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1章のエピローグになります。
途中の描写は0章5と比較するとわかりやすいかと思います。
キャラクター作成時にオプションで(しかも結構高い)作成できるキャラクターPV。
これは動画として観るだけでなく、実際にログインしキャラクター視点でPVを体験できる機能がついています。
なぜ急にキャラクターPVの話をしたかと言いますと、ログイン前にこの機能のことを知ったので、使ってみようと思ったのですね。ノエルリージュとグリムレットさんの最初の出会いを、実際にノエルの目線で体験しておきたくなったので。
出力機器をセットし、「体験する」を選ぶと、キャラクターPVへログインできます。
動画として観ている時はナレーション音声が聞こえて、登場人物の会話は聞こえないのですが、体験の場合だとナレーションは小さく聞こえる程度で登場人物の会話が聞こえるようです。
ナレーションどんなでしたっけ……思い出しながら、場面を体験していきましょう。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「おぎゃあ、おぎゃあ」
「生まれたか!」
「はっ、お子様も妃殿下も無事でございます」
「そうか、よかった……」
「この娘の名はノエルリージュ。ノエルリージュ・ロスフェラードだ」
「ノエルですか。よい名ですね」
「ひゃあ、なんだこの大量の虫は!?」
「陛下、大変でございます。場内に多数の蛇が!しかもこれは強い毒を持つ種でございます!」
「城内にいる者たちが被害に遭わないよう、騎士たちは慎重に対処するんだ」
「今日はどうしたのでしょう。犬か狼の遠吠えがうるさいですわ」
「あそこを見ろ、あんなにカラスが群れを成しているのなんて見たことがない」
「ノエル姫が無事生まれたというのに、不気味ねえ」
「ノエルは魔法はこれが精一杯?」
「は、はい。もう無理です……」
「ノエル姉さま、あんまり強くないのね」
「シルティが強すぎるだけよ……」
「ノエルは魔法はアリスに、剣はシルティに、だいぶ劣るそうですね」
「いいではないか、マリア。ノエルは生まれた時にあんなことがあったのだ。むしろ普通の子で私は嬉しいぞ」
「ふふ……あなたらしいですわね」
「ノエルは相変わらず庭園が好きなのね」
「はい。私はアリスお姉さまのように魔法に携わったり、シルティのように剣を振るったりするより、こうやって草花の世話をする方が性にあってますから」
「あ、アリス姉さまー!ノエル姉さまー!はやくはやく!父さまと母さまがお呼びよ!」
「ふふ、シルティは相変わらず元気ね」
「そうですね、姉さま」
「ノエルよ、草花や動物の世話は楽しいか?」
「はい、父さま。みな私と仲良くしてくれますし、みなが元気でいるのを見ると、私も楽しくなります」
「そうか。ノエルは優しい子なんだな」
「敵は黒の王魔竜グリムレットに率いられし魔竜の軍団、かつてない恐るべし敵だ。しかし、我らが背には守るべき街が人がいる。家族が、友人が、愛すべき者がいるはずだ」
「騎士団よ!ロスフェラード聖王国国王、カイングラッド・ロスフェラードの名に置いて命ず!己が命を賭して戦い、この王都を守るのだ!」
「さあ、貴女たちは避難するのです。アリス、ノエルとシルティをお願いね」
「母さま!シルティも共に戦います!」
「ダメよ。貴女たちは、逃げて、生き延びるのです。それが父と母の願いです」
「行きますよ、シルティ」
「来たな、黒の王魔竜グリムレット」
「我が名はロスフェラード聖王国国王カイングラッド・ロスフェラード」
「ロスフェラード聖王国王妃マリアレシア・ロスフェラード」
「これ以上お前の好きにはさせん」
「いざ」
「参る!!」
「これ以上は無理ですわね……ノエル、シルティ、あの赤竜と白竜は私に任せてあなたたちは逃げなさい」
「でも、お姉さまは」
「お母さまの言葉を忘れてはいけません。それに、妹は姉の言うことを聞くものですよ」
「シルティ、戻って!」
「大丈夫!魔竜たちは私がちゃっちゃっと倒してくるから!ノエル姉さまは弱いんだから、私が守って当然だもの!」
「シルティ!」
「黒の王魔竜グリムレット。私は父や母や姉や妹のように戦う力はありません。私を守ろうとしてくれた人たちの多くを死なせてしまいました」
「けれど、私はあなたには決して屈しない!ロスフェラード聖王国第二王女、ノエルリージュ・ロスフェラードとして、決してあなたなんかには従わない!」
「……まだ、目覚めないか」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
体験が終了し、意識が現実に戻ってきました。
自由に体が動くわけでなく、勝手に視点が動くので少々気分が悪いですが、ノエルリージュの家族ってこんな感じだったのですね。動画を観るだけではわからなかった一面が感じられて新鮮でした。
それはそれとして。それよりも大きな問題があります。
この体験で、私が観たかったものが、ないのです。
ロスフェラード攻防戦の場面。確かに見覚えのある姿が、いくつもありました。
国王と王妃と対峙するグリムレットさん。
逃げる王女三人と護衛を追ってきて、姉のアリスと戦う白竜サルカンドラさんと、赤竜フラムリングさん。
同じく追っ手を足止めするべく残った妹のシルティと戦う黒竜ノクターナルさんと、緑竜ヴィリジットさん。
そして、最後にノエルリージュの前に現れるグリムレットさん。
私は、ノエルの始まりとも言うべきロスフェラード攻防戦でのみんなの様子を観たかったのです。
それが。あんなに個性豊かで、話をしていても普通の人と会話してるのと変わらないほどだったみんなが。
誰一人、一言もしゃべらないなんて、おかしくないですか?
