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ここから1章の終わりまで重苦しい話が続きます。
大陸暦1052年 雷の月 24日
「サルカンドラさん!」
ログインして自分の部屋を飛び出した私はすぐにサルカンドラさんの元に向かいました。幸いにもサルカンドラさんはまだ村にいました。
「どうかしたのかしら?」
「『異人』がグリムレットさん討伐に来ます」
私は空いた時間に公式の掲示板で情報を集めたりしています。書き込みは怖くてできませんが、見てる分には結構楽しいものですよね。
で、その公式掲示板にあったのが「グリムレット討伐パーティ募集」というスレッドです。内容を追っていたのですが、とうとう実際にグリムレットさん討伐を目指して遠征する日が決まったので告知されたのです。
ゲーム内時間で、大陸暦1052年 土の月 1日。
現実世界ですと3日後、ちょうど土曜日の夜、という時間帯ですね。
「……そう。ありがとう、ノエル。日時がわかればこちらも迎え撃つ準備ができるわね。どちらかというと下で待たせるメンバーを説得するのが大変だけれど……」
あんまりびっくりはしてませんね、サルカンドラさん。
「戦うんですか?」
「ここは私たちの住み家。そこに攻めてくるなら戦って当たり前よ?それにグリムレット様と共に戦うのは栄誉なことだから、みんな戦場に出たがるでしょうね……そっちを止める方が大変だわ」
おおう。流石ドラゴン。好戦的です。
「あの……私はどうしたらいいでしょう?」
「そうね。他のみんなとグリムレット様にもそのことを伝えてもらえる?」
んー……そういうことを聞きたかったわけではないのですが。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
次に向かったのはサマリーさんの家です。相変わらず家にこもって服作りに精を出してる様子。
「そうか……めんどくさいな」
話を聞いたサマリーさんの第一声がそれでした。サマリーさんらしいと言えばらしいです。
「まあ、サマリーさんは戦うより服を作る方が好きそうですしね」
「ん、まあな。元々青竜は水の属性を持ち穏やかな気質で戦いを好まない竜ではある。とは言え、自分の住み家を荒らされて怒らない竜はいない」
「あの、それで……私はどうしたらいいでしょう?」
作業の手を止めて、サマリーさんは私を見返しました。
「ノエルの実力じゃ足手まといだろう。戦いは山頂になるだろうからここで待っていたらいい」
確かに、私の実力だと戦闘に参加してもすぐに死にそうです。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
次に伝える相手を探していると、フラムリングさんとヘイズ君を見つけました。何やら言い争いをしているようです。
「どうかしたんですか?」
「ああ、ドーラから異人のことを聞いてね。ヘイズが自分も戦いに参加すると言ってきかないんだよ」
困ったようにフラムリングさんが答えてくれました。
「俺だってもう1人前だ!敵が攻めてくるなら俺だって戦いに参加したい!」
叫ぶヘイズ君の頭を思いっきりフラムリングさんが殴りました。
「まだ若竜のランクで、1人で外に狩りにも行けない誰が1人前だって?母さんが心配するから大人しく下で待っていなさい」
あ、お母さんいるんですね。
「でもさあ!俺だって最近強くはなっているよ!」
「でも、も、さあもない」
ヘイズ君はあまり納得がいってないようですね。あんまりゆっくり話ができる状態ではなさそうなので、この場はそっと離れることにしましょう。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
次に会ったのはヴィリジットさんです。相変わらず日傘にドレスという場違いな格好です。好きなんですね、その衣装。
「……ふむん。いよいよ戦いが始まるのですわね」
何かジト目でこちらをにらんでくるのですが、私が何かしたんでしょうか?
