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大陸暦1052年 雷の月 17日
みなさんこんにちは。「アナザーアース・クロニクル」プレイ中のノエルです。
今、私は断崖絶壁のわずかな出っ張りに座って途方に暮れている所です。
なぜ、そんなことになっているのかと言うと。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
〈竜闘術〉のスキルが15レベルになったら覚えるアーツが〈ドラゴンウィング)である、つまり「空を飛べるようになる」と聞いていた私には1つの野望がありました。
それはすなわち、「自力で山頂のグリムレットさんの所まで行く」ということです。
ノクターナルさんやサルカンドラさん、サマリーさんとかはいつも何かしら顔を合わせて話をしたりするのですが、グリムレットさんはまず山頂から降りて来ないんですよね。「山に危険が迫ってないか監視している」とサルカンドラさんは言ってましたが。
なら、こっちから会いに行ってやろうというわけです。色々と話をしてみたかったりもしますしね。
で、ようやく〈ドラゴンウィング〉を覚えたので、かねてからの野望を叶えるべく勇躍一路、山頂めがけて私は飛び立ったのです。
ところで〈ドラゴンウィング〉なのですが、飛行中は【MP】が時間で消費されます。レベルが上がればより消費が楽になり、かつ速く飛べるようになるそうです。
つまりどういうことかというと。
山頂にたどり着くまでに【MP】がもちませんでした。
このまま墜落死するしかない、という所で偶然にも座れる程度の出っ張りを見つけた私はそこに避難することには成功したのですけれど。
状況は何もよくなっていませんね。と、いうのも座っているだけだと【MP】は回復しないからです。
【MP】を回復させるには最低6時間の十分な睡眠が必要なのです。一応、自動で【MP】が回復するようになるスキルもあるのですが覚えていません。私の覚えているスキルの中ですと〈魔力奪取〉スキルで回復ができますが、奪う対象がいないとできません。
というわけで、途方にくれているわけです。
かくなる上は死に戻り覚悟で飛び降りるしかないのか、とは言え、死なないとわかっていても怖いものは怖いのです。相当高い所まで来ましたからね。それでも山頂が遠いのはこの山の高さが異常なのでしょう。
どうにかできないものか……1分ほど考えて、ひらめきました。
「体を残して」この場でログアウトしましょう。名付けて「後はAIに丸投げ作戦」です。飛び降りて死に戻るなら死に戻ったとして、私が怖い思いをせずにすみます。我ながらいいアイデアですね。
大陸暦1052年 雷の月 17日
休憩とか用事とか済ませてログインしましょう。意識が戻ると、ログアウト前の断崖絶壁に座っているままです。流石に打開のために飛び降りるとかはしませんか。
と、何やら新たなスキルを取得したという案内が……あれ?
キャラクターブックを開いて見てみると、【MP】が回復しています。何をやったんですかログアウト中の私……?
とりあえず新たに覚えたスキルを見てみましょう。
〈睡眠負荷軽減〉レベル5
睡眠をとる際にかかる負荷を軽減し、快適に睡眠を取る。環境の悪い場所で睡眠を取る場合に状態異常「不眠」の発生率の低下およびSP・MP回復率へのペナルティを軽減する。
〈MP回復率上昇〉レベル1
MPが回復する際の回復量を上昇させる。MPの回復が発生した際の補正を上昇させるスキルであり、MPの回復を発生させるスキルでないことに注意。
何このスキル……と思って後で調べましたが、〈睡眠負荷軽減〉は簡単に言うと「どんな場所でも快適に寝る」スキルのようです。何それ、と思うかもしれませんが、意外に馬鹿にならないスキルで、例えば金属鎧のような重くて着心地の悪い装備を着たまま眠ったりとか、十分な準備ができないまま野宿したりするような時でもきちんと睡眠をとって普段と変わらないだけMPを回復させたり、「睡眠不足」という全ての能力値が低下するような状態異常を発生させなくすることができるようです。
〈MP回復率上昇〉を名前の通り、MPが回復する時にボーナスがもらえるスキルです。私の〈魔力奪取〉は相手のMPを奪う、という扱いで回復とはみなされないのでこのスキルの効果は受けません。
この2つのスキルの取得が示す事実は、すなわち。
ログアウト中の私は一歩間違えると墜落死するこの断崖絶壁で座った姿勢で6時間熟睡したんですね。
お見それしました。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
途中で睡眠を取ったせいで、山頂についた時にはすっかり夜でした。山の周囲に広がる雄大な森林を眺めたかったのですが、代わりに頭上に広がる満天の星空を見ることができました。現実ではなかなか見られない光景ですね。
ただ、お目当てのグリムレットさんは夜だとお休みでしょうか……ドラゴンって昼行性なんでしょうか夜行性なんでしょうか、どっちなんでしょうね?
山頂は大きめの岩もたくさん転がっていたり不自然に広かったりするのですが、グリムレットさんの巨体はすぐに見つかりました。では、こっそり近づいてみましょう。いや、別に堂々と会いに行けばいいんですけどね。ほら、お休み中なら起こすと悪いですし?
