラクターが幼少/青年/成人/壮年/老年期に体験した出来事です。幼少/青年/成人/壮年/老年期に該当する年齢は種族によって変動します。設定できる出来事の数に制限はありません。出来事の数が多いほど取得するスキルの数が多くなりステータスは平均的に上昇する傾向があります。出来事の数が少ないほど取得したスキルのレベルが高くなり、種族によって得意なステータスが上昇する傾向があります。設定した出来事によってはその他の設定項目が変化する可能性があります。
「あの、いいですか?」
「はい。何でしょうか」
「この各項目の後ろについている《ランダムに設定する》というのはどういう意味でしょう?」
2ページ目以降の各項目の説明を1つずつ読んでいるときに気づいたのですが、各項目を入力する欄の一番最後に常に《ランダムに設定する》というボタンがついています。
「はい。『アナザーアース・クロニクル』のキャラクターメイキングは非常に独特かつ決定すべき事項が多岐にわたります。その分、ユーザーの方に自由に自分のイメージ通りのキャラクターを作成していただけるのですが、時には項目によっては決まらない、そこまでの設定を決めきれない、ということが発生します。その場合《ランダムに設定する》を選択していただくと、私たちがそのキャラクターに合うような形で、項目を設定させていただきます」
確かに逐一この細かい項目を自分で決めて埋めていくのはすごい労力になりそうです。なので、おまかせ、という部分があるのでしょう。
「ただし注意していただきたい点が1つ。こちらで項目を設定しますので時には望まないようなものになる可能性はあります。また通常では選択できないような項目が設定される場合もあるのでご了承ください。なお、キャラクターの再作成については7日間の期間と再設定費用として1万円が必要になります」
そういうことですと、話はずっと簡単になりました。
それほど悩むことなく、すっと、その答えが私の中に出てきました。
「じゃあ、全て《ランダムに設定する》でお願いします」
「えっ」
「えっ?」
何かすごい驚かれました。そんなに驚くようなことでしょうか。
「ええっと……いえ、本当によろしいのでしょうか?」
心配そうな顔でフェルエさんが聞きなおしてきます。何だか今までの超然とした女神さまの雰囲気が崩れて親しみやすくなったな、などと思ってしまいました。
「はい……たぶん、悩んでも思いつきそうにないので。それに、本当の現実世界では、自分の生まれてくる親も、自分が生まれ育つ環境も、自分で選ぶことができるわけじゃないですよね?あなたは確か時と運命の女神、と名乗られてましたから『運命によって決まる』というのもリアリティじゃないでしょうか」
確かにそれもまた『リアリティ』かもしれませんね、とフェルエさんが呟くのが聞こえました。
「……わかりました。ではキャラクターデータの確定に入ります」
フェルエさんが杖を掲げると、杖の先端が輝き始めます。
「時と運命の女神フェルエの名において、今より1人の人物の歩んできた道程を世界の歴史に刻みます。そしてここから先のあなたの人生はあなた自身の手で、世界の歴史に刻んでいくことになります。どうかもう1つの世界であなただけの歴史を紡ぎください」
それはゲームのGMとしての言葉ではなく、確かにこの世界を守護する女神としての言葉だったのでしょう。杖の先端の輝きは光を増し、最終的には分裂して幾筋もの流星となって、彼方へと飛んでいきました。
「お疲れさまでした。キャラクターデータの確定には約1日の時間がかかります。キャラクターデータの確定作業が完了しましたら、専用機器にメールが送られますので、ご確認ください」
あ、すぐに遊べるわけじゃないんですね……まあ、なんだか疲れましたからそれでもいいですが。
どうせですからゲームの情報とか、きちんと調べましょうか。