大陸暦1052年 土の月 12日
「死すべき運命の分岐路に立つ、異界の魂よ。あなたには2つの選択肢があります。このままあなたの死を世界の歴史に刻むか、死の運命をなかったことにするか、です」
真っ暗な空間と、私の前に立つ紫色の髪の運命の女神、フェルエさん。
「自殺とは感心しませんが。時に生まれ変わりを望む人はそう言った手段を取りますけれど」
はい。死にました。自殺しました。〈ドラゴンクロー〉すごい痛かったです。
「貴女に会うのに他の方法を思いつかなかったので」
「GMでしたら『キャラクターブック』を開いていただき、システムメニューからGMコールないしお問い合わせを選んでいただければ、担当の者が対応します」
「いえ」
私はGMに用があったわけではありません。
「GMではなく、この世界を治める十二の女神の一柱に聞きたいことがあって、ここに来ました」
「わかりましたお伺いしましょう」
「『ロスフェラード攻防戦』はなぜ起こったのですか?」
私の質問に、フェルエさんが首をかしげます。
「グリムレットは貴女に説明しませんでしたか?」
「しました」
確かに、グリムレットさんから聞きました。「神扉」のことを。ロスフェラード王都へ侵攻した理由を。
「納得いきません」
「とは?」
「私は、グリムレットさん配下の竜たちにお世話になりました。裁縫と服飾に傾倒したサマリーさん、人間の武術を自らの動きに取り入れているノクターナルさん、人間の服や小物でお洒落をすることにこだわっていたヴィリジットさん。そして、〈人化〉の練習と称して、人間と同じ村を作り過ごす竜たち」
そう、あの「竜」たちは、いえ、あの「人」たちは。
「みんな『人間の文化を取り入れすぎて』います。あそこまで人間の文化を好み、取り入れているのなら人間と敵対するより、友好的である方が自然です。人間の行うことを真似して、人間の行うことに敬意を持つ竜たちが、問答無用で人間を襲うというのが不自然です」
フェルエさんは黙ったままなので私は続けます。
「じゃあ、グリムレットさんが命じたから、仕方なく?グリムレットさんは温厚でしたし、何より、自分の配下のことを大切に思っていたし、常に気にかけていました。ロスフェラード王都を襲ったのも、配下のためだと言っていました。なら、配下が嫌がることを、グリムレットさんが命じるのはおかしいと思いませんか?何より、人間だった私を助けて私と共に過ごしたグリムレットさんや他のみんなが、欲しいものがあるから、と人間を見境なく殺すなんて、おかしいと思いませんか?」
「……続けてください」
「ノエルリージュの記憶ともいうべき、キャラクターPVを『体験』して、確信しました。あの場で、グリムレットさんも、配下の竜たちも誰も、一言もしゃべらなかった。あんなに個性的で、感情豊かで、仲間思いだったあの人たちが、あの戦いの場で、仲間に一言も声かけないなんて、ありえない」
だんだん自分の声が、興奮して大きくなるのが自分でもわかります。
「グリムレット討伐戦の後にも、フラムリングさんが死んでつらそうだったヴィリジットさんが、ノクターナルさんが死んで悲しそうだったサルカンドラさんが、あの場で共に戦う仲間と声をかけ合うすらしないなんて、私には信じられない。あんなにずっと、私に、ノエルリージュにこだわっていたグリムレットさんが、その本人を前にして、本人のあの言葉に対して、何も喋らないなんて、私には信じられない!」
最後は叫ぶような大声になってしまいましたが、フェルエさんは何も答えません。
「大事なことなんです。『異人』はあの戦いを経て、グリムレットさんたちを恐ろしい敵と認識しました。グリムレットさんたちはあの戦いを経て、自分たちが『異人』と敵対するものだと考えるようになりました。私がこのゲームを始めてから関わったことが、全てが、あそこから始まっているんです」
だから私は。生まれてしまったこの疑問の答えが知りたいのです。
「教えてください。あの『ロスフェラード攻防戦』とは、何だったんですか?」