「どうかしたか?」
なお、あっさり見つかりました。気配を消したり隠れたりするスキルもないですしね。そりゃそうです。
「えーっとですね。グリムレットさんに会いに来た感じでしょうか。めったに下に降りて来ないですし。一度、色々お話してみたかったのもあったので、こちらから来てみました」
手近な岩に腰を下ろします。
「人間も簡単に王には会えないだろう。そういうものだ。それに私が下に降りたら狭くなる」
「王様に簡単に会えない、というのは同意しますけど、別にグリムレットさんが下に降りても狭くはならないと思いますよ?」
「竜にも序列はある。サルカンドラたちも用がない限りここには来ないだろう?自分より上すぎる存在が近くにいれば気が休まらない。王というものなど近くて遠い程度でよいのだ」
「結構グリムレットさんってそういう所で真面目ですよね」
「褒めてもらったと思っておこう。ノエルは下での暮らしはどうだ?」
「暮らしですか?そうですね……楽しくやってる、でしょうか」
「サルカンドラたちも、特にノクターナルはお前といると楽しそうだからな」
「わかるんです?」
「魔竜の王は伊達ではないからな」
「もしかして、いつも盗み見られてる?」
「盗み見とは失礼だな。自分の配下の様子を把握しておくのは王の務めだ」
「はいはい。私は配下じゃないと思うんですけどね。でもノクターナルさんが楽しそうなのは私の魔力がグリムレットさんに似てて、それを近くで感じられるからだと思いますよ?いつも鼻息荒いですもん、ノクターナルさん」
「あれは昔、人の街にいた時に人の使う武術というものにいたく感銘を受けてな。見よう見真似で練習していたが他の者には賛同されなかったからな……ノエルが来て、一緒にあれこれ練習できるのが楽しいのだろう」
「あー、確かにヘイズ君とか力こそ正義!て感じですもんね……でもフラムリングさんとかサルカンドラさんとかノクターナルさんが〈竜闘術〉が一番上手だ、て言ってたし、ヘイズ君に学ばせようとしてたから賛同してたんじゃ?」
「〈人化〉も〈竜闘術〉も所詮は魔竜にとっては小手先の技術だ。現にサルカンドラやフラムリング自身は、ノクターナルと同じことはしてないだろう?」
「確かにそうですね。グリムレットさんはそういうのはやらないんですか?」
「いくらノクターナルでも、私を練習台にはできんよ」
「それもそうですね」
「だから、ノクターナルはお前のことが好きなのさ。私に似ていて、私の代わりに練習台にできるからな」
グリムレットさんが笑いました。私もつられて笑います。
たわいない話ですけど、何か懐かしいですね。昔はよくあの人と、こんな風にどうでもいい話をずっと続けてましたっけ。
「ノエル」
「はい」
「……いつまで、ここにいる?」
少し、グリムレットさんの声色が変わった気がしました。
「あー、そうですね……そもそも私がこの世界に来たのは、この世界がどんなものか見たかったから、なんですよね。最初は、色んな所を旅したりするものだと思ってたんですけど、何か外には出ていけなくなっちゃったのでここにいますけど」
ただ、ここでサルカンドラさんやノクターナルさんたちと過ごすのも楽しいので悪くはないのですけど。
「もし、お前が望むなら、ノクターナルにでも下の森を越えて運ばせよう。人里に近づきすぎれば騒ぎになるかもしれんが、お前1人を下すくらいなら十分だろう」
「はい?」
いきなりなグリムレットさんの言葉に、私は思わず聞き返しました。
「ノエルが、この世界を見て回りたいというなら、この山に居続ける必要はない。確かにこの山や周囲の森は強いモンスターが多いが、サルカンドラかノクターナルにでも運ばせれば、外に出られないことはない」
「私に出ていけ、ということです?『神扉』のことはいいんですか?そのために私を連れてきたんですよね?」
「『異人』が来る」
さっきまで楽しく話をしていたグリムレットさんの雰囲気ではありません。
「山に『異人』を見かけるようになった。この間は、この山頂にも姿を見せた。おそらく、近いうちに大きな戦いに、なる」
公式掲示板ではプレイヤー同士で情報交換がされています。私も見ます(見るだけですけれど)。この「ケレス山」のこともスレが立っています。最初は「敵強すぎ」「無理」だったのが「中腹までたどり着いた」になり。
そして最新のレスでは。「山頂にたどり着いた」「予想通り、いた」
「ノエル。お前をそれに巻き込みたくはない……いや、本当のことを言おう。お前に『異人』側について欲しくない。それくらいなら、ここから出て行ってしまった方がいい」
グリムレットさんとその配下の魔竜であるサルカンドラさんたち。
『異人』
二者の戦いが始まろうとしている。
「『ノエルリージュ』にとって、私と魔竜は家族のかたきだ。そしてノエル自身は『異人』でもある。『異人』側についても不思議ではない。戦力として言うなら、ノエルは私たちの脅威ではないだろう。だが、共に過ごしてきたお前が、敵として眼前に立つのはやはりつらい。サルカンドラたちも、そして私も」
「……そう、ですね……」
いきなり考えもしてなかったことを言われて、私は混乱していました。
どうしたらいいんでしょう?