「それでノエルはどうしますの?」
「どう、とは?」
「だって貴女は異人でしょう?貴女の仲間がやってくるのだから、こちらにつきますの?それとも異人につきますの?もっとも、敵に回っても私は容赦しませんですけれどね」
なるほど、そう言う風に見ることもできるわけですね。
「そうですね……私はどうしたらいいでしょう?」
「そんなのこっちが聞きたいですわ」
ですよねー。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
最後に会ったのはノクターナルさんでした。空中から私を見つけたのか、降りてきて〈人化〉します。
「ああ、いたいた。そろそろ今日の訓練を始めようか」
にこにこと嬉しそうに指をボキボキ鳴らすのは怖いですよ。
ヘイズ君との模擬戦を見てからノクターナルさんがなぜか訓練に熱が入り始めていつも大変になっているんですよね。しかも投げ技とか絞め技とか関節技とかあれこれかけたがるので本当に大変です。おかげで押し倒されて組み伏せられる回数が増えて困っています。
比例してノクターナルさんの訓練中の息が荒くなってきてる気がしますが、気のせいですよね。
「いえ、今日は別の用事が」
異人の襲撃の日時とサルカンドラさんにそれを皆に連絡するよう言われたことを伝えます。
「そっか。いつかは来ると思ってたけど、いよいよ来るのか」
「……わりとみなさん、驚いたりせずあっさりしていますね。もっと覚悟を決めるとか、そういうのがあるのかと思っていました」
「まあ、魔竜にとっては戦い命の奪い合いなんて日常茶飯事だからね。そういうものだよ」
何か自然に頭を撫でられているわけですが、なぜでしょうか。
「……私は、どうしたらいいんでしょう?」
手を止めて、ちょっと悩んでからノクターナルさんは言いました。
「ノエルはどうしたいの?」
「どう、したい……ですか?」
「そう。どうしたらいいか、も大事だけど、まずはノエルがどうしたいか、じゃないかな?」
私はどうしたいのでしょう、ね。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
みなへの連絡は終わったようなので、後はグリムレットさんだけです。あれから〈ドラゴンウィング〉のレベルを死ぬほど頑張ってレベルを上げたので、途中で【MP】が尽きることなく山頂まで飛んで行けるようになりました。(レベルは6になりました)
山頂を目指して飛びながら、私は今の状況を頭の中で整理していました。
私ができることはおおむね3つ、あります。
できることの1つめはこのままここで過ごすこと。
いざ戦いになったら、私は戦力外でしょうから下の洞窟で待っているとして、今まで通りここで過ごすことです。メリットとしてはノクターナルさんたちみんなと今までと同じように過ごすことができることです。デメリットはもしプレイヤー側が勝った場合、他のプレイヤーとあまりよろしくない状態で遭遇せざるをえなくなる、ということです。
「アナザーアース・クロニクル」では人間やそれに準じる種族以外にもモンスター側の種族になることができます。当然人間サイドとモンスターサイドでプレイヤー間で対立することもあるわけですが、掲示板などを見るかぎり、なかなか面倒な問題をはらんでいるようです。
また掲示板を見ていたら、過去に私と同じようにキャラクターメイキング時に全ての設定を「ランダムにする」にした結果、NPCになってしまったプレイヤーさんがいたそうです。そのことが結構紛糾したそうで、色々と揉め事になったとありました。同じ境遇の私もまた、揉め事を引き起こす原因になりかねないかもしれません。
つまり、今の私が、今の状況で他のプレイヤーに会うのは非常に面倒な問題を起こすことになりそうなのです。それもあって、あまり会いたくない、というのが本音だったりします。
できることの2つめはプレイヤー側に協力をすること。
グリムレット討伐パーティー募集スレッドに名乗りを上げて自分の事情を説明し、グリムレットさんたちの情報を流せばプレイヤー側に味方することはできます。
メリットとしては他のプレイヤーさんたちとスムーズに合流ができるということです。デメリットとしてはやっぱり私の正体を詮索されて、トラブルになりそうなことと、プレイヤー側が勝てばいいですが、負けた場合ここで過ごし続けないといけないので気まずい思いをすることになりそう、ということです。
できることの3つめはグリムレットさんの提案を受け入れてここを出ていくこと。
誰かに連れられてこの山と周囲の森の外に出られれば、とりあえずそこから新しく旅に出て、人間の住む街に行くことはできると思います。ある意味、普通のゲームのスタートっぽくなりそうです。
メリットはグリムレットさんとプレイヤー側の勝敗に巻き込まれることはなくなるということ、当初のこのゲームを始めた目的に向かって活動できるようになること、とりあえずで私の正体は隠しておけそうなことです。デメリットはまだ私はこの世界のことについて詳しくないので、未知のトラブルに巻き込まれる可能性がある、ということです。
3つを比較した時に、どれが1番いいと思いますか?
メリット・デメリットを考えると3つめが一番いいように見えますが……、
私はどれを選ぶといいでしょう?
うだうだと考えているうちに、山頂に到着しました。
グリムレットさんに、異人の討伐遠征のこと、決行日時のことを伝えると、目を閉じて黙って聞いていました。
「……それで、お前はどうするか決めたのか、ノエル」
私が伝え終わって第一声がそれでした。
「いえ、まだ……私は、どうしたらいいんでしょうか?」
「お前の好きにすればいい」
グリムレットさんの答えは、あっさりとしていました。でも、それは私が欲しい答えじゃないんです。
「好きに、と言われてもわかりません。とることのできる行動を考えてメリット・デメリットを検討しました。それでもわかりませんでした。教えてください。私はどうしたらいいんでしょうか……どうするのが正解なんでしょうか?」
「お前の好きにすればいい」
「だから!」
私が欲しいのは、どれを選ぶのが正しいのか、という答えです。
「私は、正しい選択肢を取りたい、と言っているんです!!」
半ば叫ぶような形で大声をあげた私に、グリムレットさんはその大きな顔を近づけてきました。
「お前のやりたいことが、正しい選択だ、ノエル」
静かに、しかしはっきりとした声で、グリムレットさんはそう私に言いました。
「お前の望む道が、お前の歩むべき道なのだ。だからお前の、好きなようにすればいい」
「え、いや……そうじゃなくて……正しい選択肢をですね……」
「ノエル。なぜ『すべき』を求める?なぜ『正しさ』を求める?何が正しいかなぞ、その時にならなければわからない。ほんのわずかな違いで、その時にすべきことなど変わってしまう。だから」
グリムレットさんがその大きな手の大きな指でそっと私に触れました。
「自分の好きなようにやればいい。そうすれば、後悔はしない。自分の思うがままにやったのだと、胸を張れる。ノエル。お前が求めているのは正解ではない。正しさでもない。自分が選んだ道が正しいのだという他人の保証だ。誰かが決めた正しさでないと、自分が望んだ選択肢に自信が持てないのだ」
……図星を指されるのは、正直、胸が痛いです。
確かに。私は先に上げた選択肢のうちに1を選びたいと思っています。
アナザーアース・クロニクルを始めて、NPCとはいえグリムレットさんやサルカンドラさん、ノクターナルさんたちと知り合えて一緒に過ごせて、楽しかったと感じています。
だから、まだここでみなと一緒の時間を過ごしたい。
ただ、それが理屈として正しいとは思えませんでした。自分の本来の目的を考えたら、いずれは旅立つはずなのだし、他のプレイヤーとの関係だって避けて通れるはずはないです。なら、安全なうちにみんなと別れて、人間の住む場所に行った方がいいはずです。それを考えると選択肢の3を選ぶのが正しいのだと思えました。
だから、心のどこかで求めていました。自分の望む選択肢の1という答えが正しいと言ってもらえることを。あるいは、選択肢の3という答えに従わないといけない、自分の気持ちが折れてくれる理由を。
「だから、私が言ってやろう。ノエル。お前の選ぶ道が、正しいのだと」
”迷ったなら、君が思うようにやったらいいんだよ”
ずるいなあ。
なぜ、この目の前の大きなドラゴンは、ゲームのキャラでちょっと高性能なAIだと言うのに。
あの人がいつも私に言っていたことと同じようなことを、言うのでしょう。
悩んだ時、迷った時にいつも私の背中を押してくれたあの人と同じことを。
「……わかりました。私のやりたいように、やります」
心が決まりました。
「だから1つ、お願いしてもいいですか」
「何でも言うといい」
私はグリムレットさんを見上げました。黒いごつごつとした鱗に、金色の瞳。最初は怖いと思ったけれど、今は頼もしく見えます。
ちょっと、かっこよくもあるかな?
「私は外に出るより、まだ、ここに、みんなと一緒にいたいです。だから、『異人』に負けないでください。ここを『異人』から守ってください」
私は私のやりたいことを、できることの1つめ、を選びましょう。
「約束しよう」




